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遊戯王Oカード episode-34

「まさか。敵でなく味方にコイツの効果を使うなんて、考えもしませんでした」
 黒鷹はペインが消滅していく様を横目で見ながら、決闘盤の<ヴェルズ・バハムート>に視線を向ける。
 実質的に倒したのは黒鷹自身なのだが、今回勝利できたのは間違いなく白矢の功績だ。

エクシーズ・効果モンスターランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2350/守1350「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×21ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。手札から「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を捨て、選択した相手モンスターのコントロールを得る。

「前回の白矢先輩との決闘でこの効果を使い、同じようにグングニールのコントロールを奪った時――破壊力が変動していたことを先輩は見抜いていたんですね。ただ負けたという 『事実』 だけを残すのではなく、負かされた相手の情報を一つでも残し、次に生かすために」
「……買い被りすぎだ。俺はお前に負けた。それが全てだ」
「いいえ、先輩は現にそれを生かした。だからこそボクらは 『ペイン』 を倒せたんです。ですが……一つ気になったこともあります」
 黒鷹は一呼吸間を置き、ペインを見ていた視線を白矢に向ける。

「何故――あそこまで殺すことに躊躇いがなかったんですか? それが例え化け物であっても、元人間である限り……普通の人間は殺すのを躊躇うのが自然なはず」
「お前がそれを言うのか……? 殺すことは凡俗の脱却としての近道だと言い切ったお前が」
「白矢先輩にその覚悟があるかどうかを聞いているんです。もしその覚悟が十分であれば――いえ」
 黒鷹は言葉を一旦切り、再び口を開く。
「問題は覚悟が 『あり過ぎた』 事です。貴方は既に通い慣れた道を歩くように、先程のペインを殺してみせた。もしかして――」
「まさか、こんな奴等と戦った事があるわけがないだろ」
「なら何故?」

「……」
 白矢はその問いにすぐ答えようとはせず、黒鷹に背中を向ける。
「……何故、というなら黒鷹。お前のその黒いモンスターはなんだ? シンクロ召喚でも、融合召喚でも、儀式召喚でもないその召喚は――」
「――Exceedの事ですか。あれはボクが――そう、壁を超えた時使えるようになりました」
「壁?」
 白矢は目を細め、黒鷹は笑う。
「ボクが殺しているのは何も 『ペイン』 だけじゃない。人知れず化け物を倒す正義の味方――なんて、綺麗な存在ではないんですよ。何かを殺せば、罪を犯すという事は 『特別』 になることの近道。そう先程も言ったでしょう?」
 ペイン以外も殺している。
 それが示す意味。先程知った 『通り魔事件』 の存在。
「報道されていた 『通り魔』 はお前なのか」
「……そうだと言ったら?」
 空気が張り詰める。先程共闘していたとは思えない程の緊張感。白矢は睨み、黒鷹は薄く笑う。
「でも白矢先輩も同じでしょう。貴方は先程 『元は人間だった化け物』 を確かに殺した。明確な目的があって、何かを殺すことが間違いだとその口で言えるんですか?」
「……」
「殺人はいけないことです。決して犯してはならない禁忌です。そう教えを説く癖に、疑問を投げかけると返ってくるのは 『いけないことだから』 『悲しむ人がいるから』 ……おかしいとは思わないんですかね。なら悲しむ人がいない人間は殺しても正義なんでしょうか? 法律でいけないことじゃないよと決められたら明日から人を殺し回るのでしょうか?」

 黒鷹はいつになく饒舌に、しかし何処か淡々と語る。
「違いますよね。なら何故殺すことそのものが罪なのか――それは突き詰めれば 『その方が都合がいいから』 です。それを罪と成す事で、誰か得をする奴がいる。それは誰かに殺されたくない人間自身と、誰かに殺されたくない人間がいる人間です」
「……そんなもの。ほぼ全ての人間じゃないか」
「そう、ほぼ全ての、多数の得する人間の為に罪だと指定されている。先輩もわかってるじゃないですか――ほぼ全てであっても、全てではないと」
「……」
「殺さなければ殺される。大切なものを奪われる――そんな状況下にある人ですら、罪に問われる。正当防衛が適用されようが、その人は殺人者という罪の烙印からは逃れられない。大多数にとって 『誰かを殺したことのある人間』 は恐怖でしかないから」
 黒鷹はため息を吐く。

「結局罪だのなんだのほざいた所で、自分の得しか考えていないわけです。そんな奴等の決めたルールを飛び越えることは、本当の意味で罪なのか――ボクは疑問ですね」
「何か勘違いをしているようだな――」
「……勘違い? 何を?」
 黒鷹は訝しみ、同時に一部失望した。
 倫理的な問題であるとか、感情論であるとか――そういう陳腐なものをぶつけ、自分を批判してくるのだと予測していからだ。
 だが、違う。

「俺は、お前が間違っているとは思わない」

 その口から出たのは肯定の言葉。
 完全に予想の外の反応だったのか。黒鷹は目を見張る。白矢は構わず言葉を続ける。
「――だが、お前を肯定しようとも思わない」
 白矢は疲労した腕を半ば強引に動かし、決闘盤を展開する。
「倫理的な問題などどうでもいい。 殺人が罪なのか正義なのか? どちらだって構わない。それによって世界がどうなろうと知ったことじゃない――残念だが黒鷹、お前がさっき言った通りだ」
「……さっき?」
「躊躇なく誰かを殺すと言ったお前は……俺にとって 『都合が悪い』 」
 自分に正義をふりかざす資格がない事はわかっている。
 だからこの場では、白矢は利己的な自己を隠さない。

「誰かを殺されたくない俺にとって――お前を野放しにするわけにはいかない!」 

 反射的に浮かんだのは、二人の人影。
 一つは大切な弟の、小さな影。
 もう一つの影の髪には、大きな尻尾が生えていた。



【白矢LP】4000
手札5枚
場:なし

【黒鷹LP】4000
手札5枚
場:なし