シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

オリジナルstage 【EP-09 サイドM】

 何かに吸い寄せられるような感覚
 その感覚に体を強張らせながら、輝王はその空間の中を進んでいく

 ちゃぽん

 液体の滴る音が、耳を通り抜ける。
 その瞬間、少し開けた場所に出た。

「ここは――?」

 薄暗い、井戸のような場所。
 いや……厳密に言えば、違う。
 ここは井戸としては、余りに大き過ぎる。
 天井は高過ぎて視認が不可能な程高く、光は殆ど差して来ない。
 それでも目の自由が利くのは、周りにある苔のせいだろう。
 ボゥ、と鈍く発光するその苔は壁や地面、いたる所に生えていて、井戸全体を照らしている。

「どゥやら、妙な場所に着いちまったみたいだなァ」

 声の主である戒斗が、視界の隅から現れる。どうやら分散してしまう事態にはならなかったらしい。
 輝王は戒斗の姿を認めると、視線を奥へと向ける。

「ティトや愛城はどうした?」
「俺もぶん殴りてェんだが、生憎まだ会ってねェな」
「……女性だけの状態は些か危険だな」
「――アイツが女性、ねぇ」

 心底おかしそうに口を歪める戒斗。
 ……確かに、愛城という女性が底知れぬ威圧感を持っていたのは否定できない。
 親交が深い戒斗には、それ以上の認識があるのだろう。

「女って定義がアイツに当てはまるなら世も末だよなァ。大体……」

 そう戒斗が言葉を続けようとした所に、何かが戒斗目掛けて飛んできた。
 戒斗はそれにいち早く気付き、半身を傾けそれを避ける。

「――聞いてやがったか?それにしたって不意打ちに頼るとはてめェも落ちたモン……」
「どきなさい」

 愛城の声が響く。
 輝王も最初は、愛城による戒斗への攻撃だと認識していたが――違う。
 それは憤怒や嘲りを含む声調ではなかった。
 単純に、事実だけを紡ぐ声。

「下がるぞ」
「あァ? 何言って――」

 次の瞬間、井戸の中に巨大なモンスターが具現した。

 肩には2頭の、獰猛な竜の首
 機械のような、胴体と間接
 手にはカギ爪を有し、白金の牙が全身から生えている。

 それは、輝王には見覚えの無いモンスターだった。
 だが視認するだけで、あれは危険だと判断する。
 
「……下がるか」
「ああ」

 戒斗も見覚えがあるのだろう。大人しく下がる事を選択した。
 その表情は苛立ちに満ちている。何かよくない思い出があるのかもしれない。

「やりなさい、ダークルーラー」
 
 愛城が怖気の走るような低い声で、何かを呟く。
 すると、ダークルーラーの2門の竜口に、光が収束し――


 『何か』 に直撃した。


 ズシャァァァァン!!
 地面の水気を全て吹き飛ばすような衝撃が、井戸全体を揺らした。
 そして液状の何かが、中空へと舞い上がる。

「お願い、トリシューラ」

 ティトの声が響いた。
 同時に空間を切り裂いた氷結界の龍――トリシューラが具現する。
 
 液状の正体は、何らかのモンスターだった。
 トカゲのような容姿をしているが、固形とうよりも液体に近い。
 ティトが小さく攻撃名を呟くと、トリシューラは空間を引き裂いた時と遜色ない攻撃を仕掛ける。

 単なる破壊ではなく、存在そのものをその場から取り除いてしまう攻撃。

 それは確実に敵を貫き、天井付近の苔を全て凍らせながら天空へと消えていく。
 だが、対象は消滅しなかった。
 ただ『凍った』状態で、ゴトリと目の前に落ちてくる。
 それを見て輝王は驚きを覚えつつも、二人の女性陣の攻撃を見て率直な感想を言う。

「……ここまでやる必要があるのか」
「あるのよ。見なさい」

 愛城が<ダークルーラー>の上に乗りながら、そう呟くと。
 氷は見る見る内に溶けていき、液体へと変容していく。
 そしてそれを取り込み、液状トカゲは大きさを増した。

「クケケケケケ」

 いや、大きくなっただけではない。
 奇妙な声を発したかと思うと、胴体のような場所から首がもう一つ生えてきた。
 それを見て、大きく愛城は舌打ちをする。

「どうやら――決闘でわからせてあげる必要があるみたいね」

 愛城はそう言うと、決闘盤を展開する。
 それを見た液状トカゲは、小さく奇声を発しながら、決闘盤を展開させた。
 だがその数は、二つ。

「あいしろ、手伝う」

 底冷えするような声で、ティトがそれに同調する。
 それを見て、その声を聞いて、輝王は違和感を覚えた。
 ティトの様子が何処かおかしい。先程の問答無用のトリシューラの攻撃といい、らしくない点が目立っている。

 だがその理由は、至極単純なものだった。
 


「――この服、そうしが選んでくれたのに!」




 よく見ると、ティトの服の一部が汚れていた。
 恐らく、目の前のトカゲが原因で着いた汚れだろう。

 ……かくして
 この井戸から脱出する為に邪魔な化け物を倒す為――という名目で
 2人の女達の決闘が、始まった。