#読書
「ねぇ、キミはアレを見てどう思う?」 ヘルメット内でのディスプレイ越しに蛇内に話しかけたのは、警備員の制服を着た中年の男だった。 ゲーム内で個人に話しかけることが可能ということは、この試合を見守りに来た運営サイドの人間――要するに新人である俺…
無利君に火事の夢の事を聞いた。 頭が割れるように痛い。汗が滲み、脳にミシリと罅が入る音がする。 その先を知ってはいけない。誰かがそう語り掛けてくるような錯覚。 そんな激痛と戦いながら、私は夢の話の最後を聞き――意識的に、その思考を閉じる。 「無…
肉体の結合には幾つかのデメリットがある。 一つ、寿命や身体機能がどうなるか、前例が少ない為保障できないこと。 二つ、顔の細部が変形してしまう可能性があること。 三つ、結合の影響で記憶が一時的。あるいは恒久的に消えてしまう可能性があること。 蛇…
死ぬという言葉は、現代では気軽に使われ過ぎていると思う。 声を失った時――私は今までの私が全て消えてしまったと感じた。 私が一生懸命に続けていた努力も、積み重ねて来た関係も、白紙に戻ってしまったのだと感じた。 以前できたことができなくなる。 以…
「廃駒、って呼ばれてんだよな。俺達の場合は」 妙な言い回しにハテナマークを浮かべていると、薙刀を携えた男が口元を歪める。 「いや、だって捨て駒って言ったら紛らわしいだろ。俺達は今まで駒兵(くへい)だったんだからな」 クヘイ。 その言葉を聞いた…
ep60までのネタバレを含みます 興味の無い方や読みたくない方は戻るボタンをぷっしゅ ※特区では専攻以外の経験や知識が一定以上あるプレイヤーを≪マルチホルダー≫と呼称する。 基本的には単一専攻のプレイヤーは結果を出し難い傾向にあるが、稀に例外も存在…
連れて来られたのはとても大きい船の中。 何やら特殊なシステムをテストする為、普通の施設では駄目とのことらしい。 体育館のように巨大なスペースの真ん中には仕切りがあり、対戦相手の姿を見る事はできない。 まだ到着していないか準備ができていないのだ…
願いを叶えられるのは一つだけです。 そんなことを言われたら、誰だって一度はこう願った事はないだろうか。 ――じゃあ、願いを二つに増やしてよ! 当然大抵その願いは却下される。それはズルだから無しと否定される。 だから私はその願いを心に秘めていても…
色々あったとはいえ3か月で10話しか進んで無い(真顔 あ、もうなんか生きててすいませんって感じですね。 もう気合入れ直しますプライベート削ります生きててすいません。 さて、今回最後は植実vs無利を書いたわけですが 皆さんは『対戦ゲームって何が…
無利君が踵を返し剣を取りに戻る。 私はそれを咎める為に前進――する瞬間に《プロトナイト》は半身を反らしながら盾を投擲。 ――来ると思った。私の弱点を正しく認識している無利君ならそうしてくる。 脳の反射に、生まれ持った技能に頼っていた故の弊害。 生…
初動狩り。 相手の攻撃モーションの初動に更に発生の速い攻撃を合わせる事で、動作そのものを潰す技術の一つだ。 本来は一点読みの類で使用できるリスクの高い行動だが、私はそれを近接戦闘であれば確実に成功させることができる。 教師の説明によると『脳の…
真昼であるはずの室内に夜の帳が落とされ、ステージが構築されていく。 舞台は荒野。 幾多あるステージの中でも遮蔽物が極端に少なく設定されているシンプルなステージだ。 オブジェクトやギミックが少ない分実力が出やすく、故に上級者に好まれるステージで…
『シークレットマッチ』 特区の大会を最後まで勝ち残った者のみ挑む事が許される戦いで、ふざけた事にその内容は秘密である。 過去には秘密裏に敗者復活戦を行い、それを優勝者の最後の相手として仕向けた例もあるが――それならまだ良かった。それに勝てば、…
そうして決勝戦まで勝ち進んだ私達を待っていたのは、蛇内君と鞠ちゃんの二人だった。 大会開幕時には「決勝で会おうぜ!」とお決まりの台詞を言った蛇内君に対し それ会えない奴が言う台詞だからな、と笑っていた無利君だが、今はその表情に笑みは無い。 ど…
話し合った戦術をお互いに実行。 想定外が発生すると、それを打開する為に《ヴェリク・パラディン》を突撃させる。 私の意図をいち早く無利君が察し、実行した行動の空白を埋めてくれる。 初めて会った時よりも何倍も緻密な連携が取れるようになった私たちは…
