シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-07

 遊戯王のモンスターが実体化する。
 昔はそんな事を言い出したら鼻で笑われるか、病院に行く事を勧められるかのニ択だった。
 文献ではカードに神が宿っていた事があったとか、そういった話も少なくなかったが
 それを信じる人は殆ど居なかったように思う。

 だが、サイコ決闘者の変貌した姿――
 『ペイン』が現れるようになってから、状況は変わった。
 ペインそのものが常識外の存在である事に加え
 実際のモンスターに襲われたという報告が、圧倒的に増えたのだ。

 勿論
 増えたといっても『信じるに値する程度には増えた』だけであって、その数はまだまだ少ない。
 なので、昨日得た「ドラゴンが暴れている!」という情報は、とても貴重なもので
 その貴重さ故に、幻魔に対抗できる一手になるカードかもしれない。
 そう判断して、今日はそのドラゴンが目撃された現場に行くところなのだが……。

「今日は、負けるわけにはいかない!」
「こっちの台詞です!」

 かづなの家の台所に二人の影。
 家主であるかづなと、半ば居候状態である治輝が向かい合っていた。
 理由は簡単、朝食の当番決めである。
 だが、別に二人とも作るのが嫌なわけではなく

 治輝は居候的な申し訳なさ
 かづなは色々な事件での恩

 等の理由で、むしろ作らせてくれ!作らせてください!なやり取りをする事が多い。
 なので、じゃんけんで勝った方が作る!というルールで度々勝負が勃発するのである。

「行きますよ~。じゃん、けん」
「ぽん!」

 二人の手が、窓から見える朝日をバックに形を彩る。
 かづなの手はしっかりと開き、パーを出していた。
 対する治輝は、一指し指と親指。二つの指を、しっかりと突き出している。

「よし!俺の勝ちだな」
「………」
 治輝の手は、まるで拳銃のような形をしていた。
 彼曰く、二つの指はチョキを、他3つの指はグーを、そして手のひらはパーを司る―――

「よし!じゃありませんっ。『グチョパ』はズルいって言ってるじゃないですか!」

 かづなは治輝に雪平鍋を振り上げ、ゴポカーンと、甲高い音が辺りに鳴り響く。
 その音で目を覚ましたかのように、窓から見えていた電線で休んでいた鳩達が、一斉に空へと羽ばたいていった。










遊戯王オリジナル episode-7


「ここがドラゴンの目撃例のあった廃品置場、か」
 何故か朝から鶏肉をたっぷり使った朝食を平らげた後、目的の場所に辿り着いた。
 中央には、高く高く積み上げられた廃品の山が見える。
 何故か無性にあの頂上に座りたい気分になったが、何とか衝動を抑えた。

「じゃんけんで負けた後、なお君珍しく二度寝してましたよね。疲れてたんですか?」
 ひょっこりと、後ろからかづなが顔を覗かせてくる。
 お下げがその動きに合わせて、かづなの服と一緒にゆっくりと揺れた。

「あー……ちょっと夢見が悪かったから寝直した。今もちょっと眠い」
「そうですか?割とハッキリ目が開いてるように見えますけど」
「それは生まれつき……って、今思えば俺じゃんけんで負けてねぇ!」
「は・ん・そ・く・負・け・で・す!いい加減にしないとグチョパに禁止令発動しますよ!?」
 頭をピキピキさせながら、かづなが自分のデュエルディスクから、雪平鍋を取り出そうとした。

 その時




「――貴様ら、何を求めこの地に来た?」

 腹の底に響くような、威圧感のある声が聞こえてきた。
 人間には、決して出せないような声質。例のドラゴンである可能性が高い。
 普通なら怖気づいて、腰を抜かしてしまうような、そんな質を持った声だった。
 だが、治輝は微塵も怯えない。

「アンタに、力になってもらいたくて来た」
 用件を手短に、ストレートに相手にぶつける。
 相手の事がわからない以上、回りくどい質問は危険だ。

「……フ、ハハハハハハ!!」
 大きい笑い声がハッキリと聞こえた。
 その声は決して軽い物ではなく、鉄よりも重い感覚を与えてくる。

「力?力と言ったか!これは悪い冗談だ!」
「何が、おかしいんです?」

 いつの間にか治輝の後ろに避難していたかづなが、声の主に疑問を投げかける。
 意外にも、その声の調子に恐怖は感じられなかった。
 皮肉な話だが、前回の戒斗との戦いに比べれば、まだ耐えられるレベルの圧迫感なのかもしれない。

「貴様等人間が力を望んだ果ての姿が、今の世を混乱させている『ペイン』なのだろうが!」
「……おまえ、ペインを知ってるのか?」
「知っているとも、貴様のような人間共よりも、ずっとな」

 コイツ、ただの『実体化したモンスター』とは違う――?
 治輝は考える。
 人語を発するモンスターは珍しくはないらしいが、コイツは異常だ。
 人ですら知り得ない情報を知っていると嘯き、人間の世についても理解が深い。
 他のモンスターとは、根本的な何かが違う。そう感じる。

「ワシに勝ったら、貴様の望み通り力になろう。万が一にも有り得ない事だがな。……ただし」
 声の主は、そこで一旦言葉を止める。

 次の瞬間、大きな音が辺りに鳴り響いた。
 ボコォ!と鈍い音が鳴り、治輝の目の前に石版のような大きな『札』が地面から現れる。
 枚数は5枚……これが奴の手札か?
 だが、本体の位置は見当たらない。

「ワシは、貴様等人間に二度と仕える事は無い。貴様等人間を、認めるわけにはいけない」
「……」

 憎悪に近い感情を声に込めているような、そんな声だ。
 普通の感覚なら、怖気付いてしまうかもしれない。震え上がってしまうかもしれない……そんな声だ。

「――決闘に負けたらその命、霧の様にかき消えると思え!」

 文字にできない程獰猛な咆哮が、衝撃波のように辺りを響かせていく。
 だが、治輝は揺るがない。
 命に関わる威嚇や脅迫という圧倒的な濃い色を混ぜられても、その色は変わらない。
 その言葉を真正面から受け止めながら、治輝はデッキから5枚のカードを、勢いよくドローす る。
 かづなはそんな治輝の様子を、不安そうに眺めていた。