シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-18

 
 気が付いたら、仲が良かったあの子は倒れていた。
 いつも通り、私はみんなと楽しく決闘をしていただけなのに。
 呆然として、何も言う事ができないまま辺りを見渡す。
 
 視線を感じた。

 恐怖。
 軽蔑。
 それらの感情が入り混じったような、そんな視線。

 そうか、私は皆に嫌われたんだ。
 普通の『嫌い】じゃなくて、二度と埋まらない程の『嫌い』
 
 ――――こんなことをしたんだから、当然だよね。

 もう、元には戻れない。
 やり直す事なんて、できっこない。
 そう思ったから、私はその場所を離れたんだ。



 

遊戯王オリジナル episode-18


「この子のサイコ決闘者としての覚醒は、つい最近だったようです」
 佐光は七水を見下ろしながら、言葉を続ける。

「覚醒後すぐのサイコ決闘者は、力のコントロールができません。そしてこの子の知人はその『力』の犠牲になった――後の調べでは、命に別状は無いようですが」
 それを聞いた治輝は、激痛に耐えながらも佐光の方を睨み付け、拳を強く握る。

「だからってこんな所に居なきゃいけない理由にはならないだろ……!」
「そうでしょうか?人は誰だって怖いものですよ」
 佐光が一歩前に足を進めると、足元の埃が目元の方まで舞い上がった。

「――自身のせいで親しい人を傷付けてしまう、こんなに恐ろしい事はないでしょう?」
「……」
「そして一度完全に壊れてしまった人間関係は、まず戻る事はない。貴方達も一度くらいはそういった経験があるのでは?」

 ピシリ、と。
 頭に巨大な亀裂が走るような、そんな感覚がした。……先程の七水の攻撃の影響だろうか。
 そんな治輝の様子を知ってか知らずか、佐光は喋り続ける。

「貴方が聞きたがっていた『賛同者』とは、正にそういった人達を救うモノなんですよ。『組織』と言い換えてもいい」
「救う……?」
「全ての生きとし生けるものは、そういった痛みを我慢していかなくてはならない。でも、私達はそれをしないのです」

 佐光は手を掲げ、一点の曇りも無い微笑を浮かべる。
 顔立ちがいいのも後押しして、どこかのアイドルとしても通用しそうな風貌だった。

「この子は自身のした事を悔い、その事を思い返しては苦しんでいます。しかし私達『賛同者』は、その痛みを受け入れ、理解する事が出来る」
「……わけがわからないな」
「わからなくて結構。ですが彼女は、その痛みのやり場を求めてここに来たのですよ」

 七水は喋る佐光を見上げて、キュッと唇を結んでかづなの方を向きながら呟く。
「私はもう、ここいることしかできない」
「七水ちゃん……」 
「だから、相手がお姉ちゃんでも――負けられないよ」
 そう言い放った七水の顔は、子供の表情そのものだった。
 ひたすらに、純粋だった。

 ――子供は気楽でいいな。
 それは大多数の大人が呟いてしまう言葉。
 確かに、年を重ねれば重ねる程……苦労は増えていくかもしれない。
 知らなくていい事を知り、世界が自分の手に余る事を、少しずつ知っていくのかもしれない。
 行動に責任が伴うようになり、その度に息苦しくなっていくのかもしれない。

 でも同時に、逃げ道を探すのも得意になる。
 それは言い訳であったり、病院であったり、憩いの場であったり。
 辛い事が起こった時、どうすれば立ち直れるのか。
 何もかもが上手く行かない時、何をすれば気晴らしになるのか。

 つまり子供は、大人より自分の気持ちを逃がす場所を知らないんだ。
 『死ね』と言われながらいじめを受けて、本当に自殺してしまう子供が後を絶たないのと同じように。
 そして目の前のクソ野郎は、そういった気持ちを理解した上で、七水を利用としている。

 治輝は、かづなに支えられながらもゆっくりと立ち上がった。
 ふらつきながらも、治輝の視線はただ目の前の青年――佐光を睨み付けて離さない。

「佐光。『賛同者』の――おまえの組織の考えとやらじゃ、絶対にその子は救えない」
「……ほぅ?」
「その子がやってしまった事は、その子じゃないと償えない」
「寂しい事を言いますね。人間はお互いに助け合う為に……」
「黙れ――!」

