シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

ポケットモンスターHGSS外伝 『罪悪感を君に』

―――今日も、ここに来てしまったか…。
悩み事や考え事があると、つい無意識に足が向いてしまう。
それは私が生きてきた上で…。息をする事と同じくらい、残念な事に自然な事だった。
私の悩みと言うのは、簡単に言ってしまえば「仕事が上手く行かない」といった、陳腐な物だ。
だが例え陳腐な悩みでも、私にとっては死活問題である。
今この世の中は不景気で、先日もフレンドリーショップの店長に自殺者が出てしまった。
何でも、上からの命令で一日20時間労働を余儀なくされた結果
生活苦やストレスやらが原因で自殺という行為に走ってしまったらしい。
一方、先日新しく総理大臣になった四天党のリーダーは税金で薬物を大量に購入している事が発覚。
当初のマニフェストを完全に無視してる行為にも関わらず、マスコミの連中は今の党首を叩く気配すら見えない。汚い世の中だ。
…ともかく世の中は不景気で、景気が回復する見込みは全く無いと言う事だ。

ふぅ… 私は、一つ溜息をつく。
本来白いはずの溜息の色さえも、私の心を写したかのように黒く濁ってるように見えた。
新しい職を探せる程若いわけではないが、今のままでは収入が足りなくなってくる。
そして何より私は…

『世界の掟に縛られている』

「!?」
携帯電話から、突如声が聞こえてきた。忘れもしない見知った声…あの子供の声だ。
「貴方はポケモントレーナーだ。だから、世界の掟には逆らえない」
声は幼くも冷淡に、事実だけを突きつけてくる。
心が押し潰すような重圧に耐えながら、なんとか声を絞り出す。
「そんな事は、わかっておる。」
私はまだ、貴様に心まで屈服した覚えは無い…!
「さすがに聡明ですね。さすがは紳士(ジェントルマン)だ、年の功って奴かな?」
「用件はなんだ?今日は木曜日のはずだ、貴殿と長話する気は無い。」
そう私にとって忌むべき…世界との『契約の日』は火曜日のみ。
『契約の日』には、定めた相手とバトルをするのがこの世界の決まりだ。
だが、今日はその日では無い。あちらにも、こちらに用など…

「…何言ってるんですか?今日は火曜日ですよ?」

―――ッ!?何を言っている!?
そんな馬鹿な、と自らの携帯を確認すると、確かに画面表示では火曜日を示していた。
何故だ、確かに今日は…

「―――驚きました?少しDSの時計いじくったらこうなったんですよw」

この時、私の顔から色が消えた。この男は、世界の理すらも歪められるのか…?
「この…悪魔め!」
私は目を瞑り、自分の体の中にある憎悪を全て込めながら言い放った。言わずには、いられなかった。

「そんなわけで…今時間空いてますか?ちょっとお手合わせお願いしたいんですけどw」
「…いいですとも、アサギの灯台で―――待っている」

プツッ、ツー、ツー…

仕方ない、世界には逆らえない。諦めるしかない…。
私の手持ちは、既に傷だらけの相棒。ヨルノズク
週に一度の「契約の日」での連戦に渡る連戦で、ポケモンセンターでは既に完治できない状態になっていた。
そしてポケモンセンターに行くのに必要な経費さえ、こうしてあの男に搾り取られていく。

「人間もポケモンも、健康でいれば、輝けるんだ…」

だから私もおまえも、もう輝けないのだろうな。
だがせめて、アイツを一度だけでも倒す為に…私に力を貸してくれ!



―――その時、階段の下から自転車のブレーキ音が鳴り響いた。
悪夢は、ここからはじまる事になる…。













罪悪感を君に ~完~