シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル×stage=05

【治輝LP】8000 手札4枚
場:フォトンワイバーン
伏せカード1枚 アドバンスド・フォース

【輝王】 手札3枚
場:エレメント・チェンジ(光属性を指定)
【創志】 手札4枚
場:なし

【輝王&創志LP】5500

 治輝がターン終了を宣言し、輝王にターンが回る。
 言葉数こそ少ないが、その眼光は本物だ。
 力の異質さ――それも不気味ではある。
 だがそれ以上に、今の攻撃で輝王は理解した。

 時枝治輝は、本気でこの決闘に挑んでいる。
 わざと負ける為に手加減をする――そのような事を考えている男に、先の攻撃は繰り出す事は不可能だ。

「――俺はカードをドロー。伏せカードを1枚セットし、守備モンスターをセット。ターンをエンドする」
「……そうするしかないよな。伏せカードも無しで形勢を逆転できる程、現実は甘くない」

 デッキから札を引き抜き、治輝はそのままバトルフェイズに移行する。
 一見無策な攻撃に見えるかもしれない。だがこれもまた、理に適った行動だ。
 仮に先程失った<A・ボム>をまたこの場に伏せたのなら、損害を受けるのは輝王ではなく、攻撃を仕掛けた時枝治輝だ。
 だが当然の事ながら、デッキに同じカードは3枚まで入れられない。
 1枚を破壊した時点で、輝王のデッキに存在し得る<A・ボム>のカードは最多数で2枚。それが手札にある確率は少ない。
 デッキに3枚の<A・ボム>投入されていなければ更に確率は下降するし、何より"輝王正義である"という事項がその予想を確たる物へと昇華させる。
 時枝治輝と輝王正義、2人の戦術的情報源は、先の決闘。砂神と対峙した決闘だけ。
 だが、それだけで十分なのだ。
 輝王正義は、一度失敗した策をもう一度単に仕掛けるような決闘をする男ではない。
 彼の決闘の緻密さは、ただ一度肩を並べただけで――それを確信させるには十分過ぎた。
 だからこその攻撃。
 <フォトンワイバーン>は焼き増しのように、先程と寸分違わぬ攻撃を伏せモンスターへと叩き付ける。
「輝王ッ!」
 創志の声が響く。
 だが輝王は伏せカードを発動させる素振りすらせずに、その攻撃を受け入れる。
「甘くない――そう言ったか? 時枝治輝」
 時枝治輝は、この決闘に本気で挑んでいる。
 ならば、あちらにも示さねばなるまい。

「なら――現実が甘くない、ということを見せてやろう。光属性で俺に仕掛けた意味、存分に教えてやる」

 輝王がそう言い放った直後<フォトンワイバーン>の攻撃が伏せモンスターごと地面に衝突し――
 光を名に冠したドラゴンは、自身が破壊されたモンスターと共に、完全に姿を消した。
 噴出する光は自らが吹き上げた砂煙と混じり合い、狼煙のように舞い上がる。
「……何を?」
「<フォトンワイバーン>が今破壊したモンスターの効果だ。何も特別な事はしていない」

《A・O・J アンノウン・クラッシャー/Ally of Justice Unknown Crusher》 †
効果モンスター
星3/闇属性/機械族/攻1200/守 800
このカードが光属性モンスターと戦闘を行った時、
そのモンスターをゲームから除外する。

「こんなモンスターが――」
「……やはりな。読めてきたぞ、時枝治輝」
 僅かな驚愕を浮かべる治輝に、輝王は自らの推論をぶつける。
「おまえと戦うのはこれが初めてだ。 だがおまえは俺達の行動を完全に読み、罠を把握し、思惑を操作した上で<フォトンワイバーン>での奇襲を成功させた。タッグ決闘の事も、偶然もあったのかもしれないが、余りにも出来過ぎている」
 無表情に見えていた表情に、少しの綻びが見えてくる。
 輝王にとって、これを治輝に伝える事はデメリットだ。
 自身の読みの根拠を語れば、相手は手を必ず変えてくる。
 それを踏まえた上でそれを伝えたのは、輝王にはそれをしなければならない理由があるからだ。
「だが、それはある意味で必然だった。 時枝――おまえは俺が<A・ボム>を使う事を予測していた――いや、予測するしかなかったんだ」
「ちょっと待てって輝王! 時枝とはここに来てから初めて会ったんだろ? 砂神との決闘でも結局<A・ボム>は使ってないじゃねぇか!」
「確かにそうだが……思い出してみろ皆本。 確かに使ってはいないが、その名は決闘中に使われた」
「……名?」
 創志は輝王が何を言おうとしているのかわからず、首を傾げた。
 それを見た輝王はため息を吐く。

