遊戯王オリジナル episode-08

「ワシのターン。ドロー……！」
　軽い地響きと共に石版が地面から出現し、声の主の札が６枚に増える。
　普通の決闘とは明らかに違う。雰囲気から察するに、恐らく実際のダメージも発生すると見ていいだろう。

「モンスターを裏側守備表示にセット。更にカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

【治輝LP４０００】　手札５枚
場：

【声の主LP４０００】　手札４枚
場：伏せモンスター１枚
　　伏せカード１枚

　――さすがに、手の内は明かして来ないか。
　治輝は内心で舌打ちをする。
　初めて戦う相手との決闘だ。今は少しでも情報が欲しい。

　だが、未知の相手に時間を無闇に与えるのもそれはそれで問題だ。
　ここは、攻撃して相手の出方を見る！

「俺は攻撃表示で＜仮面竜＞を召喚。バトルだ！」

《仮面竜(マスクド・ドラゴン)/Masked Dragon》 †

効果モンスター
星３/炎属性/ドラゴン族/攻1400/守1100
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから攻撃力１５００以下のドラゴン族モンスター１体を
自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「ほぅ……？」
「裏側モンスターに仮面竜で攻撃。マスクドバイトォ！」

　光の中から現れた仮面竜は、出てきた勢いを殺さずにそのまま相手モンスターに突進し、噛み付いた。
　相手の裏側モンスターが表になり、治輝は守備力を確認する。

「守備力５００か。それなら、このまま噛み砕ける！」
「……若いな」

　だが治輝の予想に反して、仮面竜の牙は相手のモンスターを破壊できない。

「何でだ。攻撃力では勝っているはずなのに――」
「ふん、このモンスターは＜スクラップゴブリン＞　その様な脆弱な戦闘なんぞ一切通じん！」

《スクラップ・ゴブリン/Scrap Goblin》 †

チューナー（効果モンスター）
星３/地属性/獣戦士族/攻   0/守 500
フィールド上に表側守備表示で存在する
このカードが攻撃対象に選択された場合、
バトルフェイズ終了時にこのカードを破壊する。
このカードが「スクラップ」と名のついた
カードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、
「スクラップ・ゴブリン」以外の自分の墓地に存在する
「スクラップ」と名のついたモンスター１体を選択して手札に加える事ができる。
また、このカードは戦闘では破壊されない。

　なるほど、戦闘破壊耐性のモンスターか。
　確かに＜魂を削る死霊＞を始め、この手のモンスターは対処するのが難しい。だが……。

「表側の時は自壊効果があるんだな。なら次のターンに殴って突破してやる！」
　治輝はカード１枚伏せ、ターンを終了。
　だが、声の主は軽い調子でクク……と笑った。

「同じ状態が次のターンも続くと思っているようだが……浅い、浅すぎるぞ小僧！」
「な……小僧はやめろ、さすがにそんな年じゃねぇ！」
「ワシから見れば小僧以外の何者でもない！ワシは＜スクラップ・ゴブリン＞をリリース！」
「ッ、アドバンス召喚か！？」
「その通り。ワシは＜スクラップ・ゴーレム＞を召喚する！」

《スクラップ・ゴーレム/Scrap Golem》 †

効果モンスター
星５/地属性/岩石族/攻2300/守1400
１ターンに１度、自分の墓地に存在するレベル４以下の
「スクラップ」と名のついたモンスター１体を選択し、
自分または相手フィールド上に特殊召喚する事ができる。

「そしてワシはスクラップゴーレムの効果を発動！墓地のスクラップ・ゴブリンをワシの場に特殊召喚！」
「レベル３チューナーと、レベル５の非チューナーモンスター……」

　治輝はその２体のモンスターを睨み、戦慄を覚える。
　この布陣の狙いは十中八九、レベル８のシンクロモンスターを召喚するのが狙いだろう。
　そしてレベル８のシンクロモンスターの力は総じて強力だ。
　そのモンスターを極め、エースカードとして戦略の主軸に据える決闘者も少なくない。

　つまり、何が言いたいのかというと

「砕けし全ての残骸よ―――」

　今から出てくるモンスターは、恐らく

「その慟哭を束ね、我らの意思を具現せよ！」

　この声の主の『切り札』かもしれないって事だ―――！

「シンクロ、召喚！」

　その声をトリガーに、廃品置場の中心にある高く聳え立っていたゴミの山が、粉々に砕けた。
　爆音と共に、少なくない量の破片がこちらに向かって飛んでくる。

「ッ……伏せてくれ、やばいのが来る！」
「はいィ！？なにが来るんですか！」
「知るか！とにかくやばいのだ！」

　ガコン！バコン！と
　破片が辺りを所構わず転がっていき、凄まじい音が立て続けに鳴り響く中
　治輝とかづなは半ば叫びながら情報を伝えあう。
（仮面竜にはかづなを守ってもらって、俺は自力で何とかするしかないか……！）

　と、そこまで思考を巡らせた治輝だったが、次の瞬間
　突然、音が鳴り止んだ。

「……？」

　先程とは対照的な静けさ
　余りの静けさに、無音という名の音が耳の奥を刺激してくるようだった。
　辺りの様子を見回してみる。ゴミの山は、陰も形もなくなっていた。
　だが、その中から出て行ったであろうシンクロモンスターが、何処にも見つからない。

「……何処、だ？」

　そこで治輝は、辺りが先程より暗い事に気付いた。
　今はまだ日中のはずなのに、この暗さだ。絶対におかしい。
　治輝は戒斗との戦いを思い出し、これも『ペイン』絡みの現象なのだろうかと思い直す。
　だが、この暗さは幻魔との戦いの時の闇の放出というよりは、もっと自然な……

「な、なお君……」
「気をつけろよ。何処に潜んでるか……」

「う、上……」

　上？上に何があるって言うんだ。
　治輝はかづなのその言葉に眉を潜め、ゆっくりと上を向き……

「――ディセーブル、バースト！」

　治輝の視界の全てが光に包まれた。
　まるで光線のような光が、治輝の隣に佇んでいた仮面竜に降り注ぎ、粉々に破壊してしまう。
　そして爆発。治輝の体が後方に数メートル吹き飛ばされた。

「がっ……！？」
「だ、大丈夫ですかなお君？！」

　かづなが走り寄ってくる。
　だが、それは目に入らなかった。
　治輝の視線は、空から目を離せない。

　その時、空は暗かった。
　いや、黒かった。
　本来空があるべき場所には、黒い鋼に覆われた巨大な物体に覆われていたのだ。

「シンクロモンスター＜スクラップ・ドラゴン＞　これがワシの切り札、いや――」

　巨大過ぎて把握できなかったが、先端には大きな龍の顔があった。
　だが、視界に覆いきれない程の大きさの龍など聞いた事が無い。
　これはドラゴンというよりは、むしろ

「貴様が力を貸して欲しい、等とほざいた。ワシ自身の姿だ―――！」

　人の手には余る程強大な
　――『要塞』そのものだった。

【治輝ＬＰ】４０００→２６００

【治輝LP２６００】　手札４枚
場：仮面竜（戦闘破壊）　
　　伏せカード１枚　

【声の主LP４０００】　手札４枚
場：スクラップ・ドラゴン
　　伏せカード１枚