シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルS prologue-02

「で、用事って言うのは!」

 相変わらず元気いっぱいの純也君が、そう私に話しかけてきた。
 今私がいるのは、さっきの部屋の下に位置する芝生の上だ。
 目の前の純也君はほんの少し髪が伸びたようで、以前よりほんの少し大人っぽく見える。
 その隣にいる七水ちゃんは以前よりもずっと女の子らしくなっていて、今日も可愛らしいスカートを着こなしていた。
 そんな風に二人を感慨深げに見ていたら、七水ちゃんに視線で続きを促されたので、コホンと咳払いをする。

「突然来てもらったのは……実は、この本の製作者を探して欲しいんです」
 そう言いながら、私は先程の参考書を決闘盤の収納スペースから取り出した。
 興味津々と言った風に二人はその参考書を手に取り、表紙をまじまじと見つめる。

「『ブルーアイズ・ホワイトドリル』?かづなおねえちゃんも参考書読むんだね」
「七水ちゃん……その台詞は何か他意を感じます」
「?」

 無邪気に感心したような声を上げる年下の女の子を見て、私は「トホホ……」と目を線にする。
 ぐったりと手を脱力させて七水ちゃんに今の心境を必死に伝えようとするが、そもそも参考書に視線が釘付けで、七水ちゃんはこっちを全く見ていない。
 そんな私を見るに見かねてか、純也君が私に近付いてきた。

「かづなおねえさん」
「純也君。わかってくれますか……?」
「はい。僕も似たような経験ありますから……」
 
 純也君は七水ちゃんと付き合いも長い。
 今の私と同じような心境になった事も多いのかもしれない。
 そう考え私は「若いのに大変だなぁ、わかってくれて嬉しいなぁ」等と思っていると……

「読む気が全く無くても、表紙が格好いいとついつい買っちゃいますよね!」
「全然わかってくれてないいいいいいいいいい!」

 ガクーとうなだれながら、私は魂の叫びを上げた。
 この二人似た物同士だ。しかも、二人とも天然だ……。
 やはり唯一まともな、年長者である私がしっかりしないといけない。

「……コホン、とにかくその(ふざけた)本の作者を探して欲しいんです」
「かづなおねえちゃん、今小さい声で何か言わなかった?」
「気のせいです気のせい。勿論純也君の探し物のついでで構わないんで、手伝ってもらえないでしょうか?」

 純也君の探し物。
 それは行方不明になった、純也君のお兄さんの手掛かりだ。
 七水ちゃんはそれの手伝いをしていて、結果的に二人は一緒にいる事がとても多い。
 私もそれとなーく手伝おうと思い立った事があるのだが、遠回しにスドちゃんに止められてやめた。確かに色々な意味でお邪魔な可能性がある。
 
「いいですよ!兄さんの事を探す時は足を使うのが基本だから、こういうのは慣れてます!」
「かづなおねえちゃんの頼みなら」

 そう言って、純也君と七水ちゃんはすぐに快諾してくれた。
 そんな二人に「ありがとう」とお礼を言って、候補を何個か伝える。
 その後に少し私は慎重な表情になり、二人に言った。

「そうそう――危ない目にあったら、私にすぐ連絡してくださいね」 
「うん、わかってる」
 七水ちゃんはその言葉の真意をすぐに察したのか、力強くコクンと頷いた。
 純也君も同じように、けれど少し気を引き締めるように無言で頷く。
 三人の作者探しは、そうして始まった。






「で、記載された住所に来てみたのはいいんですけど……」
 到着したその場所は、酷く見慣れた所だった。
 二階建ての一軒家を改造したかのような、こじんまりとした佇まい。
 外にある階段は金属製で、開ける時に窓のような音の鳴る扉。

 この街で、唯一のカードショップ。

 私はそれを見てゴクリと、軽く唾を飲み込む。ここに来るのは、本当に久し振りだからだ。
 記載されているのは一階ではなく二階のシングルコーナーなので、外にある階段に足をかけた。

 カン、カン、カン。
 一段登る度に甲高い金属音が、規則正しく辺りを響かせて行く。
 タン、と。
 前の方から聞こえてくる頼もしい音。
 自分から遠ざかっていく悲しい音。
 実際の階段からは、そのどちらも聞こえてくる事はなかった。

「……」
 階段を登りきり、無意識にてっぺんから空を見ようとして、それをやめる。
 私は無言のまま二階の入り口の扉を開け、ショップの中へと入った。