シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルstage 【EP-22 サイドN】

「――イマの会話を聞いて確信したぞ」

 それまで傍観に徹していた影が、妖しく喋りだした。
 それには明らかな嘲りが含まれている。

「貴様等は人間にチカラは相応しくナイ。管理され、主に献上されるべきモノ」
「……主?」
「貴様等がチカラを持っている事は危険スギル。赤子に刃物を持たセルようなモノだ」

 そう断言する影には、先程までとは違った何かが含まれていた。
 それが何であるか、2人にはわからない。
 治輝は影を睨みながら、一歩前に進む。

「なら、お偉い貴方様は――主とか言う奴は力を正しく使えるのか?」
「無論。貴様等よりズットな」
「そうか……だけどな」

 影は断言する。それ程までに主に心酔しているのか。絶対の自信があるのか。
 治輝はそれを聞き、中折れ帽子を深く被り――
 その奥で目を細くし、睨みつけ



「それを決めるのは俺達だ。おまえなんかじゃない――!」

 渾身の力を込めて、ドローした。






遊戯王オリジナルstage 【サイドN】


 


 状況は劣勢だ。
 場には攻撃力4000を超えたサイキックモンスターが2体。
 そして治輝と神楽屋の場にはモンスターが存在していない。
 その意味をよく理解しているのだろう。影は妖しく笑った。

「威勢がイイのは結構、ダガこの状況をドウ覆す?」
「……」
「キサマのデータは幾らか持ってイルぞ時枝治輝。キサマのデッキは致命的に攻撃力がカケている――攻撃力4000を越える事すらデキナイ欠陥品だ!」
「……そうか」

 だが、治輝は影の言葉を聞いていないようだった。
 その視線はドローしたカードを注視している。

「ドローカードが悪カッタか? やはり貴様等にそのチカラは相応しく――」
「存在する時――このカードは特殊召喚する事ができる、か」
「……?」

 治輝は心底おかしそうな顔をしながら、視線をカードから目の前に影へと移す。
 そして1枚のカードを、手に掲げた。
 すると

「なら、コイツにお前が正しいか――判断してもらおうぜ!」

 光が。
 広大な空間を余すことなく照らし出す光が、天上から降り注ぐ。
 その光は、治輝の墓地をも白に染め――

 バサリ、と両翼が広がる。
 赤い爪が、大地を噛む。
 戦場に漂うあらゆる罪を裁くべく。
 汚れ無き白を纏った龍が、降臨した。

<裁きの龍>
効果モンスター(準制限カード)
星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2600
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に「ライトロード」と名のついた
モンスターが4種類以上存在する場合のみ特殊召喚する事ができる。
1000ライフポイントを払う事で、
このカード以外のフィールド上に存在するカードを全て破壊する。
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、
自分のエンドフェイズ毎に、自分のデッキの上からカードを4枚墓地へ送る。

 

「な……!?」

 影は余りの事態に、驚きを隠せない。
 情報では、時枝治輝の使用デッキは純粋なドラゴンデッキのはず――!

「貴様は、ドラゴンデッキの使い手ではナカッタのか――!?」
「いやコイツもドラゴンだし」
「ソウイウ事を言ってイルノでは――!」
「墓地には該当のカードが4種類存在してる。 ……なんなら確認してみるか?」

 影は言われるがまま、治輝の墓地を確認した。
 確かに<ライトロード・グラゴニス>以外にも、ライトロード系モンスターが3種類墓地に落ちている。
 治輝が影に対して更に前に踏み出す。

「俺のデータを取る事にご執心だったのは、感応が効かないからか? 何にせよ、お前はミスを犯した」
「グゥ……!」
「これは俺達とお前の戦いだ。俺1人の戦いじゃない――!」

