オリジナルstage 【EP-01~09 サイドS】
力が欲しい。
誰にも負けない強い力が欲しい。
どんな強者でもねじ伏せる力が欲しい。
他者の全てを奪える力が欲しい。
畏怖の頂点に君臨する力が欲しい。
誰にも負けない強い力が欲しい。
どんな強者でもねじ伏せる力が欲しい。
他者の全てを奪える力が欲しい。
畏怖の頂点に君臨する力が欲しい。
欠けたものを埋めるほどの力が、欲しい。
「……つう。くそ、一体何がどうなって……」
一体どれほどの時間意識を失っていたのだろうか。
両目を開いた創志は、体を起こしつつ、頭を振って強引に意識を覚醒させる。
バイト先の喫茶店に見覚えのない青年が現れ、速攻魔法<次元誘爆>を発動したところまでは覚えているが、その後の記憶はない。
(<次元誘爆>……効果は忘れちまったけど、あいつがサイコパワーによって何らかの事象を起こしたことは確実だろうな)
青年の正体について無い知恵を振り絞って考えを巡らせつつ、創志は周囲を見回す。
辺りには、朽ちた建物が広がっていた。
まさに廃墟と現すのがふさわしい場所だ。外壁だけになってしまった家屋や、2階から上の部分が丸ごと倒壊しているビル、屋上に設置された看板が崩れてしまったデパートなど、惨憺たる有様だった。
何より異質なのは、生物の気配を一切感じないことだ。
創志の足元には種類も分からない雑草が生えているが、それからも生命の息吹のようなものを感じない。どこか作り物めいた独特な雰囲気を感じる。
この凄惨な光景は、ゼロリバースの被害が深刻だった旧サテライト地区のB.A.D.エリアを想起させる。
(でも、ここはサテライトじゃない……俺の勘がそう言ってる。なら、どこか別の場所に飛ばされたってことか?)
神楽屋の話では、空間を捻じ曲げて大きさを変化させたり、現実世界とは次元軸がずれた異空間を作り出すサイコデュエリストも存在するらしい。あの青年もその類だろうか。
(……って考えてても仕方ねえな。とりあえず行動だ)
同じ場に居合わせた神楽屋やティトたちも、創志と同じように飛ばされているのだろうか。もしそうなら、一刻も早く合流しなければならない。
サイコデュエリストである神楽屋、ティト、リソナはともかく、一般人である萌子までこんな場所に迷い込んでいるとしたら、どんな危機に遭遇するか分かったものではない。いつも神楽屋や創志を圧倒するプレッシャーを放っているので忘れがちだが、藤原萌子はれっきとした女性なのだ。
などと、失礼なことを考えていたせいか。
ザリ、と。
砂を踏む音が聞こえたにも関わらず、創志の反応は一瞬遅かった。
(しまった――気配が無いんじゃなくて、気配を隠してたのか!)
