シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナルstage 【EP-23 サイドN】

【治輝LP900】 手札3枚   
場:裁きの龍
 
【神楽屋LP2400】 手札1枚
場:なし


【影LP6900】 手札2枚
場:なし


 影は究極の消滅する様を、ただ見つめている。
 これで裁きの龍の攻撃を妨げる者は、いない。

「……俺は更に<ブリザード・ドラゴン>を召喚!」

《ブリザード・ドラゴン/Blizzard Dragon》 †

効果モンスター
星4/水属性/ドラゴン族/攻1800/守1000
相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択する。
選択したモンスターは次の相手ターンのエンドフェイズ時まで、
表示形式の変更と攻撃宣言ができなくなる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


 <裁きの龍>に寄り添う様に、氷龍が姿を表す。
 白銀の龍から放たれる光を反射するその透明な皮膚は、より美麗に見える。

「バトルだ。 <ブリザード・ドラゴン>でダイレクトアタック――ブリザード・ストーム!」
 治輝の指示に呼応し、ブリザードドラゴンは名前の通り嵐のような氷風を巻き起こし、影の化け物に向かっていく。

「……!?」
「続けて<裁きの龍>でダイレクトアタック――ジャッジメント・レイ!」

 裁きの光が、究極を従えていた影の化け物を照らし出す。
 時折姿を現していた角のような物がかき消え――
 凄まじい光の奔流が、影の地面から巻き起こった。
 それと同時に、氷の嵐が影を飲み込んでいく。

【影LP】6900→2100

「ガアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 この攻撃を受け、尋常ではない痛みを感じ、影は悟った。
 このままでは、負ける。
 力を奪う事もできず、主に貢献する事もできず。
 この時この瞬間。勝利に価値はない名言した化け物は――
 確かに、敗北を恐れた。
 そして、1つの結論を導き出す。

「――奪う。ソウカ、奪えばいいのダ!」

 影は名案を思いついたのか。くるりと振り返る。
 その視線の先にいるのは、青瀬七水。
 拘束は殆ど先程の極光で解かれていたが、まだ自由に体を動かせる状態ではない。

「えっ……」
「キサマのチカラを奪えば、決闘に勝てずとも主に貢献デキル――!」
「な……お前!」
「さぁ頂くゾ、キサマの――」

 影が七水に手を伸ばし、七水の顔が恐怖に染まる。
 だが、治輝は反応が遅れた。
 そのまま影は、七水に触れようとし――








 光が、奔った。

 灰色の光線が影に直撃し、白煙が立ち昇る。
 治輝が呆気に取られていると、小柄の金髪の少女が――七水を後ろに乗せ、機械仕掛けの龍と共に、白煙を切り裂きながら現れる。
 神楽屋はその少女の姿を確認するや否や、呆れと安堵が混じったような顔をした。

「ハッ。予定より少し遅いぞ。リソナ」
「こっちも色々大変だったんです! いきなりお空にダイブは予想外です!」

 元気そうな金髪の少女、リソナは頬を膨らませ、少しむくれたような表情をする。
 お空にダイブとやらの原因はそもそもリソナにあるのだが、本人は欠片もそうは思ってないようだ。
 リソナは助けた少女、七水に振り返り、笑う。

「大丈夫ですか、七水ちゃん? リソナが来たからにはもう安心です! 百人力です!」
「え……あ、うん……」

 七水は安堵自己嫌悪の混じったような声を出し、眩しそうに金髪の少女――リソナを見つめる。
 あの化け物に奪われる直前になって、結局自分は恐怖してしまった。
 自分から望んだ事のはずなのに。力を失いたいから、選んだ事だったのに。
 結局私は助けられる事を望んで、助けてもらって――誰かに迷惑をかけてしまった。
 だから、聞かなくてはいられなくなる。
 この巨大な機械龍を巧みに操り、心からの笑顔を振りまいているこの子に。

「リソナちゃんは、力なんて無い方がいいって――思った事はないの?」
「力って、サイコパワーのことです?」
「うん……」
「むむむ……サイコパワーのないリソナ……それはすごく想像し辛いです。まるで、リソナが違うリソナになっちゃうみたいです」
「えっ」

 リソナが予想外の返答をしてきたので、七水は戸惑う。
 でも言われてみれば、そうなのかもしれない。
 
「ご、ごめんね。初対面なのに変な事言って」

 目を線にして「うーんです」と考え込むリソナに対し、七水はパタパタと手を振って謝る。
 リソナは途中で考える事を諦め、すぐに朗らかな笑顔を七水に向けた。

「……でも、リソナは今のリソナのことが大好きです!」
「今の自分が、好き?」
「はいです! もこやティト、皆本兄や皆本弟。ナオキやみんなと会えて、リソナは今のリソナが大好きです!」

 その顔には、一欠けらの翳りも無い――太陽のような笑顔が浮かんでいた。
 眩しいと思った。目を開けているのが、辛いと思った。
 でも

「だからリソナは今のリソナがいいです! リソナじゃないリソナなんて嫌です!」

 心からこう言えるのが物凄く、羨ましいと思った。
 こうなりたいな――と、心から思った。
 そう思ったら、目尻が少し潤んで来る。

「って、泣いてるです!? リソナ何か悪い事言いましたか!?」
「あーあ、助けに来たのに何泣かせてんだリソナ。こりゃティトに報告だな」
「バカテルは黙ってるです! ティトに言い付けるなんて卑怯です! あとで覚えてろですー!!」

 上空にいるリソナに神楽屋がため息混じりにそう言うと、リソナはプンスカ怒る。
 それを見守っていた機械仕掛けの精霊――スドは、溜め息を吐いた。

「力も強いし前向きないい子じゃ、小僧よりもこの子を主人にしようかの」
「おいスド」
「冗談じゃよ」

 スドはそ知らぬ顔で治輝のジトっとした目を受け流す。
 治輝もため息を吐き視線を逸らすと――何かに気付いた。
 決闘盤を構え直し、帽子をやり過ぎなくらいに深く被り直す。

「――さて、俺は<裁きの龍>の効果発動。デッキから5枚のカードを墓地送ってターンエンドだ。降参は許さないぜ」

 そう治輝が言うと、白煙が上がっていた空間が僅かに歪み――再び影が具現化する。
 怒りと焦りが混ざった様な表情を浮かべると、こちらを睨み付けた。

「降参だと? 奪うコトすらデキズ、このまま負けるワケにはイカヌ――!」

 そう言って、影はカードをドローした。
 そしてドローしたカードを一瞥すると、そのまま場をセットし、口を開く。

「――我はこのまま、ターンをエンドする」


【治輝LP900】 手札2枚   
場:裁きの龍 ブリザード・ドラゴン
【神楽屋LP2400】 手札1枚
場:なし


【影LP2100】 手札2枚
場:伏せカード


 モンスターを出せずにターンをエンドした影に、もはや成す術はない様に見える。
 だが、影はまだ諦めてはいない。
 何故なら、今伏せたカードは

《フューチャー・グロウ/Future Glow》 †

永続魔法
自分の墓地に存在するサイキック族モンスター1体をゲームから除外して発動する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
自分フィールド上に表側表示で存在する全てのサイキック族モンスターの攻撃力は、
このカードを発動するために除外した
サイキック族モンスターのレベル×200ポイントアップする。

 サイキックの超強化カード<フューチャー・グロウ>
 次の帽子男の攻撃さえ凌ぎ、モンスターをドローする事ができれば――勝機は十分にある。
 そして、奴の手札は1枚。こちらのライフは2100。
 耐え切れる確率は、高い。