シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

オリジナルstage 【EP-01~09 サイドS】

 力が欲しい。
 誰にも負けない強い力が欲しい。
 どんな強者でもねじ伏せる力が欲しい。
 他者の全てを奪える力が欲しい。
 畏怖の頂点に君臨する力が欲しい。

 

 欠けたものを埋めるほどの力が、欲しい。





「……つう。くそ、一体何がどうなって……」
 一体どれほどの時間意識を失っていたのだろうか。
 両目を開いた創志は、体を起こしつつ、頭を振って強引に意識を覚醒させる。
 バイト先の喫茶店に見覚えのない青年が現れ、速攻魔法<次元誘爆>を発動したところまでは覚えているが、その後の記憶はない。
(<次元誘爆>……効果は忘れちまったけど、あいつがサイコパワーによって何らかの事象を起こしたことは確実だろうな)
 青年の正体について無い知恵を振り絞って考えを巡らせつつ、創志は周囲を見回す。
 辺りには、朽ちた建物が広がっていた。
 まさに廃墟と現すのがふさわしい場所だ。外壁だけになってしまった家屋や、2階から上の部分が丸ごと倒壊しているビル、屋上に設置された看板が崩れてしまったデパートなど、惨憺たる有様だった。
 何より異質なのは、生物の気配を一切感じないことだ。
 創志の足元には種類も分からない雑草が生えているが、それからも生命の息吹のようなものを感じない。どこか作り物めいた独特な雰囲気を感じる。
 この凄惨な光景は、ゼロリバースの被害が深刻だった旧サテライト地区のB.A.D.エリアを想起させる。
(でも、ここはサテライトじゃない……俺の勘がそう言ってる。なら、どこか別の場所に飛ばされたってことか?)
 神楽屋の話では、空間を捻じ曲げて大きさを変化させたり、現実世界とは次元軸がずれた異空間を作り出すサイコデュエリストも存在するらしい。あの青年もその類だろうか。
(……って考えてても仕方ねえな。とりあえず行動だ)
 同じ場に居合わせた神楽屋やティトたちも、創志と同じように飛ばされているのだろうか。もしそうなら、一刻も早く合流しなければならない。
 サイコデュエリストである神楽屋、ティト、リソナはともかく、一般人である萌子までこんな場所に迷い込んでいるとしたら、どんな危機に遭遇するか分かったものではない。いつも神楽屋や創志を圧倒するプレッシャーを放っているので忘れがちだが、藤原萌子はれっきとした女性なのだ。
 などと、失礼なことを考えていたせいか。
 ザリ、と。
 砂を踏む音が聞こえたにも関わらず、創志の反応は一瞬遅かった。
(しまった――気配が無いんじゃなくて、気配を隠してたのか!)
 崩れた建物の影から、何かが飛び出してくる。
 それが人間だと気付いた時、すでに襲撃者は動きを始めていた。
 腰に差した鞘から流れるような動作で刀が抜かれ、汚れた空気を切り払う。
 銀色の刃が鈍く光り、創志の首元を正確に狙う。
 創志は後ろに飛び退いてそれを避けようとするが、すでに時遅し。
 鋭く磨き抜かれた刃が、創志の首を切り裂く――
 寸前で、ピタリと止まった。
 直後、ぐ~、という気の抜けた音が辺りに響き渡った。
 創志の聞き間違いでなければ、空腹を訴える腹の音だ。
「う……く……」
 恥ずかしさのせいか、襲撃者の体がぷるぷると震える。黒髪をポニーテールに結い、若草色の着物を着たその姿は、見覚えがあった。
「……何やってんだ? 切?」
 創志の問いに対し、友永切は顔を真っ赤にしながら唇を噛んだ。



「し、仕方ないのじゃ! ちょうど昼飯を食べようとしていたところで、あの礼儀知らずで癇に障る男がデュエルを挑んできたから……」
「はいはい」
「その呆れ口調をやめるのじゃ!」
 ぷんすかと頬を膨らませながらあーだこーだと言い訳を続ける切。どうやら腹の虫を聞かれたのが相当恥ずかしかったらしい。別にそこまで気にするものでもないと思うが。
「とにかく、切も俺と同じで<次元誘爆>を使われてこの世界に飛ばされたんだな?」
「うむ。急に目の前が真っ白になって、気が付いたらここにいたのじゃ」
 切も、ここがネオ童実野シティの旧サテライト地区とは別の場所だろうという意見に同意らしい。曰く、「サテライトは隅から隅まで歩いた自信があるが、こんな場所は見たことがない」とのことだ。
 お互いに事情を説明し終えた創志と切は、協力して他の人たちを探すことにする。幸い、切の方は<次元誘爆>に巻き込まれた同行者はいないとのことだった。
「でも、この辺は人の気配が皆無だよな。切は気配を消してただろうから除くとしても……神楽屋たちがいるとしたら、ここからかなり離れた場所ってことか?」
 周囲に気を配りながら歩きつつ、隣を歩く切に尋ねてみる。創志よりも多くの修羅場をくぐり抜けてきた切ならば、人の気配を探ることに長けているはずだ。
 すると、切は怪訝そうな顔をして、
「……創志、一体何を言っておるのじゃ? 人の気配ならすぐ近くからするじゃろう。わしが真っ先にお主に襲いかかったのは、ピリピリと緊張した雰囲気を纏っていたからじゃ。敵ならば先に潰して情報を聞き出そうと思ってな」
「はあ? お前こそ何言ってんだよ。人の気配どころか、生物の気配さえしない――」

 

「……ドちゃ~ん! しちみちゃ~ん! どこですか~!」

 

「……………………」
「聞こえたかの?」
 したり顔で笑う切に対し、創志は首を縦に振るしかない。
 緊張感の欠片も感じさせない気の抜けた声が、創志たちの前方から聞こえてきたからだ。
(……神楽屋と一緒に色々やってきたおかげで、ちょっとは「一人前」になれたかと思ったけど、俺もまだまだだな)
 盛大にため息をつきたくなるのをこらえながら、創志は声がした方へと近づいてみる。
 
 声の高さからして、おそらく女性だ。聞き覚えのない声だったが、少なくとも切のようにいきなり刀を突き付けてくるようなことはないだろう。
 そんなことを考えていると、創志の視界にくしゃくしゃに丸まった新聞紙が転がっているのが映る。ひゅう、と風が吹いてころころと転がる新聞紙の塊。それはちょうど創志の足に当たって止まり――

