シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナルstage 【EP-11 サイドN】

 リソナが召喚したのは、棚引く金色のたてがみを持つ白き龍だった。
 純白の両翼はシルクのように美しく、その容姿は龍というよりも天馬に近い。

「さぁさ、みんな乗るです!」

 しばらくその端麗さに見惚れていると、いつの間に背中から降りたのか、リソナは天馬の如き白き龍<ライトロード・ドラゴン グラゴニス>の上に乗っていた。
 なるほど、これで空を飛べば瓦礫の一つや二つ飛び越せる。

「でも、大丈夫なのか? あの子にこんな大きなモンスターを具現させても」
「――ハッ、サイコ決闘者としての力で言うならリソナは俺よりよっぽど強いさ。余り認めたくはないが」
「その通りです! しかも決闘でも私の方が強いです!」
「……言うじゃねぇか、なんならここで白黒」
「そんな場合じゃないよな今!?」

 わかってるわかってる、と帽子に手を置きテルさんが答える。 冗談だったのだろうが、目が納得していない。
 とにかく、リソナの力に関しては心配しないで良さそうだ。
 しかし……体は小柄でも、内に秘める力は強いサイコ決闘者か。
「七水もそうだったし、背の大きさと反比例するようにできてるのかもしれない」
 グラゴニスの上に慎重に乗りながら、割と根拠の無い持論を展開してみる。
 いや、それだとチビなのに力が弱い純也のフォローができなくなる。持論は三秒で論破された。

 そうこうしている間に、グラゴニスはその翼を大きく広げ――しかし音は殆ど立てずに羽ばたき、少しくすんだ空へと舞い上がる。
 罅の入った橋を器用に避け、高みを目指す。
 フワリと内臓が浮くような錯覚が浮かび、恐怖を覚え――。
 すぐにその感情を抱いている余裕は、なくなった。
 
 空中に飛翔した事で見えるようになった……先程見た『橋』の奥。
 そこに、見覚えのある姿があった。
 青っぽい髪に、チェックのスカート。
 そこに、12歳前後であろう背格好の少女が拘束されている。
 表情は見えなかったが、あれは間違いなく探していた人物の一人。

「――七水だ!」
「しみち? ナオキのカノジョさんです?」
「いやそれは犯罪……じゃなくて、俺の探してる奴の一人だ!」

 リソナの言葉に緊張感を削がれるが、今はそんな場合じゃない。
 拘束されているという事は、七水は今何者かに捕まっているという事。
 そして何より、この場からでは

 ――彼女が生きているという事すら、判断できない。
 想像した最悪のヴィジョンを思い浮かべ、寒気がする。
 そんな中、テルさんが口を開いた。

「ここからだと詳しい状況が分からねえな……リソナ、まずは周辺の様子を把握できる高さまで降下してくれ。罠が張られてる可能性があるからな」
「……わかったです」
「くれぐれも迂闊な行動は避けろよ……時枝?」

 テルさんの言葉が耳に入って来る度、焦る思いは膨らんで行く。
 そんな悠長な事をしている時間はない。
 取り返しのつかない事になってからじゃ――遅いんだ。

「ごめん、先に行く」
「先に――って、おまえ」

 グラゴニスの背中に立ち、下を見下ろす。
 かなりの高度に、眩暈のような恐怖を覚える。
 だがその高所での恐怖は、先程の寒気によって打ち消される。
 いや違う、それは感情の上塗りだ。
 悲しみながら、心から喜ぶ事ができないように
 二つの心の動きは、色濃く浮かんだ一つの感情によって統一される。

「……悪い、後頼む」
「バッ――よせ!」

 テルさんの制止も耳に入らず、俺はグラゴニスから階段を一段飛ばすような気軽さで『降り』た。
 遥か高空にいる、この状態で。
 だが、悠長な事をしている時間はない。
 先程上空から見えたのは、七水だけではなかった。
 上空では黒い斑点のようにしか見えなかった、影のような物体。
 あれは、おそらく――








「くそっ! 後先考えずに突っ込みやがって。馬鹿野郎が……」
 グラゴニスから地上を見下ろし、神楽屋は軽く苛立ちを覚えつつ言い放った。
 焦る気持ちを抑えられない。
 それはまるで、かつての誰かを見ているようで――
「ナオキはこんな高い所からジャンプできるです? 凄いです!」
 リソナの能天気な声に、神楽屋は過去の幻想から引き戻される。
「馬鹿。サイコ決闘者といえどもこの高度を一気に落ちてタダで済むわけが……」
 神楽屋が言うと、スドは溜め息を吐く。
「いや、小僧ならば心配はいらんじゃろう――着地に関してはな」
「……?」
 治輝の今までやった事を考えれば、造作もない事だろう。
 まだ出会って間もない二人とスドとの温度差が大きいのは、恐らくその差だ。
 だが、とスドは小さく呟く。
 治輝はこの距離から、七水の事を視認した。

「あやつは、目が悪かったはずではなかったか――?」