シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

オリジナルstage 【EP-08~16】 サイドM】

《氷結界(ひょうけっかい)の龍(りゅう) トリシューラ/Trishula, Dragon of the Ice Barrier》 †

シンクロ・効果モンスター(制限カード)
星9/水属性/ドラゴン族/攻2700/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、
相手の手札・フィールド上・墓地のカードを
それぞれ1枚までゲームから除外する事ができる。

 トリシューラの持つ独立した3つの首が、それぞれ咆哮を上げる。
 その白銀の翼を広げ、全身を細かく奮わせると――その場にいる者は、針に刺されるような痛みを感じる。
 通常、寒さが引き起こす痛みとは筋緊張による神経の圧迫から起こるものだ。
 腕や脚などの末梢神経は筋肉の間を縫うように伸びているため、筋肉が収縮すると、痛覚や触覚などの神経が圧迫され、引き起こされる。
 
 だが、ティトが具現させた力は、種類が違う。
 そういった人体の仕組みを介さず、内部的な痛みを外皮に直接感じさせる程の氷の力。

「トリシューラ!」

 かつて氷の魔女と呼ばれた少女――ティトが口を開き、三つ首の氷龍はそれに応じる。
 ただそこに存在するだけでも、周囲に畏怖を与える程の力。
 それを、一つの『点』に向けて圧縮する。

「コイツはちっと離れた方が良さそうだなァ」
「……そのようだな」

 輝王はティトの力が発現する所を何度か見ているが、その底を理解しているわけではない。
 それに今行っている事は、空間に穴を開けるようなものだ。
 何が起こるか予測はできない。戒斗の言葉に従い、多めに距離を取る。
 愛城は2人のその行動を、ただ退屈そうに眺めていた。
 そして

「――フリジング・デザイア!」

 少女の声が響くと同時に、トリシューラはその身が持つ絶氷の翼を大きく広げた。
 三つの首から圧縮した青い光が放たれ、眼下に直撃する。

 青の閃光が直撃した箇所は黒ずみ、硝子の様に砕け散る。
 砕けた先には、不思議な空間が存在していた。
 宇宙のようにも見えるが、少し違う。
 それはまるで液体のように、こちら側に侵食してくるような……
 輝王はそれを見て、眉を潜める。

「……なんだ、これは?」
「どうやら別の空間と繋がったようね。どういう構造になっているかはわからないけれど」
「なら、少し情報を集めるべきだな。罠の可能性もある」
「そォだな、目の前に沸いて出たモンを信じれる程俺は馬鹿じゃねェ。てめェも――」

 そこで戒斗は愛城に視線を向け、言葉を止めた。
 愛城は凄まじく長いため息を吐き、嘲るように2人を見下ろす。

「――反吐が出る程のチキンね、貴方達」
「……あァ?」

 侮蔑の二文字を言葉と表情にこれ以上無い程に込め、愛城は言った。
 今までとはうって変わって不機嫌そうな顔立ちになり、顔を歪ませる。

「罠だの信用できないだの、それらしい言葉を並べて置いて結局は自分の身を大事にしたいだけ、保身しか考えず実行にいつまでも至らないゴミ男の典型じゃない。貴方達私をそんなに苛立たせて楽しいのかしら?」
「……おいてめェ」
「見なさい。少しはティトを見習ってはどう?」
「……?」

 戒斗が色々と爆発寸前の所で、輝王は銀髪の少女に視線を向ける。
 すると、そこには謎の空間に足を突っ込んでいるティトの姿が
 内心で驚愕する輝王に、ティトは更にのほほんと言葉を続ける。

「すこし、奥いってくる」
「ええ、私もすぐに向かうわ」

 愛城はそんなティトに満足そうな表情を向けると、主に戒斗の方に振り返り、言う。
 心底くだらない物を見るような顔で。

「情報が少なくて不安なのかしら? だったらそこで指を咥えて朽ちていく事をお勧めするけれど」
「勇敢と無謀を吐き違えンなよクソが。情報の少ねェ状況で無闇に動く馬鹿がどこにいる」

 愛城は大きくため息を付いた。
 それは、50点は出せると思っていた生徒が、30点を下回ったのを見てしまった時のように。

「情報がないのなら相手の意向から読み取ればいい。癪だけれど、私達がここで生かされているという事実を考えなさい。……だから貴方はアイツに二度も負けるのよ」
「ンだと……?」
「愉快な事に私ですらこの世界に引っ張られた時は一時的に意識を失っていた。殺すつもりなら、その時点で殺そうとしていたはず――それすらしてこないつまらない人間が、ここで殺害用の罠を仕掛けるなんていう愉快な発想を持っているわけがないじゃない」
「――だが、確証もない」
「確証……?」

 輝王の言葉に、愛城は心底おかしそうに笑った。
 笑いながら前を向き、ティトの向かった方向へと進んでいく。

「敵の土俵に入り込んだ時点で、そんなもの永遠に見つからないわよ」

 そう言い放ち。愛城は奥の空間へと消えていった。
 先に進んでいったティトの姿もない。

(――永遠に見つからない、か)

 輝王はそうは思わなかった。
 敵が巧妙に隠した「確証」に肉薄し、自らの優位を確保する。そうやって輝王は生きてきたのだ。
 たったひとつの失敗で、全てが破綻する。そんな場面は飽きるほど見てきた。

 だから、失敗はできない。

 そのために先を読む。
 見えないものを見ようとする。
 それは、デュエルに限ったことではないのだ。

(……臆病だな、俺は)

 だからこそ、ティトや愛城のように不確定を飲みこめる「強さ」に憧れるのかもしれない。 
 戒斗は床に唾を吐き、忌々しそうに愛城が消えていった方向を睨む。
 
「てめェも負けてる分際で偉そうな事言いやがって……」
「負けた――?」

 輝王は、その発言に驚いた。
 先程の戒斗との決闘。勝敗は着かずとも、戒斗が凄まじい強敵である事は把握できた。
 二度も安々と負かす相手がいるとは、にわかには信じがたい。
 戒斗はその言葉に舌打ちをし、空間に視線を向けた。

「てめェには関係ねェ。さっさと行くぞ」
「……それしかなさそうだが、それでいいのか」

 ティトが先行してしまった以上、ここに留まる事わけにもいかない――そう輝王は考える。
 だが今までの戒斗の言動を鑑みると、素直に愛城の言う事を聞くのは不自然に思えた。
 輝王の言わんとしている事を察したのか、戒斗は口元をこれ以上無い程までに吊り上げ……

「アイツの言う事を聞くわけじゃねェ――アイツをぶっ飛ばしに行くだけだ」
 
 そう言って、飛び込むように戒斗は空間へ溶け込む。
 輝王は注意しても聞こえない程の小さなため息を吐き、それに続いた。
 
何かに吸い寄せられるような感覚
 その感覚に体を強張らせながら、輝王はその空間の中を進んでいく

 ちゃぽん

 液体の滴る音が、耳を通り抜ける。
 その瞬間、少し開けた場所に出た。

「ここは――?」

 薄暗い、井戸のような場所。
 いや……厳密に言えば、違う。
 ここは井戸としては、余りに大き過ぎる。
 天井は高過ぎて視認が不可能な程高く、光は殆ど差して来ない。
 それでも目の自由が利くのは、周りにある苔のせいだろう。
 ボゥ、と鈍く発光するその苔は壁や地面、いたる所に生えていて、井戸全体を照らしている。

「どゥやら、妙な場所に着いちまったみたいだなァ」

 声の主である戒斗が、視界の隅から現れる。どうやら分散してしまう事態にはならなかったらしい。
 輝王は戒斗の姿を認めると、視線を奥へと向ける。

「ティトや愛城はどうした?」
「俺もぶん殴りてェんだが、生憎まだ会ってねェな」
「……女性だけの状態は些か危険だな」
「――アイツが女性、ねぇ」

 心底おかしそうに口を歪める戒斗。
 ……確かに、愛城という女性が底知れぬ威圧感を持っていたのは否定できない。
 親交が深い戒斗には、それ以上の認識があるのだろう。

「女って定義がアイツに当てはまるなら世も末だよなァ。大体……」

 そう戒斗が言葉を続けようとした所に、何かが戒斗目掛けて飛んできた。
 戒斗はそれにいち早く気付き、半身を傾けそれを避ける。

「――聞いてやがったか?それにしたって不意打ちに頼るとはてめェも落ちたモン……」
「どきなさい」

 愛城の声が響く。
 輝王も最初は、愛城による戒斗への攻撃だと認識していたが――違う。
 それは憤怒や嘲りを含む声調ではなかった。
 単純に、事実だけを紡ぐ声。

「下がるぞ」
「あァ? 何言って――」

 次の瞬間、井戸の中に巨大なモンスターが具現した。

 肩には2頭の、獰猛な竜の首
 機械のような、胴体と間接
 手にはカギ爪を有し、白金の牙が全身から生えている。

 それは、輝王には見覚えの無いモンスターだった。
 だが視認するだけで、あれは危険だと判断する。
 
「……下がるか」
「ああ」

 戒斗も見覚えがあるのだろう。大人しく下がる事を選択した。
 その表情は苛立ちに満ちている。何かよくない思い出があるのかもしれない。

「やりなさい、ダークルーラー」
 
 愛城が怖気の走るような低い声で、何かを呟く。
 すると、ダークルーラーの2門の竜口に、光が収束し――


 『何か』 に直撃した。


 ズシャァァァァン!!
 地面の水気を全て吹き飛ばすような衝撃が、井戸全体を揺らした。
 そして液状の何かが、中空へと舞い上がる。

「お願い、トリシューラ」

 ティトの声が響いた。
 同時に空間を切り裂いた氷結界の龍――トリシューラが具現する。
 
 液状の正体は、何らかのモンスターだった。
 トカゲのような容姿をしているが、固形とうよりも液体に近い。
 ティトが小さく攻撃名を呟くと、トリシューラは空間を引き裂いた時と遜色ない攻撃を仕掛ける。

