シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルstage 【EP-10 サイドN】

 リソナは興味津々といった様子。
 一方テルさんは若干の警戒を滲ませつつ、それぞれ機械竜に注視した。

 機械っぽいドラゴン。
 かつて人間に捨てられた物達の代表者だった<スクラップ・ドラゴン>
 その精霊が目の前にいる、通称スドだ。
 普段はその姿を小さくしていて、並の模型よりも数段細かいディテールが、相変わらず滑稽に見える。
 少し感慨深く思っていると、リソナはスドが気に入ったのか――そのボディをバシバシ平手で叩きまくり、激しいスキンシップを行っていた。

「何これカワイイですー」
「……小僧、なんだこの小娘は」
「ああ、紹介しよう。この子はリソナ……正式名称はリソナ・ディーバンク。趣味は輝きを吹き飛ばす程のドロップキックだ」
「いや、そういう事ではなく」
 スドはバシバシ叩かれるのを目を瞑り体を震わせながら堪えている。
 俺の説明を聞いていたテルさんは「リソナのフルネームそんなだったか……?」と首を傾げていた。
 ともかく、簡単な自己紹介くらいは済ませておくべきだろう。
 お互いの事に関しても、色々と情報を交換する必要がある。
 
「歩きながら話そう。俺達の事、スドの事――話す事は山積みだ」 
「そうだな、まずは動こう。情報交換と情報収集、同時にやるに越した事はねぇからな」

 テルさんもそれに同意してくれたので、俺達はその場から歩き出した。











「――つまりスド以外に、一緒にいた三人も飛ばされた可能性があるわけか」
「そうなるのぉ。ワシが目を覚ました周りにはいないようじゃったが……」
「三人、か」

 その単語を聞くだけで、自分の中のスイッチが入れ替わった。
 香辛料少女と、後輩のような存在の純也。
 そして、かづな。
 飛ばされた状況を聞く限り、相変わらず危険な事を繰り返しているらしい。
 それを聞き、スドに怒りをぶつけたくなったが、それはすぐに躊躇われた。

 ――俺が、頼んだからじゃないか。

 愛城は言った。
 サイコ決闘者、力有る者達に対しての迫害が減少していけば、組織はしばらく様子を見ると。
 だがこの先何も行動を起こさないとは、一言も言っていない。
 その為の努力を、俺は自分の世界でやらなければならなかった。
 でも、あの世界にいられない理由が、俺にはあった。
 どんなにあの場に居たくても留まれない理由が、俺にはあった。
 だから、俺は託した。
 決して軽くはない荷物を、かづなに託さなければならなかった。

 ペインから人を守る。
 ペインの被害が増えれば増えるだけ、人々は力の持つ者をより差別するようになる。
 一般人から見たサイコ決闘者は、ペインの種のようなものだ。
 いつか花開き人を襲う、邪悪な種子。
 その認識を少しでも抑えようと、被害を抑える為に、守り人になる。

 それ以外にも傲慢に力をふりかざしているサイコ決闘者を抑え、説得したり
 ペインの恐れが抜けなくなってしまった人の相談を聞いたり
 そんな大仕事を、俺はかづなに任せた。押し付けたと言ってもいい。

 ――その危険性を、今になって再認識させられた。
 現にこうやってかづなが違う世界に飛ばされたのも、俺があんな大事を頼んだせいだ。
 悔やんでいるわけではない。だがその怒りを誰かにぶつける事は、絶対にしてはいけない事。
 何の力も持たないかづなに重い荷物を託したのは、他でもない俺自身なのだから。
 尤も、精霊であるスドと連携できれば、並の攻撃が通る事は少ないが……

「今はここにスドがいる。かづながペインに襲われたら、ひとたまりもない」
「ペインはサイコ決闘者が進化し、理性を失ってしまった姿……だったか。ゾっとしない話だな」

 テルさんが神妙な表情を浮かべ、手を顎に当てる。
 こちらの状況を話した時、二人は随分と驚いていた。
 何でも二人は『ペイン』という単語すら聞いた事が無いらしい。
 だがこちらの世界では早期から全国的にニュースで広まり、有り触れた存在だ。
 それを知らないという事は、どこか違う世界の人間といった方が説明がつく。
 昔はこういったファンタジックな話は信じていなかったが、ここまで超常的な事態に関わり過ぎていると、当たり前の事のように感じるようになってしまった。