崩れた建物の影から、何かが飛び出してくる。
それが人間だと気付いた時、すでに襲撃者は動きを始めていた。
腰に差した鞘から流れるような動作で刀が抜かれ、汚れた空気を切り払う。
銀色の刃が鈍く光り、創志の首元を正確に狙う。
創志は後ろに飛び退いてそれを避けようとするが、すでに時遅し。
鋭く磨き抜かれた刃が、創志の首を切り裂く――
寸前で、ピタリと止まった。
直後、ぐ~、という気の抜けた音が辺りに響き渡った。
創志の聞き間違いでなければ、空腹を訴える腹の音だ。
「う……く……」
恥ずかしさのせいか、襲撃者の体がぷるぷると震える。黒髪をポニーテールに結い、若草色の着物を着たその姿は、見覚えがあった。
「……何やってんだ? 切?」
創志の問いに対し、友永切は顔を真っ赤にしながら唇を噛んだ。
一体どれほどの時間意識を失っていたのだろうか。
両目を開いた創志は、体を起こしつつ、頭を振って強引に意識を覚醒させる。
バイト先の喫茶店に見覚えのない青年が現れ、速攻魔法<次元誘爆>を発動したところまでは覚えているが、その後の記憶はない。
(<次元誘爆>……効果は忘れちまったけど、あいつがサイコパワーによって何らかの事象を起こしたことは確実だろうな)
青年の正体について無い知恵を振り絞って考えを巡らせつつ、創志は周囲を見回す。
辺りには、朽ちた建物が広がっていた。
まさに廃墟と現すのがふさわしい場所だ。外壁だけになってしまった家屋や、2階から上の部分が丸ごと倒壊しているビル、屋上に設置された看板が崩れてしまったデパートなど、惨憺たる有様だった。
何より異質なのは、生物の気配を一切感じないことだ。
創志の足元には種類も分からない雑草が生えているが、それからも生命の息吹のようなものを感じない。どこか作り物めいた独特な雰囲気を感じる。
この凄惨な光景は、ゼロリバースの被害が深刻だった旧サテライト地区のB.A.D.エリアを想起させる。
(でも、ここはサテライトじゃない……俺の勘がそう言ってる。なら、どこか別の場所に飛ばされたってことか?)
神楽屋の話では、空間を捻じ曲げて大きさを変化させたり、現実世界とは次元軸がずれた異空間を作り出すサイコデュエリストも存在するらしい。あの青年もその類だろうか。
(……って考えてても仕方ねえな。とりあえず行動だ)
同じ場に居合わせた神楽屋やティトたちも、創志と同じように飛ばされているのだろうか。もしそうなら、一刻も早く合流しなければならない。
サイコデュエリストである神楽屋、ティト、リソナはともかく、一般人である萌子までこんな場所に迷い込んでいるとしたら、どんな危機に遭遇するか分かったものではない。いつも神楽屋や創志を圧倒するプレッシャーを放っているので忘れがちだが、藤原萌子はれっきとした女性なのだ。
などと、失礼なことを考えていたせいか。
ザリ、と。
砂を踏む音が聞こえたにも関わらず、創志の反応は一瞬遅かった。
(しまった――気配が無いんじゃなくて、気配を隠してたのか!)
崩れた建物の影から、何かが飛び出してくる。
それが人間だと気付いた時、すでに襲撃者は動きを始めていた。
腰に差した鞘から流れるような動作で刀が抜かれ、汚れた空気を切り払う。
銀色の刃が鈍く光り、創志の首元を正確に狙う。
創志は後ろに飛び退いてそれを避けようとするが、すでに時遅し。
鋭く磨き抜かれた刃が、創志の首を切り裂く――
寸前で、ピタリと止まった。
直後、ぐ~、という気の抜けた音が辺りに響き渡った。
創志の聞き間違いでなければ、空腹を訴える腹の音だ。
「う……く……」
恥ずかしさのせいか、襲撃者の体がぷるぷると震える。黒髪をポニーテールに結い、若草色の着物を着たその姿は、見覚えがあった。
「……何やってんだ? 切?」
創志の問いに対し、友永切は顔を真っ赤にしながら唇を噛んだ。
「し、仕方ないのじゃ! ちょうど昼飯を食べようとしていたところで、あの礼儀知らずで癇に障る男がデュエルを挑んできたから……」