 単なる破壊ではなく、存在そのものをその場から取り除いてしまう攻撃。

 それは確実に敵を貫き、天井付近の苔を全て凍らせながら天空へと消えていく。
 だが、対象は消滅しなかった。
 ただ『凍った』状態で、ゴトリと目の前に落ちてくる。
 それを見て輝王は驚きを覚えつつも、二人の女性陣の攻撃を見て率直な感想を言う。

「……ここまでやる必要があるのか」
「あるのよ。見なさい」

 愛城が<ダークルーラー>の上に乗りながら、そう呟くと。
 氷は見る見る内に溶けていき、液体へと変容していく。
 そしてそれを取り込み、液状トカゲは大きさを増した。

「クケケケケケ」

 いや、大きくなっただけではない。
 奇妙な声を発したかと思うと、胴体のような場所から首がもう一つ生えてきた。
 それを見て、大きく愛城は舌打ちをする。

「どうやら――決闘でわからせてあげる必要があるみたいね」

 愛城はそう言うと、決闘盤を展開する。
 それを見た液状トカゲは、小さく奇声を発しながら、決闘盤を展開させた。
 だがその数は、二つ。

「あいしろ、手伝う」

 底冷えするような声で、ティトがそれに同調する。
 それを見て、その声を聞いて、輝王は違和感を覚えた。
 ティトの様子が何処かおかしい。先程の問答無用のトリシューラの攻撃といい、らしくない点が目立っている。

 だがその理由は、至極単純なものだった。
 


「――この服、そうしが選んでくれたのに!」




 よく見ると、ティトの服の一部が汚れていた。
 恐らく、目の前のトカゲが原因で着いた汚れだろう。

 ……かくして
 この井戸から脱出する為に邪魔な化け物を倒す為――という名目で
 2人の女達の決闘が、始まった。
 
 
「クケケケケ、先行!」

 喋った。
 奇声だけじゃなく液状トカゲは喋る事も可能らしい。

タッグデュエルルール(オリジナル)

□フィールド・墓地はシングルと同じく個別だが、以下の事項は行うことができる。
・パートナーのモンスターをリリース、シンクロ素材にすること。
・「自分フィールド上の~」の記述がある効果を使用する際、パートナーのカードを対象に選ぶこと。
・パートナーの伏せカードは通常魔法、通常罠に限り発動する事が可能。
・パートナーへの直接攻撃を、自分のモンスターでかばうこと。
□最初のターン、全てのプレイヤーは攻撃ができない。
□バーンダメージ等は1人を対象にして通常通り処理する。
□召喚条件さえ揃えば、パートナーのEXデッキも使用できる。

「裏側守備セット、魔法罠セット、クケケケケ!」
「……ムカつく喋り方ね。私のターン」

 ピキピキと顔面を強張らせながら、愛城はカードをドローする。
 それを見てのものかはわからないが、液状トカゲはニタニタと笑う。

「永続魔法<神の居城・ヴァルハラ>を発動!」

神の居城-ヴァルハラ

永続魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「この効果で、手札から<堕天使アスモディウス>を特殊召喚するわ」

堕天使アスモディウス

効果モンスター 
星8/闇属性/天使族/攻3000/守2500
このカードはデッキまたは墓地からの特殊召喚はできない。
1ターンに1度、自分のデッキから天使族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。
自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、
「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。
「アスモトークン」はカードの効果では破壊されない。
「ディウストークン」は戦闘では破壊されない。

「効果発動。デッキから天使族を1枚墓地に送り――ターンエンドよ」
「ドロー、裏守備セット! 魔法罠セット! クケケケ!」
「……」

 愛城の宣言もロクに聞かぬまま、液体トカゲのもう一つの頭――トカゲ頭が喋り出し、器用にカードを銜え決闘盤にカードをセットし、ターンをエンドする。
 それを見て、輝王は眉を顰めた。

「――妙だな」
「あァ? 今更バケモンの姿形に突っ込み入れてんじゃねェよ。キリがねぇ」
「そうじゃない。あいつ等のフィールドをよく見てみろ」

 はァ? とでも言いたげな顔で、戒斗は相手のフィールドに目をやる。

【愛城LP4000】 手札4枚
場:堕天使アスモディウス
神の居城ヴァルハラ

【ティトLP4000】 手札5枚
場:なし



【液体トカゲLP4000】 手札4枚
場:裏守備モンスター
伏せカード1枚

【トカゲ頭LP4000】 手札4枚
場:裏守備モンスター
伏せカード1枚

「……へェ、寸分違わねェフィールドだな」
「あいつ等は元は単一の固体だ。同一の思考しかできないのかもしれない。 ――もしくは全く同じデッキ、全く同じ戦術を用いて来る可能性もある。タッグ決闘は互いのデッキをシナジーさせる必要が出てくるが、同一のデッキならその必要もない」
「……偶然って可能性もあるが、こっちはデッキ構成すらよく知らねェモン同士だしなァ。同一のデッキを使われたら、確かに厄介かもしれねェ」

 輝王の考察を聞いた戒斗は心底おかしそうな表情を浮かべ、笑った。
 だがそれは、輝王の言葉の全てに同意したわけではない。
 戒斗は口元を大きく吊り上げる。

「――輝王、この決闘。荒れるかもしれねェぞ」
「……何?」

 輝王が意味ありげな態度の戒斗に訝しげな視線を送るのと、同時。
 ティトがデッキから、静かにカードをドローする。

「わたしはモンスターカードと伏せカードを2枚セットして、ターンエンド」

 タッグ決闘の初ターンは、攻撃ができない。
 自らのモンスターを晒す事によって、相手に情報を与える事は得策ではない。
 だからこそ、ティトも裏側守備表示を選んだ。
 愛城は手の内を晒す事を厭わず、自らの布陣を作る事を選んだが……

自分フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、
自分フィールド上に「アスモトークン」(天使族・闇・星5・攻1800/守1300)1体と、
「ディウストークン」(天使族・闇・星3・攻/守1200)1体を特殊召喚する。

 アスモディウスには、非常に強力な効果が存在する。
 すぐに破壊されたとしても、窮地に立たされる事は有り得ない。

「クケケケ、ドロー! 反転召喚! <ワームヤガン>! 効果発動!」

ワーム・ヤガン

効果モンスター
星4/光属性/爬虫類族/攻1000/守1800
自分フィールド上に存在するモンスターが「ワーム・ゼクス」1体のみの場合、
自分の墓地に存在するこのカードを
自分フィールド上に裏側守備表示でセットする事ができる。
この効果によって特殊召喚したこのカードは、
フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
このカードがリバースした時、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を持ち主の手札に戻す。

 だがそれは 『破壊』 限定の耐性だ。
 それ以外の方法を取れる相手ならば、形勢は幾らでも逆転する。

「対象! アスモディウス! クケケケ!」
「チッ、バウンスカードとはね……!」

 <ワーム・ヤガン>が自身に二つ付着しているイソギンチャクを細かく震わせると
 <堕天使アスモディウス>は小さな粉となり、再び愛城の手札へと戻る。
 そして当然、それだけでは終わらない。

「<ワーム・ヤガン>リリース! アドバンス召喚<ワームイリダン> クケケケケ!」

ワーム・イリダン

効果モンスター
星5/光属性/爬虫類族/攻2000/守1800
自分フィールド上にカードがセットされる度に、
このカードにワームカウンターを1つ置く。
このカードに乗っているワームカウンターを2つ取り除く事で、
相手フィールド上のカード1枚を破壊する。

 爬虫類というより岩石のような形をしたモンスターが、フィールドに出現する。
 愛城はそのカードを一瞥すると、小さく舌打ちする。

「セットモンスター攻撃! クケケケケケ!」
「……!」

 鈍重な岩石の化け物は、ティトのセットモンスターを踏み潰す。
 セットしてモンスターである<氷結界の守護陣>の守備力は1600――イリダンの攻撃には耐えられない。
 貴重なチューナーを破壊され、場をがら空きにされてしまった。

「カード2枚セット! カウンター、2つセット!」

 その岩のような肌に、緑色の点が内部から浮き上がる。
 そしてそれは瞳の如くギョロリと愛城に視点を動かし、その目からレーザーが発射された。

「カウンター消費 効果発動! <神の居城ヴァルハラ>を破壊。 クケケケケケ!」

 その光線の目標は、愛城の場に存在する<神の居城ヴァルハラ>
 愛城の後部に出現していた玉座に直撃すると、それは粉々に砕け散る。
 <堕天使アスモディウス>は上級モンスターだ。
 ヴァルハラさえ存在しなければ、再び召喚することは難しい。