「あ! 見つけましたよスドちゃん!」

 その新聞紙の塊目がけて、1人の少女が突っ込んできた。
「え――」
 少女の目には新聞紙の塊しか映っていないらしく、目の前に立つ創志に気付いた様子がない。前屈みの体勢のまま突っ込んでくれば、結果はおのずと見えてくる。
 ゴスッ、と。
 鈍い音が響き渡り、少女のヘディングが創志の腹に突き刺さった。
「ぐへあっ!」
 情けない叫び声を上げながら、地面にぶっ倒れる創志。
「あれ? スドちゃんじゃなくてただの新聞紙だった……って、今何か頭に鈍い感触が――」
 そこでようやく頭突きをかました相手に気付いたらしく、
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
 少女が顔色を変えて駆け寄ってくる。
 創志は腹をさすりながら「た、大したことないぜ」と強がりつつ体を起こす。
 心配そうにこちらを見つめてくる少女の顔は、やはり初めて見るものだ。
 年は創志と同じくらいだろうか? 髪の両端を軽く結んでおり、そのおさげがしゅん、と力無くうなだれている。
「かづなおねえさん! あんまり迂闊に動き回らないほうが――」
 少女に事情を聞くより先に、彼女を追ってきたのであろう少年が姿を現す。やはり、この少年にも見覚えが無い。
「あ、純也君」
「……かづなおねえさん。その人たち、誰ですか?」
 純也と呼ばれた少年は、敵意を剥き出しにした瞳でこちらを睨んできた。
 随分生意気そうな子供だな、と創志は思う。年齢はリソナよりも上……12、13歳くらいに見える。純也の右手には特撮ヒーローが使いそうなゴテゴテした装飾の手甲が装着されており、「お前なんか一発で倒せるんだぞ」オーラを漂わせている。
「それはこっちのセリフじゃな。お主たち、何者じゃ? ここで何をしておる?」
 純也の敵意に触発されたのか、警戒心を高めた切が、低い声を出す。
 そして、腰に差した刀の柄を握った。いつでも抜き放てる体勢だ。
「お、おい切――」
 いくらなんでも威嚇しすぎじゃないだろうか、と創志は切を諌めようとする。
 が、切はそんな創志の考えを見透かしたように、
「見た目に惑わされるでない。リソナのことを忘れたわけではなかろう? 子供だからと言って油断しておっては、足元をすくわれるだけではすまないかもしれんぞ」
「…………っ」
 言葉に詰まる。確かに、切の言うとおりだ。
 純也と――そして、かづなと呼ばれた少女が、「あの青年」の仲間ではないという保証はどこにもないのだ。
「じゅ――」
 創志が気を引き締めようとしていると、純也と切の一色即発の空気に気圧されて口をつぐんでいたかづなが、ふるふると震えながら口を開いた。

「――銃刀法違反です!!」

「…………」
「…………」
「…………」
「私には分かりますよ……その刀、おもちゃじゃなくて本物っぽいです。そんなものを持ち歩くなんて、危険がデンジャーです! すぐに警察に通報しないと!」
 慌てた様子のかづなは、左腕に装着していたデュエルディスクをごそごそと漁ると、携帯電話を取り出して110番をプッシュする。
「あれ? おかしいな、繋がらない」
 1人で慌てふためくかづなを見ていると、完全に毒気が抜かれてしまった。
 それは切や純也も同じらしく、切は「ぷくく」と笑いだし、純也はやれやれと肩をすくめる。
「……ま、最初から疑ってかかっちゃ話も出来ねえよな。俺の名前は皆本創志。変な野郎が使ったカード<次元誘爆>のせいで、ここに飛ばされてきた」
 創志が簡単な自己紹介を済ませると、<次元誘爆>という単語に2人がピクリと反応する。
「<次元誘爆>……じゃあ、あなたたちも僕らと同じで――」
「純也君、その前に自己紹介しなくちゃ。私はかづなって言います。こっちの男の子は、私の友達で――」
「遠郷、純也です」
「そっか。よろしくな、かづな、純也」
「こちらこそよろしくお願いします。創志さん」
 瞬間、創志の体に得体の知れない寒気が走る。
「さ、さんづけはやめてくれ。体がムズ痒くなる。呼び捨てで構わねえよ」
「……じゃあ、創志君って呼びますね。改めてよろしくお願いしますね、創志君!」
 正直に言うと君付けもやめてほしかったのだが、ニコニコと笑うかづなの顔を見ていたら、それ以上突っ込む気が失せてしまった。
(――不思議なヤツだな)
 初対面で……しかもこんな奇妙な場所で会ったというのに、不思議と気を許してしまう。
 そして、彼女からは芯の通った「何か」を感じる。それが何なのかは、具体的に言葉にできないが。
 
「それじゃ、話を戻しましょう。僕達も創志と同じで、怪しい決闘者が<次元誘爆>を発動したあと、気が付いたらここにいたんです」
「おいちょっと待て」
「……何ですか?」
 せっかく話を仕切り直したというのに、いきなり水を差された。といった感じの不満を顕わにする純也。だがここはツッコんでおかなければなるまい。
「なんで俺のこと呼び捨てにしてるわけ? お前年下だろ?」
「えっ? だってさっき、呼び捨てで構わないって言ったじゃないですか」
「それはかづなに対してだ! お前は男で年下なんだから、ちゃんと『さん』つけろよ」
「……分かりましたよ、創志『さん』」
 ヤケに「さん」を強調し、純也はわざとらしくため息を吐く。
(クソガキィ……!)
 コイツとは根本的に相性が合わない。聞き分けのいい信二とはエライ違いだ。
「じゃ、話を続けますよ。怪しい決闘者が<次元誘爆>を発動した時――」
「ちょっと待つのじゃ!!」
「……何ですか?」
 今度は別の方面からストップがかかり、純也がうんざりとした様子を見せる。
「お主ら、何か大切なことを忘れてないかの?」
 そう言って、切は額に青筋を浮かべながら他の3人を見回す。
「……忘れてること? 何だそりゃ」
 創志は首をかしげる。ジト目で睨まれても、分からないのだから答えようがない。
 すると、かづなが大切なことを思い出したかのように手を叩き、
「そういえば、まだ銃刀法違反さんの名前を聞いてませんでしたね」
「銃刀法違反さんではない! わしには友永切という名前があるのじゃ!」
 フォロー(?)を入れたが、結局切は怒りだしてしまった。
「……ともかく、これで自己紹介は済みましたよね。さっさと状況を整理してしまいましょう」
 純也が再度場を仕切り直す。切はまだ不服そうだったが、かづなになだめてくれたおかげで、余計な口は挟まなかった。
「僕達がこの世界に飛ばされた原因は、<次元誘爆>を使ったあの決闘者の力で間違いないと思います。問題は、ここは一体どこなのかということ。そして……」

