シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルstage 【EP-19 サイドN】

 意識が、少しずつ浮かび上がっていく。
 手首に若干の痛みを感じるが、多分気のせいだろう。

 ――凄い音が聞こえた

 これは多分気のせいではない。それ程大きい音。
 意識はまだまだ靄がかかったような状態だけど、ゆっくりと瞼を開く。

(あぁ、やっぱりか)

 こうなって欲しくない、と思っていた
 こうなってしまうかもしれないとも、思っていた

 でも、目の前の現実を見てからだと、それは全部言い訳だ。
(もう、放っておいて欲しい)

 そう思っても、そんな人ではない事を、私は知っていた。
 私の尊敬する人が敬っているあの人は、絶対にそんな選択を選ばない。
 なら、今の私の選択は――




遊戯王オリジナルstage 【EP-19 サイドN】


 勝つ事ではなく、奪う事が目的。
 目の前にいる『影』は確かに、そう言った。
 
「我の目的は『特別な能力を持つ決闘者』のチカラを奪う事。勝利ナド一片の価値もナイ」
「力を奪う? そんな事できるわけが――」
「我にはデキル。先程そこの帽子男にオコナッタ感応も、そのツウカギレイに過ぎない」
「まさか、七水にも……」
「シチミ――この贄の事か。当然同じ事をサセテもらった」
「……」

 治輝は柱に括り付けられている七水に、視線を向ける。
 活力の無い、光の灯らない目。
 酷く見覚えのある……陰に覆われた瞳。
 治輝は視線に怒りを込め、影を睨み付ける。

「小さい少女を無理やり――か。どうしようもなく外道だな、化け物」
「化け物――ハタシテ、それはドチラかな?」
「何?」
「帽子男と贄は、間違いをオカシタ。チカラを行使し、取替えしの不可能なマチガイを」
「……」
「チカラを行使して間違いをオカシタ貴様等コソ『化け物』の烙印を押されるベキ。我はそれを奪い、管理し、献上するだけの管理者なのだよ」

 力で、間違いを犯す。
 それを聞いた治輝は一瞬目を伏せ、今までの神楽屋の事を思い返す。
 あの言葉や、あの視線の理由は――もしかして

「それにムリヤリと言うのは語弊がある。贄は自ら奪われるコトを望み、我はそれを肯定したダケだ」
「……おい、嘘を突くのならもっと真実味のある嘘にしろよ。七水がそんな馬鹿な事」






「本当だよ。治輝さん」




 

 か細い声が聞こえた。
 治輝は驚き、声のする方に視線を向ける。
 柱に括り付けられていた七水の瞳に、ハッキリと光が灯っている。

「気が付いたのか七水!? よかった。一時はどうなる事かと――」
「治輝さん、いいよ」
「待ってろ。今コイツを助けて、そしたら――」
「治輝さん!」

 七水が芯の通った声で叫び、治輝の中の明るい感情が吹き消される。
 そして、冷静になった。
 光が灯り、意思の篭った瞳。
 これは洗脳の類等ではなく――

「勘違いをシテイルようだが、我は精神を操る事はデキナイ。我の感応は対象が心の底で思っているコトを膨らませるダケだ」
「……なるほどな」

 つまり七水自身が、選んだ事だと。
 確かに今までも、七水は自分の力を忌み嫌っていた。
 自分の力を失くす事ができると言われれば、あるいは。

 ……チカラを奪われるだけでは済まないかもしれない。

 賢い七水の事だ、そんな事は百も承知だろう。
 それでも、彼女は選んだ。
 死と同義かもしれない道を選んだ。
 それはかつての自分の姿と、何も変わらない。

「――なんなら今降参をすれば見逃してヤルゾ、帽子男も、今手当てをシテヤレバ助かるかもしれない」

 声が響く。
 知り合った友人を犠牲にしてまで、七水を本気の望みを奪ってまで。
 ……本当に、これ以上戦うべきなのか?
 そう、治輝が逡巡していると








「勝手に話進めんなよ――クソ野郎」






 ゴゥ!と炎の塊が影の化け物に迫り、頭部のすぐ横を通り過ぎた。
 治輝は声のした方を振り返る。
 立ち上る白煙から姿を現したのは――

「――テルさん!?」
「礼を言うぜ化け物。お陰で目が覚めた」

 神楽屋輝彦
 中折れ帽子についた汚れを払いながら、神楽屋は佇んでいた。
 その傍らには先程の炎を作り出したであろう<ジェムナイト・ガネット>
 視線は化け物から、治輝に移り変わる。
 駆け寄ろうとした治輝はその鋭い眼差しを見ると、その足を止めた。

「時枝。俺はお前に黙ってた事がある」
「……黙ってた事?」

 よく見ると、神楽屋はあちこちに怪我を負っていた。
 頭から血が一筋流れ落ち、足も注意深く見ると細かく震えている。

「そいつの言うとおり、俺は取り返しのつかない事をした。俺は自分を慕う奴を助ける事ができず、ソイツは歩けなくなっちまった。俺を恨んだ連中に誘拐されて、両脚の骨を砕かれてな」
「な……」
「そうさ。俺は俺に『間違えるな』なんて事はもう言えない。人助けをする資格なんて、もう無いのかもしれない」

 立っている事すら辛い状態のはずだ。
 呼吸を荒げず息をする事すら、難しい状態のはずだ。
 なのに、神楽屋の視線は揺るがない。
 治輝の事を射抜くように見つめ、そして


 

「だから――おまえは間違えるな。時枝」




 そう、表情を少し和らげながら神楽屋は言った。
 微笑むわけでもなく、ただ少し力を抜いただけの表情で

「俺は助けられなかった。 ――おまえは勝って、あの子を助けろ」
「死に損ないが何を言い出すのかと思えば――コノ状況でキサマに勝ち目がアルトデモ?」

 影の化け物が神楽屋を見下ろし、嘲笑う。
 対して神楽屋は飄々とした様子で、不敵に笑った。

「ハッ。確かに、俺に勝ち目は無いだろうな……だが」

 中折れ帽子を被り、その奥から神楽屋は影の化け物を眼光で威圧する。
 その足の震えは収まり、頭部の出血で染まった紅い目をしっかりと見開き

「突破口は、俺が作ってやる――!」

 その瞳には
 確固たる信念や覚悟が、篭っているように見えた。



【治輝LP1900】 手札3枚   
場:
伏せカード1枚 
【神楽屋LP1000】 手札2枚
場:ジェムナイト・ガネット
伏せカード1枚


【影LP】1800→6900 手札2枚
場:アルティメットサイキッカー(効果発動) メンタルスフィアデーモン(効果発動)
ブレインハザード(メンタルスフィア対象) フューチャー・グロウ(攻1600UP)
伏せカード1枚