「ターンエンド、クケケケケ!」
「なるほど、ただの単細胞ってわけではないようね……」

 だが、愛城は言葉とは裏腹に――目の前の液体トカゲに見下すような視線を送る。
 アスモディウスの召喚は難しい為、モンスターを1枚セットし――

「――ターンエンドよ」
「ドロー、クケケケケ!」

 本体と寸分違わぬ動作で、首トカゲは舌を巧みに操りカードをドローする。
 愛城はその一挙一動を見つめる。
 
「ターンエンド、クケケケケ!」

 そしてエンド宣言。
 それを見た愛城は、静かに口を開いた。

「ティト、あれを裏のまま破壊できる?」
「?」

 カードをドローしようとしたティトは、愛城の言葉に反応し、首を傾げる。
 どういうこと? とでも言いたげな表情を浮かべたティトに対し、愛城は言葉を続ける。

「あのセットモンスターは<ワーム・ヤガン>のような、強力なリバース効果モンスターの可能性が高いわ。効果で破壊しなさい」
「どうしてわかるの?」
「相手に共通点が多い。それにタッグ決闘は本来、似たようなデッキを使用した方が有利。あのカードは警戒すべきよ、確証はないけどね」
「わかった」

 ティトは何の躊躇いもなく愛城の言葉を信じ、短く返事をする。
 そしてカードをドローすると、そのカードを召喚した。

「カードを一枚セットして、わたしは――氷結界の武士を召喚」

《氷結界(ひょうけっかい)の武士(もののふ)/Samurai of the Ice Barrier》 †

効果モンスター
星4/水属性/戦士族/攻1800/守1500
フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが表側守備表示になった時、
このカードを破壊し、自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「そして<リミットリバース>を発動するよ。来て――氷結界の守護陣!」


氷結界の守護陣

チューナー(効果モンスター)
星3/水属性/水族/攻 200/守1600
自分フィールド上にこのカード以外の
「氷結界」と名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、
このカードの守備力以上の攻撃力を持つ
相手モンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 氷の甲冑を纏った武士が、正眼に構え出現する。
 更に<リミットリバース>の効果で、氷の宝具で身を固めた狐の姿が現れる。
 輝王はその二体のモンスターを見て、ティトの狙いを察した。

「チューナーモンスター……愛城の指示通り、シンクロモンスターの効果で破壊する気か」
「――へェ、疑いもしねェんだな」
「あの2人は出会って間も無いはずだが、波長が合うのかもしれない。それに――」
「アイツの事じゃねェよ」
「何?」

 呆れ気味に――しかし戒斗は、心底愉快そうな声を出す。
 輝王がその意図を掴みかねていると……
 銀髪の少女の声が、巨大井戸の中に響く

「<氷結界の武士>に<氷結界の守護陣>をチューニング」

 その声の不思議な圧力に、その場の誰もが黙り込む。
 ティトの背後に無数の氷塊が生まれ、氷山を形成する。

「全てを貫く絶氷の槍……シンクロ召喚

 氷山の一角が紅く輝き、砕け散る。
 その美しい光景に、液状トカゲの動きは止まる。
 何かに見惚れているかのように。笑ったまま表情で、身じろぎすらしなくなる。

「輝け、<氷結界の龍グングニール>」

 少女の声に導かれ
 氷の龍はその存在を顕現させた。

【愛城LP4000】 手札4枚
場:伏せカード1枚
【ティトLP4000】 手札3枚
場:氷結界の龍グングニール
リミットリバース(発動済) 伏せカード1枚


【液体トカゲLP4000】 手札2枚
場:ワーム・イリダン
伏せカード3枚
【トカゲ頭LP4000】 手札5枚
場:裏守備モンスター 伏せカード1枚
 
《氷結界(ひょうけっかい)の龍(りゅう) グングニール/Gungnir, Dragon of the Ice Barrier》 †

シンクロ・効果モンスター
星7/水属性/ドラゴン族/攻2500/守1700
チューナー+チューナー以外の水属性モンスター1体以上
手札を2枚まで墓地へ捨て、捨てた数だけ相手フィールド上に存在する
カードを選択して発動する。選択したカードを破壊する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「グングニールの効果発動。手札を2枚捨てて<ワーム・イリダン>と伏せモンスターを破壊する。タービュランス!」

 銀髪の少女の声が響き、氷の屑が相手モンスターに襲い掛かる。
 先程見せた液体トカゲの戦術――リバース効果によるバウンスをグングニールが受けた場合、体勢を立て直すのは困難だ。
 だからこそ愛城は裏モンスターの破壊を指示し、ティトも出し惜しみをせずそれを破壊する。

「そう――誰もがそう考える。なんのこたぁねェ、自然な事なんだよ」

 戒斗は、破壊されたカードを睨み付ける。
 すると

 ティトのターンが、突然『終了』した。

「……ティト、何故ダイレクトアタックをしなかったの? 伏せカードに警戒してるようなら――」
「え? わたしまだ――」

 ティトは不思議そうにフィールドを見渡すが、そんな現象を引き起こすカードは存在しない。
 トカゲはそんな少女を満足そうに見つめると、ゆっくりと口を開ける。



「――そう、自然な事です。少しは頭の回る方がいるみたいですね」


 声が響いた。
 先程までまったく聞こえなかった、凛とした声。
 それは先程まで「クケケケケケ」と鳴いていた、あの液体トカゲの声そのものだった。
 愛城はその声を聞いて、納得のいかなそうな声を出す

「……まさかそれが貴方の本当の声? 見かけと不釣合い過ぎて反吐が出るレベルね」
「褒め言葉と受け取っておきますよ優等生さん」
「え……この声トカゲさんなの」

 ティトは思わず首を傾げる。
 その異常なまでに張りのある声がまさか液状トカゲの物だとは思わなかったのか、状況の把握に時間がかかっているようだ。
 確かにこのような美声が、目の前のグロテスクなトカゲから発せられているモノだと連想するのは難しい。
 液状トカゲはその反応に慣れているようで、小さく肩(のようなもの)を竦めて息を吐いた。
 そして、ティトに視線を寄せながら1枚のカードを手に取る。

「先程貴方に墓地に送られたカードはコレ――<ネコマネ・キング>です」

《ネコマネキング/Neko Mane King》 †

効果モンスター
星1/地属性/獣族/攻   0/守   0
相手ターン中にこのカードが相手の魔法・罠・モンスターの効果によって
墓地に送られた時、相手ターンを終了する。

「な……」
「何故その様なカードを使っているのか……そうお思いでしょうがご容赦を、現に貴方達のように、バレバレの効果破壊を使ってくれる決闘者が多いからですよ、例えば――」
「わかりやすい同一性を見せびらかし、相手にすり込んだりする――か?」

 戒斗は液状トカゲの発言を遮るように、戒斗が口を挟む。
 それを聞いたトカゲは、僅かに目を細めた。

「……ほぅ」
「効果の高いセオリーってモンは、知名度も自然と高くなるモンだ。だからこそセオリー通りに動きたい場面ってのは、最大限に罠を生かせる。テメェもそのクチだろ?」 
「なかなかの洞察力ですね。ですが不可解だ……気付いていたのなら何故仲間に伝えようとしないのですか」
「愚問だなァ、ムカツクからに決まってんだろ」
「永洞……どうやら死にたいようね」
「んな初歩くらい自分で気付けねェのが悪いんだよ。やるってんなら相手になるがなァ」

 愛城は戒斗を睨むが、戒斗は更に愛城を煽る。
 そんな戒斗を、愛城はつまらなそうに一瞥すると、目の前に視線を戻す。
 その視線を受けながらも、液状トカゲはやけに凛々しい顔でドローする。

「ターンを強制終了しただけで何を偉そうに。貴方の状況は何も変わらないのよ?」
「確かに貴方の言う通り、フィールドモンスターはがら空きになってしまいましたね」

 強制的にターンを終了させられたとはいえ、ティトの場には先程召喚した<氷結界の龍グングニール>が存在する。
 あのモンスターがいる限り、伏せモンスターは何の役にも立たないだろう。
 
「――ですが、コレならどうです? 未来融合――フューチャーフュージョンを発動!」

《未来融合(みらいゆうごう)-フューチャー・フュージョン/Future Fusion》 †

永続魔法(制限カード)
自分のエクストラデッキに存在する融合モンスター1体をお互いに確認し、
決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。
発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時に、確認した融合モンスター1体を
融合召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

「対象は<ワーム・ゼロ> このカードは<ワーム>と名の付いたカードなら、何枚でも融合素材にする事ができる!」
「な……!」

《ワーム・ゼロ/Worm Zero》 †

融合・効果モンスター
星10/光属性/爬虫類族/攻   ?/守   0
「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター×2体以上
このカードの攻撃力は融合素材にしたモンスターの種類×500ポイントになる。
このカードは融合素材にしたモンスターの種類によって以下の効果を得る。
●2種類以上:1ターンに1度、自分の墓地の爬虫類族モンスター1体を
裏側守備表示で特殊召喚できる。
●4種類以上:自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、
フィールド上のモンスター1体を墓地へ送る。
●6種類以上:1ターンに1度、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