「はいはい」
「その呆れ口調をやめるのじゃ!」
ぷんすかと頬を膨らませながらあーだこーだと言い訳を続ける切。どうやら腹の虫を聞かれたのが相当恥ずかしかったらしい。別にそこまで気にするものでもないと思うが。
「とにかく、切も俺と同じで<次元誘爆>を使われてこの世界に飛ばされたんだな?」
「うむ。急に目の前が真っ白になって、気が付いたらここにいたのじゃ」
切も、ここがネオ童実野シティの旧サテライト地区とは別の場所だろうという意見に同意らしい。曰く、「サテライトは隅から隅まで歩いた自信があるが、こんな場所は見たことがない」とのことだ。
お互いに事情を説明し終えた創志と切は、協力して他の人たちを探すことにする。幸い、切の方は<次元誘爆>に巻き込まれた同行者はいないとのことだった。
「でも、この辺は人の気配が皆無だよな。切は気配を消してただろうから除くとしても……神楽屋たちがいるとしたら、ここからかなり離れた場所ってことか?」
周囲に気を配りながら歩きつつ、隣を歩く切に尋ねてみる。創志よりも多くの修羅場をくぐり抜けてきた切ならば、人の気配を探ることに長けているはずだ。
すると、切は怪訝そうな顔をして、
「……創志、一体何を言っておるのじゃ? 人の気配ならすぐ近くからするじゃろう。わしが真っ先にお主に襲いかかったのは、ピリピリと緊張した雰囲気を纏っていたからじゃ。敵ならば先に潰して情報を聞き出そうと思ってな」
「はあ? お前こそ何言ってんだよ。人の気配どころか、生物の気配さえしない――」
「はいはい」
「その呆れ口調をやめるのじゃ!」
ぷんすかと頬を膨らませながらあーだこーだと言い訳を続ける切。どうやら腹の虫を聞かれたのが相当恥ずかしかったらしい。別にそこまで気にするものでもないと思うが。
「とにかく、切も俺と同じで<次元誘爆>を使われてこの世界に飛ばされたんだな?」
「うむ。急に目の前が真っ白になって、気が付いたらここにいたのじゃ」
切も、ここがネオ童実野シティの旧サテライト地区とは別の場所だろうという意見に同意らしい。曰く、「サテライトは隅から隅まで歩いた自信があるが、こんな場所は見たことがない」とのことだ。
お互いに事情を説明し終えた創志と切は、協力して他の人たちを探すことにする。幸い、切の方は<次元誘爆>に巻き込まれた同行者はいないとのことだった。
「でも、この辺は人の気配が皆無だよな。切は気配を消してただろうから除くとしても……神楽屋たちがいるとしたら、ここからかなり離れた場所ってことか?」
周囲に気を配りながら歩きつつ、隣を歩く切に尋ねてみる。創志よりも多くの修羅場をくぐり抜けてきた切ならば、人の気配を探ることに長けているはずだ。
すると、切は怪訝そうな顔をして、
「……創志、一体何を言っておるのじゃ? 人の気配ならすぐ近くからするじゃろう。わしが真っ先にお主に襲いかかったのは、ピリピリと緊張した雰囲気を纏っていたからじゃ。敵ならば先に潰して情報を聞き出そうと思ってな」
「はあ? お前こそ何言ってんだよ。人の気配どころか、生物の気配さえしない――」
「……ドちゃ~ん! しちみちゃ~ん! どこですか~!」
「……………………」
「聞こえたかの?」
したり顔で笑う切に対し、創志は首を縦に振るしかない。
緊張感の欠片も感じさせない気の抜けた声が、創志たちの前方から聞こえてきたからだ。
(……神楽屋と一緒に色々やってきたおかげで、ちょっとは「一人前」になれたかと思ったけど、俺もまだまだだな)
盛大にため息をつきたくなるのをこらえながら、創志は声がした方へと近づいてみる。
「聞こえたかの?」
したり顔で笑う切に対し、創志は首を縦に振るしかない。
緊張感の欠片も感じさせない気の抜けた声が、創志たちの前方から聞こえてきたからだ。
(……神楽屋と一緒に色々やってきたおかげで、ちょっとは「一人前」になれたかと思ったけど、俺もまだまだだな)