「待テ」

「――もう! さっきから何なんですか! 全然話が進まない――」
 三度目の横槍を入れられた純也が、とうとう爆発しそうになる。
 が。
 声の主の姿を確認した瞬間、その表情が凍りついた。
 気配は無かった。
 しかし、創志たちの目の前に、その人物は確かに存在していた。
 首から上は麻袋、首から下は黒のローブにすっぽりと覆われており、一切肌の露出が無い。体格だけ見れば成人男性だと判別できるが、果たしてその中身が本当に人間なのかは定かではない。
「なっ……!?」
「こやつ、いつの間に……!」
 創志は瞬時にローブの人物と距離を取る。
 隣にいた切も、距離を取りつつ腰に差していた刀を抜く。かづなや純也も場慣れしているようで、わざわざ指示を飛ばさずとも的確に動いてくれていた。
 いい意味で緩んでいた空気が一気に引き締まり、嫌が応にも緊張感が高まる。
 突如現れた得体の知れない人物は、スッと左腕を持ち上げる。
 そこには、ごく普通のデュエルディスクが装着されていた。
「デュエルダ」
 麻袋の隙間から、くぐもった声が聞こえてくる。腹の底に響くような低い声からして、やはり中身は男だろうか。
 そう考えた直後、創志たちの周囲の地面がいきなり「せり上がる」。
「これは――!?」
 突然のことに対応が遅れる。
 ゴゴゴと地響きを立てながらせり上がった地面は、創志たちを囲む土の壁を形成していく。
「くそ、逃げ道を塞がれたのか……!?」
「……むむむ。登るのはちょっと厳しそうな高さです」
「創志! かづな! 下がるのじゃ!」
 5メートルはあろうかという壁を見上げていると、切の鋭い声が飛んだ。
 左腕のディスクを展開した切は、1枚のモンスターカード――<六武衆の師範>をセットし、実体化させる。
「頼むぞ<師範>――清流、一閃!」
 現れた隻眼の老将が、切の掛け声に合わせて白刃を煌めかせる。
 その刃は、一瞬のうちに形成された土の壁を切り裂く――
 はずだった。
 ガキィ! と鉄を打ち合わせたような金属音が響き、<六武衆の師範>の刃が弾き返される。
「なっ……!?」
 驚いた創志は、老将の刀が当たった箇所に触れる。その表面は、まるで磨き抜かれた鉄板のように固く、滑らかだった。
「どうやら、あいつが何か小細工をしたみたいですね」
 闘志を顕わにした純也は、ローブの男を睨みつける。
 男はディスクを構えた姿勢のまま、
「デュエルダ」
 もう一度同じ言葉を繰り返した。話し合いに応じる雰囲気はなさそうだ。
「……罠の臭いがぷんぷんするが、ここは応じるしかなさそうじゃな」
 ローブの男とのデュエル。わざわざ壁を作って退路を断ったことを考えれば、その危険は推して測れるだろう。
「……切、ディスク貸してくれ。俺が行く」
「――そうじゃな。ここはお主に任せるとするか」
 一旦ディスクを収納し、左腕から外した切は、それを創志に手渡す。
 受け取ったディスクを装着した創志は、腰に提げたデッキケースから自らのデッキを取り出し、ディスクに収める。
「いいんですか? 何なら、僕が行きますけど」
「いーや。ここは俺が行かせてもらうぜ。どっかのヘボ探偵に負けて、鬱憤が溜まってたところだしな」
 純也の申し出を却下し、創志はローブ男の前に立つ。
 勝ち誇った神楽屋の顔を思い浮かべると、負けた悔しさが蘇ってくる。コイツとのデュエルは、リベンジマッチの前哨戦だ。
「分かってるとは思いますけど……気をつけてください。普通の相手じゃないです」
「おうよ。たまにはこういう命のやり取りも経験しておかないとな」
 かづなが「命のやり取り……ですか」と神妙な顔つきになる。
 そう。レボリューションとの戦い以降、創志はこういった危険な状況に巻き込まれたことがほとんどなかった。
 生命の危機を感じるほどの状況で磨かれる直感。その直感を、鈍らせるわけにはいかない。
「さあ……行くぜ。正体不明野郎!」
「…………」

「デュエル!!」

 2つの声が重なり、新たなる決闘の火蓋が切って落とされた。
 
 
「オレが先攻ヲもらう。ドロー」
 麻袋を被っているせいで、相手の表情は見えない。
 だが、それ以上に目の前の男は、言い様のない奇怪さを醸し出していた。
 人であるのに、人ではない。そんな異質さ。
 まさか、本当に中身は化け物なのだろうか。
「モンスターヲセット。カードヲ2枚セットして、ターンエンドダ」
 そんな異質さとは裏腹に、先行初ターンとしては堅実なプレイングをしてくる。

【ローブ男LP4000】 手札3枚
場:裏守備モンスター、伏せ2枚
【創志LP4000】 手札5枚
場:なし

「俺のターン!」
 相手が守勢に回るなら、こちらは初ターンから飛ばしていきたいところだったが……
(アタッカーがいねえな)
 手札にある下級モンスターは、どれもアタッカーとしては攻撃力が心許ないものばかり。
(まずはシンクロしてからだな)
 幸い、リカバリーのためのカードは豊富だ。このターンは、シンクロモンスターを呼び出すための下準備をしておくことにする。
「モンスターをセット。カードを1枚伏せて……永続魔法<マシン・デベロッパー>を発動!」

<マシン・デベロッパー>
永続魔法
フィールド上に表側表示で存在する
機械族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする。
フィールド上に存在する機械族モンスターが破壊される度に、
このカードにジャンクカウンターを2つ置く。
このカードを墓地へ送る事で、このカードに乗っている
ジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ
機械族モンスター1体を自分の墓地から選択して特殊召喚する。

「<マシン・デベロッパー>……ということは、創志さんのデッキは機械族が主軸のデッキですか」
「機械族、ってことは、やっぱり合体するんでしょうか」
「ふふ、それは見てのお楽しみじゃ!」
 ……何か勝手にハードルを上げられている気がする。
「ターンエンドだ」
 ギャラリーの声が聞こえないフリをして、創志はターンを終了した。

【ローブ男LP4000】 手札3枚
場:裏守備モンスター、伏せ2枚
【創志LP4000】 手札3枚
場:裏守備モンスター、マシン・デベロッパー、伏せ1枚

「デハ、俺のターンダ。ドロー!」
 ローブの男が、空気を裂くように鋭くカードをドローする。
 直後。
 創志の全身に、ぞわり、と背筋が凍るような怖気が圧し掛かる。
「――ッ!?」
 麻袋の仮面の下にある顔が、邪悪な笑みに歪んだような錯覚を覚える。
 何か仕掛けてくる。創志の直感がそう訴えてきた。
「オレハ<シャインエンジェル>を召喚」
 ローブの男が呼びだしたのは、白い翼を生やした光の天使。比較的使われることの多いモンスターなので、創志も既知のカードだ。戦闘で破壊された時、攻撃力1500以下の光属性モンスターをリクルートする効果を持つ。

<シャインエンジェル>
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1400/守 800
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下の
光属性モンスター1体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

(俺の伏せモンスターは<A・ジェネクス・リモート>。守備力は1800だ。<シャインエンジェル>じゃ倒せねえけど……)
 このまま攻撃を仕掛けてくるとは思えない。
 そして、その考えは正しかった。
「……セットモンスターを反転召喚。<幻想召喚師>のリバース効果発動」
「<幻想召喚師>?」
 裏守備モンスターがリバースする。姿を現したのは、橙色の法衣を身に纏った僧侶だ。
「このカード以外のモンスター1体をリリースし、融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚すル」

<幻想召喚師>
効果モンスター
星3/光属性/魔法使い族/攻 800/守 900
リバース:このカード以外のモンスター1体をリリースし、
融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚した融合モンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 <幻想召喚師>は手にしていた書物を開くと、両目を伏せて呪文を唱え始める。
 すると、<シャインエンジェル>の姿が光に包まれ、消える。
「<融合>を使わずに融合モンスターを召喚じゃと……!? こんなカードがあったとは」
「気をつけてください創志君! 来ます!」
 かづなに言われるまでもなく、創志の嗅覚は危険な臭いを感じ取っていた。
 <シャインエンジェル>を消した光がローブの男のエクストラデッキへと集い、1枚のカードを差し示す。ローブの男はそのカードを手に取ると、ディスクへ叩きつけるようにセットした。

「現れロ……! <重爆撃禽ボム・フェネクス>!」

 土の壁に囲まれたフィールドに、炎の渦が巻き起こる。
 瞬く間に熱気が辺りにたちこめ、創志の体から汗が吹き出す。その汗は、熱さによるものだけではない。
 炎の翼を広げる不死鳥――その胴体には、重厚な鎧を纏った悪魔の姿がある。
 <重爆撃禽ボム・フェネクス>。
 現れたモンスターから発せられる強大なプレッシャーが、創志に冷や汗を流させていた。

<重爆撃禽 ボム・フェネクス>
融合・効果モンスター
星8/炎属性/炎族/攻2800/守2300
機械族モンスター+炎族モンスター
自分のメインフェイズ時、フィールド上に存在するカード1枚につき
300ポイントダメージを相手ライフに与える事ができる。
この効果を発動するターンこのカードは攻撃する事ができない。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

