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アーケード・アンチヘイター episode-62 (期間限

 願いを叶えられるのは一つだけです。
 そんなことを言われたら、誰だって一度はこう願った事はないだろうか。
 ――じゃあ、願いを二つに増やしてよ!
 当然大抵その願いは却下される。それはズルだから無しと否定される。
 だから私はその願いを心に秘めていても、それを外に出そうとは思わなかった。
 なのに。
『いいよ。願いを二人分叶えよう』
 初めて言葉を交わした特区長さんは、あっさりと私の願いを受け入れてくれた。



 ――無利君との決着は、激しい攻防を応酬した結果『カスタムシールドの破壊』という形で幕を閉じた。
 反射速度で劣る無利君は文字通り持てる全てを使う必要があり、それは≪カスタムシールド≫も例外ではない。 多彩な仕掛けを内蔵しているが故に、本来防御に使い続けるべきではない≪カスタムシールド≫を酷使し続けた結果、内部の仕掛けが作動しなくなってしまったのだ。
 だけど≪カスタムシールド≫がもう三分長く健在であったなら私は負けていたかもしれない。それぐらい拮抗した勝負だった――と思う。

 勝負が終わった後。無利君と殆ど言葉を交わす間もなく、私は特区運営の――警備員風の出で立ちをした男の人――に『特長の間』に案内された。特長さんの顔は見えなかったが、扉がやたら大きくて堅牢なイメージを感じたことは覚えている。
 私がいつも通り会話を打ち込む為に、携帯端末を取り出すと、警備員風な男に取り上げられる。
(え……返して!)
 あれが無いと私は無利君と会話ができない。蛇内君とも、鞠ちゃんとも会話ができない。
 私は必死に取り上げられた携帯端末に手を伸ばすと、そこに声が割り込んできた。
「キミは無利君の願いを叶えてあげたくはないかい?」
 透き通った声だった。
 フードを深く被っていて顔は見えないが、そんなに歳は私と変わらないように見える。
 いや――そんなことよりも、今この人はなんと言ったのだろう。
「願いを二人分叶えてあげるって言ったのさ。事実上の決勝戦を急に一対一にしてしまったのは確かにこちらの不手際だからね」
 口元を上げる透明な笑い方。どこか誰かに似てるような気がしたが、それも思い出せない。
 ――いや、そんなことよりもこれはチャンスだ。特長さんがこう言ってくれているのであれば、無利君がどうしても叶えたかった願いと――私の願い、その二つを同時に叶える事ができるのだから。
 私は慌てて、しかししっかりと頷いた。
 それだけでは伝わらないかもしれないので、念のために「ぐっ!」と親指を立ててアピールした。
 特長さんはそれを見てしばらく硬直し、しばらく経つと破顔して笑い始めた。
「キミは面白い子だね。彼が気に入るのも頷ける」
 彼?
 誰の事だろうと疑問に思うが、今はその疑問を相手に伝える手段が無い。
「キミの願いは蛇内翔矢と蛇内鞠。道乃瀬無利――そして『キミ』の安全を特区で保証して欲しい、だったかな? 現実的な願いだね」
 勿論そうだ。
 ここで『永遠の命が欲しい』などと非現実的な願いを口にしたところで、何の意味もない事は私も子供じゃないのでわかっている。
 だったら願う事は 『特区であればできそうなこと』 に限定すべき。それくらい私にもわかっている。
 本来「身の安全の保障」なんて、わざわざこういう場に頼むのは心配し過ぎなのかもしれない。
 だけど、ここに置いては違う。
 無利君の寮から不自然に消えて行く他の生徒たちの存在が、私に警報を鳴らしている。
「続けて道乃瀬無利君の願いは――へぇ、面白い事を書いているね」
 面白い事?
 反射的に私が顔を上げると、特長さんは掴みどころのない笑顔を浮かべる。
「君を想っての願いなんだろう。そして、確かにこれは『特区』として叶える事はできる」
 私は首を傾げる。願いの内容を聞きたいけれど、どうやら特長さんはそれを言うつもりがないようだ。
 特長さんは小さい声で呟く。
「――一つ目を少し減らせば行けるね」
 一つ目。
 この単語だけは聞き取れたが、続く言葉は上手く聞き取れなかった。
「そうだね。だから一つだけ手伝ってもらいたいことがあるんだ」
 またニコリと笑顔を浮かべる。
 しかしその笑顔は、私の知る誰とも違っているようにも見えた。
「飛翔幻機の新しいシステムを使って、あるプレイヤーと戦って欲しい。やってくれるかな?」
 あるプレイヤー? 新しいシステム?
 私が首を傾げると、特長はゆっくりと口を開く。

「――造志システム。他人の可能性を広げる、素晴らしいシステムだよ」