盛大にため息をつきたくなるのをこらえながら、創志は声がした方へと近づいてみる。
声の高さからして、おそらく女性だ。聞き覚えのない声だったが、少なくとも切のようにいきなり刀を突き付けてくるようなことはないだろう。
そんなことを考えていると、創志の視界にくしゃくしゃに丸まった新聞紙が転がっているのが映る。ひゅう、と風が吹いてころころと転がる新聞紙の塊。それはちょうど創志の足に当たって止まり――
そんなことを考えていると、創志の視界にくしゃくしゃに丸まった新聞紙が転がっているのが映る。ひゅう、と風が吹いてころころと転がる新聞紙の塊。それはちょうど創志の足に当たって止まり――
「あ! 見つけましたよスドちゃん!」
その新聞紙の塊目がけて、1人の少女が突っ込んできた。
「え――」
少女の目には新聞紙の塊しか映っていないらしく、目の前に立つ創志に気付いた様子がない。前屈みの体勢のまま突っ込んでくれば、結果はおのずと見えてくる。
ゴスッ、と。
鈍い音が響き渡り、少女のヘディングが創志の腹に突き刺さった。
「ぐへあっ!」
情けない叫び声を上げながら、地面にぶっ倒れる創志。
「あれ? スドちゃんじゃなくてただの新聞紙だった……って、今何か頭に鈍い感触が――」
そこでようやく頭突きをかました相手に気付いたらしく、
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
少女が顔色を変えて駆け寄ってくる。
創志は腹をさすりながら「た、大したことないぜ」と強がりつつ体を起こす。
心配そうにこちらを見つめてくる少女の顔は、やはり初めて見るものだ。
年は創志と同じくらいだろうか? 髪の両端を軽く結んでおり、そのおさげがしゅん、と力無くうなだれている。
「かづなおねえさん! あんまり迂闊に動き回らないほうが――」
少女に事情を聞くより先に、彼女を追ってきたのであろう少年が姿を現す。やはり、この少年にも見覚えが無い。
「あ、純也君」
「……かづなおねえさん。その人たち、誰ですか?」
純也と呼ばれた少年は、敵意を剥き出しにした瞳でこちらを睨んできた。
随分生意気そうな子供だな、と創志は思う。年齢はリソナよりも上……12、13歳くらいに見える。純也の右手には特撮ヒーローが使いそうなゴテゴテした装飾の手甲が装着されており、「お前なんか一発で倒せるんだぞ」オーラを漂わせている。
「それはこっちのセリフじゃな。お主たち、何者じゃ? ここで何をしておる?」
純也の敵意に触発されたのか、警戒心を高めた切が、低い声を出す。
そして、腰に差した刀の柄を握った。いつでも抜き放てる体勢だ。
「お、おい切――」
いくらなんでも威嚇しすぎじゃないだろうか、と創志は切を諌めようとする。
が、切はそんな創志の考えを見透かしたように、
「見た目に惑わされるでない。リソナのことを忘れたわけではなかろう? 子供だからと言って油断しておっては、足元をすくわれるだけではすまないかもしれんぞ」
「…………っ」
言葉に詰まる。確かに、切の言うとおりだ。
純也と――そして、かづなと呼ばれた少女が、「あの青年」の仲間ではないという保証はどこにもないのだ。
「じゅ――」
創志が気を引き締めようとしていると、純也と切の一色即発の空気に気圧されて口をつぐんでいたかづなが、ふるふると震えながら口を開いた。
「え――」
少女の目には新聞紙の塊しか映っていないらしく、目の前に立つ創志に気付いた様子がない。前屈みの体勢のまま突っ込んでくれば、結果はおのずと見えてくる。
ゴスッ、と。
鈍い音が響き渡り、少女のヘディングが創志の腹に突き刺さった。
「ぐへあっ!」
情けない叫び声を上げながら、地面にぶっ倒れる創志。
「あれ? スドちゃんじゃなくてただの新聞紙だった……って、今何か頭に鈍い感触が――」
そこでようやく頭突きをかました相手に気付いたらしく、