「――私は、18枚の<ワーム>を墓地に送る!」

 ボトボトボト……と、幾つもの変異生命体達が、乱雑にセメタリーへと落とされていく。
 その光景は異様で、普通の女性なら吐き気を催す程グロテスクなものだった。
 輝王にも余り気分の良い光景には見えず、液状トカゲを睨み付ける。

「意外に紳士だと思っていたが――このような手で二人の戦意を削ごうとするとは。どうやら見込み違いのようだな」
「その認識に間違いはありません。私はトカゲという名の紳士ですからね」
「なるほどな、それじゃァ仕方ねェ」
「……仕方ないのか?」

 愉快そうに口元を吊り上げる戒斗から、輝王は2人の女性陣へと視線を移す。
 あの異種生命体が落下し続ける光景を見た2人が平静でいられるとは思えない。
 ――そう、思ったのだが

「ワーム・ゼロ――出てくるのは2ターン後。出てくると厄介だね、あいしろ」
「そうね。2ターンの間に決着を付けたい所だけど……」
「……」

 どうやら特に問題はないらしい。
 2人とも先程の光景の事を気にもせず、決闘の事だけを考えているようだ。
 輝王はそれを複雑な心境で眺めていると、液状トカゲの声が響く。
 その声の調子は、より敵意を含んだ物へと変わっていく

「2ターン待つ必要はありませんよ。私は――リビングデッドの呼び声を発動!」

《リビングデッドの呼(よ)び声(ごえ)/Call of the Haunted》 †

永続罠(準制限カード)
自分の墓地からモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 この状況で、リビングデッドの呼び声
 それが意味する事は、この場にいる誰もがわかっていた。
 <未来融合>による18枚もの墓地肥やし
 そしてリビングデッドの呼び声は、殆どのモンスターをノーコストで蘇生を可能とする優秀なカード。
 それはつまり、全てのワームを自在に蘇生できるといっても過言ではない。
 
 地響きが聞こえた。
 墓地の20枚の中から選ばれる1枚……その存在感は、召喚される前からその存在を主張する。
 そして生まれる事を許可するかのような柔らかい声で、液状トカゲは宣言した。
 そのモンスターの、名前を


《ワーム・ヴィクトリー/Worm Victory》 †

効果モンスター
星7/光属性/爬虫類族/攻   0/守2500
リバース:「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスター以外の
フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。
このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在する
「ワーム」と名のついた爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。


 その名前の意味するものは、勝利。
 それを体現するかのように赤黒い物体から幾つもの手が生え、それは一つの形を象って行く。
 勝利の、Ⅴ――
 それは同時に、対戦相手の敗北も揶揄する。
 紳士的な液状トカゲは薄ら笑いを浮かべ、その姿を感慨深く見つめた。

「ワームヴィクトリーの攻撃力は墓地のワームの数を500倍した数値――つまり」
「攻撃力9500……!?」

 輝王の驚愕が、声となって表に出る。
 それは本来なら――普通の決闘では有り得ない数値。
 その数値を可能にしているのは、墓地に存在する様々な姿形をしたワーム達。
 勝利を手にする為には、犠牲は欠かせないのだと……そう物語っているような効果だ。

 愛城は、無言でティトの方に視線を向けた。
 今から狙われるのは、確実にティトが召喚した<氷結界の龍グングニール>だろう
 グングニールの効果は強力だ
 例え攻撃力9500だろうが、その効果を以ってすれば問答無用で破壊する事が可能な……強力無比な効果
 もしティトのターンまでグングニールを守る事ができれば、この脅威は乗り切れる。

「バトル――ワームヴィクトリーで、氷結界の龍グングニールを攻撃」

 だが、その攻撃力を防ぎきるのは――簡単ではなかった。
 ティトは伏せカードを開く。
 ごめんね、と
 自らのモンスターに呟きながら

「罠カード――ガード・ブロック」

《ガード・ブロック/Defense Draw》 †

通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、
自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 <ワーム・ヴィクトリー>から幾つもの手が伸び、グングニールを捉える。
 拘束された氷の龍の中央に手が突き刺さり、小さな氷片となって砕け散った。
 ティトにも同様に手が伸びていったが、それは<ガード・ブロック>によって阻まれ、同時にカードを一枚ドローした。

「そうしの服――これ以上よごさせない」
「それはこの私相手に無傷でこの決闘を終わらせると?」

 コクリ、とティトは小さく頷く。
 表情には出ていないが、やはり未だに服を汚された事を怒っているようだ。
 トカゲが紳士になろうが、それは変わらない。

「ではお手並み拝見といきましょうか――私はモンスターをセットし、ターンをエンドします」
 
【愛城LP4000】 手札5枚
場:伏せカード1枚
【ティトLP4000】 手札2枚
場:なし
リミットリバース(発動済) 


【液体トカゲLP4000】 手札1枚
場:ワーム・ヴィクトリー(攻9500) 
伏せカード2枚 リビングデッドの呼び声(対象ワームヴィクトリー)
【トカゲ頭LP4000】 手札5枚
場:伏せカード1枚


「私のターン、ドロー」

 愛城はカードをドローし、それを巧みに操る。
 そして目の前の<ワーム・ヴィクトリー>を見つめると、ニヤリと口元を歪めた。

「攻撃力9500のモンスターを前にしても動じないとは……もっと自分の心に正直になったらどうです?」
「正直か、ですって? 私程素直な女も居ないと思うけれど」
「はァ? てめェどの口が……」

 戒斗が細目で愛城に視線を向けるが、愛城は意に介さない。
 今大事なのは、目の前の相手を叩き潰す事。

「手札から<ヘカテリス>の効果を発動」

《ヘカテリス/Hecatrice》 †

効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1500/守1100
このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。
自分のデッキから「神の居城-ヴァルハラ」1枚を手札に加える。

 小さな置物のような形をした天使が、手札から一枚の羽をデッキの中へと送り込む。
 その羽が差し込まれた下のカードを引き抜くと、そのまま発動した。

「そして手札に加えたカード――神の居城-ヴァルハラを発動!」

《神(かみ)の居城(きょじょう)-ヴァルハラ/Valhalla, Hall of the Fallen》 †

永続魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、
手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「<神の居城-ヴァルハラ>の効果発動。手札から<堕天使アスモディウス>を再び特殊召喚。効果を発動し、天使族を1体墓地に送るわ」
「成る程、時間稼ぎですか。確かに<ワーム・ヴィクトリー>の前にはそれ以外術が……」
「――そして、伏せモンスターに攻撃」
「……攻撃?」

 液状トカゲが耳を疑い聞き返したのと、ほぼ同時。
 <堕天使アスモディウス>の攻撃が、深々と伏せモンスターに突き刺さった。
 愛城は僅かに力を込める。腕の力ではなく――ペインとしての能力を。
 破壊されたモンスターは<ワーム・アグリィ>

《ワーム・アグリィ/Worm Ugly》 †

効果モンスター
星1/光属性/爬虫類族/攻 100/守 100
このカードをリリースして「ワーム」と名のついた
爬虫類族モンスターのアドバンス召喚に成功した時、
自分の墓地に存在するこのカードを相手フィールド上に表側攻撃表示で
特殊召喚する事ができる。

 当然攻撃力3000のアスモディウスの攻撃には耐えきれず、呆気無く破壊された。
 生えていたトカゲ頭は、その衝撃に対しピクリとも反応しない。

「やはり貴方は同一体だったのね。その頭は例えるなら、今現在に限っては腹話術のような物……だから咄嗟の攻撃には反応しきれず、動かす事ができなかった」
「それを看過するのが目的でしたか……ですが、それに何の意味が? 攻撃表示モンスターを残せば、ワームヴィクトリーの攻撃で貴方は粉微塵に砕けますよ」
「当然このままでは終わらないわよ。私は<おろかな埋葬>を発動し、デッキから<レベル・スティーラー>を墓地に送る」

おろかな埋葬(まいそう)/Foolish Burial》 †

通常魔法(制限カード)
自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

「そして<堕天使アスモディウス>のレベルを1つ下げ、墓地に送った<レベルスティーラー>を特殊召喚

《レベル・スティーラー/Level Eater》 †

効果モンスター
星1/闇属性/昆虫族/攻 600/守   0
このカードが墓地に存在する場合、自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル5以上のモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。
このカードはアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。

「更に伏せカード、エンジェルリフトを発動。対象は先程墓地に送ったモンスター」

《エンジェル・リフト/Graceful Revival》 †

永続罠
自分の墓地に存在するレベル2以下のモンスター1体を選択し、攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上に存在しなくなった時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時このカードを破壊する。

「極星天――ヴァルキュリア特殊召喚するわ」

《極星天(きょくせいてん)ヴァルキュリア/Valkyrie of the Nordic Ascendant》 †

チューナー(効果モンスター)
星2/光属性/天使族/攻 400/守 800
このカードが召喚に成功した時、相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にこのカード以外のカードが存在しない場合、
手札の「極星」と名のついたモンスター2体をゲームから除外して発動する事ができる。
自分フィールド上に「エインヘリアルトークン」
(戦士族・地・星4・攻/守1000)2体を守備表示で特殊召喚する。