(この威圧感……立体映像のものじゃない。野郎、サイコパワーを使ってモンスターを実体化させてやがるのか?)
 創志が考えを巡らすと同時、
「――創志さん! すぐに僕と代わってください!」
 表情を一変させた純也が、焦燥感に溢れた叫び声を上げる。まるで、何か大変なことに気付いたかのような声だ。
「そいつ、ペインです! 普通の人が相手にするには危険すぎる!!」
「ペイン?」
 聞いたことのない単語だ。
 なのに、純也は創志の呑み込みの悪さを責めるかのように、苛立ちを顕わにする。
「ペインを知らないんですか!? テレビのニュースやネットを見てれば、知ってて当たり前の存在でしょう? もしかして、世間から隔離されたド田舎に住んでた人なんですか?」
「違えよ!」
 別にド田舎が嫌いなわけではないが、今の発言は創志を馬鹿にしたような意味合いが込められていたので、即座に否定する。
「わしも聞いたことがないのう。ペインとは何なのじゃ?」
「……サイコデュエリストは分かりますか? ペインっていうのは、そのサイコデュエリストが変異した形です。力が増幅される代わりに、自我を失ってしまい、無差別に人を襲うようになる。そして、二度と元には戻れません」
 呆れる純也の代わりに、かづなが説明をしてくれる。
「普通の人がペインとデュエルしてダメージを受けると、それだけで命を落としてしまうこともあります。だから、何の力も持たない人がペインとデュエルするときには、無傷で勝つしかないんです」
 私みたいに、とかづなは自嘲気味につけ加えた。
「これで分かったでしょう? ペインがどれほど危険なのかを。サイコデュエリストである僕なら、ペインからのダメージを多少軽減できます。だから――」
「……大体分かった。けど、俺はデュエルをやめる気はねえ」
 「どうしてです!?」と困惑する純也を尻目に、創志は首元のチョーカーへと手を伸ばした。
(……こいつを使うのは久しぶりだな)
 カチリ、と小気味よい音を立ててスイッチがONに切り替わる。
「俺もサイコデュエリストの端くれだ! それに、痛みにビビって引き下がるなんて、カッコ悪すぎだろうが!」
 
「創志君……」
 創志は視線に力を込め、不死鳥――<重爆撃禽ボム・フェネクス>を見据える。
(確かに強力なプレッシャーだが……これくらいじゃ、萌子さんの足元にも及ばねえ!)
「創志さんもサイコデュエリスト……?」
「ああそうだ。だからこの場は任せとけって」
 その言葉に、純也はゆっくりと頷き、ようやく引き下がった。
 ここまでの大言を吐いたんだ。みっともない姿を見せるわけにはいかない。
「<重爆撃禽ボム・フェネクス>の効果を発動。フィールド上のカード1枚につき、300ポイントのダメージを与エル」
 ローブ男……ペインが口を開き、デュエルが再開される。
 現在、創志のフィールドのカードは3枚。ペインは4枚。合計7枚ということは、2100ポイントのダメージが発生する。一気にライフポイントの半分近くを削られる、強力なダメージだ。
 と、いうことはそれにふさわしい「痛み」が創志に降りかかるのだろう。
「食らエ! フランメ・レーゲン!」
 宣言と共に<重爆撃禽ボム・フェネクス>の体が膨張し、土の壁にくりぬかれた空を覆い尽くす。
 そして、創志に向かっていくつもの炎の渦が雨のように降り注いだ。
 その内の1つにでも巻き込まれたら、瞬きをする間もなく焼き尽くされてしまうであろう灼熱。
「創志さん!」
「ダメージを受けなけりゃいいんだろ……手札の<A・ジェネクス・ガードナー>の効果を発動! ライフポイントにダメージを与える効果を無効にし、このカードを特殊召喚する!」

<A・ジェネクス・ガードナー>
効果モンスター(オリジナルカード)
星4/闇属性/機械族/攻1200/守1500
相手が「ライフポイントにダメージを与える効果」を持つカードを発動した時、
その発動を無効にし、このカードを手札から特殊召喚する。

 鉄球をいくつも組み合わせたような姿のロボット、<A・ジェネクス・ガードナー>は、フィールドに現れると同時、両手を天にかざす。
 すると、創志たちの頭上に巨大なバリアが出現し、降り注ぐ炎の渦を全て受け止めた。
「ナイスじゃ創志!」
「バーン効果を使ったターン、<重爆撃禽ボム・フェネクス>は攻撃できませんし、<幻想召喚師>の効果で特殊召喚した融合モンスターは、エンドフェイズに破壊されるはずです!」
 切とかづなが色めきたつ。これで、このターンはしのいだはずだ。
 が。
「……永続罠<血の代償>を発動スル」

<血の代償>
永続罠
500ライフポイントを払う事で、モンスター1体を通常召喚する。
この効果は自分のメインフェイズ時及び
相手のバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

 ペインは、ターンを終了しようとはしなかった。
「500ライフを支払イ、モンスター1体を通常召喚すル」

【ペインLP4000→3500】

 攻め手を増やし、こちらの守備モンスターを破壊してくるのだろうか。
 そんなことを考えた瞬間だった。
 ズン! と。
 先ほどとは比べ物にならないほどの圧倒的なプレッシャーが創志に圧し掛かった。
「なんじゃ……? これは……!?」
 震えた声で困惑を顕わにする切。プレッシャーを感じているのは創志だけではないようだ。
「<幻想召喚師>と<重爆撃禽ボム・フェネクス>をリリース」
 ペインのフィールドにいた2体のモンスターが、黒い影のようなものに塗り潰される。
 そして、ペインは1枚のカードを手に取った。

「さア、暴れ狂え! <The tyrant NEPTUNE>!!」

 最初に見えたのは、巨大な鎌だ。
 死神が持つのにふさわしいそれは、音も無く<幻想召喚師>と<重爆撃禽ボム・フェネクス>を両断する。
 2体のモンスターを覆っていた影が霧散し、新たな形を作り上げる。
 洗練された鎧を纏った巨大な爬虫類型のモンスター……影はその頭部を形作る。
 蛇か、ドラゴンか。
 風に吹かれた炎のように揺らめく影は、見たものを畏怖の底へと叩き落とす。
 「冷たき暴君」。
 どこかの世界ではそう例えられたモンスターが、創志の前に出現した。

<The tyrant NEPTUNE>
効果モンスター
星10/水属性/爬虫類族/攻   0/守   0
このカードは特殊召喚できない。 
このカードはモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。 
このカードの攻撃力・守備力は、アドバンス召喚時にリリースしたモンスターの
元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。 
このカードがアドバンス召喚に成功した時、
墓地に存在するリリースした効果モンスター1体を選択し、 
そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

「<The tyrant NEPTUNE>の攻撃力と守備力は、アドバンス召喚時にリリースしたモンスターの元々の攻撃力守備力を合計した数値分アップすル」
 <幻想召喚師>の攻守は800と900。<重爆撃禽ボム・フェネクス>の攻守は2800と2300。
「あやつの攻撃力は3600、守備力は3200というわけか……!」
「さラに、<The tyrant NEPTUNE>はアドバンス召喚に成功した時、墓地に存在するリリースした効果モンスター1体と同名カードとして扱い、同じ効果を得る。魂を喰ラエ……! <The tyrant NEPTUNE>!!」
 雄叫びを上げた冷たき暴君の前に、<重爆撃禽ボム・フェネクス>が纏っていた鎧が現れる。
 <The tyrant NEPTUNE>はその鎧を右手で掴むと、そのまま握りつぶした。
「これで、<ボム・フェネクス>と同じ効果を得たってことかよ……」
「もう一度ダ。<The tyrant NEPTUNE>……イヤ、<重爆撃禽ボム・フェネクス>の効果を発動!! フィールド上のカード1枚につき、300ポイントのダメージを与える! フランメ・レーゲン!」
 ペインが両手を広げると、<A・ジェネクス・ガードナー>によって防いだはずの炎の渦が、再び降り注ぐ。もう1枚<A・ジェネクス・ガードナー>が手札にあるなんていう都合のいい展開はない。創志は歯を食いしばり、痛みに備える。
 場のカードは先程と同じ7枚。2100ポイントのダメージが発生する。
 落下した炎の渦が、創志の体を包み込んだ。
「ぐあああああああああっ!」
 さすがに声をこらえることはできなかった。
 燃え滾る溶鉱炉に放り込まれたような感覚。四方八方を灼熱に囲まれ、逃げ場が無い。
 焙られる。骨の髄まで。
「ぐっ……!」
 身につけている服が燃えていないということは、炎そのものではなくダメージを実体化させているのだろう。そこまで考える余裕があったのは、「今までの」経験によるものだった。
(そうだ……思い出せ……セラや光坂の攻撃に比べたら、これくらい……!)
「創志君!」
 かづなの叫び声が耳に届いた直後、炎の渦は消え去った。