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
少女が顔色を変えて駆け寄ってくる。
創志は腹をさすりながら「た、大したことないぜ」と強がりつつ体を起こす。
心配そうにこちらを見つめてくる少女の顔は、やはり初めて見るものだ。
年は創志と同じくらいだろうか? 髪の両端を軽く結んでおり、そのおさげがしゅん、と力無くうなだれている。
「かづなおねえさん! あんまり迂闊に動き回らないほうが――」
少女に事情を聞くより先に、彼女を追ってきたのであろう少年が姿を現す。やはり、この少年にも見覚えが無い。
「あ、純也君」
「……かづなおねえさん。その人たち、誰ですか?」
純也と呼ばれた少年は、敵意を剥き出しにした瞳でこちらを睨んできた。
随分生意気そうな子供だな、と創志は思う。年齢はリソナよりも上……12、13歳くらいに見える。純也の右手には特撮ヒーローが使いそうなゴテゴテした装飾の手甲が装着されており、「お前なんか一発で倒せるんだぞ」オーラを漂わせている。
「それはこっちのセリフじゃな。お主たち、何者じゃ? ここで何をしておる?」
純也の敵意に触発されたのか、警戒心を高めた切が、低い声を出す。
そして、腰に差した刀の柄を握った。いつでも抜き放てる体勢だ。
「お、おい切――」
いくらなんでも威嚇しすぎじゃないだろうか、と創志は切を諌めようとする。
が、切はそんな創志の考えを見透かしたように、
「見た目に惑わされるでない。リソナのことを忘れたわけではなかろう? 子供だからと言って油断しておっては、足元をすくわれるだけではすまないかもしれんぞ」
「…………っ」
言葉に詰まる。確かに、切の言うとおりだ。
純也と――そして、かづなと呼ばれた少女が、「あの青年」の仲間ではないという保証はどこにもないのだ。
「じゅ――」
創志が気を引き締めようとしていると、純也と切の一色即発の空気に気圧されて口をつぐんでいたかづなが、ふるふると震えながら口を開いた。
「――銃刀法違反です!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「私には分かりますよ……その刀、おもちゃじゃなくて本物っぽいです。そんなものを持ち歩くなんて、危険がデンジャーです! すぐに警察に通報しないと!」
慌てた様子のかづなは、左腕に装着していたデュエルディスクをごそごそと漁ると、携帯電話を取り出して110番をプッシュする。
「あれ? おかしいな、繋がらない」
1人で慌てふためくかづなを見ていると、完全に毒気が抜かれてしまった。
それは切や純也も同じらしく、切は「ぷくく」と笑いだし、純也はやれやれと肩をすくめる。
「……ま、最初から疑ってかかっちゃ話も出来ねえよな。俺の名前は皆本創志。変な野郎が使ったカード<次元誘爆>のせいで、ここに飛ばされてきた」
創志が簡単な自己紹介を済ませると、<次元誘爆>という単語に2人がピクリと反応する。
「<次元誘爆>……じゃあ、あなたたちも僕らと同じで――」
「純也君、その前に自己紹介しなくちゃ。私はかづなって言います。こっちの男の子は、私の友達で――」
「遠郷、純也です」
「そっか。よろしくな、かづな、純也」
「こちらこそよろしくお願いします。創志さん」
瞬間、創志の体に得体の知れない寒気が走る。
「さ、さんづけはやめてくれ。体がムズ痒くなる。呼び捨てで構わねえよ」
「……じゃあ、創志君って呼びますね。改めてよろしくお願いしますね、創志君!」
正直に言うと君付けもやめてほしかったのだが、ニコニコと笑うかづなの顔を見ていたら、それ以上突っ込む気が失せてしまった。
(――不思議なヤツだな)
初対面で……しかもこんな奇妙な場所で会ったというのに、不思議と気を許してしまう。
そして、彼女からは芯の通った「何か」を感じる。それが何なのかは、具体的に言葉にできないが。
「…………」
