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遊戯王Oカード episode-05 【レンジ恋にメタられる】

「どうやら、特に問題無いみたいだな……」

 友人Aは体育倉庫裏が視認できる校舎の陰で、小さく呟いた。
 流れ的に白矢が退学騒ぎになるのではないかと思っていたが、どうやら杞憂らしい。
 殆ど脅迫紛いの行動だが、今優位にあるのは間違いなく白矢だ。

「――しかし、問題はここからだ。あの副委員長。実技の成績はかなりのものだった。油断はできない」

 実技とは勿論体育――ではなく。
 決闘の実技の事である。
 だが、それとは別に思うことがある。
 手紙を破った事に憤怒したのなら、行動すればよかったのだ。
 例え止められようと、今の白矢のように。

「眩しいよな。実際」

 厄介なクラスメイトと同じぐらい憎たらしく、目の前の友人は輝いて見えた。






episode-04 【レンジ恋にメタられる】





「決闘――そんな事でいいのか?」

 その申し出に、副委員長は目を丸くする。
 ここまで周りくどく人を貶めた人間の要求としては、随分と軽い物に思えるからだ。
「ああ、勝ったら今日これをネタに副委員長殿を強請ったり、パシりにしたりはしない」
「その言葉――本当だろうな?」
「一時一句誓って本当だ。録音もされているしな」
 携帯を再び開いて見せる。どうやら嘘ではないらしい。

「いいだろう――この私に挑んだ事、後悔させてやる!」

 副委員長も決闘盤を展開し、それにより決闘開始の合意が成される。
 今二人の決闘の火蓋が、切って落とされた。







 

【白矢】LP4000

手札 5枚
場 なし

 

【副委員長】LP4000

手札 5枚
場 なし



「私のターン!」

 決闘盤が先行を告げたので、すかさず山札からドローする。
 初手の手札としては、悪くない。

「私はモンスターを1枚セット。魔法罠カードを3枚セット。ターンをエンドする」
「随分優等生らしい保守的な戦術だな」
「ほざけ、1ターン目で手の内を明かす馬鹿がいるか」
「それはご尤も。ドロー」

 白矢がドローし、顎に手を思案する素振りを見せる。
 だが、それは一瞬。

「俺はカードを2枚伏せ、モンスターを1枚セットしターンエンド」
「何だ。貴様も十分保守的ではないか」
「ということはこれで俺も優等生か。悪くない」
「ほざけ――! 私のターン!」

【白矢】LP4000

手札 3枚
場 裏守備モンスター
伏せカード2枚

 

【副委員長】LP4000

手札 3枚
場 裏守備モンスター
伏せカード3枚
 
「私は裏守備モンスター<マシュマロン>をリリース。現れろ――<マテリアル・ドラゴン>!」

《マテリアルドラゴン/Prime Material Dragon》 †
効果モンスター
星6/光属性/ドラゴン族/攻2400/守2000
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
ライフポイントにダメージを与える効果は、ライフポイントを回復する効果になる。
また、「フィールド上のモンスターを破壊する効果」を持つ
魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、
手札を1枚墓地へ送る事でその発動を無効にし破壊する。

 そのモンスターを見て、白矢は眉を顰める。
「……そういえば、俺が勝った際の条件の提示がまだったな。そのカードをトレードに出してもらおうか」
「もう勝った気でいるとは私も舐められたものだな。いいだろう、その程度の条件なら呑んでやる」
 <マテリアル・ドラゴン>は別段特別なカードというわけでもないし、予備は自宅に数10枚ある。
 何より、学校での自分の地位には変えられない。

「さぁ行くぞ――私は<女神の加護>を2枚発動!」

《女神の加護/Aegis of Gaia》 †
永続罠
自分は3000ライフポイント回復する。
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードがフィールド上から離れた時、
自分は3000ポイントダメージを受ける。

【副委員長LP】4000→10000

「これで私のライフは1万に上昇!」
「だが仮初だ。そのカードが離れれば――」
 女神の守護は強力な回復カードだが、それは一時的なもの。
 一度場を離れれば、その回復は反転して使用者に襲い掛かる。
 だからこそ、このカードを扱うのならこのカードを守りきる必要があるのだ。
「ならば今すぐに離れさせよう。私は2枚の<女神の加護>を墓地に送り――現われよ<オオアリクイクイアリ>!!」

オオアリクイクイアリ/Anteatereatingant》 †
効果モンスター
星5/地属性/昆虫族/攻2000/守 500
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上の魔法・罠カード2枚を
墓地に送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードは攻撃をするかわりに相手フィールド上の
魔法・罠カード1枚を破壊する事ができる。

 <女神の加護>を生贄に出現したのは巨大なアリだった。
 天敵に同胞を啄ばまれ続けた蟻達の幻想。天敵の天敵と呼称されるその名称は、一つの願いの形だ。
 しかし

「――馬鹿かお前は。自らライフアドバンテージを捨てる奴がいるか」

 それはある種の無駄であり、自殺行為だ。
 <女神の加護>2枚が場から離れた事により、副委員長は6000ポイントのダメージを受けてしまう。
 それでは何の為に発動したのかわからない。

「そう思うなら、私のライフを確認してみろ」
「……?」

 言われるがまま、示された方向を見る白矢。
 そして、驚愕した。

【副委員長LP】10000→16000

「なっ――減るどころか増えるとは!?」
「説明が欲しそうな顔をしているから教えてやろう。これが先程出したモンスター……<マテリアル・ドラゴン>の効果だ」

  
 本来受けるべきダメージを癒しに変換する希有な能力。それが<マテリアル・ドラゴン>の真骨頂。
 <女神の加護>のデメリットはデメリットでなくなり、純粋な癒しとなる。
 自然と笑みが零れた。
 このコンボが決まれば、まず負ける事はなくなる。
 そう、私は――負けるわけにはいかないのだ。

「……なるほどな。なかなか粋なコンボを使うじゃないか」
「強がりは寄せ。これで私の負けはなくなった」
「強がり? 勘違いするな。俺はそういうコンボを見るのは嫌いじゃない。そして――」

 だが、白矢は不適に笑う。
 圧倒的なライフ差だろうと関係がないと、そう宣言するように。

「――その自慢のライフ。一瞬の間に消してやるよ」

【白矢】LP4000

手札 3枚
場 裏守備モンスター
伏せカード2枚

 

【副委員長】LP16000

手札 2枚
場 <マテリアル・ドラゴン> <オオアリクイクイアリ>
伏せカード1枚