【創志LP4000→1900】

「すごい……あれを耐えきるなんて」
 純也が驚嘆の声を漏らすが、
「あれくらい耐えて当然じゃ。それよりも、<The tyrant NEPTUNE>を何とかせねば」
 光坂との激闘を目撃していた切は、厳しい表情で唸った。
「……そうだな」
 ふらつきそうになるのをこらえながら、創志は頷く。
 この借りは、倍にして返さなければなるまい。

【ペインLP3500】 手札2枚
場:The tyrant NEPTUNE(攻撃・重爆撃禽ボム・フェネクスと同名カード扱い)、血の代償、伏せ1枚
【創志LP1900】 手札2枚
場:A・ジェネクス・ガードナー(守備)、裏守備モンスター、マシン・デベロッパー、伏せ1枚
 
 
「――俺のターンだ。ドロー!」
 <The tyrant NEPTUNE>の召喚は予想外だったが、こちらの手を崩されたわけではない。
「守備モンスターを破壊しなかったこと、後悔させてやるぜ! <A・ジェネクス・チェンジャー>を召喚! 効果で<The tyrant NEPTUNE>の属性を光に変えるぜ!」

<A・ジェネクス・チェンジャー>
効果モンスター
星3/闇属性/機械族/攻1200/守1800
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
属性を1つ宣言して発動する。
このターンのエンドフェイズ時まで、
選択したモンスターの属性は宣言した属性になる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「属性を光に? 一体何を……」
 創志にとっては最早お決まりのようなコンボだったが、純也には見当がつかないようだ。
「さらに<A・ジェネクス・リモート>を反転召喚。効果で、自身を<ジェネクス・コントローラー>として扱うぜ。2体をチューニングだ!」

<A・ジェネクス・リモート>
チューナー(効果モンスター)
星3/闇属性/機械族/攻 500/守1800
フィールド上に表側表示で存在するチューナー1体を選択して発動する。
選択したモンスターのカード名は、このターンのエンドフェイズ時まで
「ジェネクス・コントローラー」として扱う。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 <A・ジェネクス・リモート>の体が3つの光球へと変化し、緑のリングに包まれた<A・ジェネクス・チェンジャー>の体内へと吸い込まれていく。
「残された結晶が、数多の力を呼び起こす! 集え、3つの銃弾よ! シンクロ召喚……撃ち抜け! <A・ジェネクス・トライアーム>!」
 シンクロ召喚のエフェクト光がリングの中心を貫き、漆黒のボディが煌めく。
 右腕の銃撃ユニットを構えた<A・ジェネクス・トライアーム>が、創志の剣となるべく舞い降りる。

<A・ジェネクス・トライアーム>
シンクロ・効果モンスター
星6/闇属性/機械族/攻2400/守1600
「ジェネクス・コントローラー」+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードのシンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの属性によって
以下の効果を1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動する事ができる。
●風属性:相手の手札をランダムに1枚墓地へ送る。
●水属性:フィールド上に存在する魔法または罠カード1枚を破壊する。
●闇属性:フィールド上に表側表示で存在する光属性モンスター1体を破壊し、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「<トライアーム>の効果を使うぜ! こいつは闇属性モンスターをシンクロ素材とした時、手札を1枚捨てることで、相手フィールド上の光属性モンスターを破壊してカードを1枚ドローする!」
「そうか……属性を変えたのは、このためだったんですか!」
 銃撃ユニットの内部にあるシリンダーが回転し、撃ち出す銃弾を選択する。
 ユニットの表面にある緑色のゲージがフルチャージされ、銃口に光が集い始める。
「行くぜ! ダーク・ブリット――ファイア!」
 夜空のような深い闇の色をたたえたエネルギー弾が、銃口から放たれる。
 対し、<The tyrant NEPTUNE>は鎌を真横に構えて守りを固めた。
 が。
 その鎌をへし折り、重厚な鎧を貫き、「ダーク・ブリット」は暴君の胴体に風穴を開けた。
 爆発。
 破壊された<The tyrant NEPTUNE>が、激しい爆発を伴って戦場から脱落する。
「……カードを1枚ドロー!」
 <A・ジェネクス・トライアーム>の効果で、創志はカードを1枚ドローする。
(こういうとき、相手の表情が見えないってのは厄介だな……)
 麻袋を被ったペインが、今どんなことを考えているかは全く分からない。
 <The tyrant NEPTUNE>以上のモンスターがいるとは考えにくいが……このまま終わるとも思えない。
「チャンスじゃぞ! 創志!」
「分かってるっての! バトルだ。<トライアーム>でダイレクトアタック!」
 切の声に、創志は考えを打ち切ってデュエルを進める。
 再び内部のシリンダーが回転。銃弾を変更した黒き機械兵が、攻撃に移るために銃撃ユニットを構え直す。
「<血の代償>の効果を発動ダ。500ポイントのライフを支払い、モンスターをセットする」

【ペインLP3500→3000】

「なら、そのまま攻撃を続行! トライ・シュート!」
 現れたセットモンスターに、エネルギー弾が直撃する。
「破壊さレタのは<見習い魔術師>。このカードが戦闘デ破壊さレタとき、デッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を、自分フィールドにセットするコトができル」

<見習い魔術師>
効果モンスター
星2/闇属性/魔法使い族/攻 400/守 800
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、
フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを
置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。
このカードが戦闘によって破壊された場合、
自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を
自分フィールド上にセットする事ができる。

 カードが表になり、金髪の魔術師が砕け散り、手にしていた杖が地面に突き刺さった。
「俺ハ2体目の<見習い魔術師>をセット」
 突き刺さった杖を目印に、新たなセットモンスターが現れる。
「リクルーターか。あんまり時間稼ぎはされたくねえけど……ここはターンエンドだ!」
 ペインの手札は1枚。場を立て直すには時間がかかるはずだ。その時間を稼ぐための<見習い魔術師>だろう。
 相手の思うとおりに事を進められては、再び強力なモンスターが現れるのは確実だ。その前に決着をつけなければならない。

【ペインLP3000】 手札1枚
場:裏守備モンスター、血の代償、伏せ1枚
【創志LP1900】 手札2枚
場:A・ジェネクス・トライアーム(攻撃)、A・ジェネクス・ガードナー(守備)、マシン・デベロッパー、伏せ1枚

「俺のターン。ドロー……モンスターヲセットし、ターンエンド」
 もう1体裏守備モンスターが現れ、早々にペインのターンが終了する。
 普通なら<A・ジェネクス・トライアーム>への対抗手段がないだろうと浮かれるところだが――
「あの伏せモンスター、すごく怪しいです」
 かづなの言うとおりだ。
 <The tyrant NEPTUNE>召喚のスタートキーのなった<幻想召喚師>。あのモンスターは、リバースすることで効果を発揮するモンスターだ。
 次のターンで確実に仕留めなければ、効果を使用されて形勢を逆転されてしまうかもしれない。