 場に3体のモンスターが現れ、液状トカゲは警戒を強める。
 ましてやその内1体のモンスターはチューナーだ。出てくるのは間違いなく、シンクロモンスター
 だが、その警戒はあくまで保険。
 液状トカゲは、それを踏まえた上で愛城を賞賛する。

「まずは破壊されても問題のない<堕天使アスモディウス>で伏せモンスターを攻撃。その後にシンクロ召喚を行い、守備表示で召喚する事でダメージを防ぐ――なるほど、完璧なプレイングです」
「お褒めに頂かるのはありがたいけれど……それは勘違いね」
「……?」
「レベル7<堕天使アスモディウス>レベル1<レベル・スティーラー>に、極星天ヴァルキュリアをチューニング――」

 <極星天ヴァルキュリア>を中心に、三体のモンスターが虹色の光を発しながら飛翔して行く。
 井戸の暗闇を裂くように、光輝くモンスター達が吸い込まれていく。
 
 
 ――天使の階段。
 層積雲の隙間から光が差し込み、まるで天と地を結ぶ階段のように見える現象で、「天使の階段」や「天使のはしご」、「光芒」などと呼ばれる。気象現象の一つだ。
 それが、この巨大な井戸の中に出現した。
 そしてその中から、眩い光と共に、一体の天使が光臨する。
 いや、あれはむしろ天使というより――神と評した方が相応しい。


「恐れ慄きなさい――シンクロ召喚、極神聖帝オーディン!」

 極神と銘打たれたそのモンスターがフィールドへと舞い降りる。
 オーディンの持つ杖は、一振りしただけで全てを砕きかねない威力を想像させた。
 
【愛城LP4000】 手札4枚
場:極神聖帝オーディン
神の居城ヴァルハラ

【ティトLP4000】 手札2枚
場:なし
リミットリバース(発動済) 


【液体トカゲLP4000】 手札2枚
場:ワーム・ヴィクトリー(攻10000) 
伏せカード2枚 リビングデッドの呼び声(対象ワームヴィクトリー)
【トカゲ頭LP4000】 手札5枚
場:伏せカード1枚

 
 

 

《極神聖帝(きょくしんせいてい)オーディン/Odin, Father of the Aesir》 †

シンクロ・効果モンスター
星10/光属性/天使族/攻4000/守3500
「極星天」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
このカードはエンドフェイズ時まで魔法・罠カードの効果を受けない。
また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが
相手によって破壊され墓地へ送られた場合、
そのターンのエンドフェイズ時に自分の墓地に存在する
「極星天」と名のついたチューナー1体をゲームから除外する事で、
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。

 

 その姿、その存在に、ただ圧倒された。
 輝王はそのカードの存在感に戦慄を覚え、ティトは驚いてそのモンスターを見つめる。
 そして2人は直感的に、思う。
 このカードこそ、天使族という種族の頂点なのだと

 

 だが、液状トカゲは違った。
 出現したモンスターに後ずさったのは、最初だけ。

 

「攻撃力4000ですか……それではワーム・ヴィクトリーには遠く及ばない。それなのに守備表示にしないとは――プライドが邪魔しましたか?」
「……さて、どうかしら? どうしても確かめたいのなら、貴方自身で確かめなさい」

 

 愛城は不敵に笑いながらカードを2枚セットし、ターンをエンドした。
 液状トカゲは考える。
 このターンは<ワーム・ヴィクトリー>の攻撃ができない。
 例えプレイヤーが1人であっても『頭』のターンである以上、頭の操るモンスターしか操作する事は不可能だからだ。
 液状トカゲ……トカゲ頭は器用に口でドローし、戦術を固める。

 

「ここはフォローに徹しますか。伏せカードを1枚、伏せモンスターをセットし、ターンエンド」
「……わたしのターン」

 

 終了宣言から殆ど間隔を置かずに、ティトがカードをドローする。
 恐らくターンが回ってくるまでの間、自身のやる事を決めていたのだろう

 

「わたしはカードとモンスターをセットして、ターンエンド」
「おや、貴方がこのカードを破壊する算段かと思ったのですが……まさか見殺しとは」
「ううん、違うよ」

 

 液状トカゲの挑発的な言葉に、ティトは間髪入れずに首を振る。
 そして愛城の方を真っ直ぐ見つめ、柔らかい声で言った

 

「あいしろのこと、信じてるから」

 

 大きな声ではない。甲高い声でもない。
 だがそれは、不思議な程よく響く声だった。
 
「――貴方達は、この世界で初めて会ったのではないのですか?」
「うん、30分くらい前」
「……その程度で? 貴方はその人を信じると?」
「うん、ダメ?」
「……」

 

 
 何か思う事があるのだろうか、液状トカゲは絶句していた。
 その言葉に、それを言い放っている姿に。
 その――嘘を言っているとは思えない、無垢な表情に。

 

 愛城はそんなティトから目を逸らし、ため息をつく。

 

「私は貴方と同意見よ、トカゲさん。信頼なんて殆どが虚像よ、期待すれば期待した分だけ裏切られる。それが信頼。勝手にそれを向けられても困るし、反吐が出るわ」
「……」
「……でもそれが純度の高い物だと仮定して、それを裏切るのは沽券に関わる。それが組織のリーダーとしての役目」
「沽券の為に、命の危険を犯すと?」
「命の危険――? ハッ」

 

 愛城は表情を歪め、問いを投げかけた者を嘲笑う
 そんなことがわからないのか? とでも言い放つかのように

 

「そんなものに拘っている方が――余程危険よ」

 

 ゾクリ、と。
 液状トカゲは、確かな悪寒を感じた。
 その理由はわからない。だが、妙だと思った。

 

 凍てつく氷を操る少女からは暖かさを
 神と称する女性からは底冷えする冷酷さを感じたからだ。
 だというのに、この2人から伝わってくる何らかの同一性。全てが矛盾している。




「――いいでしょう、ならば望み通り。神に挑ませて頂きましょう」
「許可するのは私よ? どこからでも来なさい、爬虫類」

 

 

 

 雰囲気が、変わった。
 極神聖帝オーディンの姿は、井戸に収まるようなサイズに変更されてはいるが――畏怖の想いを芽生えさせるのに必要なのは、大きさでは無い。
 だが、ワームヴィクトリーの攻撃力は10000
 攻撃力4000のオーディンでは、勝ち目が無い。

 

「バトルフェイズです――極神聖帝オーディンに、ワームヴィクトリーで攻撃!」

 

 ヴィクリーの無数とも取れる手が、凄まじい速度でオーディンへと伸びていく。
 その速度はどの肉食獣の足よりも速い。オーディンは自身の持つ杖を掴まれてしまう。
 そこで、愛城が動いた。

 

「――罠カード<極星宝メギンギョルズ>」

 

《極星宝(きょくせいほう)メギンギョルズ/Nordic Relic Megingjord》 †

通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する
「極神」または「極星」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値の倍になる。
このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃をする事はできない。

 

 杖を握る手に神秘的な帯で構成された腕輪が装着され、オーディンの攻撃力は倍増した。
 それにより杖を奪おうとした無数の手を引き千切り、構え直す。
 液状トカゲはそれを見て、感嘆の声を上げた。

 

「まさかその様な切り札を残しているとは――ですが、それではライフを守ることはできてもヴィクトリーを倒すまでには至らない」
「そうね――そんな事は百も承知だわ」

 

 返事をしながら、愛城は思い返す。
 かつてこの極星宝を使っても尚、敗北した決闘の事を。
 攻撃力を2倍にしたこのモンスターを、全てを賭して超えて行った男の事を。
 だが
 だからこそ

 

「――貴方が相手でよかったわ。トカゲさん」
「……?」
「その効果――犠牲の上で成り立つ攻撃力。その数値――どれを取っても最高よ」
「ヴィクトリーの事を言っているのですか? こんな時に何を――」

 

 液状トカゲが思わず聞き返し、視線を向けると。
 愛城は、三日月のように口を吊り上げ笑った。




「これは最高の――プローベになる」




 次の瞬間。
 オーディンの攻撃力が、下がった。
 2倍になったはずの攻撃力が、何故か7000に下降したのだ。

 

「な……!?」
「下げてどうするつもりか? 決まってるじゃない、貴方を倒す為よ」

 

 少し遠くからそれを見ていた輝王も、液状トカゲと同じように現状を掴めずにいた。
 それは戒斗も同じだろう。
 
「ワームヴィクトリーを倒すには最低でも2000の攻撃力上昇が不可欠――なのに何故あんな事を」
「まともに考えりゃ、ありゃただの自殺行為だなァ……だが」
「だが?」
 
 戒斗は動じず、見つめる。
 フィールドに立つ、数年の付き合いである人影を。

 

「――私は立ち止まらない、今は傍観者でも、歩き続ける。あの時敗北した私の、更に先へと進ませてもらうわ」
「残念ですが、その状態でヴィクトリーの攻撃を受けたらタダでは済みません。貴方のオーディンの攻撃力は7000に下降した! 3000の超過ダメージを実体化すれば――」
「……3000の超過ダメージって、痛いのかしら?」
「当然でしょう。貴方はそれを――」

