シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナルstage 【EP-25 サイドN】

「……」

 ――戦いは、終わった。
 そして、四散していった影の化け物の後を追うように

 漆黒の剣を持った<ジェムナイト・アメジス>
 鏡のように透き通る肌を煌かせる<ブリザード・ドラゴン>
 白銀の鱗を持ち、重々しく唸る<裁きの龍>
 
 それぞれのモンスターもまた――光に包まれて消えていく。
 治輝が感慨深くそれを眺めていると、神楽屋が体重を預けるように、肩に手を乗せた。

「俺達の勝ち、だな。最後まで足掻いてみるもんだ」

 その声を聞き、治輝は小さく頷く。
 浮かない顔をしている治輝を見て、神楽屋は言葉を続ける。

「……素直に喜べる状況じゃねえか。それでも勝ちは勝ちだ。お前のおかげで俺達は間違えずに済んだんだ。もうちょい胸張れって」

 神楽屋の疲労と優しさが混じったような声に、治輝が何かしらの返事をしようと思った所で、音が聞こえてきた。
 注意深く聞かないと気付かない様な、僅かな駆動音。
 顔を上に向けると、スドが低空まで降りてきていた。
 ゆっくりと接地すると、その影響で砂埃が舞い上がる。
 その中から飛び込んでくる、一つの影。

「バカテルー!!」
「おおリソナ――ってどぅわあああああ!?」

 次の瞬間、金髪の少女――リソナが神楽屋にドロップキックをお見舞いした。
 砂埃によって視界が不自由な状態での、死角からの一撃。
 立っているのも辛い状態だったのか、その衝撃をまともに食らった神楽屋は地面に叩き付けられる。
 リソナはひれ伏す神楽屋に指を刺し、勝利宣言のようなポーズを取った。

「覚えてろって言った傍から油断するとはざまぁみろです! ざまぁテルですー!」
「てめぇ……色々台無しにしやがって――」

 神楽屋は足を震わせながらも再び立ち上がり、リソナと向き合う。
 リソナはそんな神楽屋をエセ拳法のような構えを取って、牽制していた。
 治輝はそれを見て「なんだこれ」と思いつつ、目を線にしていると――


「あの――治輝さん」


 後ろから、声が聞こえてきた。
 振り返るとそこには七水がいた。スドからゆっくりと降りて来たのだろう。
 治輝は深呼吸して、それから――言った。

「――久し振り」
「え……あ、うん」

 少しの沈黙。
 それに耐えられなくなったのか、七水が先に声を開く。
 俯きながら、か細い声を絞り出すように。

「……ごめんなさい。怒ってる……よね」
「……」

 だが治輝は黙ったまま、何も喋らない。
 喧騒(主に2人の)が、やけに大きく聞こえてくる。
 気まずい空気の中、時間だけが流れて行く。
 七水は余計に俯き、何を言おうか迷っていると――
 ようやく、治輝の口が開いた。

「――なんて言って怒られると思った?」
「……え? そ、それは色々――……」
「いや、別に言わなくていい」
「えっ……」

 治輝の意味のよくわからない予想外の返答に、七水は困惑した。
 そんな七水を見て、治輝はいらずらっ子のような表情をして、笑う。

「それが思い浮かぶんならそれでいいって。想像上の俺にたっぷり折檻されてくれ」
「えぇ……で、でもっ!」
「俺もあんま偉そうな事言えないしな。いやマジで」

 七水は気が済まないようだったが、治輝はこれでいい――と思う。
 彼女は今日、もう十分に苦しんだはずだ。
 そして――何かを見つける事が、きっとできたはずだ。

 そんな風に思考を進めていると、喧騒(主に2人の)がより大きく聞こえて来る。
 治輝は閃いた。 

「――じゃ、そうだな。あの喧嘩止めて来てくれ。10秒以内」
「えっ」
「ほらダッシュ! 夕日は待ってくれないぞ!」
「ええっ!?」

 治輝は七水の背中を叩き、無理やり2人の喧騒の中に突き飛ばした。
 「七水も参戦です? 相手になるですー!」 ……等とぶっ飛んだ勘違いをしたリソナの声が聞こえた気がするが、治輝は聞こえなかった事にした。
 




 ――改めて、治輝は影がいなくなった場所を見つめる。

 あの影は、一体なんだったんだろうか。
 『ペイン』ともサイコ能力者とも違う。同時にそれらと酷似した何か。
 心の闇を感じ、それを相手の心に具現させ、能力を奪う事の可能な化け物。
 ……それは逆に言えば、心の闇だけに触れ続けたという事でもある。
 一体それに耐えられる人間が、どれ程存在するというのか。

 ふと、テルさんの言葉をを思い出す。


 俺達の勝ち――だな


 そう、確かに勝つ事はできた。
 だけどまだ、戦いは終わっていない。
 
 俺達は俺達の言った事と――戦い続ける必要がある

 それが、絵空事にならないように
 ただの理想で終わらないように、生きていく必要がある。

 もし、それを成す事ができたなら

「そん時はまた否定しに行ってやるよ。化け物」
 
 返事は無い。
 当然だ、もう影は――ここにはいないのだから。








遊戯王オリジナルstage 【EP-25 サイドN】-FIN-













 一方その頃――
 

「大体なぁ……お前あの時なんて言った!?」
「何がです?」
「もこやティト、皆本兄や皆本弟。ナオキやみんなと会えて、リソナは今のリソナが大好きdeath! ――とか言ってたろ!」
「この馬鹿テル! リソナそんな言い方しないですー!!」
「時枝の名前あんのに何で露骨に俺の名前だけねぇんだよ! 喧嘩売ってんのか!?」
「馬鹿テルが無駄に非売品買いまくってるだけです! 自意識過剰の言いがかりですー!」

 七水は、大分苦戦していた。
 生気の無いはずの廃墟に、無駄に声の通る2つの叫びが木霊する。

「どうやって止めればいいのこれー!?」

 3つ目の叫びがそれに重なっても、返事は無い。  
 代わりに機械竜の小さなため息が、ほんの少し辺りに響いた。