シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル prologue-3

――燃えていた。

<トライデント・ドラギオン>の攻撃を直撃し、もはや灰同然になった『ペイン』は
それでも怨念の様な咆哮をを繰り返し、同時に助けを叫びながら燃えていた。

「……」

彼が口を軽く開き…また、口を結ぶ
何か言葉を発した様な気もしたけれど、ここからでは全く聞こえなかった。

(……あ、お礼を言わないと)
そう思い、抜けていた腰を奮い立たせ、彼の方に歩いていく。
だけど、横顔が見える位置について、いざ言葉を発しようとしても…上手く言葉が出ない。
彼はペインが燃え尽きた跡を細目で睨み続け、まばたきすらせずに、瞳を揺らしていた。

「た、助けてくれてありがとうございました!」
不思議と、何か私の存在自体が場違いな気がしたけど…何とか言葉に出してみる。
尚ペインを睨んでいた彼は意外にもその言葉に反応して、こちらを振り向く。

「……?」
少し怪訝な表情をした彼は手を口に当て、考え込む素振りをする。
そんな顔をジっと見ながら、私は彼の言葉をジッっと待つ。
(……うーん、やっぱり記憶にないなぁ)

―――久しぶりだな、助けに来たぜ。
あの言葉から察するに、彼は私の知り合いのはずだ。
でも、それらしい人物が思い当たらない。
……うん、失礼かもしれないけど、聞いてみよう。

「あの…助けてくれた時『久し振り』って言ってましたよね。それって」
――失礼ですけど、もしかして、私と貴方は知り合いなんですか?
そう尋ねてみると、彼は一瞬キョトンとし、私の目をじっと見つめる。
そしてしばらく経つと目を閉じ、また考え込む素振りをした。

(……決闘の時と、なんか印象違うなぁ)
うーんうーんと言った擬音が似合う程に考え込んでる目の前の彼と
決闘中、凛然と助けに来てくれた彼とは、凄く別人な気がしてならない。
そんな少し失礼な考えを頭の中で巡らせていると、彼がようやく言葉を発した。

「……悪い、人違いだったッ!」

……
……はいィ?

……彼の言い分はこうだ。
誰かを助けに行く途中に、ペインに襲われている子を見つけた。
『探してる人に違いない!』と思い助けに入ったら、よく見てみたら別人の私だった。という事らしい

「あの……助けてもらっておいて、失礼だとは思うんですけど」
「……」
「暗がりだったとはいえ、そういうのって普通気が付きますよね…?」
「いや、俺目悪いしさ。よくやっちゃうんだよ…」
「……」

この人、やっぱり決闘の時とは別人な気がする。何か妙な所でボケボケというか。
……でも考えてみれば、命を助けてくれた事は事実だし、人違いだとしても怒ったり呆れる筋合いは無い。
『恩知らずは食うべからず』って言うし、気をつけないとね、私。

「あの……でも、助けてもらったのは事実ですし、改めてありがとうございました」
ペコリとお辞儀して、自前のおさげが揺れる。
「でもいいんですか?私が人違いだったとしたなら、早く本命の人を探しに行かないと」
「……いや、大丈夫だよ」
「……?」
「もう助ける事は、出来たと思うから」

自分の携帯電話の画面を見ながら、彼はそう呟いた。
よくわからないけど、他の仲間の人に連絡を取って、その人が本命の人を助けてくれたのかもしれない。

「だったら、私の部屋まで来ませんか?お礼もこめて、一緒に晩御飯でも」
「や、さすがにそこまでしてもらうのは…晩飯なら適当にコンビニで」
そう言った所で、彼は自分のポケットを探り始める。
「……あれ?」
私は状況を察し、半ばジト目でその様子を見つめる。
「……まさか、落としたんですか?」
「……やばい、あれが無いと金が降ろせない。どうしよう。」

慌てふためく姿を更にジト目で見つめながら、ため息を付く。
「だったら尚更私の部屋に来ましょう、一応命の恩人なんですし、出来る限りの事はしますから」
そう言いながら、抵抗する彼の背中を押して、私の部屋に向かって誘導していく。

「……っと待った!さすがにそこまでお世話になるわけには!」
「恩を返したいだけです。それに私」

決闘を見ている時に思い出してしまった、昔の事を思い出す。
今はもう取り戻せない、昔の時間。今はもう変えられない、昔の自分。

「基本恩知らずなんで、少し気にしすぎるくらいで丁度いいと思うんです」
――その言葉に何かを察してくれたのかはわからないけれど。

「……わかったよ、だから背中を押すのはやめてくれ」
ようやく彼は観念してくれて、私の『恩返し』に付き合ってくれる事になった。