シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルstage 【EP-21 サイドN】

 <アルティメット・サイキッカー>は、確かに消えた。
 <ジェムナイト・アクアマリナ>が墓地放った――藍の破片に包まれて。
 フィールド上に佇むのは<メンタルスフィア・デーモン>のみ。
 ……だが

「な……?!」
 治輝は、何が起こったのか把握できずにいた。
 神楽屋の表情は青褪めていた。冷や汗を流し、心の動揺を隠せない。
「<アルティメット・サイキッカー>は、確かにデッキ戻したはずだ……なのに」
 決闘盤に表示されている情報は、それとは違うもの。
「なのに、何故<アルティメット・サイキッカー>が 『除外』 されてるんだ……!?」

 有り得ない事だった。
 相手に伏せカードは存在していなかったはずなのに、こんな現象が起こるわけがない。
 そんな2人を見下ろし、影は不敵に笑った。

「<亜空間物質転送装置>」

 影は墓地にある1枚のカードを手に取り、見せ付ける。
 そのカードが、全ての元凶だとでも言うように。

《亜空間物質転送装置(あくうかんぶっしつてんそうそうち)/Interdimensional Matter Transporter》 †

通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、
発動ターンのエンドフェイズ時までゲームから除外する。

「このカードをハツドウすれば、スキなタイミングで場のモンスターを除外する事ができる――」
「……」
「大方火力の足りない相方をフォローする意味での、賭けの戦術ダッタのだろうが……残念だったな?帽子男」
「て……めぇ……!」

 神楽屋は怒りを込め、悔しさを滲ませた声を出す。 
 当然だ。あれは――本当の意味で最後の賭けだった。
 治輝が希望を託す為の、捨て身の戦法だった。
 それをいとも簡単に、破られた。

「望み通りキサマを始末してヤロウ。目障りなチョウハツの思惑通りにな――!」
「ちく……しょう……!」

 フィールドに残った異形の悪魔。
 <メンタルスフィア・デーモン>が、神楽屋へと狙いを付ける。
 
「終わりだ――レジグ・ヴォルケイノォ!」

 神楽屋は異形の悪魔を睨み付け、悔しさに手を奮わせる。
 悪魔は力を収束させて、それを火球という形に作り上げる。
 そしてその一撃を、神楽屋にぶつけようと――












「罠カード発動――威嚇する、咆哮ォ!」

《威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう)/Threatening Roar》 †

通常罠
このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。

 その瞬間、治輝が動いた。
 倒されたはずの<ドラグニティアームズ・レヴァテイン>の幻影が場に出現し、刃物の様に鋭い咆哮を上げる。
 その凄まじい咆哮に異形の悪魔は怯み、作り上げた火球を霧散させた。
 それを見た神楽屋は、驚きの余り治輝の方を振り返る。

「な……馬鹿野郎、なんで俺を助けた!?」

 神楽屋の手札は1枚。場には伏せカードが1枚のみ。
 これから先<アルティメット・サイキッカー>と<メンタルスフィア・デーモン>と戦える状態ではない。
 ならばそれは、神楽屋を助ける為ではなく――治輝を守る為に使われるべきだ。
 だが、時枝は神楽屋の叫びを流し、少し笑う。
 それは神楽屋が治輝に会ってから、初めて見せるような表情だった。 

「――テルさん、実は俺も黙ってた事があるんだ」
「……?」
「テルさんは『間違えるな』って言ってくれたけど――」


「俺、とっくに間違ってる」


 咆哮が鳴り止み、辺りは静かだ。
 ただ、治輝の言葉だけが周囲に木霊する。
 先程の様に小さな声でなく、少し遠くにまで、聞こえるように。

「俺は色んな事を間違えてた。色んな人を傷付けてた。 ……そうだな、俺も力なんて欲しくなかったよ。普通の人間でいたかった」
「え……」

 七水の声が、僅かに響く。
 七水は治輝のこういった話を聞くのは、初めてだったのかもしれない。

「テルさんの言葉を借りるなら、俺も俺に『間違えるな』なんて事は言えない」
「時枝――」
「でも」

 言葉を選ぶように呟いた神楽屋を遮り、治輝は笑う。

「俺が俺に言えなくても――誰かに言う事はできる」

 それは、神楽屋自身が示した言葉でもあった。
 そして、自分勝手な理屈でもあった。
 整合性の無い、説得力なんて欠片も無い。独りよがりの考え方かもしれない。
 それでも

「テルさんは俺に『間違えるな』と言ってくれた。それが誰かを助ける資格になるって言うなら――」

 間違えてしまったこんな自分でも
 こんな自分だからこそできる事があるのだと、闇雲に信じながら

「――間違えないでくれテルさん。俺達は一緒にアイツを倒して――七水を助けるんだ!」

 治輝は視線に力を込め、再び敵である影と――再び場に戻ってきた<アルティメット・サイキッカー>と<メンタルスフィア・デーモン>の2体を睨み付ける。
 だが、もう恐怖感はない。
 視線の端には、柱に括り付けられた七水が鮮明に映る。
 その表情には、迷いが見られた。
 先程のまでの達観した、全てを諦めたような表情はしていない。

 それだけで、治輝にとっては十分だった。

【治輝LP1900】 手札3枚   
場:
伏せカード1枚 
【神楽屋LP2400】 手札1枚
場:伏せカード1枚


【影LP6900】 手札2枚
場:アルティメットサイキッカー(攻4500) メンタルスフィアデーモン(攻4300)
ブレインハザード(メンタルスフィア対象) フューチャー・グロウ(攻1600UP)