シューティングラーヴェ(はてな)

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オリジナルstage 【EP-08 サイドM】








《氷結界(ひょうけっかい)の龍(りゅう) トリシューラ/Trishula, Dragon of the Ice Barrier》 †

シンクロ・効果モンスター(制限カード)
星9/水属性/ドラゴン族/攻2700/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、
相手の手札・フィールド上・墓地のカードを
それぞれ1枚までゲームから除外する事ができる。

 トリシューラの持つ独立した3つの首が、それぞれ咆哮を上げる。
 その白銀の翼を広げ、全身を細かく奮わせると――その場にいる者は、針に刺されるような痛みを感じる。
 通常、寒さが引き起こす痛みとは筋緊張による神経の圧迫から起こるものだ。
 腕や脚などの末梢神経は筋肉の間を縫うように伸びているため、筋肉が収縮すると、痛覚や触覚などの神経が圧迫され、引き起こされる。
 
 だが、ティトが具現させた力は、種類が違う。
 そういった人体の仕組みを介さず、内部的な痛みを外皮に直接感じさせる程の氷の力。

「トリシューラ!」

 かつて氷の魔女と呼ばれた少女――ティトが口を開き、三つ首の氷龍はそれに応じる。
 ただそこに存在するだけでも、周囲に畏怖を与える程の力。
 それを、一つの『点』に向けて圧縮する。

「コイツはちっと離れた方が良さそうだなァ」
「……そのようだな」

 輝王はティトの力が発現する所を何度か見ているが、その底を理解しているわけではない。
 それに今行っている事は、空間に穴を開けるようなものだ。
 何が起こるか予測はできない。戒斗の言葉に従い、多めに距離を取る。
 愛城は2人のその行動を、ただ退屈そうに眺めていた。
 そして

「――フリジング・デザイア!」

 少女の声が響くと同時に、トリシューラはその身が持つ絶氷の翼を大きく広げた。
 三つの首から圧縮した青い光が放たれ、眼下に直撃する。

 青の閃光が直撃した箇所は黒ずみ、硝子の様に砕け散る。
 砕けた先には、不思議な空間が存在していた。
 宇宙のようにも見えるが、少し違う。
 それはまるで液体のように、こちら側に侵食してくるような……
 輝王はそれを見て、眉を潜める。

「……なんだ、これは?」
「どうやら別の空間と繋がったようね。どういう構造になっているかはわからないけれど」
「なら、少し情報を集めるべきだな。罠の可能性もある」
「そォだな、目の前に沸いて出たモンを信じれる程俺は馬鹿じゃねェ。てめェも――」

 そこで戒斗は愛城に視線を向け、言葉を止めた。
 愛城は凄まじく長いため息を吐き、嘲るように2人を見下ろす。

「――反吐が出る程のチキンね、貴方達」
「……あァ?」

 侮蔑の二文字を言葉と表情にこれ以上無い程に込め、愛城は言った。
 今までとはうって変わって不機嫌そうな顔立ちになり、顔を歪ませる。

「罠だの信用できないだの、それらしい言葉を並べて置いて結局は自分の身を大事にしたいだけ、保身しか考えず実行にいつまでも至らないゴミ男の典型じゃない。貴方達私をそんなに苛立たせて楽しいのかしら?」
「……おいてめェ」
「見なさい。少しはティトを見習ってはどう?」
「……?」

 戒斗が色々と爆発寸前の所で、輝王は銀髪の少女に視線を向ける。
 すると、そこには謎の空間に足を突っ込んでいるティトの姿が
 内心で驚愕する輝王に、ティトは更にのほほんと言葉を続ける。

「すこし、奥いってくる」
「ええ、私もすぐに向かうわ」

 愛城はそんなティトに満足そうな表情を向けると、主に戒斗の方に振り返り、言う。
 心底くだらない物を見るような顔で。

「情報が少なくて不安なのかしら? だったらそこで指を咥えて朽ちていく事をお勧めするけれど」
「勇敢と無謀を吐き違えンなよクソが。情報の少ねェ状況で無闇に動く馬鹿がどこにいる」

 愛城は大きくため息を付いた。
 それは、50点は出せると思っていた生徒が、30点を下回ったのを見てしまった時のように。

「情報がないのなら相手の意向から読み取ればいい。癪だけれど、私達がここで生かされているという事実を考えなさい。……だから貴方はアイツに二度も負けるのよ」
「ンだと……?」
「愉快な事に私ですらこの世界に引っ張られた時は一時的に意識を失っていた。殺すつもりなら、その時点で殺そうとしていたはず――それすらしてこないつまらない人間が、ここで殺害用の罠を仕掛けるなんていう愉快な発想を持っているわけがないじゃない」
「――だが、確証もない」
「確証……?」

 輝王の言葉に、愛城は心底おかしそうに笑った。
 笑いながら前を向き、ティトの向かった方向へと進んでいく。

「敵の土俵に入り込んだ時点で、そんなもの永遠に見つからないわよ」

 そう言い放ち。愛城は奥の空間へと消えていった。
 先に進んでいったティトの姿もない。

(――永遠に見つからない、か)

 輝王はそうは思わなかった。
 敵が巧妙に隠した「確証」に肉薄し、自らの優位を確保する。そうやって輝王は生きてきたのだ。
 たったひとつの失敗で、全てが破綻する。そんな場面は飽きるほど見てきた。

 だから、失敗はできない。

 そのために先を読む。
 見えないものを見ようとする。
 それは、デュエルに限ったことではないのだ。

(……臆病だな、俺は)

 だからこそ、ティトや愛城のように不確定を飲みこめる「強さ」に憧れるのかもしれない。 
 戒斗は床に唾を吐き、忌々しそうに愛城が消えていった方向を睨む。
 
「てめェも負けてる分際で偉そうな事言いやがって……」
「負けた――?」

 輝王は、その発言に驚いた。
 先程の戒斗との決闘。勝敗は着かずとも、戒斗が凄まじい強敵である事は把握できた。
 二度も安々と負かす相手がいるとは、にわかには信じがたい。
 戒斗はその言葉に舌打ちをし、空間に視線を向けた。

「てめェには関係ねェ。さっさと行くぞ」
「……それしかなさそうだが、それでいいのか」

 ティトが先行してしまった以上、ここに留まる事わけにもいかない――そう輝王は考える。
 だが今までの戒斗の言動を鑑みると、素直に愛城の言う事を聞くのは不自然に思えた。
 輝王の言わんとしている事を察したのか、戒斗は口元をこれ以上無い程までに吊り上げ……

「アイツの言う事を聞くわけじゃねェ――アイツをぶっ飛ばしに行くだけだ」
 
 そう言って、飛び込むように戒斗は空間へ溶け込む。
 輝王は注意しても聞こえない程の小さなため息を吐き、それに続いた。