シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-17

 治輝の操る<トライデント・ドラギオン>を、七水はゆっくりを見上げる。
 次のターン、何か仕掛けてくるのだろうか?

「エンドフェイズ、俺は超再生能力の効果で3枚ドローする!」

《超再生能力(ちょうさいせいのうりょく)/Super Rejuvenation》 †

速攻魔法
エンドフェイズ時、自分がこのターン中に
手札から捨てた、または生け贄に捧げた
ドラゴン族モンスター1体につき、デッキからカードを1枚ドローする。

 
 このターン治輝が行った該当する行動は
 <ドラゴニック・タクティクス>で2体のリリース、調和の宝札で1枚の捨て札……。
 つまり、合計で3枚のドローが可能だ。治輝はデッキの上から同時に3枚のカードを引き抜く。
「これで俺のターンは終……」
「待って、その前にカードを発動するよ」
「な……!?」
 治輝のエンド宣言に、七水の声が割り込んでくる。
 まさか次のターンじゃなく、このターンに何か仕掛けてくるのか……?

「私は<忘却の海底神殿>を発動」

《忘却(ぼうきゃく)の海底神殿(かいていしんでん)/Forgotten Temple of the Deep》 †

永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、
このカードのカード名を「海」として扱う。
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル4以下の魚族・海竜族・水族モンスター1体を
選択してゲームから除外する事ができる。
この効果で除外したモンスターを、
自分のエンドフェイズ時にフィールド上に特殊召喚する。

 突如七水の足元が味気の無い工場跡から、神秘的な海底神殿へと姿を変えた。
 先程湿度が上がったように錯覚したのは、このカードの発動の予兆だったのかもしれない。

「やっぱり来たな――海に該当するカード!これで<コダロス>の効果が」
「……お兄さんもそっちのお姉ちゃんと一緒で、私の話を聞いてくれないんだね。<忘却の海底神殿>のこーかで、表側表示の<コダロス>さんを除外するよ」
「な!?」

 ちゃぽん、と。
 フィールドにちんまりと存在していた海竜<コダロス>が、出現した神殿の中に沈んでいった。
 これで除外された<コダロス>は、七水のエンドフェイズまで戻ってくる事はない。
 その様子を見ていたかづなは、訝しげに七水の方を凝視する。

「これじゃ<コダロス>の効果が使えません……ミスでしょうか?」
「違うよ、全部予定どーり――<コダロス>さんがフィールド上から除外された事で、私は<ゼロフォース>を使うよ」

 七水の足元の海底神殿から紫色に発光するリングのような物が飛び出してくる。
 神殿の奥に僅かに見えるのは先程除外された<コダロス>だ。
 コダロスは水に入れて嬉しいのか、ご機嫌な様子で口にリングを咥え、<トライデント・ドラギオン>の3本の首にそれぞれ投げ入れていく。
 そして次の瞬間……ドラギオンの体が傾き、地面へと倒れ伏せた。

「ドラギオン!?」
「<ゼロフォース>のリングに触れたら、どんなに強いモンスターでも大人しくなっちゃうんだよ」

《ゼロ・フォース》 †

通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターが
ゲームから除外された時に発動する事ができる。
フィールド上に表側表示で存在する全てのモンスターの攻撃力を0にする。

「フィールド上全てを攻撃力0にするカード……!?」
 本来自身にも被害が及ぶカードだが、<忘却の海底神殿>の効果を上手くトリガーにしてそれを
見事に回避している……。
 治輝は七水のプレイングの巧さに舌を巻いた。この七水って子、相当できる子だぞ……!
 
「これならこの子で倒せるよね。私は<海底に潜む深海竜>を召喚」

《海底(かいてい)に潜(ひそ)む深海竜(しんかいりゅう)/The Dragon Dwelling in the Deep》

効果モンスター
星4/水属性/海竜族/攻1700/守1400
お互いのスタンバイフェイズ時に
このカードにオーシャンカウンターを1つ置く。
このカードがフィールド上から離れた時、
このカードに乗っているオーシャンカウンター1つにつき、 
自分フィールド上に存在する魚族・海竜族モンスターの攻撃力は
エンドフェイズ時まで200ポイントアップする。

「バトルフェイズ!<トライデント・ドラギオン>に深海竜で攻撃するよ!」
 海のような青色のドラゴンが、炎のような赤色のドラゴンの喉元を食い千切る。
 地に伏したドラギオンに抵抗する術はなく、そのまま砕け散っていった。

【治輝&かづなLP】3200→1500

「すまないドラギオン……!」
「私はカードを1枚伏せてターンエンド。そして<忘却の海底神殿>の効果――戻ってきて、コダロスさん!」

 先程ドラギオンにリングを投げていた海竜が、海底神殿からゆっくりと地面に現れた。
 どことなく表情が得意気で、先程ドラギオンをやられたこちらの心境は穏やかではない。
 そこで一連の攻防を見守っていた佐光が七水に向かって口を開いた。

「なかなか出来ますね。気には障りますが、貴方はやはり賛同者に相応しいようだ」
「……」
「だから賛同者って何……!?」

 佐光に疑問をぶつけようとしたその時、酷い激痛が襲ってきた。
 喉の奥に血の塊が詰まったような違和感。呼吸さえままならなくなる。
 治輝はたまらずに首を抑え、膝を折ってその場に蹲った。

「が……ッ!?」 
「なお君!?どうしたんですか、なお君!」
「おっと、しばらくは喋らせない方がいいですよ?死にたくなかったらね」
 
 かづなは慌てて治輝の元に駆け寄り、その体を支えた。
 佐光は場に似つかわしくない上品な笑みを浮かべ、蹲る治輝をその場で見下ろす。

「その子はただのサイコ決闘者とは違います。私よりも力が弱いと判断し、防御を怠ったんでしょうが……その子の力は絶大です。しかもその特性が素晴らしい」
「特……性?」
「『遅延性』とでも言っておきましょうか。ダメージそのものは見た目通り微弱なのですが、しばらく経つと滝のような痛みが襲い掛かってくる。そこの治輝とやらも腕は立つようですが、そういう輩に対してもこうして不意打ちに使えるわけです!」

 佐光の言葉を聞いている七水の表情は、影に隠れて見えない。
 かづなはそれを聞いて、治輝を支えながら佐光をキッと睨み付けた。

「何が『素晴らしい』ですか、無理やり幼い女の子連れ出して、そんな事に利用して!」
「無理やり?何を勘違いしているのか知りませんが、その子は自ら望んでこの場に居るのですよ」
「え……」
 かづなは七水の方に顔を向けた。
 その視線を感じてか、七水は僅かにその小さい顔を逸らす。
 少しの沈黙の後、やがてポツリと口を開いた。

「佐光さんの言ってること、本当だよ」

 そう言った七水の目は、キッと真っ直ぐにかづなを見据える。
 その青い瞳は、湖のようにゆっくりと揺れていた。