 それはテルさんも同じようで、こちらが説明した『異世界』や『ペイン』の事も簡単に受け入れていた。
 一方リソナは――

「わかりました! もしペインが来たら私がやっつけてやるです!」
「あ、あぁそうだな……」

 やけに張り切っていた。
 手を不自然に回しているリソナから、目を不自然に反らす。
 二人の事は信用している。悪い人じゃないって事は、わかっている。
 だけど、自分がその『ペイン』である事を打ち明ける気にはなれなかった。

(こんなザマで――)
 力ある者に対する差別を減らす、なんて事が……本当にできるのだろうか?
 二人に打ち明かす事ができない。
 それは
 
 ――ペインが人間とは違うと、心の底では思ってるからじゃないか、と。

「……小僧、何を考えてるかは知らんが」
「わかってる、急いで三人を探さないとな」

 気持ちを切り替える。
 純也は決闘の腕前こそ目を見張るものがあるが、サイコ決闘者としての力は弱い。
 七水はその逆で、かづなにはサイコ的な力が何も無い。
 それでもアイツなら何とかしてくれるような、不思議な感覚もあるが……それでも。

 俺は二人に振り返り、少し言葉を濁しながら、言った。
「……こっちの世界から飛ばされた奴を探したい。急いでもいいか?」
 二人の視線が集中する。
 特にテルさんは俺が振り返る以前からこちらに視線を向けているような……。
 視線が合った事に気付いたのか、神楽屋はすぐ飄々とした風を装う。

「構わないぜ、それはこっちも同じだしな」
「そうです。リソナ、もことティトも探さないといけないです!」
「……モコトティト?ともかく恩に着るよ」
「気にするな、こういう時は助け合わないとな」

 二人に礼を言う。モコトティト、というのは二人の知人の事だろうか?
 そうこうしている内に、テルさんが前方に走り出す。
 それに付いて行こうと、スドと俺……続けてリソナも軽快に走り、後に続く。
 だが、その行軍は長くは続かなかった。

「瓦礫か、これじゃ通れねぇな……」
 前方からテルさんの舌打ちが聞こえる。
 そこには通路を塞ぐように、巨大な瓦礫が存在していた。
 これでは進む事はできない。

「よし、なら少し離れててくれ」
「……?」

 邪魔なら、吹き飛ばせばいい。簡単な事だ。
 俺は決闘盤を展開させ、一枚のカードをセットする。

「来い、タイラント――」
「って馬鹿かおまえは!」

 <タイラント・ドラゴン>を召喚し、瓦礫を吹っ飛ばそうとした俺の頭を、割と強めにテルさんにはたかれた。
 地味に痛い。

「……俺、なんか間違った?」
「間違いだらけだよ……よく周りを見てみろ」
「周り?」

 テルさんに言われ、俺は周りの様子を再び見渡す。

「……あ」
「わかったか? <タイラント・ドラゴン>なんかで瓦礫を吹っ飛ばしてみろ、あれは間違いなくぶっ壊れる」

 『あれ』とは、上方にある橋の事だ。
 瓦礫の真上に位置するその橋は所々に罅のようなものが入っており、枯れ木のように酷く頼りない物に思える。
 
「あれが落ちてきたら俺達も危ない。そして何より……あの上に『人』が居たらどうする? おまえが探している友人が、俺達の探してる奴等が呑気に歩いていたらどうする?」
「……」
「急ぐのはわかる。俺だってアイツ等の無事を早く確認したい――だけどな」

 そう言うテルさんの表情は、言葉とは裏腹に怒りを滲ませてるようには見えない。
 その雰囲気に、言葉を失う。

「――間違えちゃ、いけねぇんだ」

 何を思って、その言葉を発したのか。
 掴み所の無い表情を浮かべ、テルさんはそう言った。
 確かに全面的に俺が悪い。探すのを焦るばかり、探し人を傷付けてしまったのでは本末転倒だ。

「ごめん。軽率だった……」
「わかりゃいいさ。リソナ、あれは使えるか?」
「やってみるです!」

 テルさんの言葉に元気よく答えると、リソナはいきなり後ろから飛び付く様に抱きついてきた。

 「!?」と驚く俺を気にせず、そのままの姿勢で俺の決闘盤に1枚のカードをセットする。
 すると置かれたカードが、眩い光を放ち始めた。
 リソナは自らが持っていた手札を治輝の場にひとまず置くと、元気な声で言った。

「出番です!<ライトロード・ドラゴン・グラゴニス>!!」