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遊戯王オリジナル なれなかった人【後編】

 それから、色々な事を聞いた。
 木咲から様々なものを奪ってしまった『力』の名前は、ペインと呼称されるものだとか。
 この力は、正規のサイコ決闘者を遥かに凌駕する力だとか。
 『ペイン』の力で負った正体不明の障害は、危害を加えたペインが絶命すると治るケースもあるだとか。
 

「――俺が死ねば、木咲は助かる」
 それは、とても魅力的な選択伎に思えた。
 そもそも、生きる事に固執する理由が、もう俺には見当たらない。
 
 誰かを後押しする……なんて青臭い夢を語っても、誰かの足を引っ張る事しかできなかった。
 結局この人生で、俺の成して来た事はなんだろうか?

 何も成してなんかいない。

 どんなに偉大な事をした所で、俺のした事は埋まらない。許されない。
 それ以前に、何かを成せるような大層な人間でもない。
 客観的に見て、俺は死んだ方が良い人間にしか思えなかった。
 ふと横を見ると、夜の車道を車が通り過ぎて行った。
 それを見送り、少し思う。

 ――もう少し右に足を踏み出したら、どうなるだろう?

 頭の中にイメージを描くが、上手く想像できなかった。
 自分で引き金を引けないのなら、他人に引いてもらえばいい。
 笑えない言葉遊びだが、俺は顔の見えない誰かに気を配れる程、善人でもなかった。

 そして猛スピードの車が、また一台こっちの方に向かってくる。
 冷静に考えれば、足だけでは駄目だ。
 もっとこう、致命的な物でないと。
 そう思い、タイミングを合わせる。

 だが

 飛ぼうとする瞬間、また木咲の姿が目の前に見えた。
 何かを悔いてるような顔だった。
 今の、自分のような顔だった。

 俺は飛ぶのを思い留まり、その姿をジッと見つめる。
 これもまた、さっきの幻影だろう。
 いや、違う。これは恐らく俺の『想像』だ。

「もし、今、飛んでいたら……」

 木咲は自分を責め、嫌い、そういった感情に押し潰されるかもしれない。
 優しい奴だから
 他人の痛みを、自分の事のように感じれる奴だから。

「だからこそ、助けてやりたい」
 その為には、死ななければならない奴がいて
 でもソイツが死ぬと、木咲は今以上に苦しんで

「だけど――どうしろ……ってんだよ……!」

 感情に任せ電柱を殴ろうとして、やめる。電柱に罪はない、悪いのは俺だ。
 そんな時、路地裏の方から声が聞こえた。
 切迫した声だ。悲鳴と言ってもいい。

 雑念を振り払い、その声の主の元に駆け出す。
 すると、そこには小学生ぐらいの子供がいた。
 そして、その子に悲鳴を上げさせた元凶も、そこにいた。

「ペイン――!」

 それは人の姿をしているようで、やはり人とはかけ離れていた。
 ――完全になってしまったペインは、理性を失い。人を無差別に襲う。
 どうやら、あの医者から聞き出した情報は間違いないものらしい。
 ペインは全身をガラスのようなもので覆っている。
 そのガラスはどのような材質で出来ているのか、鏡のような美しさを備えていた。
 無言で決闘盤を展開させ、戦闘態勢に入る。
 よく見ると、子供の付近には人が倒れているようだった。
 その身体を中心に、色のわからない液体がベチャリと辺りに広がっている。

「……」

 チリ、と。
 頭の奥が焼ける感覚がした。
 鋭くペインの方を睨むと、その視線に気付いたのか、ペインの注意がこちらに向く。

「おまえらが、今ニュースで……世間でどう言われてるか知ってるか?」

 恐らく、もう言葉は通じないだろう。
 だが、そんなものは関係ない。

「ペインは人類に害を成す存在。存在するだけで罪な存在。死すべき存在」

 ガラスのような体は街灯の光を反射し、鏡のように景色を、辺りの人間を映し出す。
 その美しい鏡に向かい、泣き笑いのような表情を浮かべ……そのまま睨み付ける。
 子供を、動かない体を、決闘盤を展開したペインを、視界に納め

「俺も――――心底そう思うよ!」

 ありったけの殺意を篭め、鏡の身体を砕きに突進していった。









 





 ――敵は、倒した。子供も、どこかへ逃げてくれた。
 だが、色々と慣れていない事もあってか、体はボロボロだった。
 痛みは感じない。爽快感もない。
 でも、見つけたものもある。

 何かを創って、何かを成す事ができずとも
 この世の『害』と呼ばれるこいつ等を倒す事で、今回のように、何かを助ける事ができるかもしれない。
 ……もちろん、それが自分を保つ為の言い訳だという事も自覚してる。
 こんな事を続けても、何の意味もないかもしれない。
 何をしても、埋まらないかもしれない。
 
 それでも生きている間に、一つだけでも何かを掴めるように。
 もう少しだけ、この世界に生きてみよう――と。








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