シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-29

 目が覚めると、見慣れた天井がそこにあった。
 悪い夢でも見ていたんだろうか、気持ちの悪い汗が所々に張り付いている。
 辺りを見回すと、徐々に意識が覚醒してくる。
 目の前にはスドちゃんがいて、ここは……私の部屋だ。

「おはよう、スドちゃん」
「……うむ」

 頭をボーっとさせたまま、スドちゃんに挨拶をする。
 ベッドから少し遠くで転がっているスドちゃんの姿は、相変わらず愛らしい。
 よいしょ、とベットから降りると、窓の方まで歩きカーテンをシャッと開け放つ。

 暗い。
 まだ、外は夜のままだった。

「……スドちゃん」

 不思議なくらい音の無いこの部屋は
 まるで、いつか行った病院のように静かだった。
 病院、そう――病院。

「私、なお君に、謝らなくちゃ」

 窓の向こうを見つめたまま、ただ唇を動かす。
 なお君がペインかどうかなんて、もう頭から消えていた。
 病院で私が、言ってしまった事。
 ただ会って、なお君に謝りたかった。

 窓に手の平を押し付けて、その冷たさを肌で感じる。
 窓はすっかりと結露していて、その水気が逆に心地良かった。
 指がゆっくりと下に流れていき、指紋が窓を汚していく。

「――なお君、早く帰ってこないかな」

遊戯王オリジナル episode-29










 それからしばらく時間は流れ――――

 ここ最近では、色々な事が起きていた。
 一つ目は愛城という人物を筆頭した組織――通称『ベイン』が表に出てきた事。
 構成員はペインは勿論、差別を受けた一部のサイコ決闘者達も含まれていた。
 彼等ベインの活動内容は『痛みを知らぬ者に痛みを与える』事。
 以前から一般人には、サイコ決闘者に迫害を加える風潮があった為、これに賛同をする者は多かった。

「痛みを知らないから、他人を平気で傷付け、平然とできる!ならば、痛みを知らない者は、一度それをその身に受ける必要がある!」

 リーダーである愛城という人物は、そう声高に主張している。
 彼女には不思議なカリスマ性があり、それも相まって『賛同者』を名乗る者達はその数を増していった。
 だがその組織体制は極めてずさんで、その主張は曖昧だ。
 『痛みを知らない者』の基準は特に決まっていないようで、相手に断定されれば最後、最悪殺されてしまうケースもあるらしい。

 と、そんな内容のニュースを、僕は牛乳を飲みながら聞いていた。
 今日も似たような内容ばかりで、役立ちそうな情報は放送されていなかった。
 コトン、とカップをテーブルに置くと、急いで身支度を整える。そろそろ時間だ。

「今日こそ、何か見つかればいいんだけどなぁ」

 独り言を呟きながら外を出ようとして、忘れ物がある事に気が付いた。
 危ない危ない、デッキが変わったとはいえ、アイツが手元にいないと何か落ち着かない。
 急いで自分の部屋に入り、財布に一枚のカードを忍ばせる。
 これで、準備は万端だ。

「今日もよろしく、ライオウ!」

 行方不明の兄さんの情報、今日こそ何か掴んでやる!
 そう自分を鼓舞しながら、僕は家の扉を開け放った。