「"砂神"だ。 奴は俺の伏せカードの正体を看過する際<A・ボム>の名と効果を出した――勘違いに終わったがな」
 
 創志は少し悩んだ後、合点が言ったのか「ああ、あの時か!」 と声を上げる。
「あの時の決闘で俺が出した裏守備モンスターは、脅威度の低い物が多かった。 ただ一つ――砂神が言った<A・ボム>を除けば」
「……」
「だから時枝。おまえが<A・ボム>を予測したのは"必然"だった。予測が正解に結びついたのは偶然だが、その行動は理に適っている」
 2人の思惑を完全に読んだ――その認識こそが、根幹から間違っていたのだ。
 それに気付けた事は、この決闘において大きな意味を持つ。
「おまえは俺の伏せモンスターを脅威度の高い<A・ボム>だと仮定し、その選択に対する戦略を組んだ。自分の知っている情報から、最善の策を生み出した。だからこそ、情報を持っていない未知のモンスターである<アンノウン・クラッシャー>の事までは読めなかった」
「そうか――治輝の知らないモンスターを、どんどん召喚してやれば!」
「そういうことだ。アイツの読みは、機能しなくなる」
 創志の言葉に力強く輝王は頷く。
 理由の1つは、皆本創志にこの事を伝える為だ。
 尤も時枝が未知のモンスターを召喚してきた場合、読みが機能しないのはこちらも同じ。
 それを含めて、読みを看過した事は、スタート地点にしかならない。
 
『読み』『誘導』『運』

 時枝治輝が先程行ったのは、この3つ。

 "読み"は少ない情報から割り出した<A・ボム>への戦術
 "誘導"はタイラントドラゴンを見せてからの、相手の行動の誘導。
 "運"は上記を行った際、看過していなかったであろう強力な罠の破壊。

 内1つを潰した所で、勝利に直結するわけもない。
 特に後者を手繰り寄せるプレイヤーの厄介さを、輝王は経験上思い知らされているからだ。
 輝王はそれを踏まえた上で、治輝に向き直る。
「時枝、おまえは――」
「……凄い洞察力だな。戦い甲斐がある」
 輝王の言葉を遮るように、治輝は賞賛の言葉を送る。
 だがその言葉に、相変わらず抑揚はない。
「裏守備モンスターをセットし、ターンをエンドする」
 

【治輝LP】8000 手札5枚
場:裏守備モンスター
伏せカード1枚 アドバンスド・フォース

【輝王】 手札3枚
場:エレメント・チェンジ(光属性を指定)
【創志】 手札4枚
場:なし

【輝王&創志LP】5500


 ――本当は、こんな形で戦いたくなかった。
 皆本創志は目の前の決闘者に視線を向け、カードを引き抜く。
 かづなや純也が頻繁に名前を出した、時枝治輝という青年。
 その言葉の端々から親しみと、尊敬に近いような何かを――創志は2人の言葉から感じていた。
 不謹慎かもしれない。
 でも創志は、邪神に取り込まれた目の前の決闘者ではなく――時枝治輝と戦いたかったのだ。
「カードを1枚伏せ、<ジェネクス・サーチャー>を召喚! 裏守備モンスターに攻撃!」
「皆本!?」
「危ないのはわかってる! でも攻めなきゃ何にもならねぇだろ!」

《ジェネクス・サーチャー/Genex Searcher》 †
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1600/守 400
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下の「ジェネクス」と名のついた
モンスター1体を自分フィールドに表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。

 創志が召喚したモンスターは、破壊されても後続を残す事ができるカード。
 相手の攻撃を待ち、次の手に対する布石にする手段もある。
 だが

「おまえがおまえじゃなくたって――俺は俺らしく戦ってやる!」

 創志は自らの想いを込め、正体のわからない裏守備モンスターに攻撃する。
 裏側表示モンスター。
 それは、相手に伝わる事のない存在。
 何が潜んでいるかわからない闇の中を、ジェネクスサーチャーは自らの持つサーチライトで照らし出す。
 その攻撃で現れたモンスターは自らの存在を明かすと同時に、粉々に砕け散った。

《仮面竜/Masked Dragon》 †
効果モンスター
星3/炎属性/ドラゴン族/攻1400/守1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。



「……<仮面竜>の効果発動。デッキから<ミンゲイドラゴン>を場に特殊召喚する!」
 置物のようなドラゴンが、フィールドに出現する。
 あれは次の上級モンスターの呼び水だ。
 その姿と効果を知った上で、創志は声を張り上げる。
「――呼べよ! どんなヤツが来たって、相手になってやる!」
「……」
 治輝は無言で創志を見据えながら、カードをデッキから引き抜く。
「行くぞ、俺はミンゲイドラゴンをリリース――」

 ――来るか。
 輝王は次なる脅威に身構える。
 ――来やがれ。
 創志は短く呟く。
 上級ドラゴンが召喚されるであろうと誰もが思った、次の瞬間。


「調子に……乗る、なよ……この……前菜がッ!」


 いつの間に意識を取り戻していたのか。
 砂神は自らの超常の力を、衝撃波として手から放ち。
 時枝治輝の頭を、吹き飛ばした。