 

 液状トカゲが、言葉を続けようとした瞬間。
 体全体が突如、陰で覆われ――目の前に、ヴィクトリーと競り合っていたはずのオーディンが、現れた。
 杖を刃物のように構えた、黒い神。

 

「ヒッ……!?」
「――なら、それ以上の痛みを教えてあげるわ」

 

 ザシュリ、と。
 鈍い音が聞こえた。
 それは、首が跳ね飛ばされる音。
 あの杖に、どのような殺傷能力があったのか、液状トカゲの胴体は一瞬の内に切り離される。
 その一瞬の間に、液状トカゲは頭の方に『意識』を移し変えた。 

 

「があああああああああああああああああ!?」
「痛覚があったのね、ご愁傷様。――でも安心して、首はまだ残してあるから」

 

 鉄片を体に埋め込まれたかのような、遅い来る痛みに耐え偲んでいると、液状トカゲの視界に『本体』だったモノが映り、消滅した。
 一瞬でも移し変えが遅れていたら、命はなかった。
 同時に、本体が操っていたはずの決闘盤も粉々に四散する。

 

「な、何が……」
「説明することすら面倒だわ。消える前に、貴方の誇る<ワームヴィクトリー>の状態でも確認してみなさい」

 

 トカゲ頭は言われるがままに、頭の方を決闘盤を恐る恐るチェックする。
 そのログを見て、トカゲ頭は唖然とした。

 

「攻撃力2500……!?」
「そう、貴方は2500のヴィクトリーで攻撃力7000のオーディンに挑んだのよ。勝てる道理はないわ」
「馬鹿な……」

 

 トカゲ頭は、再び決闘盤を操作し、その原因となったカードを探した。
 そこには



《反転世界(リバーサル・ワールド)/Inverse Universe》 †

通常罠
フィールド上に表側表示で存在する全ての効果モンスターの攻撃力・守備力を入れ替える。



 トカゲ頭とほぼ同時に――
 戒斗と輝王は状況を把握して、唖然とした。
 だがそれも一瞬、戒斗は輝王に意地悪く笑いかける。

 

「――まともじゃねェんだよ、アイツは」
「ああ、よくわかった……」

 

 輝王は思う。ああいう『強さ』もあるのだな、と。
 駆け引きや経験――そういった戦いより、次元が上の強さ
 相手が何をしてこようと変わらない、不動の強さ。
 そんな輝王の心中を気にもせず、愛城は不敵に笑う。

 

「メギンギョルズは攻撃力だけじゃなく、守備力も二倍になる――それを生かさない手は無い。あの鳥もどきに使う予定の戦術だったけれど、いい実験になったわ」
「……」
「ワームヴィクトリー……確かに勝利の名に相応しいモンスターね。頼りにするのもわかるけれど――」

 

 愛城は微笑んで、ワームヴィクトリーを眺める。
 長い髪をサラリと流すと、気取った仕草で後ろを向いた。



「勝つ事しか見えていない爬虫類に――今の私は倒せないのよ」



 次の瞬間
 硝子の割れるような音が響き渡り、ヴィクトリーが粉々に四散する。
 その硝子の雨は、愛城の勝利を着飾る背景として、降り続けた。

 

【液状トカゲ】LP4000→0
【愛城LP4000】 手札2枚
場:極神聖帝オーディン
神の居城ヴァルハラ

【ティトLP4000】 手札1枚
場:伏せモンスター1枚
リミットリバース(発動済) 伏せカード1枚

【トカゲ頭LP4000】 手札4枚
場:伏せモンスター1枚
伏せカード2枚 

 

「さて――私のターンね。極神聖帝オーディンで伏せモンスターに攻撃」

 

 先程液状トカゲの本体を消滅させた時と違わぬ威力を持った一撃が、伏せモンスターに襲い掛かる。
 当然、下級モンスターで凌げるわけがない。

 

《ヴェノム・コブラ/Venom Cobra》 †

通常モンスター
星4/地属性/爬虫類族/攻 100/守2000
堅いウロコに覆われた巨大なコブラ。
大量の毒液を射出して攻撃するが、その巨大さ故毒液は大味である。
 
「伏せカードをセットし、これで私のターンは終了――貴方のターンよ、せいぜい足掻きなさい」
「……私の、ターン」

 

 トカゲ頭は混乱しつつも、最善の策を考える。
 ワームヴィクトリーを失った今、戦う為には新たな僕が必要だ。

 

「<スネークレイン>を2枚発動します。手札を2枚墓地に送り、デッキから8枚の爬虫類を墓地に送る!」

 

《スネーク・レイン/Snake Rain》 †

通常魔法
手札を1枚捨てる。
自分のデッキから爬虫類族モンスター4体を選択し墓地に送る。

 

「相も変わらず墓地頼りの戦術――ヴィクトリーはもういないわよ?」
「確かに攻撃こそ劣りますが、それと同等のモンスターを呼ばせて頂きましょう……<リミットリバース>を発動!」

 

《リミット・リバース/Limit Reverse》 †

永続罠
自分の墓地に存在する攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、
攻撃表示で特殊召喚する。
そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時このカードを破壊する。

 

「現れろ――毒蛇王ヴェノミノン!」

 

 トカゲ頭の声を引き金にして、井戸の中央から水飛沫が上がった。
 その中から現れたのは、真紅のマントを纏った毒蛇の王

 

《毒蛇王(どくじゃおう)ヴェノミノン/Vennominon the King of Poisonous Snakes》 †

効果モンスター
星8/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0
このカード以外の効果モンスターの効果によって、
このカードは特殊召喚できない。
このカードは「ヴェノム・スワンプ」の効果を受けない。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスター1枚につき
500ポイントアップする。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、
自分の墓地のこのカード以外の爬虫類族モンスター1体を
ゲームから除外する事でこのカードを特殊召喚する。

 

「墓地の爬虫類は8体。攻撃力は4000――貴方が先のターンで発動した<極星宝メギンギョルズ>の効果はエンドフェイズまでしか続かないはずです……バトルフェイズ!」

 

 そしてオーディンと相打ちする事ができれば、自身の効果で蘇生し――更に追撃する事ができる。
 だが愛城は、その行動を嘲笑した。

 

「……確かにそれはそうだけれど、どうやら理解できていなかったみたいね」
「? 何を――」
「私が発動した<反転世界>は、攻守を入れ替えた数値に永続的に『固定』するのよ。よってその攻撃力は、7000のまま」
「!?」

 

《反転世界(リバーサル・ワールド)/Inverse Universe》 †

通常罠
フィールド上に表側表示で存在する全ての効果モンスターの攻撃力・守備力を入れ替える。

 

 トカゲ頭は驚愕し、目の前の決闘者の恐ろしさを再認識した。
 先のターンで使ったあの戦術は

 

 相手の手を潰し
 自らの得意とするカードを最大限に引き出し
 尚且つ一時的な強化を、永続的な力に変えたのだ

 

「……さすがですね。だがまだ手はあります。私はカードを1枚伏せ、ターンエンドしましょう」
「それが強がりで無い事を祈るわ」

 

 愛城は余裕の表情で微笑む。
 それは当然だろう――彼女のライフには、傷一つ付いていないのだから。
 そしてトカゲ頭が先程伏せたカードは、あくまで保険。
 相手を破壊する事ができても、その先が続かない諸刃の剣。

 

 だからこそ
 それは確かに強がりであり――手を残しているとも、言えた。

 

【愛城LP4000】 手札2枚
場:極神聖帝オーディン(攻7000)
神の居城ヴァルハラ 伏せカード

【ティトLP4000】 手札1枚
場:伏せモンスター1枚
リミットリバース(発動済) 伏せカード1枚

【トカゲ頭LP4000】 手札0枚
場:毒蛇王ヴェノミノン(攻4000)
伏せカード2枚 リミット・リバース(対象ヴェノミノン)
愛城LP4000】 手札2枚
場:極神聖帝オーディン(攻7000)
神の居城ヴァルハラ 伏せカード

【ティトLP4000】 手札1枚
場:伏せモンスター1枚
リミットリバース(発動済) 伏せカード1枚

【トカゲ頭LP4000】 手札0枚
場:毒蛇王ヴェノミノン(攻4000)
伏せカード2枚 リミット・リバース(対象ヴェノミノン) 

 

「わたしの、ターン」

 

 ティトはゆったりと仕草で、カードをドローした。
 目の前のモンスターの攻撃力は4000 
 ――でも、倒せない相手じゃない

 

「わたしは氷結界の輸送部隊を反転召喚。効果を発動するよ」

 

《氷結界(ひょうけっかい)の輸送部隊(ゆそうぶたい)/Caravan of the Ice Barrier》 †

効果モンスター
星1/水属性/海竜族/攻 500/守 200
自分の墓地に存在する「氷結界」と名のついた
モンスター2体を選択して発動する。
選択したモンスターをデッキに戻し、
お互いにデッキからカードを1枚ドローする。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「<氷結界の武士>と<氷結界の御庭番>をデッキに戻して、お互いカードを1枚ドロー」
「……」
「トカゲさんもだよ」
「あ、あぁ……」

