シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

落ち着いてきたので近況










































 色々あって団地から一軒家に住むことになったのだが、家を買った直後はやる事が多くて大変だった。
 特に問題だったのが、扉の立てつけが悪く、完全に開くことができなかった事。
 でもそんな時、父親の友人であるミノリさんが、こんな提案をしてくれた。

「外して、カンナで削ろう」

 業者に頼むしかないんじゃないかと思っていた自分にとって、目から鱗だった。
 確かに言われてみれば普通の事かもしれないが、こういう日曜大工的な発想ができる人。 それが実行できる大人は、現代では少ないように俺は思う。
 扉を外し、自前の工具を使い、下に新聞紙をひき、カンナで少しずつ扉を削っていく。
 削り過ぎるのは当然厳禁だ。 何度も微調整を繰り返し、完成に近づけていく過程は楽しかった。
 俺も微力ながら手伝いをし、数年ぶりに工具を使った。 
 エアコンの設置もミノリさんがこなしてくれ、それを手伝うのも妙に楽しかった。
 それらのことをなんでもこなしていき、凄く頼りになる姿は、純粋に 『格好いいな』 と思った。
 心からのお礼を言ったのが、もう一年くらい前だろうか。

 
 3か月程前だろうか、俺が初めて 『格好いい』 と思えた大人であったミノリさんは、この世を去った。
 病気を患っていたわけでもない 特別年配だったわけでもない 本当に急な話だったらしい。
 妻と不仲だったとか、もしかしたら自らだったのではないかとか、いろいろな事を聞かされた。
 特に反応はしなかった。 俺は一日しか彼とまともに会話もしていない。 父のショックはそれとは比較にならないだろう。
 ただ、それから妙に色々な事が虚しくなっていったのは覚えている。
 ちょっと潤んでいたかもしれないし、そう思いたかっただけなのかもしれない。

 我が家の扉は、今も正常に機能している。
 恐らく一番開けられる扉だろう。 
 色々な人が開け、閉め、出入りしている。 だから、一番最初に壊れてしまうのかもしれない。
 俺は意識して、その扉をゆっくりと閉めるようになった。