シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル×stage=04

 場を支配しているのは暴君を名に冠した1体の竜。
 待ち受けるのは3枚の伏せカード。
 迎え撃つのは2枚のセットモンスター。
 誰もが想像していたのは、その暴君が動き出し、こちらの陣に攻め込んでくる姿。
 そのはずだった。

「永続魔法を発動。 更に<タイラントドラゴン>を"リリース"!」

 時枝治輝が。
 その青年が、その言葉を発するまでは。








オリジナル×stage=04


「な――リリース!? せっかくの上級モンスターを!?」
「……ッ」

 暴君の竜が誇る、強靭な皮膚の至る所に罅が入る。
 創志が驚きを露にし、輝王は僅かに歯噛みをする。
 茶色と紫――暗色と呼称されるはずのその鱗や翼の中心から、眩い光が篭れ出る。
 蛹から蝶が生まれるように。
 煉獄の焔は、天上の光へと変換される。

「アドバンス――召喚!」

フォトンワイバーン》 †
効果モンスター
星7/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
相手フィールド上にセットされたカードを全て破壊する。

 輝王と創志が場に出していたのは、全てセットカード。
 その光は、暴君を待ち構えていたはずの全ての備えと覚悟を、焼き払う。
 「――ッ、罠カード発動!」
 その荒れ狂う暴風の如き裂光は、かつての暴君の面影を覗かせる。
 その光の奔流に負けずと、輝王は1枚のカードを発動させた。 


<エレメントチェンジ>
永続罠(オリジナルカード)
発動時に1種類の属性を宣言する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した属性になる。

「指定する属性は光! フォトンワイバーンに効果は無いが――表にした<エレメント・チェンジ>もまた、フォトンワイバーンの効果を受けず、その場に留まり続ける!」
「被害を最小限に……か」

 治輝の表情に僅かに感心の色が宿るが、輝王が失った物は大きい。
 もう1枚の破壊されたセットカードは<聖なるバリア -ミラーフォース->

《聖なるバリア-ミラーフォース-/Mirror Force》 †
通常罠(制限カード)
相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在する攻撃表示モンスターを全て破壊する。

 単体で暴君を墓地へと沈め、革命を成功させる最強の攻撃反応罠カードだ。
 もう1枚の輝王の伏せカードは、同じく<タイラント・ドラゴン>を打倒するはずの伏兵。

《A・ボム/Ally Salvo》 †
効果モンスター
星2/闇属性/機械族/攻 400/守 300
このカードが光属性モンスターとの戦闘によって
破壊され墓地へ送られた時、フィールド上のカード2枚を破壊する。

 <エレメント・チェンジ>で<タイラント・ドラゴン>を光属性を変更し、破壊を可能にするカード。
 これらのカードは、全て<フォトンワイバーン>1枚によって覆されたのだ。
(完全に裏目に出た――いや、違う)
 輝王の伏せカードは<タイラント・ドラゴン>が出てくる以前から伏せられたもの。破壊されたのは偶然かもしれない。
 だが、皆本創志の行動は違う。
 <タイラント・ドラゴン>を敢えて攻撃のできないターンで公開し、裏守備をセットする事を心理的に仕向けられた。
「……くそっ、まんまと一杯食わされたぜ」
「<タイラント・ドラゴン>がまさか囮だとはな――もう少し早く気付くべきだった」
「っていうか、なんでレベル7のモンスターを生贄1体で呼べるんだよ。おかしいだろ!」
「永続魔法<アドバンス・フォース>の効果だな。呼ぶ前に発動していた」

《アドバンス・フォース/Advance Force》 †
永続魔法
このカードが存在する限りレベル7以上のモンスターはレベル5以上の
モンスター1体をリリースしてアドバンス召喚する事ができる。

 <タイラント・ドラゴン>のレベルは8。条件は満たしている。
 これで輝王の<エレメント・チェンジ>以外のカードは全て破壊され、フィールドはガラ空きに等しい状態に。
フォトンワイバーン――ダイレクトアタック!」
 その隙を逃さず、治輝は自らの僕に指令を出す。
 ライフは共通である場合、狙うプレイヤーはどちらでも構わない。
 フォトンワイバーンが標的に選んだのは――輝王正義。
 狙いに気付くや否や輝王は創志を手で制し、自らが得た力を行使する。
「――術式解放ッ!」
 閃光というより、力の流れと呼称する方が相応しいだろうか。流砂にも似た光の集合体が、輝王の正面に飛来する。
 それを正面から受け止めた輝王の顔が苦痛に歪む。
 川の流れを一つの岩で止めようとすれば、いつかは限界が来る。
 ――今の状況は、まさにそれだ。
 輝王はその流れを塞き止める事を諦め、均等に左右へ受け流す。
 その際コートが激しくはためき、手の中心から鈍い痛みを感じた。

【輝王&創志LP】8000→5500

 受け流した力の流動の片側が、静観している比良牙の真上を通り越す。
 比良牙はピクリとも動かず、だが不満気な顔をする。
「危ないな、邪神の攻撃を堪えきったんだ。そんな竜もどきの攻撃、なんて事ないだろう?」
「……」
 輝王は自らの手を見て、沈黙した。
 小さな痺れは感じるが、目立った外傷があるわけではない。
 しかし単なるサイコ決闘者の力とは、全く異質の物を感じる。
 だが、その感触に覚えが無いかと聞かれれば、答えはNOだ。
 これと同質の力を、確かに輝王は経験しているのだから。









 ▲▲▲




 同じ頃――。
 瓦礫の塔の頂上、3人の決闘を見下ろす青年が、堪えきれずに小さく笑う。

「面白ェ状況になってるじゃねェか。どうなってやがんだコイツはよォ」

 その男の名は戒斗。
 井戸の転送装置を利用し、主様とやらを追いかけ、先程瓦礫の塔に転送してきた――ペインの青年である。
 口元を歪め、心底楽しそうな顔で現状を見渡す。
「主とか言う奴はアイツかァ? 既に倒されちまってるみてェだが――」
 舌打ちをしそうになる戒斗だが、塔の真下にカードが落ちているのに気付く。
 尤も、その場所に落ちていたのではなく先程の攻撃の余波で吹き飛ばされて来たものだ。
 常人では視認できない距離だが、永洞戒斗は常人ではない異常者である。
 そのカードの効果、ステータス、レベルに至っても、この距離から識別できた。

「へェ、あいつ等に乱入すンのも悪くねェかと思ってたが――おもしれェ」

 永洞戒斗は運命という物を信じていない。
 だが彼はこう思った。これは宿命なのだと。
 渡るべき主の手に、渡る時が来たのだと。

 三日月のように口元を歪め、彼は塔から飛び降りる。
 自らの宿命を、掴み取る為に。