「…………」
「私には分かりますよ……その刀、おもちゃじゃなくて本物っぽいです。そんなものを持ち歩くなんて、危険がデンジャーです! すぐに警察に通報しないと!」
慌てた様子のかづなは、左腕に装着していたデュエルディスクをごそごそと漁ると、携帯電話を取り出して110番をプッシュする。
「あれ? おかしいな、繋がらない」
1人で慌てふためくかづなを見ていると、完全に毒気が抜かれてしまった。
それは切や純也も同じらしく、切は「ぷくく」と笑いだし、純也はやれやれと肩をすくめる。
「……ま、最初から疑ってかかっちゃ話も出来ねえよな。俺の名前は皆本創志。変な野郎が使ったカード<次元誘爆>のせいで、ここに飛ばされてきた」
創志が簡単な自己紹介を済ませると、<次元誘爆>という単語に2人がピクリと反応する。
「<次元誘爆>……じゃあ、あなたたちも僕らと同じで――」
「純也君、その前に自己紹介しなくちゃ。私はかづなって言います。こっちの男の子は、私の友達で――」
「遠郷、純也です」
「そっか。よろしくな、かづな、純也」
「こちらこそよろしくお願いします。創志さん」
瞬間、創志の体に得体の知れない寒気が走る。
「さ、さんづけはやめてくれ。体がムズ痒くなる。呼び捨てで構わねえよ」
「……じゃあ、創志君って呼びますね。改めてよろしくお願いしますね、創志君!」
正直に言うと君付けもやめてほしかったのだが、ニコニコと笑うかづなの顔を見ていたら、それ以上突っ込む気が失せてしまった。
(――不思議なヤツだな)
初対面で……しかもこんな奇妙な場所で会ったというのに、不思議と気を許してしまう。
そして、彼女からは芯の通った「何か」を感じる。それが何なのかは、具体的に言葉にできないが。
「それじゃ、話を戻しましょう。僕達も創志と同じで、怪しい決闘者が<次元誘爆>を発動したあと、気が付いたらここにいたんです」
「おいちょっと待て」 「……何ですか?」 せっかく話を仕切り直したというのに、いきなり水を差された。といった感じの不満を顕わにする純也。だがここはツッコんでおかなければなるまい。 「なんで俺のこと呼び捨てにしてるわけ? お前年下だろ?」 「えっ? だってさっき、呼び捨てで構わないって言ったじゃないですか」 「それはかづなに対してだ! お前は男で年下なんだから、ちゃんと『さん』つけろよ」 「……分かりましたよ、創志『さん』」 ヤケに「さん」を強調し、純也はわざとらしくため息を吐く。 (クソガキィ……!) コイツとは根本的に相性が合わない。聞き分けのいい信二とはエライ違いだ。 「じゃ、話を続けますよ。怪しい決闘者が<次元誘爆>を発動した時――」 「ちょっと待つのじゃ!!」 「……何ですか?」 今度は別の方面からストップがかかり、純也がうんざりとした様子を見せる。 「お主ら、何か大切なことを忘れてないかの?」 そう言って、切は額に青筋を浮かべながら他の3人を見回す。 「……忘れてること? 何だそりゃ」 創志は首をかしげる。ジト目で睨まれても、分からないのだから答えようがない。 すると、かづなが大切なことを思い出したかのように手を叩き、 「そういえば、まだ銃刀法違反さんの名前を聞いてませんでしたね」 「銃刀法違反さんではない! わしには友永切という名前があるのじゃ!」 フォロー(?)を入れたが、結局切は怒りだしてしまった。 「……ともかく、これで自己紹介は済みましたよね。さっさと状況を整理してしまいましょう」 純也が再度場を仕切り直す。切はまだ不服そうだったが、かづなになだめてくれたおかげで、余計な口は挟まなかった。 「僕達がこの世界に飛ばされた原因は、<次元誘爆>を使ったあの決闘者の力で間違いないと思います。問題は、ここは一体どこなのかということ。そして……」 「待テ」
「――もう! さっきから何なんですか! 全然話が進まない――」
