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遊戯王オリジナルstage 【EP-09 サイドN】

 決着は付いた。
 意識を集中させる余り、治輝は思わず地面に膝を付く。
 ダイヤモンドドラゴンがフェードアウトするように消滅すると、中折れ帽子を手に取る神楽屋の姿がハッキリと見えてくる。
 神楽屋は手に取った帽子にフッ、と息を吹きかけると、ゆっくりと治輝の元に近付いて、手を差し伸べた。
ダイヤモンドは砕けない――か。やってくれたじゃねぇか」
「内容で勝ててたとは言い難いけどな。テルさんは強かったよ」
 治輝は苦笑いを浮かべながら神楽屋の手を取り、ゆっくりと起き上がる。
 その言葉を臆面なく受け取ると、神楽屋は手に持った帽子を再び深く被り、僅かに笑った。
「確かに、これじゃどっちが勝ったかわからねぇな。さしづめ――」
 間を置き、気取った調子で更に何か言葉を続けようとすると

「テルかっこ悪いですー!」
「ふごぉ!?」

 その雰囲気をぶち壊すように、金髪の少女……リソナが神楽屋に跳び蹴りをぶちかました。
 かなり助走距離を取ったのだろう。その分威力は増し、神楽屋はかなりの距離を滑空していった。
 治輝は吹っ飛んでいく男の姿を、呆気に取られながら見送る。

「……人生のエンドフェイズになりそうな勢いだなぁ」
「クイズすら解けないバカテルは探偵失格です! あれくらいじゃ足りないぐらいです!」
「よくわからないが、クイズと推理は多分別物じゃないか?」
「両方できないとカッコ悪いです! やっぱりバカテルじゃ名前にするのに相応しくないです!」

 そう言いながら、腰を手に当てて頬を膨らませるリソナ。
 治輝が内心で「名前?」と疑問を抱いていると、リソナは急に顔を輝かせた。

「そうだ。貴方の名前をもう一度聞かせて下さいです!」
「名前……? 時枝治輝だけど」
「時枝。時枝。時枝ですね!いい感じです!絶対にコレにするです!」

 何やら一人で盛り上がってるリソナだが、治輝にとっては全てが意味不明な言動だ。
 とりあえずこれからも敬語を使う女性には気をつけよう……と心に刻み込みながら、治輝は手を差し出す。
 
「とりあえずテルさんの吹っ飛んでいった方向へ進もう。少しの間だけど、よろしくな」
「はいです! こちらこそよろしくです、ナオキ!」
「な、ナオキ……?」

 かなり年下の女の子に名前を呼ばれる事に妙な違和感を覚えながらも、治輝はリソナと前に進む。
 この二人は信用できる。そして俺もきっと、信用してもらえている。
 些細な事かもしれないが、それは治輝にとって嬉しいモノだった。
 異世界という環境に慣れきった乾いた心に、僅かな潤いを齎すようで

(とりあえず、自分の事を話す事から始めないとな)

 まずは二人に自分の現状を話し、次に二人の事を聞き、色々と把握していこう。
 そう治輝は思いながら、生気のない廃墟の世界を進んでいく。

「しかし、私語も敬語の女の子、か」

 リソナの喋り方を聞いていると、どうしてもアイツを思い出してしまう。
 とりあえず、こういった危ない事件に巻き込まれてない事を祈りたい。

「まぁ、スドがいれば安心だよな。口は悪いがハイテクだし」

 そう、皮肉交じりで治輝が思い出し笑いをしていると。















「……このうすらトンカチめ、少しは女心というものを勉強せい」







 妙な
 とても妙な、声が聞こえた。

 治輝が思わず後ろを振り向くと
 そこにはお馴染みの機械竜。スクラップドラゴンの精霊――スドがふよふよと浮いていた。

 僅かな、沈黙。
 一人と一匹は互いの姿を呆然と見つめ合い、叫んだ。

「何してんだおまえこんなところでええええええええ!!」
「こっちの台詞じゃたわけがああああああああ!!」
「なにこれカワイイです!リソナも一緒に叫ぶです!」

 廃墟の世界に、悲痛な叫びと歓喜の叫びが響き渡る。
 かくして一人と一匹は、何の浪漫の欠片もなく再会した。