「――つまり植実ちゃんは出会った直後。チャットに誘う為に『接触』しただけだったと」 『うんうん』 「まじかよ良かった……俺てっきり無利に先行かれちゃったもんかと」 涙を流しながら失神していた蛇内君だったが、携帯画面を抉るように見せ誤解を解くと、無…
貴方の願いはなんですか? こんな質問をいきなりされたら、誰だって怪しい宗教の勧誘を疑うに決まっている。 だけど、私が記入している用紙には――間違いなくそんな冗談みたいな項目が存在していて。 (これ空白のままじゃ駄目なのかなぁ……) 必須事項――そう…
結論から言えば。 私の願いとは裏腹に、相方の幻機は高水準なサポートを維持していった。 相手との距離を接近させる事で《ヴェリク・パラディン》と私の得意な土俵で戦う事ができたし、距離を取ろうとすればあのリモコンのようなシールドで退路を塞ぐ。 相手…
それから。 現場を発見したスタッフに取り押さえられ、母親は警察に連れて行かれた。 今回の事件は社会問題にもなっていた「虐待」と判断され、それに幾つもの罪状が加わり、母親は十年以上の懲役を課せられた。 全ての原因は、私が母親の事をちゃんと見れて…
ここは、名のある出演者にのみ入る事が許される控え室。 私――小河植実は特区に来る前、色々な人に必要にされていた。 自分の声を聞いてもらい、お客さんに喜んでもらえるのは嬉しかった。 偉い人が言っていたらしい。声というものは、代替の効かないこの世で…
心が、羽のように軽い。 それは生まれてから初めての感覚だった。 先程の反動なのか視界は覚束ないが、手先は一つのミスも無く機体を操作し、迫り来る半実体剣を捌き続ける。 それもそのはず、蛇内からの攻めの手は非常に少なくなっていた。 アイツの目的は…
唐突ですが、ep01~32を一週間以内に全ロックします 具体的に言うと始まりからタクト編全部です 新規に読んで頂ける人を確実に減らす行為なので避けたいのも正直な所なのですが 数か月間は規定なので非公開にする事になります。 ロック後は応急作として大ま…
バスが、ようやく到着した。 重い身体――いや、重い 『頭』 を引き摺るように、バスに乗り込む。 席は殆ど埋まっていたが、今は背伸びして吊革に捕まる元気は正直無い。 どこか座れる席はないものか、と車内を見渡していると――。 「隣、空いてますよ」 二人席…
金属の通路を、靴が叩く音が響き渡る。 紙の資料を見て、自分が行くべき場所を探し続ける。 ――でも、それは途中で必要なくなった。 来た事がある場所だから、最初からわざわざ地図を見る必要は無かったのだ。 最初に静寂を破ったのは、剣が装甲から引き抜か…
全能幻機――通称《全機》相手に飛翔残量での勝負を持ち込んだところで勝ち目はない。 だが俺は飛んだ。飛んでしまった以上、やる事は一つ。 殴ってやる。 植実を殺したアイツを、今度こそ確実に。 憎染機構が反応しなかろうと関係ない。集中力を最大限まで高…
「だから、つい殺しちゃったんだって」 カッとなってやった。今は反省している。 不謹慎な程気軽さを匂わせる――学生同士が冗談でニュースでの生き死にを論じてるような、そんな口調。 最高の冗談を言った時のような自信に満ち溢れた笑顔は、俺の意識を深く沈…
お察しの通りニコニコで無料放送してたのでつい興味を惹かれて見てみた 結果 昔見た時よりも何倍も印象良く見られた 正直言うと最終回や「次は誰消そっかな~」の音無のイメージばっかり残ってましたが 改めて客観的に見ると世界観の説明やギャグのテンポ。…
実体剣。 それは《プロトナイト》の持つ西洋剣のような、光粒子を持たない実体のある剣の事を指す。 肉薄する寸前、蛇内の機体は《それ》を構えた。 受け止める気だろうか? いや、違う。 そう判断し、やや左に機体を猛進させると、瞬時に蛇内は右方向へと離…
「決勝戦は――相方との一騎打ち?」 準決勝を辛くも勝ち上がった俺と植実が聞いたのは、到底納得できない事実だった。 特区大会はニ対ニのチーム戦という形式で行われた大会だ。その為に腕を磨き、連携を煮詰め、状況を想定して練習してきたというのに、その…
背景にノイズが走り、景色が移り変わる。 でも、関係ない。 蛇内の乗っている機体は見慣れない機種だ。恐らく形状から察するに遠距離タイプ。 それも、関係ない。 意識が人間から機械に乗り移り、視野がプロトナイトからの景色になった。 頭がチリチリして、…