シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

アーケード・アンチヘイター episode-48 (期間限

金属の通路を、靴が叩く音が響き渡る。
 紙の資料を見て、自分が行くべき場所を探し続ける。
 ――でも、それは途中で必要なくなった。
 来た事がある場所だから、最初からわざわざ地図を見る必要は無かったのだ。



 最初に静寂を破ったのは、剣が装甲から引き抜かれる音だった。
 あの一瞬。蛇内は全神経を総動員して剣を振るうモーションをキャンセルし、同時に機体を半歩前進させる事で、折れた剣を受ける個所をずらしたのだ。
 突進に前進を合わせた事で、本来装甲を抜けるか危ぶまれていた西洋剣が装甲を僅かに貫通。
 得物を失うわけにはいかないので、そのまま迅速に剣を引き抜く。
 着地も完了、飛翔残量も回復。予定通りに。
「――オマエ死ぬ気だったろ?」
 蛇内が半笑いを浮かべた状態で、しかし何処かに苛立ちを浮かべながら、言った。
「何が悪い?」
「わりぃに決まってんだろ! オレが何の為にこうやって!」  
「何の為に――?」
 ふいに。
 笑顔が零れた。
 おかしくって、おかしくって、おかしくて、笑いが止まらなくなる。
「俺の無茶に付き合わせた結果――鞠は俺の目の前で撃ち殺された」
 撃たれた瞬間。鞠だったハズの頭部はただの『肉片』になった。
「俺が決勝で負け、外へ行く権利を獲得したと思った植実は――殺され、今この船で燃やされ骨になった」
 オマエに。とは言わなかった。言えなかった。
「そして、俺の成長の為に――今度はウィナが殺される?」
 何故なら仮に明確な理由が、他に問題の根幹があったとしても。
 元を辿れば全員、俺と関わったせいなのだから。

「『何の為に』 を全て潰されて、それでも――生きろって言うのか?」

 肉親にいらないと判定され、特区に送られた。
 それでも数少ない友人ができて、お互いを必要だと思えた。
 そんなささやかな救いを確かな物にする為に、色々なヒトに必要とされるような人間を目指した。
 特区のトップは正に全人類に必要な存在だという話を聞き、近付く為に植実と大会に出場し、勝ち進んだ。
 
 それも全部裏目だった。
 周りを殺して歩いてきただけだった。
 俺は最初から、世界に―― 『いない方がいい人間』 だったのだと、今――理解した。
 
 《プロトナイト》の漆黒に煌めく眼光が、稲妻のように轟き、それが収まると同時に元のライトエフェクトが灯る。
 同時に瞳に激痛が伴い、それを歓迎しながら相手の懐へと再び特攻する。
 結果的に――先程の攻撃は相手にダメージを僅かに与え、敗北の危機を脱する事ができた。
 理由は蛇内が俺を殺せないが故に、剣を振わず回避に専念するしか無かったからだ。
 先程感じた全てを吸い上げられる感覚――アレが《憎染機構》で、一瞬でも使えた事で「成長」という特区と蛇内の目的を達成したとしても。
 今後ウィナを、更なる成長とやらに利用される可能性は高い。
 なら、どうする。
 考えた。考えた。考えた。
 そして、ベストの答えが導き出せた。
 歩いた分だけ、人を不幸にしてしまうのなら――。
 これ以上、歩かなければいいのだと。

「まずは、機体の体力をミリにしないと」

 当然、それは相手の機体のことではない。
 苦笑いを浮かべながら、軋みながら必死に動いている《プロトナイト》に、申し訳ないと思いつつ。
 いや、コイツは所詮ゲームの一キャラに過ぎない。だから――安心して巻き込める。
 戸惑う《シュライバ》に向かって、折れた剣を再び振り下ろした。
 作戦目標追加。 
 勝利よりも優先度の高い目的。
 自機の機体の体力を残り僅かな状態に調整、その後。即死級の攻撃を受ける。
 決して簡単な事ではないが、不可能ではない。やってやる。
 あらゆる経験や知識を総動員すれば、きっと可能だ。
 俺はそう自分を前向きに鼓舞し、足元に転がった希望に手を伸ばす。
 ずっと、届かない所を目指していた。
 ずっと、見えもしない空の彼方ばかりに憧れていた。
 でも、俺の辿り着く場所はそんな遠くではなく、もっと身近にあったのだ。
 手頃に手を伸ばせる。
 その気になれば、誰でも手にできる。

 『足元』 に。