シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルS prologue-04

 以前とは違う、銀色で美しい形状。
 一般的な展開式の決闘盤とは一線を画す、その存在感。
 サクローさんが手に取ったそれは、確かに以前なお君が着けていたものとは、何かが違うように感じられた。
「ただ、一つ問題があるんや」
「問題……ですか?」
 サクローさんはそう言うと、苦い表情を浮かばせる。
「副作用――いや、単にまた煮詰め切れてない部分があるっちゅー事や。以前より防げる力の限界は格段に増したんやけど、その分力のコントロールができなくなっとる」
「それって、つまり」
「そうや、使えば嬢ちゃんは勿論……周りの人間を怪我させてまうかもしれん」
「……」

 サクローさんにそう言われ、私は考える。
 現状の私は、スドちゃんの力を借りればペインと戦う事はできる。
 でも、それは時間稼ぎ程度のレベルであって、倒したりする事はできない。
 今のままでは、守る為の戦いにも限界があるのも事実だ。

 でも、これを使えば倒す為の戦いもできるようになる。
 何より、いつも負担を強いてしまっているスドちゃんの負担も減らせるようになる。
 今までより、遥かに守れる物も大きくなる。

 ……同時に、力が暴走すれば周りの人を傷付けてしまう可能性が高くなる。
 人払いをしてからそれを装着すれば、勿論私以外への被害は回避できるけど――

「うーん……」
 
 目の前の『力』に対し、私は目を閉じて考え込む。
 確かに力は欲しい。今の状態で守れるモノは、本当に微々たるものだからだ。
 勿論誰かを傷付ける可能性があるのは、怖い。
 でもリスクを怖がってこれを手に取る事を拒み、結果コレが無いせいで誰かを守り切れなかったら、その方がもっと怖い。

 悩み込む私をサクローさんは値踏みをするような目で見つめてくる。
 そして、次の瞬間。

 プルルルルルルルル……

 決闘盤に入れていた携帯電話が、振動音と共にけたたましく鳴りはじめた。
「あ、すいません」
 一言サクローさんに会釈をすると「ええよ」と言ってくれたので電話を取る。
「もしもし?」
『純也です! かづなおねえさん、旧商店街前にペインが!!』
 また出たんだ。とかづなは息を飲む。
 以前よりはペインや、それに関係するトラブルは減ってきているはずなのだが
 ここ数日は以前と同じ頻度で出現して来ている。
「わかりました!すぐ行きますから、それまで絶対に戦わないで!」
『了解! あと気をつけて、なんか普通のペインとは雰囲気が違うから!』

 純也君の言葉を聞き終えると、携帯を切り急いで身支度を始める。
 サクローさんは、そんな私を座りながら眺めた。
「……行くんか?」
「はい……ごめんなさい、この話はまた今度お願いできますか?」
「了解や。急ぐ話でもない、ゆっくり考えてみ」
「ありがとうございます!」

 ニカっとサクローさんが笑うと、私も小さく笑い、すぐに部屋を飛び出した。
 カードショップの外に出ながら、私は決闘盤を操作して、専用回線でスドちゃんと連絡を取る。
「スドちゃん!!」
『心得た!』 
 ペインが街に出現するのは初めてではない。短い交信でお互いの意図を察し、回線を切る。
 階段を一段飛ばしで一気に降り、旧商店街の方に走る。
 しばらく走っていると、目の前が少し歪み……鉄の棒のような物が出現する。

 光学迷彩
 光を完全に透過・回折させる技術らしいが、何故スクラップドラゴンであるスドちゃんが使えるかは謎だ。
 透明になっていない唯一の部分、鉄の棒に走りながら手を伸ばし――掴んだ。
「よいしょ、お願いしますスドちゃん!」
「了解した!」
 私の掴まった鉄の棒は一気に上昇し、それと同時にスドちゃんが姿を現す。
 シャッターのような翼に、鉄のボディ。
 発光ダイオードのような目を光らせ、手足にネジのようなドリルが付いている。
 私は鉄棒から手を離すと、そのシャッターのような立派な翼に、おそるおそる乗った。
 
「よし、飛ばすぞい!」
「はい!」

 目指すは旧商店街。
 私はスドちゃん一緒に、猛スピードで向かって行った。














「――さっきから、動かないね」
「うん……」

 七水と純也は困惑していた。
 目の前の『ペイン』は私達を見つけてから、微動たりともしていない。
 攻撃の意思のない、理性のないペイン――今までには例がないタイプだった。
 それでも油断はせずに、お互いにそのペインを警戒していると……。

「お待たせしました!」

 上空から、声が聞こえてきた。
 同時に目の前の空間が歪み、巨大な機械竜――スドが姿を現す。
 そしてその上に乗っていたかづながスタッと地上に降り立つと、短いおさげがフワリと揺れた。 
 それを見た七水は歓喜の表情を浮かばせ、純也は驚きの余り汗を浮かばせる。
「かづなおねえちゃん!」
「あ、相変わらず来るのめっちゃ早いね……」
「それはスドちゃんに言ってあげてください。ペインは何処ですか?」
「うん、それがね」
 七水が事情を説明する。ペインを見つけてから微動だにしない事や、雰囲気がいつもとはおかしい事。
 それらを聞いて、かづなは「うーん」と唸り声を上げる。
「一体、なんで全く動かないんでしょう……?」



「――それは、僕が説明するよ」


 ゾワリ、と。
 場の空気が、一気に張り詰めたかと思うと、ペインのすぐ近くから、一人の青年が姿を現した。
 気弱そうな物腰で、少しオドオドとしているその青年は、どう見ても一般人にしか見えない。
 だけど……かづなには、ハッキリとわかってしまう。

「そのペインは僕が倒したんだ。信じてもらえないかもしれないけど」
 そう言って青年が爽やかな笑顔を浮かべると――

 静止していたペインが、爆発した。
「ッ――スドちゃん!」
「わかっておる!」
 いち早く反応したかづなの指示とほぼ同時に、スドはその翼を大きく広げ、かづな達の前に展開する。
 少し遅れて純也は七水の手を引き、その翼の中へと避難する。
 爆発が収まると、先程ペインが居た場所に……巨大なクレーターができていた。
「これで、信じてもらえたかな……?」
 そう言って、青年は子犬のような瞳でこちらを見据える。
「あの人、なんだか怖い……」
 七水はその青年から距離を取るように、純也の後ろに隠れる。
 純也も恐怖を感じているようだったが、それでも精一杯青年を睨み付けていた。
 その視線をサラリと受け流しながら、青年は言葉を続ける。
「ペインを生かしておけば、きっと現れるって思ってた」
「私達に会う為にこんな事を?」
 かづなが訝しげにそう言うと、青年はコクリと頷く。

「僕は――力が欲しいんだ。その為に、君達に協力して欲しい」
「え……」
 
 続く青年の言葉に、かづなは言葉を失ってしまった。
 それはかづな自身が悩み、欲していた物と、同じだったから。
 だからこそ、青年が決闘盤を展開した事に気付くのが、一瞬遅れてしまった。
 青年は決闘盤をセットし、一枚のカードを発動する。

「速効魔法発動。次元誘爆――!!」

 そう、青年が叫んだ瞬間。
 三人の視界は真っ白に染まり、何も見えなくなってしまった。
 最後に、青年の声だけが辺りに響き渡る。





「――ようこそ、僕達の世界へ」