 治輝が声を上げると
 フィールドに降り立った白銀の龍が、重々しい咆哮を上げた。
 そして、限界まで開かれた翼に、破壊をもたらす光が集っていく。

【治輝LP】1900→900

 治輝は七水に視線を向け、続けて神楽屋に目配せをした。
 神楽屋もまた、驚いていたのだろう。
 その視線を受け、覚悟を決める。



「裁きの龍の効果発動――リヒト、レクイエム!」



 ――極光。
 圧倒的な量の光弾が、龍の翼から一斉に放たれる。
 その一つ一つの輝きはまるで太陽のように激しく、その場を真っ白に染め上げていく。

「きゃっ……」
「……ッ」

 神楽屋と七水もまた、眩い光に目を細め、瞑る。
 その破壊の光が染め上げるのは、相手の場だけではない。
 全ての場に等しく――究極の破壊をもたらす、最強の力。

「グ……!?ガアアアアアアアアアア!?」

 光弾の1つが<メンタルスフィア・デーモン>着弾すると、天に向かって光の柱が立ち昇る。
 途端、廃墟を光で埋め尽くすように、光の柱が無数に出現する。
 異形の悪魔はそれに耐えられず、灰となって四散した。

 だが

 その最強の破壊を受け止める。1つの影
 そのモンスターの名前は――<アルティメット・サイキッカー

《アルティメットサイキッカー/Ultimate Axon Kicker》 †

融合・効果モンスター
星10/光属性/サイキック族/攻2900/守1700
サイキック族シンクロモンスター+サイキック族モンスター 
このカードは融合召喚でのみエクストラデッキから特殊召喚する事ができる。
このカードはカードの効果では破壊されない。
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。
また、このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、
破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。

「ふ……フハハハ!」
 その雄姿を称えるように、影の化け物は声を荒げる。
 
「これが最強のハカイのチカラ! だが、ソレスラも我の『究極』には通じぬ」
「……」
「そして墓地の<サイコ・コマンダー>を除外し、ワレは速攻魔法をハツドウ――!」

《イージーチューニング/Battle Tuned》 †

速攻魔法
自分の墓地に存在するチューナー1体をゲームから除外して発動する。
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力は、
発動時にゲームから除外したチューナーの攻撃力分アップする。

 ここに来ての、攻撃力増強カード。
 この破壊の奔流を終えれば最強の攻撃力増強カードだった<フューチャー・グロウ>は無くなり、アルティメットサイキッカーの攻撃力は2900に戻る。
 対する<裁きの龍>の攻撃力は3000――効果が効かずとも、戦闘ならば倒せるはずだ。
 だが、イージーチューニングの効果を受けた<アルティメット・サイキッカー>の攻撃力は4300
 <裁きの龍>では、もう敵わない。

 奔流が、場の全てのカードを洗い流す。
 神楽屋が表にした罠カードも、異形の悪魔も。
 残ったのは

 最強の破壊を司る 『裁きの龍』
 究極異能の力を冠した 『アルティメットサイキッカー

 だが、その攻撃力の違いは明らかだった。
 影は高らかに笑う。勝利を確なものにした、歓喜の笑い。

「裁きは終わったヨウダナ! 罪人はヤハリお前達――罪人の攻撃は、我には届かない!」


【治輝LP900】 手札3枚   
場:裁きの龍
 
【神楽屋LP2400】 手札1枚
場:


【影LP6900】 手札2枚
場:アルティメットサイキッカー(攻4300)

 だが、それを聞いて――
 不適に笑う男が、1人いた。
 その男の名は、神楽屋輝彦。

「……何がオカシイ?」
「それは俺の台詞だっての。てめぇのご自慢のモンスター、よく見てみろ」
「……?」

 影は言われるがまま、自身の従えた究極のモンスターに視線をやる。
 その皮膚に付着している物があった。
 それは見覚えのある。蒼の欠片。
 雪のように小さな欠片が、アルティメットサイキッカーを取り囲んでいる。

「な……コレハ!?」
「俺は<裁きの龍>の効果にカードを1枚発動してたんだよ――破壊に耐える自身のモンスターに見惚れて見逃してたか?」

 そう言って、神楽屋が指し示した墓地のカードは――

《リビングデッドの呼(よ)び声(ごえ)/Call of the Haunted》 †

永続罠
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 <リビングデッド>の呼び声。
 自身のモンスターの蘇生を、可能とするカード。

「対象は当然アクアマリナ。一瞬場に出現したアクアマリナは再び破壊され――その効果を発動する」
「バ……バカナ……」

 美しい蒼色の粒が、眩い光を放ち始める。
 もはや、究極が逃げる道は存在しない。

「――在るべき所に帰りな、究極」

 次の瞬間。
 一度は一笑に伏した、蒼の宝石の力を浴び……
 『究極』は今度こそ場から――灰となって消えていった。