三度目の横槍を入れられた純也が、とうとう爆発しそうになる。 が。 声の主の姿を確認した瞬間、その表情が凍りついた。 気配は無かった。 しかし、創志たちの目の前に、その人物は確かに存在していた。 首から上は麻袋、首から下は黒のローブにすっぽりと覆われており、一切肌の露出が無い。体格だけ見れば成人男性だと判別できるが、果たしてその中身が本当に人間なのかは定かではない。 「なっ……!?」 「こやつ、いつの間に……!」 創志は瞬時にローブの人物と距離を取る。 隣にいた切も、距離を取りつつ腰に差していた刀を抜く。かづなや純也も場慣れしているようで、わざわざ指示を飛ばさずとも的確に動いてくれていた。 いい意味で緩んでいた空気が一気に引き締まり、嫌が応にも緊張感が高まる。 突如現れた得体の知れない人物は、スッと左腕を持ち上げる。 そこには、ごく普通のデュエルディスクが装着されていた。 「デュエルダ」 麻袋の隙間から、くぐもった声が聞こえてくる。腹の底に響くような低い声からして、やはり中身は男だろうか。 そう考えた直後、創志たちの周囲の地面がいきなり「せり上がる」。 「これは――!?」 突然のことに対応が遅れる。 ゴゴゴと地響きを立てながらせり上がった地面は、創志たちを囲む土の壁を形成していく。 「くそ、逃げ道を塞がれたのか……!?」 「……むむむ。登るのはちょっと厳しそうな高さです」 「創志! かづな! 下がるのじゃ!」 5メートルはあろうかという壁を見上げていると、切の鋭い声が飛んだ。 左腕のディスクを展開した切は、1枚のモンスターカード――<六武衆の師範>をセットし、実体化させる。 「頼むぞ<師範>――清流、一閃!」 現れた隻眼の老将が、切の掛け声に合わせて白刃を煌めかせる。 その刃は、一瞬のうちに形成された土の壁を切り裂く―― はずだった。 ガキィ! と鉄を打ち合わせたような金属音が響き、<六武衆の師範>の刃が弾き返される。 「なっ……!?」 驚いた創志は、老将の刀が当たった箇所に触れる。その表面は、まるで磨き抜かれた鉄板のように固く、滑らかだった。 「どうやら、あいつが何か小細工をしたみたいですね」 闘志を顕わにした純也は、ローブの男を睨みつける。 男はディスクを構えた姿勢のまま、 「デュエルダ」 もう一度同じ言葉を繰り返した。話し合いに応じる雰囲気はなさそうだ。 「……罠の臭いがぷんぷんするが、ここは応じるしかなさそうじゃな」 ローブの男とのデュエル。わざわざ壁を作って退路を断ったことを考えれば、その危険は推して測れるだろう。 「……切、ディスク貸してくれ。俺が行く」 「――そうじゃな。ここはお主に任せるとするか」 一旦ディスクを収納し、左腕から外した切は、それを創志に手渡す。 受け取ったディスクを装着した創志は、腰に提げたデッキケースから自らのデッキを取り出し、ディスクに収める。 「いいんですか? 何なら、僕が行きますけど」 「いーや。ここは俺が行かせてもらうぜ。どっかのヘボ探偵に負けて、鬱憤が溜まってたところだしな」 純也の申し出を却下し、創志はローブ男の前に立つ。 勝ち誇った神楽屋の顔を思い浮かべると、負けた悔しさが蘇ってくる。コイツとのデュエルは、リベンジマッチの前哨戦だ。 「分かってるとは思いますけど……気をつけてください。普通の相手じゃないです」 「おうよ。たまにはこういう命のやり取りも経験しておかないとな」 かづなが「命のやり取り……ですか」と神妙な顔つきになる。 そう。レボリューションとの戦い以降、創志はこういった危険な状況に巻き込まれたことがほとんどなかった。 生命の危機を感じるほどの状況で磨かれる直感。その直感を、鈍らせるわけにはいかない。 「さあ……行くぜ。正体不明野郎!」 「…………」 「デュエル!!」
2つの声が重なり、新たなる決闘の火蓋が切って落とされた。
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