 

 液状トカゲは戸惑いながらカードを1枚ドローする。
 それはそうだろう。
 この行為は不利な立場の相手に、逆転の機会を与えているようなものだ。
 だが

 

「手札から<氷結界の翼竜>を召喚」

 

 ティトと同じ灰色の瞳を輝かせるワイバーンが、鮮やかな水色の双翼を羽ばたかせ舞い上がる。



<氷結界の翼竜>
効果モンスター(オリジナルカード)
星4/水属性/ドラゴン族/攻1800/守1000
このカードが召喚に成功した時、
自分の墓地に存在する攻撃力500以下の「氷結界」と名のついたモンスター1体を
特殊召喚することができる。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。
このカードをシンクロ素材とする場合、
水属性モンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 

「その効果で、墓地から<氷結界の守護陣>を特殊召喚

 

《氷結界(ひょうけっかい)の守護陣(しゅごじん)/Defender of the Ice Barrier》 †

チューナー(効果モンスター)
星3/水属性/水族/攻 200/守1600
自分フィールド上にこのカード以外の
「氷結界」と名のついたモンスターが表側表示で存在する限り、
このカードの守備力以上の攻撃力を持つ
相手モンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 

「更に<極寒の氷像>を発動して、氷像トークンを二体特殊召喚

 

<極寒の氷像>
通常魔法(オリジナルカード)
自分フィールド上に氷像トークン(水族・水・星1・攻/守0)を2体守備表示で特殊召喚する
このトークンは、「氷結界」と名のついたモンスター以外のアドバンス召喚のためにリリースすることはできない
このトークンはシンクロ召喚には使用できない

 

 一気に5体のモンスターが、場へと並ぶ。
 その中には先程グングニールを呼び出した、チューナーの姿。
 トカゲ頭は、除去系の効果を持ったシンクロモンスターを警戒する。
 もし呼び出されたら、効果を使う直前に破壊するのが得策だ。

 

「全てを滅する絶氷の刃。その氷霧にて、神威の力を解放せよ――」

 

 風が、氷の欠片を運ぶ。
 散っていった<氷結界>が残した氷の欠片を。
 それらはティトの前方へと集い、巨大な像を形成する。
 <氷結界の龍グングニール>の赤い光とは違う。
 鮮烈な、蒼。
 遥か深海に存在する、蒼だ。
 例え光が届かなくても、その存在を誇示し続ける蒼。
 その蒼は、暗い井戸の中であっても色褪せない。

 

「――シンクロ召喚! 顕現せよ! <氷結界の龍デュランダル>!」

 

 空気が塗り替えられる。
 汚れ無き白が支配していた戦場を我がものにするために、蒼が走る。
 背に生えた6枚の氷の羽が、フィールドを覆い尽くすように広がった。

 

<氷結界の龍デュランダル>
シンクロ・効果モンスター(オリジナルカード)
星8/水属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
「氷結界」と名のついたチューナー+チューナー以外の水属性モンスター2体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカード以外の
フィールド上に存在するすべての表側表示カードに、アイスカウンターを1つずつ乗せる。
1ターンに1度、フィールド上に存在するアイスカウンターを任意の数だけ取り除くことができる。
このカードの攻撃力は、このターンのエンドフェイズ時まで、この効果で取り除いたアイスカウンターの数×500ポイントアップする。
このカードはカードの効果では破壊されない。

 

「これは――!?」
「<氷結界の龍デュランダル>がシンクロ召喚に成功した時、フィールド上に存在する全ての表側表示カードにアイスカウンターを1つずつ乗せる。そしてその効果にチェーンして、リミットリバースを発動するよ」

 

 トカゲ頭の驚愕の言葉を待たず
 ティトが呼び出した<氷結界の龍デュランダル>の翼が、わずかに動く。
 風が生まれ、それに乗った冷たい空気がフィールドを包み込む。
 井戸の底が凍ってしまうかのような、凄まじい冷気。

 

 それはティトの場に存在する2体の氷像トークン。
 リミットリバース2枚に、その内の1枚が蘇生した豪雨の結界像をもテキストが読めない程凍りつかせる。
 続けて愛城の場の<神の居城-ヴァルハラ> <極神聖帝オーディン>も完全に凍りついた。
 そして当然、相手であるトカゲ頭が操る<毒蛇王ヴェノミノン><リミットリバース>も例外ではない。
 その様を眺め、愛城はため息を尽く。

 

「……はた迷惑な龍ね。人の城を凍らせたんだから、このターンで決めなさいよ」
「――うん。デュランダルの効果発動。フィールド上のアイスカウンター9つを取り除き、エンドフェイズまで攻撃力を4500ポイントアップさせる」

 

 氷の龍の雄叫びに合わせ、場の全てに覆っていた氷が砕け散る。
 それはまるで、視界が硝子のように粉々になったかのような、危うい美しさを感じさせた。

 

「フロスティ・ニルヴァーナ!」

 

 粉々になった氷の屑は、巨竜が持つ6枚の翼に吸い込まれ、その翼はさらに体積を増す。
 この効果により、<氷結界の龍デュランダル>の攻撃力は7500ポイントまで上昇した。
 液体トカゲ頭はその攻撃力に恐れを無し、愛城はその龍の効果に薄く感嘆する。
 ティトはそんな愛城を、横目で見つめた。
 愛城が、それに気付く。

 

「あいしろ」
「……何よ」
「わたしのデュランダルの方がオーディンより、ほんのすこし強い」
「……」

 

 得意気に胸を張るティトに、愛城は絶句した。
 本来の愛城であったなら、手が付けられない事態になっただろう。
 だが何故だろうか、不思議と愛城はその様子に、毒気を抜かれてしまった。

 

「――罠と魔法の耐性がある分、こちらの方が上よ。調子に乗らないで」
「それはそうかも。バトルフェイズに入るね」

 

「<氷結界の龍デュランダル>で<毒蛇王ヴェノミノン>を攻撃」

 

 氷の巨竜が、大きく息を吸う。
 瞬間。
 フィールドを覆うように広がっていた6枚の翼が、一斉に四散した。
 それはまるで、満天の星空。
 無数の氷の結晶が輝き、極光をもたらす。
 結晶は、巨竜が開いた口へと収束し――

 

 氷の渦となって、放たれる。
 爬虫類の王は、それを受け止めんとマントを翻す。
 だが、無理だ。
 攻撃力が違い過ぎる。
 トカゲ頭は戦術を切り替え『切り札』を発動する。

 

「罠カード発動、毒蛇の供……」
「だめだよ。トカゲさん」
「……?」

 

 だがそこで、ティトの制止が入った。
 自身の氷龍を守る為に行った言葉かとも思ったが、違う。
 トカゲ頭は、この銀髪の少女がそういう戦法を取らない事を、既に理解している。

 

「そのカード……毒蛇の供物――だよね」

 

《毒蛇(どくじゃ)の供物(くもつ)/Offering to the Snake Deity》 †

通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する爬虫類族モンスター1体を破壊し、
相手フィールド上に存在するカード2枚を破壊する。

 

デュランダルには、効果破壊はきかないの。だから、それは使わないほうがいいよ」
「な――」
「大人しくうけてね――ダイヤモンド・カタストロフィ!」

 

 直後
 氷の渦は、毒蛇の王を貫いた。
 そしてその余波は、トカゲ頭へと届く

 

【トカゲ頭LP】4000→500

 

 だが、終わらない。
 文字通り首の皮一枚残っているトカゲ頭は、それでも決闘を諦めない。

 

「――まだです! ヴェノミノンの効果発動。墓地の爬虫類を除外する事で、再び墓地から舞い戻る!」
「だめだよ。トカゲさん」
「諦めるわけにはいきません。このターンを凌げばデュランダルは攻撃力が下がり、3500となったヴェノミノンでも倒す事が可能! そして爬虫類をドローすればオーディンを<毒蛇の供物>で破壊する事もできる!」

 

 そして爬虫類が墓地に増える事により、再び攻撃力は4000に戻る。
 そうなれば、オーディンが蘇生されたとしても、迂闊には攻められない。
 だが、ティトは「ううん」と首を振って否定する。

 

「豪雨の結界像の効果があるから――もう、ヴェノミノンは戻って来れないよ」
「な……?!」

 

 見逃していた。
 デュランダルの召喚と同時に出現した――<リミット・リバース>の効果により蘇生していた、モンスターの存在を。



《豪雨(ごうう)の結界像(けっかいぞう)/Barrier Statue of the Torrent》 †

効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1000/守1000
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
水属性モンスター以外の特殊召喚はできない。

 

 井戸の中央から水飛沫を上げて、ヴェノミノンが復活しようと試みる。
 だが、その水飛沫諸共凍ってしまい、毒蛇の王の蘇生は阻止される。
 このカードの存在に気付けなかったのは、デュランダルが放ったアイスカウンターのせいだろう。
 テキストすら読めない程の氷結を、利用された。

 

 だが、違う。
 重ねて言うが、トカゲ頭はこの銀髪の少女がそういう戦法を取らない事を、既に直感で理解している。
 狙ってやった事でも、計算されていた事でも無い。





 これは、天然だ……ッ!