【ペインLP3000】 手札1枚
場:裏守備モンスター2体、血の代償、伏せ1枚
【創志LP1900】 手札2枚
場:A・ジェネクス・トライアーム(攻撃)、A・ジェネクス・ガードナー(守備)、マシン・デベロッパー、伏せ1枚

「俺のターン!」
 創志のデッキに裏守備モンスターをそのまま破壊するようなカードは入っていない。ドローした魔法カードも、今は使えないものだ。
「……このまま行く! <トライアーム>でそっちの伏せモンスターを攻撃だ!」
 指定したのは、当然先のターンでセットされたモンスター。
 創志の読み通り<幻想召喚師>か、それとも――
「サセナイ。罠カード<進入禁止!No Entry!!>を発動。攻撃表示モンスターを全て守備表示ニする」

<進入禁止!No Entry!!>
通常罠
フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て守備表示にする。

 ブブー! と警告音がけたたましく鳴り響き、攻撃動作に入っていた<A・ジェネクス・トライアーム>が守備表示になってしまう。
「くそ、これじゃ攻め手を増やしても無駄だったか」
 しかし、これでますます怪しさが増した。
 罠カードを使ってまで守ったセットモンスターとなれば、かなり重要なものなのだろう。
「……ターンエンド」
 有効な攻撃ができないまま、創志のターンが終了した。

【ペインLP3000】 手札1枚
場:裏守備モンスター2体、血の代償
【創志LP1900】 手札3枚
場:A・ジェネクス・トライアーム(攻撃)、A・ジェネクス・ガードナー(守備)、マシン・デベロッパー、伏せ1枚
 
 
「俺のターン。ドロー……魔法カード<マジック・プランター>を使ウ。<血の代償>を墓地に送るこトで、カードを2枚ドロースル」

<マジック・プランター>
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
永続罠カード1枚を墓地へ送って発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 有能な<血の代償>を放棄してまで、ペインはドローすることを選んだ。
 そして、その選択は正しかったといえる。
「来たカ……! デハ、貴様にさらナル痛みを与えよう。反転召喚、<幻想召喚師>!」

<幻想召喚師>
効果モンスター
星3/光属性/魔法使い族/攻 800/守 900
リバース:このカード以外のモンスター1体をリリースし、
融合モンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚した融合モンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

「――ッ! またあいつか!」
「裏守備の<見習い魔術師>をリリースし――現れロ! <地天の騎士ガイアドレイク>!!」
 2体目の<幻想召喚師>によって呼び出された融合モンスター、<地天の騎士ガイアドレイク>。
 白金の鎧を身に纏い、両手には宿敵を穿つための突撃槍。同じく白金の鎧を身につけた天馬に跨った騎士は、荘厳な空気と共にフィールドに降り立つ。

<地天の騎士ガイアドレイク>
融合・効果モンスター
星10/地属性/獣戦士族/攻3500/守2800
「大地の騎士ガイアナイト」+効果モンスター以外のシンクロモンスター
このカードは効果モンスターの効果の対象にならず、
効果モンスターの効果では破壊されない。

「なるほど……<地天の騎士ガイアドレイク>なら、<幻想召喚師>の効果で破壊されることがありません。けど――」
「ああ。狙いはそれじゃねえだろ」
 ペインはまだ召喚権を残している。そして、場には2体のモンスター。
「魔法カード<死者転生>を発動。手札を1枚墓地に送リ、墓地ノモンスター1体を手札に加える。<The tyrant NEPTUNE>を手札に」

<死者転生>
通常魔法
手札を1枚捨てて発動する。
自分の墓地に存在するモンスター1体を手札に加える。

 創志の予想通り、ペインは墓地に眠っていた暴君を手札に戻した。
 ――来る。

「マダ暴れ足りないダロウ? サア、暴虐の限りを尽クセ! 2体のモンスターをリリースし、<The tyrant NEPTUNE>をアドバンス召喚!」

 暴君の鎌が、2体のモンスターを切り裂く。
 その魂を糧にして、<The tyrant NEPTUNE>は戦場に再臨した。
 空気が凍りつき、内臓が握りつぶされそうな圧迫感が襲ってくる。
 冷たき暴君が求めるものは、破壊のみ。

<The tyrant NEPTUNE>
効果モンスター
星10/水属性/爬虫類族/攻   0/守   0
このカードは特殊召喚できない。 
このカードはモンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。 
このカードの攻撃力・守備力は、アドバンス召喚時にリリースしたモンスターの
元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値分アップする。 
このカードがアドバンス召喚に成功した時、
墓地に存在するリリースした効果モンスター1体を選択し、 
そのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

「<The tyrant NEPTUNE>の効果ダ。<地天の騎士ガイアドレイク>の名前と効果を得る」
 目の前に現れた白金の鎧を、<The tyrant NEPTUNE>は軽々と握りつぶす。
 地天の騎士の魂を得た暴君の体は、壊れることが無い。
 2度目の召喚となった<The tyrant NEPTUNE>――攻撃力は4300、守備力は3700。
(<The tyrant NEPTUNE>を攻略しなけりゃ、俺の勝ちは無い。どうするか……)
 幸い、今の<The tyrant NEPTUNE>にはバーン効果や貫通効果はない。
 創志の場には、2体の守備モンスターがいる。早々にダメージを受けることはないはずだ。だからこそ、次のターンに向けて戦略を練っておかなければ。
 しかし。
 その考えが慢心であったことを、創志は思い知らされる。
「俺は装備魔法<ジャンク・アタック>を<The tyrant NEPTUNE>装備」
 <The tyrant NEPTUNE>の持つ大鎌の刃に、隕石を現すかのような紋様が刻まれる。

<ジャンク・アタック>
装備魔法
装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。

「<ジャンク・アタック>?」
「あの装備魔法って……確か、モンスターを戦闘で破壊した時に、破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを与えるものだったはずです!」
「なんじゃと!?」
 かづなの解説に、切の目の色が変わる。
「まずい――創志さん!」
「バトルフェイズだ」
 まるで死刑執行を告げるかのような無慈悲な声で、ペインはフェイズの進行を宣言する。
「<The tyrant NEPTUNE>で<A・ジェネクス・トライアーム>を攻撃」
 咆哮。
 雄叫びを上げた暴君が、魂を狩り取る大鎌を構え、巨大な尻尾を地面に叩きつけて爆発的な推進力を生みだし、跳躍する。
 防御姿勢を取っていた<A・ジェネクス・トライアーム>の前に着地する<The tyrant NEPTUNE>。地響きと共に土煙が上がり、創志の視界が不明瞭になる。
「抉レ。ディスペアー・シックル
 縦一直線に振り下ろされた鎌が、漆黒の機械兵を両断する。
 風が巻き起こり、一瞬にして土煙が取り払われる。
 生まれたのは風だけではない。
 <A・ジェネクス・トライアーム>を両断した刃が巻き起こした衝撃の余波が、荒れ狂う波となって創志に襲いかかってきた。
「ぐああああああっ!」
 体のあちこちが無造作に切り刻まれる。
 創志は反射的に目を閉じるが、額を切られ、そこから鮮血が滴り落ちてくるのが分かった。他にも、肌が顕わになっていた両腕や、身に着けていた衣服が次々と斬られていく。

