シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル episode-67

「裏切ったって、そんな――」
「そんなつもりはなかった。とでも言うつもり?随分都合のいい人間なのね、貴方」

 手で髪を流しながら、愛城は七水に対して辛辣な言葉をぶつける。
「確かに貴方は、今回は上手く行ったかもしれない。でもそれがいつまで続くかは、わからない」
「そんな事……」
「異能の者というのはいつだって迫害を受けるものよ。貴方はまた問題に直面したら、その時だけ仲間面して他のサイコ決闘者に頼るのかしら」
「……」
「結局貴方のやっている事は所詮問題の先送り。だから貴方の『ベイン』に対した裏切りは、これ以上ない程に浅はかだわ」
 愛城はかつてグランドだった場所の中央で、七水を睨み付ける。
 そして同時に、その口元を大きく釣り上げた。

「最後のチャンスよ七水ちゃん。――ベインに戻りなさい」

 はっきりとした口調で、愛城はそう言い放つ。
 それは誘いの言葉だが、同時に威嚇と、忠告の言葉でもあった。
 これを断れば二度目はないぞ、と。
 七水は喉元にナイフを突きつけられているような、冷たい感触を感じた。
 それでも

「――ごめんなさい」
 七水は謝りながら、決闘盤を展開させた。
 後方に待機している虎王に小さく呟くと、ドゥローレンは純也を連れて病院へと走っていく。

「そう、それが貴方の答えなのね」
 愛城はさして驚きもせず、しかし少しの憐憫を表情に浮かべながら、決闘盤を展開する。
 
 決闘!!
 グランドの中央で二人の声が交差し、二人の決闘が始まった。



【七水LP4000】 手札5枚  
場:なし 

【愛城LP4000】 手札5枚
場:なし

「わたしの、ターン」

 少し堅い動作で、七水はデッキからカードをドローした。
 純也君があそこまで頑張っても、打ち崩せなかった愛城さんのデッキ。
 迂闊な動きをすれば、ライフはすぐになくなってしまう。
 ――ここは、慎重にいかないと。

「わたしはカードを2枚セット、モンスターを一枚セットして、ターンエンドするよ」
「私のターン。――随分慎重ね。なら私から攻めさせてもらうわ」
 愛城はそう宣言すると、手札を扇状に開き、流れるように一枚のカードを選び取る。
「私は<神の居城-ヴァルハラ>を発動!」

《神(かみ)の居城(きょじょう)-ヴァルハラ/Valhalla, Hall of the Fallen》 †

永続魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 上級の天使が来る――!
 七水はヴァルハラの発動で更に警戒を強め、冷や汗を流す。
 愛城はそんな七水を満足そうに眺めると、一枚のカードをフィールドに叩き付けた。

「<神の居城-ヴァルハラ>の効果で、手札の<創造の代行者ヴィーナス>を特殊召喚!」

《創造(そうぞう)の代行者(だいこうしゃ) ヴィーナス/The Agent of Creation - Venus》 †

効果モンスター
星3/光属性/天使族/攻1600/守   0
500ライフポイントを払って発動する。
自分の手札またはデッキから「神聖なる球体」1体を
自分フィールド上に特殊召喚する。

「そして<創造の代行者ヴィーナス>の効果を発動!ライフポイントを払う事でデッキから2体の<神聖な球体>を特殊召喚するわ!」

《神聖なる球体(ホーリーシャイン・ボール)/Mystical Shine Ball》 †

通常モンスター
星2/光属性/天使族/攻 500/守 500
聖なる輝きに包まれた天使の魂。
その美しい姿を見た者は、願い事がかなうと言われている。

【愛城LP】4000→3000

「一ターンで三体のモンスター……!?」
「言ったでしょう?私から攻めさせてもらうと!」
 茶色の羽を生やした黒き堕天使を囲むように、二体のモンスターが召喚された。
 そして三体のモンスターを召喚したという事は……。