 治輝は低い声で、だが同時に地に響くような声を佐光にぶつけた。
 その声を聞き、自分に酔ったような表情だった佐光はたじろいだ。

「助ける気もない癖に、やすやすとそういう言葉を吐くな……!」
「……なんという無礼な物言いだ、貴方はやはりここで消えた方がいい」

 二人は同時に決闘盤を構え、お互いに体勢を立て直す。
 同時にかづなは意を決したように目の前の女の子――七水を見つめた。

「――行きます!私のターン、ドロー!」

【治輝&かづなLP1500】

『治輝』 手札5枚
場:竜の逆鱗 トライデント・ドラギオン

『かづな』 手札5枚
場:伏せカード1枚 裏守備モンスター1枚

【佐光&七水LP2900】

『佐光』 手札4枚
場:伏せカード1枚 神の居城-ヴァルハラ 

『七水』 手札2枚
場:忘却の海底神殿 伏せカード1枚 コダロス 海底に潜む深海竜

「……スタンバイフェイズに<海底に潜む深海竜>にオーシャンカウンターを載せるよ」
「なら、私は手札から<神禽王アレクトール>を特殊召喚します!」

《神禽王(しんきんおう)アレクトール/Alector, Sovereign of Birds》 †

効果モンスター
星6/風属性/鳥獣族/攻2400/守2000
相手フィールド上に同じ属性のモンスターが表側表示で2体以上存在する場合、
このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択する。
選択されたカードの効果はそのターン中無効になる。
「神禽王アレクトール」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 相手の場には水属性モンスターが2体。アレクトールの特殊召喚条件は、確かに満たしている。
「<神禽王アレクトール>の効果を発動。対象は<忘却の海底神殿>です!」
「え……!?」

 場に舞い降りたアレクトールが不思議な音波を発した瞬間。
 七水の足元に広がっている海底神殿は一時的にその姿を消した。
「これで<忘却の海底神殿>には逃げ込めませんよ!私は更に<星見鳥ラリス>を召喚!」

《星見鳥(ほしみどり)ラリス/Rallis the Star Bird》 †

効果モンスター
星3/風属性/鳥獣族/攻 800/守 800
このカードの攻撃力はダメージステップ時のみ、
戦闘する相手モンスターのレベル×200ポイントアップする。
このカードは攻撃した場合ダメージステップ終了時にゲームから除外され、
次の自分ターンのバトルフェイズ開始時に自分フィールド上に表側攻撃表示で戻る。

 らりらりー。
 堂々と現れた<星見鳥ラリス>の鳴き声を聞いた治輝は、前のめりにずっこけそうになる。
 相変わらず色々とギリギリな鳴き声だ。一歩間違えば都の妙な条約に引っ掛かるんじゃないだろうか。

「バトルです!<神禽王アレクトール>で<海底に潜む深海竜>に、<星見鳥ラリス>で<コダロス>にそれぞれ攻撃します!」

 アレクトールが巻き起こした旋風が、星見鳥の決死の体当たりが、七水が操る二体の海竜モンスターに襲い掛かる。
 <星見鳥ラリス>は自身の効果によって、攻撃力を1600に上昇させた。

【佐光&七水LP】2900→2700
【佐光&七水LP】2700→2000

「……うぅ!」
 二体のモンスターが戦闘破壊され、七水は僅かに顔を顰めた。
 モンスターが光の破片となって飛び散っていき、かづなはジッとそれを見つめる。

「<星見鳥ラリス>の効果を発動!次のバトルフェイズまで、このカードを除外します!」
 ラリスはパタパタと異次元の穴に飛んでいき、そのまんまるとした体で突っ込んでいく。
 ラリスの姿が完全に飲み込まれると、異次元の穴はすぐに閉じてしまった。

「私はカードを2枚伏せて、ターンをエンドします!」
「二体のモンスターを一気に撃破。……正直助かったぜ」
 
 かづなのカード捌きを見て、治輝は率直な感想を口に出す。
 こちらの場ががら空きになった時はどうなる事かと思ったが、ただの杞憂だったようだ。
 かづなは出会った時に比べて、格段に強くなっている。
 当の本人は「えへへ」とこちらを向いて照れ笑いをした。なんだかその顔を見ているのが辛いので、目を逸らして前へと向き直る。
 次は佐光のターンだ、何を仕掛けてくるかわからない。
 
 佐光はカードをゆっくりとカードをドローすると、大きなため息をついた。
「サイコ決闘者との力が強くても、決闘に関してはまだまだですね……」
「……」
 佐光から嫌味を含んだ言葉をぶつけられると、七水はシュンとして俯いてしまう。
 カードをじっくりと選別し、佐光は一枚のカードを選び取りながら、言った。

「まぁいいでしょう。先程の不愉快な発言の件もありますし、そろそろ本気で行きましょうか」
「……随分見苦しい発言だな。今までは本気じゃありませんでしたーってか?」
「見ていればわかりますよ。自分は速効魔法『光神化』を発動!」

《光神化(こうしんか)/Celestial Transformation》 †

速攻魔法
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力が半分になり、
エンドフェイズ時に破壊される。

 予想外なカードの登場に、かづなは首を傾げた。
「<光神化>?そんなカードを使わなくても<神の居城-ヴァルハラ>があれば……」
「これだから素人は……何度も言わせないで下さい。見ていればわかります」

 佐光は手札から一枚のカードを選び出し、場に特殊召喚される。
 一見機械に見間違えてしまう程鋭利なフォルムを持つ、あのモンスターは……

《光神機(ライトニングギア)-轟龍(ごうりゅう)/Majestic Mech - Goryu》 †

効果モンスター
星8/光属性/天使族/攻2900/守1800
このカードは生け贄1体で召喚する事ができる。
この方法で召喚した場合、
このカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。
また、このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
 治輝はその姿を確認し、舌打ちを打つ。あのカードは先程<トライデント・ドラギオン>で倒したはずのモンスター……
「<光神機-轟龍>……二枚目か!」
「その通り。だが、それだけではすまない!自分は轟龍の特殊召喚時に<地獄の暴走召喚>を発動!」