「サレンダーして、トカゲさん。もう勝負はついたよ」
「ああ――私の、負けだ……」

 

 散々計略を尽くした液状トカゲは、心から理解してしまった。
 ――この少女には、勝てないと。





【液状トカゲ頭LP】500→サレンダー
 
 
「――甘いわねティト、また襲い掛かってくる危険がある以上、ここで処分するべきよ」
「……あいしろ」

 ティトが相手のサレンダーを促し、トカゲ頭はそれを受け入れた。
 それによりデュランダルとヴェノミノンは消滅する。
 だが、愛城はそれを許した覚えは無い。
 サレンダーとは、双方の合意があって初めて受け入れられる行為。ティトだけの決定で、それは認められない。
 愛城はトカゲ頭に近寄り、未だ姿を消していないオーディンに杖を向けさせる。
 見兼ねた輝王は、その間に割って入った。

「待て愛城、早まるな」
「何か異論でも? 貴方は理論派だと思っていたけれど」
「だからだ。確かに危険かもしれないが、コイツからは情報が引き出せるかもしれない」
「……」
「今俺達に一番足りないのは情報だ。違うか?」
「……確かに、筋は通ってるわね」

 愛城はつまらなそうに手を振ると、オーディンはその場から姿を消した。
 輝王はため息を吐き、愛城はティトの元に近寄る。

「でもいいのかしら。貴方確か大事な服を汚されたはずよね」
「うん、それはゆるしてない」
「許してないのか……」

 申し訳なさそうに、トカゲ頭は縮こまる。
 だが、やってしまった事は変わらない。
 どの道負けてしまった以上、それが主に伝わった瞬間処分は確実。
 トカゲ頭は、覚悟を決めた。

 だが



「だから、クリーニング代ちょうだい」

 

 目の前の銀髪の少女は、よくわからない提案をしてきた。






    遊戯王オリジナルstage 【EP-16 サイドM】


 当然、トカゲの分際で円札なんて持っているはずもない。
 2人――1人と1匹の交渉は、長引いていた。


「トカゲの干物でいい?」
「だめ」

「分割払いでもいい?」
「だめ」

SUICAでもいい?」
「だめ」

「アルゼンチン・ペソでいい?」
「だめ」

「初版の女剣士カナンでもいい?」
「だめ」

「ワームカードと交換でいい?」
「いらない」




 かなり、難航していた。
 戒斗と輝王、そして愛城はそれを遠目で眺めている。
 
「人間と爬虫類でのトレードかァ、胸熱だなァおい」
「あれはトレードなのか……?」
「全く――時間が無いっていうのに」

 愛城はため息を再度突きながら、横目で戒斗を見る。
 そして、無駄のない挙動で決闘盤を操作した。
 それとほぼ同時に、斜め上の空間から物々しい形をした槍が出現し、射出される。
 狙いは、永洞戒斗。
 直感で危険を感じたのか、素早い動きでそれを半身を捻って避け、飛び退く。
 先程まで戒斗がいた場所に、聖なる槍が深々と刺さった。

「あァ!?」
「あらやるじゃない。今のタイミングで避けるなんて」
「てめェ喧嘩売ってんのかコラ」
「こっちの台詞よ。私は貴方と違ってこれ以上無い程にまともよ。今すぐ訂正する事ね」

 どうやら、愛城は戒斗が敵の狙いに気付いていながら助言をしなかったことや、彼女を「まともじゃない」と評したことを根に持っているようだ。
 しかし、あの槍を戒斗が避けられなければ確実に絶命していただろう。まともな神経を持つ人間のやることとは思えない。
 だが、戒斗は投げつけられた<聖槍>を手に取り、躊躇なく愛城に投げ返す。
 一方銀髪の少女は、生首のトカゲの頬をぷにぷにとつついている。

「まとも……?」

 輝王の呟きは、誰にも届かない。
 あるいは届かなくてよかったのかもしれないが、それが響いたのは、輝王の心の中だけだった。

 

 その時

 ズガアアアアアアアアアン! と、爆音が響いた。
 輝王が思わず上に目をやると、井戸の上方から大量に「何か」が降ってくる。

「……な!?」

 それはミイラのような、軟体動物のような妙な形をしていた。
 驚愕の余り、反応がほんの少し遅れる。
 だが

「――愛城ォ!」
「一時中断のようね――スペルビア!」

 既に決闘盤を(喧嘩の為に)展開していた2人は、迅速にカードを操り、それらの化け物を撃退する。

 愛城の召喚したスペルビアが頭上に降ってくる化け物達を薙ぎ払い
 戒斗の召喚したガープが、吹き飛ばされた化け物達をくし刺しにして行く

 2人はティトを中心に陣を組むと、同時に決闘盤を構え直した。

「……なんだァ?こいつらは」
「トカゲさん。何か知ってる?」
「いえ、私は何も……」

 トカゲ頭は目を凝らしながら、落ちてきた化け物達に視線を向ける。
 主からも知らされていない。未知のモンスター。

「――結局、私は主にすら信頼されていなかったという事ですか」
「……?」
「私は元は人間でした。訳あってこのような姿になってしまいましたが、それ以来――誰からも信頼される事は無かった」

 姿形が異端だというだけで、人は簡単に残酷になれる。
 普通の人間ですら、信頼を築く事は難しいのに、液状トカゲは、そのスタート地点にすら立てなかった。

「そんな時、主様に拾われたのですよ――おまえの力を信じてやる、と。でもそれも、偽りだったようです」

 トカゲ頭のその言葉には、諦めにも似た感情を含んでいた。
 最後に信じようとしていた主にも裏切られた今、もう――どうなってもいいと。
 いつの間にか、化け物達は愛城と戒斗が組んだ円陣を完全に囲んでいた。
 力は微弱だが、それを補って余りある程の数。
 トカゲ頭は目をつむり、意を決した。
 反応が遅れたせいで、円陣の外側――愛城たちを取り囲む化け物たちを外側から眺めることになってしまった輝王は、化け物たちの壁を切り崩して愛城たちに合流しようと駆け出す。
 その前に、トカゲ頭は輝王に対して声を上げる。

「――輝王さん、と言いましたか。そちら側の壁にある水溜まりに、使い切りの転送装置があります。それを使えば主様の所に移動できるでしょう」
「転送装置……?」
「貴方の位置が一番近い。主様を倒す事ができれば、貴方達は元の世界に帰れるはずです」

 輝王はそれを聞いて、振り返った。
 確かに不自然に一部分だけ窪んでいる水溜りはある。
 戒斗や愛城の居る場所は全くの逆方向で、今迅速にその場所に辿り着けるのは、輝王だけだろう。
 だが

「それを信用すると思うか? 罠の可能性もある上に、見捨てるような真似をするわけには――」
「見捨てる? それは勘違いね――!」

 輝王の言葉を遮るように、閃光が奔った。
 愛城を中心に、半径10m以内の敵が、凄まじい勢いで吹き飛ばされる。
 その閃光を放ったモンスターの正体は――

《アルカナフォースEX(エクストラ)-THE DARK RULER(ザ・ダーク・ルーラー)/Arcana Force EX - The Dark Ruler》 †

効果モンスター
星10/光属性/天使族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を
墓地へ送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
●表:このカードはバトルフェイズ中2回攻撃する事ができる。
この効果が適用された2回目の戦闘を行った場合、
このカードはバトルフェイズ終了時に守備表示になる。
次の自分のターン終了時までこのカードは表示形式を変更できない。
●裏:このカードが破壊される場合、フィールド上のカードを全て破壊する。

「――この程度の化け物にやられる私じゃないわ。むしろ憂さ晴らしに丁度いい」
「主とやらには俺も興味はあるが――ストレス解消ってのは俺も同感だなァ、てめェが乗っちまえよ」
「……ッ、だが……」

 ――本当に、信用していいのか?
 あの転送装置とやらが、更なる敵を呼び寄せる為の装置の可能性もある。
 そんな輝王の逡巡を遮るように、声が響いた。


「わたしは、しんじるよ」


 それは、銀髪の少女の声だった。
 ティトは誰に言うでもなく、口を開き、立ち上がる。
 その姿を、トカゲ頭は呆然と見上げる。

「信じる……? 私を?」

 それこそ、信じられないと。
 トカゲ頭は、その表情で訴えかけた。

「敵であり、人ですらない私を?」

 これはフェイクかもしれない。
 敢えて信じる素振りを見せ、こちらの出方を伺うの為のフェイク。
 だが



「クリーニング代、かえしてくれるんだよね」



 トカゲ頭は、知っていた。
 この少女が――そういう戦術を、取らない事を



「ええ……もちろん、です」



 彼の身体は液体だ。
 その事をこれ程、感謝した事はなかった。
 溢れ出る涙を、隠す事ができるから。




 その一部始終を見ていた輝王は振り返り、意を決して走った。
 水溜りに向かって、一直線に。
 先程まで感じていた――戸惑いが消えたわけではない。
 
 だが、今は進むべきだと
 彼の中の叫びが、彼を突き動かし
 違う空間へと、彼を移動させた。