「神をも見放す白き痛み、具現せよ。アルカナフォースex……」

 愛城が手札を一枚、天に向かって放り投げた。
 突如、七水の視界が大きく揺さぶられ、焦点が上手く定まらなくなる。
 (来る――――!)
 先程と同じ予兆を見た七水は、冷や汗を一つ流す。
 3つの閃光が地面から溢れ出し、光の中にいる<創造の代行者ヴィーナス><神聖なる球体>合計3体のモンスターが、その白い光を浴びて消し炭になってしまった。
 
「――来なさい。ダークルーラー!」

 光にたまらず目を瞑った七水は、数秒経ってようやくその目を開いた。
 すると、目の前には巨大なモンスターが陣取っていた。
 ドラゴン族のような首を2つ持ち、機械のような関節を持つその姿を確認し、七水に戦慄が走る。

 ……早くも、このモンスターの召喚を許してしまった。

《アルカナフォースEX(エクストラ)-THE DARK RULER(ザ・ダーク・ルーラー)/Arcana Force EX - The Dark Ruler》 †

効果モンスター
星10/光属性/天使族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を
墓地へ送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
●表:このカードはバトルフェイズ中2回攻撃する事ができる。
この効果が適用された2回目の戦闘を行った場合、
このカードはバトルフェイズ終了時に守備表示になる。
次の自分のターン終了時までこのカードは表示形式を変更できない。
●裏:このカードが破壊される場合、フィールド上のカードを全て破壊する。

 愛城が先程投げ放ったカードが、下に落ちて来た。
 パサリ、と場に落ちたそのカードの正体は――当然ダークルーラーだ。
 その頭の向きは、真っ直ぐ七水の方を向いている。

「正位置、か。手間が省けていいわね」

 ダークルーラーの正位置の効果。
 それは即ち、攻撃力4000の二回攻撃を意味している。
 七水は目の前の巨大な最上級天使に恐怖を抱きながら、しかし一つの希望を見出した。
(でも、このターンさえ凌げば……次のターンは攻撃されない!)
 もし手札に存在するこのカードの召喚に成功すれば、ダークルーラーだって倒す事ができる。
 その為には、このターンをなんとしても凌がないと。

「バトルフェイズ。ダークルーラーで裏側守備表示モンスターを攻撃――レイニング・オリジン!」

 瞬きをする暇もなかった。
 白い光が龍の口から発せられ、その攻撃は一瞬で裏側守備表示モンスターを葬りさる。
 七水の周りには破壊されたモンスターの欠片が弾け飛び、更にダークルーラーはもう一つの口を大きく開けた。
「リクルーターですら無いなんて残念ね。ここで幕引きよ――ダークルーラー!」
 二度目の攻撃が、攻撃の余韻すら待たずに七水を襲っていく。
 だが、七水は恐怖を感じつつも、あくまで冷静だった。

「罠カード発動!<ガード・ブロック>!!」

《ガード・ブロック/Defense Draw》 †

通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 薄いバリアのような光が七水の目の前に構築され、ダークルーラーが放った極光を打ち消し、粉々に砕け散った。
「私の戦闘ダメージをゼロにして、カードを一枚ドローするよ!」
「小賢しい手ね。そうやって問題を先送りにしても、痛みを先送りにしても、いつかはソレに食われる運命なのに」
「……それでも、私はかづなおねえちゃんの言葉を、みんなとの未来を信じたい」

 それが、七水の本心だった。
 あの時、私を優しいと言ってくれたかづなおねえちゃんと
 サイコ決闘者である私をまた受け入れてくれた、みんなを疑いたくない。
 その一心で、七水は愛城と敵対している。
 そんな七水を見て、愛城は何処か懐かしいような物を見るような表情を浮かべた。
 そして

「――私の弟もね。似たような事を言っていたわ」

 愛城は目を細め、苦虫を噛み潰すような顔をしながら、そう言い放った。