【創志LP1900→700】

 <The tyrant NEPTUNE>が装備していた<ジャンク・アタック>の効果で、破壊された<A・ジェネクス・トライアーム>の攻撃力の半分、1200ポイントのダメージを受ける。
 何とか耐えきった創志だったが、額の出血が激しいせいで片目を開けていられない。
「創志! すぐに手当てを――」
「――平気だ! デュエルが終わるまでは手を出さないでくれ!」
 それでも創志は、体を気遣ってくれた切に強がりを返した。
 なぜならば。
「どうシタ? ソンナものカ? 貴様の強さは」
 あいつに――ペインにひと泡吹かせてやらないと気が済まなくなったからだ。

【ペインLP3000】 手札0枚
場:The tyrant NEPTUNE(攻撃・地天の騎士ガイアドレイクと同名カード扱い・ジャンク・アタック装備)
【創志LP700】 手札3枚
場:A・ジェネクス・ガードナー(守備)、マシン・デベロッパー(カウンター2)、伏せ1枚
 
 
「俺のターン……ドロー!!」
 気迫を前面に押し出し、創志はカードをドローする。手の平に傷を負わなかったのは幸運だった。自分の血で、カードを汚したくはない。
 引いたカードは、2枚目の<A・ジェネクス・チェンジャー>。
 そして、創志の伏せカードは攻撃力1000以下のモンスターを蘇生させる永続罠<リミット・リバース>。このカードで墓地の<A・ジェネクス・リモート>を特殊召喚すれば、レベル6のシンクロモンスターを呼び出すことが可能だ。
 <地天の騎士ガイアドレイク>の効果を得ている<The tyrant NEPTUNE>は、モンスターの効果では破壊できない。<A・ジェネクス・トライアーム>の効果では破壊できないということだ。そもそも創志は<A・ジェネクス・トライアーム>を1枚しか持っていないため、召喚するには<貪欲な壺>などでデッキに戻さなければならない。
 前回と同じ手は使えない。
 それならば。
(――正面突破。それしかねぇよな!)
 <The tyrant NEPTUNE>の攻撃力4300を超えて、戦闘破壊する。それしか手はない。
 現在、創志の手札には機械族モンスターの切り札といえる<リミッター解除>はない。<リミッター解除>があれば、攻撃力4300を超えることなど容易だ。
(けど、それじゃいつまで経っても成長しねえ)
 今まで、創志は何度も<リミッター解除>に助けられてきた。
 しかし、その1枚に頼りきった戦術を構築するということは、自ら勝利への道筋を狭めていることに他ならない。
 それに、<リミッター解除>は「機械族の切り札」だ。
 創志のデッキは、ただの機械族デッキではない。
 数々の戦いを繰り広げてきた相棒、<ジェネクス>。
 それならば、<ジェネクス>にしかできない勝ち方を目指すべきだ。
 創志は手札の4枚のカードを繰り返し確認する。モンスターカードが2枚に、速攻魔法が2枚……
「――見えた!」
 そして、勝利への道筋が開ける。
「リバースカードを使うぜ! <リミット・リバース>で墓地の<A・ジェネクス・リモート>を特殊召喚!」

<リミット・リバース>
永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

<A・ジェネクス・リモート>
チューナー(効果モンスター)
星3/闇属性/機械族/攻 500/守1800
フィールド上に表側表示で存在するチューナー1体を選択して発動する。
選択したモンスターのカード名は、このターンのエンドフェイズ時まで
「ジェネクス・コントローラー」として扱う。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 デッキの格ともいえるチューナーモンスターが、墓地より蘇る。
「手札の<A・ジェネクス・ケミストリ>の効果発動! このカードを手札から捨てることで、フィールド上の<ジェネクス>……<A・ジェネクス・ガードナー>の属性を地属性に変更する! そして、<リモート>と<ガードナー>をチューニングだ!」

<A・ジェネクス・ケミストリ>
チューナー(効果モンスター)
星2/闇属性/機械族/攻 200/守 500
属性を1つ宣言し、このカードを手札から捨てて発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在する
「ジェネクス」と名のついたモンスター1体の属性は宣言した属性になる。
この効果は相手ターンでも発動する事ができる。

 <A・ジェネクス・リモート>が3つの光球へと形を変え、<A・ジェネクス・ガードナー>の体の中に入っていく。
「残された結晶が、数多の力を呼び起こす! 集え、3つの魂よ! シンクロ召喚――その力を示せ! <A・ジェネクストライフォース>!!」
 シンクロ召喚のエフェクト光が、陰鬱な空気を切り払う。
 朱色のバイザーに銀色のボディ――<A・ジェネクストライフォース>は、右腕の砲撃ユニットを構える。

<A・ジェネクストライフォース>
シンクロ・効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2500/守2100
「ジェネクス」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードがシンクロ素材としたチューナー以外の
モンスターの属性によって、このカードは以下の効果を得る。
●地属性:このカードが攻撃する場合、
相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
●炎属性:このカードが戦闘によってモンスターを破壊した場合、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
●光属性:1ターンに1度、自分の墓地の
光属性モンスター1体を選択して、自分フィールド上にセットできる。

シンクロ召喚……けど、あのモンスターの攻撃力じゃ<The tyrant NEPTUNE>の足元にも及びませんよ」
「大丈夫です、純也君。創志君はとんでもない秘策を用意しているはずです。そんな気がするんです」
「うむ」
 後ろで切とかづなが頷きあっている。彼女たちの期待を裏切るわけにはいかない。
「<A・ジェネクス・チェンジャー>を通常召喚する。さらに<マシン・デベロッパー>の効果発動だ! このカードを墓地に送ることで、このカードに乗っていたジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ機械族モンスター1体を特殊召喚する!」

<マシン・デベロッパー>
永続魔法
フィールド上に表側表示で存在する
機械族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする。
フィールド上に存在する機械族モンスターが破壊される度に、
このカードにジャンクカウンターを2つ置く。
このカードを墓地へ送る事で、このカードに乗っている
ジャンクカウンターの数以下のレベルを持つ
機械族モンスター1体を自分の墓地から選択して特殊召喚する。

 先のターン、<A・ジェネクス・トライアーム>が破壊されたことによって、カウンターは2つ乗っている。
「来い! <A・ジェネクス・ケミストリ>!」
 効果で手札から直接墓地に送られた<A・ジェネクス・ケミストリ>が、フィールドに特殊召喚される。属性変更も重要だが、創志の本当の狙いは<マシン・デベロッパー>でレベル2のチューナーモンスターを蘇生させることだった。
「<チェンジャー>に<ケミストリ>をチューニング! 残された結晶が、数多の力を呼び起こす! 機械仕掛けの翼となれ! シンクロ召喚……解き放て! <A・ジェネクス・ストライカー>!」
 シンクロ召喚によって呼び出されたのは、4枚の翼を備えたブースターを後部に装備した戦闘機だ。

<A・ジェネクス・ストライカー>
シンクロ・効果モンスター(オリジナルカード)
星5/闇属性/機械族/攻1600/守1200
「ジェネクス」と名のついたチューナー+チューナー以外の機械族モンスター1体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に装備カード扱いとして
自分フィールド上の「ジェネクス」と名のついたモンスターに装備、
または装備を解除して表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。
この効果で装備カード扱いになっている場合のみ、
装備モンスターの攻撃力は1500ポイントアップする。

「<ストライカー>の効果発動! このカードは、自分フィールド上の<ジェネクス>に装備することができ、装備したモンスターは攻撃力が1500ポイント上がる!」
 <A・ジェネクス・ストライカー>の戦闘機部分が分離し、ブースターが<A・ジェネクストライフォース>の背部に装備される。
 4枚の翼が展開し、ブースター部分から淡い青色の光が漏れると同時、<A・ジェネクストライフォース>は空を目指して飛翔した。
「……ソレデモ、攻撃力は4000。俺ノ<The tyrant NEPTUNE>には届かナイ」
「本当にそう思ってんなら、そこで呆けてやがれ! バトルフェイズだ!」
 
