シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-68

【七水LP4000】 手札4枚  
場:伏せカード一枚 

【愛城LP3000】 手札2枚
場:アルカナフォース-THE DARK RULER(守備表示。次のターンまで表示形式変更不可)
 伏せカード一枚
 カードを一枚セットし、愛城はターンを終了した。
 ダークルーラーは自身の二回攻撃の反動で守備表示になり、七水にターンが渡る。
 だが、七水は驚いたような顔をして動かない。ドローをすることも忘れ、愛城に問いかける。

「おとうと……?」
「――少し喋り過ぎたかしらね。貴方のターンよ」
「……」

 どうやら、答えてくれる気はないらしい――そう七水は判断した。
 七水は気持ちが揺れるのを誤魔化すように、カードを一枚ドローする。
 次のターン、ダークルーラーは攻撃することができない。
 手札のこのモンスターを召喚する為の、生贄を揃える絶好のチャンスだ。

《海竜(リバイアドラゴン)-ダイダロス/Levia-dragon - Daedalus》 †

効果モンスター
星7/水属性/海竜族/攻2600/守1500
自分フィールド上に存在する「海」を墓地に送る事で、
このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊する。

(あとはこの子を、召喚するだけ!)
 七水はそう思案し、モンスターを一枚セットする。
 万が一伏せモンスターが破壊されても、今ドローしたカード――

《リミット・リバース/Limit Reverse》 †

永続罠
自分の墓地から攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 これを使えば、リリースに困る事は無い。
 自然と七水は「うん」と、実際に声に出し、伏せカードを一枚セットした。

「私のターンは終わり。愛城さんのターンだよ」
「どうやらいいカードを引いたみたいね。私のターン……」
 ドロー、と。
 何かを呪うような声で、デッキからカードを一枚引いた。
 そのカードを確認し、七水の方を見つめると、愛城は口元を大きく歪めた。

「さて、私はスタンバイフェイズに――セットされている通常魔法を発動するわ」
「え……?」

 スタンバイフェイズに通常魔法?
 七水は愛城の言葉に、驚きを隠せなかった。
「通常魔法は、メインフェイズにしか発動できないはずだよ。例外なんか……」
「ところが例外があるのよ。――私は通常魔法<邪悪な儀式>を発動!」

《邪悪(じゃあく)な儀式(ぎしき)/Curse of Field》 †

通常魔法
フィールド上の全てのモンスターの表示形式を入れ替える。
発動ターン、モンスターの表示形式は変更できない。
このカードはスタンバイフェイズにしか発動できない。

 邪悪な、儀式?
 見た事も無いそのカードの使用に、七水は驚きを隠せない。
「どうやら本当に存在すら知らなかったようね。――貴方決闘者として失格だわ」
「……ッ」
「邪悪な儀式の効果――カードの効果は、ルールよりも優先される」
 勿論、と一言付け加え……愛城は口元を吊り上げ、言った。

「カード効果の誓約――ダークルーラーの表示形式変更不可能力も、無視する事ができる!」
「え……」

 攻撃力4000のダークルーラーが、再び表示形式を攻撃表示へと変化した。
 腕を盾にし、縮こまっていたダークルーラーが、その二つの龍の口が再び七水へと狙いを定める。
 そして、それは七水のモンスターも例外ではない。

「あ……れ?」
「何を驚いているの?<邪悪な儀式>が影響を及ぼすのは、裏側表示モンスターと言えど例外じゃない!」

《悪魂邪苦止(おたまじゃくし)/T.A.D.P.O.L.E.》 †

効果モンスター
星1/水属性/水族/攻   0/守   0
自分フィールド上に存在するこのカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分のデッキから「悪魂邪苦止」を手札に加える事ができる。
その後デッキをシャッフルする。

「あ……あ……」
 七水が壁として伏せていたモンスターが、無残にも攻撃表示に変更されていた。
 象と蟻――その言葉すら、この二体のモンスターの体格差は表せない。
 それ程に二体の大きさの差は、圧倒的だった。
 七水の伏せカードは、蘇生カードと発動条件の満たせない<ゼロ・フォース>
 この局面を切り抜ける力は、無い。

「その表情。どうやら終わりみたいね――ダークルーラー!」

 主人である愛城の言葉に反応し、ダークルーラーは上空へと飛翔した。
 建物の二倍以上の高度まで上昇したダークルーラーは、二つの龍の口に光を集束させていく。
 七水のモンスターの攻撃力は0――そして、相手は二回攻撃の能力を持っている。
 ライフポイントも、七水の体も、耐えられるはずの無い力だ。
 七水はぺたんと地面に膝を付き、呆然自失となってしまう。

「文字通りあの世で後悔するのね。……やりなさい!」

 スローモーションのようだった。

 改めて七水に、二つの龍の口が向けられる。
 その二つの口は、二つの強大な光を宿している。
 光の集束が最後の段階に入り、その光は更に純度を増していく。
 そして、集束が終わり――
 七水を殺す為の銃口は、白い光を撒き散そうとした。
 その瞬間

 ヒュッ、と。

 高速で動く『何か』が、ダークルーラーの上空から下へと通り過ぎた。
 そして、次の瞬間。その二つの龍の口に亀裂が走った。

 ――凄まじい、爆発。
 とびきりの極光を吐き出そうとした二つの龍の口は真っ二つに切り裂かれ、その力は内側へと向けられる。
 放出しようとした力を抑えきる事ができずに、ダークルーラーは自爆してしまったのだ。
 その凄まじい爆発は周辺の雲を裂き、木々を揺らし、大地を震えさせる。
 七水はそれを呆然と眺めながら、しかし状況が理解できない。
 どうやら私は助かったみたいだけれど……一体誰が、何をしたと言うんだろう。

「……どうやら主賓のご到着かしら?」

 自身の最強の僕が倒されたというのに、愛城は余裕を顔に滲ませながら、上空へと視線を移した。
 七水も釣られて、雲一つなくなった空に顔を向ける。
 そして、その顔は喜びに染まっていった。

 愛城は手で髪を整え、上空にいる『竜』を睨み付け、言った。
 それに応えるように、その竜に乗っている『誰か』は不貞腐れたような声を出す。


「――遅刻は校則違反よ。時枝君?」
「今日は休日だ。馬鹿野郎」

 そこに現れたのは他でもない。
 ベインの本拠地に向かったはずの『時枝治輝』その人だった。