 創志が戦闘開始を宣言すると、飛翔を続けていた<A・ジェネクストライフォース>が空中で制止した。
 目下には、畏怖をばらまき続ける暴君の姿がある。
「――<トライフォース>で<The tyrant NEPTUNE>を攻撃!」
 創志は右手を天に向けて掲げ、それを勢いよく振り下ろす。
 それを合図にして、上空の<A・ジェネクストライフォース>が標的に向けて急降下を始めた。
「愚カな。殺セ、<The tyrant NEPTUNE>!」
 <The tyrant NEPTUNE>が鋭い咆哮を上げる。
 直後、暴君の周囲に<地天の騎士ガイアドレイク>が手にしていた黒の突撃槍が出現する。その数は1本だけではなく、視界を覆い尽くすほどの無数の槍が<The tyrant NEPTUNE>の周りを囲んでいた。
「インフィニティ・シェイバー」
 ペインの抑揚のない声が響き渡る。
 そして、再びの咆哮。
 中空に制止していた無数の突撃槍が、空を駆ける<A・ジェネクストライフォース>に向けて一斉に放たれる。
「<トライフォース>!」
 創志がその名を叫ぶと、銀色の機械兵はさらに加速した。
 突撃槍の雨が、銀色を塗り潰す。
 それでも、大地の魂を宿した<A・ジェネクストライフォース>は飛翔をやめない。
 避ける。
 避ける。
 避ける。
 ギリギリのところで突撃槍を避け、標的へと猛進する。
 だが。
「終わりダ……!」
 ついに、その動きが突撃槍に捉えられる。
 研ぎ澄まされた矛先が、銀色の機械兵を貫く直前――
「――手札から速攻魔法<イージーチューニング>を発動!」
 創志は、魔法カードを発動した。

<イージーチューニング>
速攻魔法
自分の墓地に存在するチューナー1体をゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力は、
発動時にゲームから除外したチューナーの攻撃力分アップする。

「なッ……このタイミングで発動スルだと!?」
「墓地のチューナーモンスター、<A・ジェネクス・リモート>を除外して、攻撃力を500ポイントアップさせる!」
 <A・ジェネクストライフォース>のバイザーに光が走り、ブースターから光が溢れる。
 目の前に迫っていた突撃槍は、<A・ジェネクストライフォース>の首筋を掠めただけで、致命傷を与えるには至らない。
「これで、<トライフォース>の攻撃力は4500! <The tyrant NEPTUNE>を上回りました!」
「やってしまうのじゃ! 創志!」
 ギャラリーからの声援が、創志を後押しする。
「いっけええええええええええええええええ!!」
 加速する。
 銃弾のような速度で放たれた突撃槍よりも速く、<A・ジェネクストライフォース>は加速する。
 そして。
 ついに、槍の雨を抜けた。
「クッ……<The tyrant NEPTUNE>!」
 暴君が手にしていた大鎌を構えるが、加速した銀色の機械兵を前にその動作は鈍重すぎる。
 すでに、<A・ジェネクストライフォース>は右腕の砲撃ユニットを構え、攻撃を放つ直前だった。
「食らえ! アース・トライ・バスター!」
 <A・ジェネクストライフォース>の砲口から、光が迸る。
 圧倒的な量の光撃が、<The tyrant NEPTUNE>の目前で放たれた。
 背部のブースターがさらに出力を上げ、砲撃の反動を相殺する。
 回避は不可能。
 防御も、不可能。
 光に呑みこまれた冷たき暴君は、断末魔を上げる暇すらなく消滅していく。
 <The tyrant NEPTUNE>が纏っていた鎧に、大きな亀裂が走る。
 直後、暴君は光の中で爆散した。

【ペインLP3000→2800】

 巻き起こった爆発が土煙を巻き上げ、創志とペインの視界が遮られる。
「よし! <The tyrant NEPTUNE>を倒したのじゃ!」
 さらに、ペインの手札は0枚。ライフはまだ半分以上あるが、この状況を引っ繰り返すのは厳しいはずだ。
「図に乗るナヨ小僧……! <The tyrant NEPTUNE>は倒レタが、俺が負けタわけではナイ!」
 だが、ペインはまだ逆転の手があるとでも言いたげに強気な言葉を吐く。
 それを聞いた創志は、ニヤリと笑った。

「いいや。あんたの負けだぜ」

「ナニ……!?」
 ペインが驚愕の色を含んだ声を漏らす。
 なぜならば。
 土煙を突き破り――攻撃を終えたはずの<A・ジェネクストライフォース>が、目前に迫っていたからだ。
「バカな! 何故!?」
「こいつを使わせてもらった。速攻魔法<エアボーン・アタック>――装備状態の<A・ジェネクス・ストライカー>を墓地に送ることで、選択したモンスターはこのターン2回攻撃ができる!」

<エアボーン・アタック>
速攻魔法(オリジナルカード)
装備カード扱いとして装備されている「A・ジェネクス・ストライカー」を墓地に送り、
自分フィールド上に表側表示で存在する「ジェネクス」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターは、このターン2回攻撃する事ができる。

 ペインの前に着地した<A・ジェネクストライフォース>は、再度攻撃態勢に入る。
「終わりだ! <トライフォース>でダイレクトアタック! アース・トライ・バスター!」
 放たれた光が、ペインを――痛みを与える者を呑み込んだ。

【ペインLP2800→0】









 創志の勝利が確定すると、周囲を取り囲んでいた土の壁がぼろぼろと崩れていく。
 それに合わせるように、麻袋を被った男――ペインの体もまた、風に流される砂のように消えていく。
「待て……!」
 痛みに悲鳴を上げる体を無理矢理動かし、創志はペインの元へと歩を進める。
 まだ、ヤツからは何も聞いていない。
 どうしていきなりデュエルを挑んできたのか。そして、ここは一体どこなのか。
 聞きたいことは山ほどあったが、ペインの体はどんどん消えていく。すでに、右半身が無くなっていた。
「お前は一体――」
「見事ダ。それでこそ、我ガ主の生贄ニふさわシイ」
 その言葉を最後に、ペインは創志の前から姿を消した。
 生贄。
 創志の脳裏に、<次元誘爆>を発動した青年の言葉が蘇る。

 おめでとう。醜い家畜共。貴様らは、俺様に選ばれたのだ――

「創志君!」
 かづなの声で我に返る。
 振り向けば、かづなが心配そうな表情で駆け寄ってくる。その後ろには、切と純也の姿もあった。
「無茶しすぎです! すぐに手当てをしないと……」
「……ワリィ」
 かづなに促され、創志はその場に腰を下ろす。途端に、今まで無視していた疲労がドッと押し寄せてきた。
「さすがじゃと言いたいが……相変わらず危なかっしい戦い方じゃのう」
「ですね。見てるこっちがヒヤヒヤしてしまいました」
「ほっとけ」
 それでも、切や純也の憎まれ口に反撃するくらいの元気はある。
(これからどうするかなぁ……)
 デュエルを終えて気が抜けてしまった創志は、何となく空を見上げる。不安感を煽る灰色の空が、どこまでも続いていた。
 結局、状況整理も出来ていないので、分からないことだらけだ。
「まずは傷口の消毒ですね。確かこの辺に清めの塩が――」
 何やら不穏な単語を呟きながら、自分のディスクをごそごそと漁っているかづな。
 ……とりあえず、これ以上痛い目に合わないことを祈ろう。