シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

オリジナルstage 【EP-16 サイドM】

「――甘いわねティト、また襲い掛かってくる危険がある以上、ここで処分するべきよ」
「……あいしろ」

 ティトが相手のサレンダーを促し、トカゲ頭はそれを受け入れた。
 それによりデュランダルとヴェノミノンは消滅する。
 だが、愛城はそれを許した覚えは無い。
 サレンダーとは、双方の合意があって初めて受け入れられる行為だからだ。
 愛城はトカゲ頭に近寄り、未だ姿を消していないオーディンに杖を向けさせる。
 見兼ねた輝王は、その間に割って入った。

「待て愛城、早まるな」
「何か異論でも? 貴方は理論派だと思っていたけれど」
「だからだ。確かに危険かもしれないが、コイツからは情報が引き出せるかもしれない」
「……」
「今俺達に一番足りないのは情報だ。違うか?」
「……確かに、筋は通ってるわね」

 愛城はつまらなそうに手を振ると、オーディンはその場から姿を消した。
 輝王はため息を吐き、愛城はティトの元に近寄る。

「でもいいのかしら。貴方確か大事な服を汚されたはずよね」
「うん、それはゆるしてない」
「許してないのか……」

 申し訳なさそうに、トカゲ頭は縮こまる。
 だが、やってしまった事は変わらない。
 どの道負けてしまった以上、それが主に伝わった瞬間処分は確実。
 トカゲ頭は、覚悟を決めた。

 だが



「だから、クリーニング代ちょうだい」

 

 目の前の銀髪の少女は、よくわからない提案をしてきた。






遊戯王オリジナルstage 【EP-16 サイドM】


 当然、トカゲの分際で円札なんて持っているはずもない。
 2人――1人と1匹の交渉は、長引いていた。


「トカゲの干物でいい?」
「だめ」

「分割払いでもいい?」
「だめ」

SUICAでもいい?」
「だめ」

「アルゼンチン・ペソでいい?」
「だめ」

「初版の女剣士カナンでもいい?」
「だめ」

「ワームカードと交換でいい?」
「いらない」




 かなり、難航していた。
 戒斗と輝王、そして愛城はそれを遠目で眺めている。
 
「人間と爬虫類でのトレードかァ、胸熱だなァおい」
「あれはトレードなのか……?」
「全く――時間が無いっていうのに」

 愛城はため息を再度突きながら、横目で戒斗を見る。
 そして、無駄のない挙動で決闘盤を操作した。
 それとほぼ同時に、斜め上の空間から物々しい形をした槍が出現し、射出される。
 狙いは、永洞戒斗。
 直感で危険を感じたのか、素早い動きでそれを半身を捻って避け、飛び退く。
 先程まで戒斗がいた場所に、聖なる槍が深々と刺さった。

「あァ!?」
「あらやるじゃない。今のタイミングで避けるなんて」
「てめェ喧嘩売ってんのかコラ」
「こっちの台詞よ。私は貴方と違ってこれ以上無い程にまともよ。今すぐ訂正する事ね」

 どうやら、愛城は戒斗が敵の狙いに気付いていながら助言をしなかったことや、彼女を「まともじゃない」と評したことを根に持っているようだ。
 しかし、あの槍を戒斗が避けられなければ確実に絶命していただろう。まともな神経を持つ人間のやることとは思えない。
 だが、戒斗は投げつけられた<聖槍>を手に取り、躊躇なく愛城に投げ返す。
 一方銀髪の少女は、生首のトカゲの頬をぷにぷにとつついている。

「まとも……?」

 輝王の呟きは、誰にも届かない。
 あるいは届かなくてよかったのかもしれないが、それが響いたのは、輝王の心の中だけだった。

 

 その時

 ズガアアアアアアアアアン! と、爆音が響いた。
 輝王が思わず上に目をやると、井戸の上方から大量に「何か」が降ってくる。

「……な!?」

 それはミイラのような、軟体動物のような妙な形をしていた。
 驚愕の余り、反応がほんの少し遅れる。
 だが

「――愛城ォ!」
「一時中断のようね――スペルビア!」

 既に決闘盤を(喧嘩の為に)展開していた2人は、迅速にカードを操り、それらの化け物を撃退する。

 愛城の召喚したスペルビアが頭上に降ってくる化け物達を薙ぎ払い
 戒斗の召喚したガープが、吹き飛ばされた化け物達をくし刺しにして行く

 2人はティトを中心に陣を組むと、同時に決闘盤を構え直した。

「……なんだァ?こいつらは」
「トカゲさん。何か知ってる?」
「いえ、私は何も……」

 トカゲ頭は目を凝らしながら、落ちてきた化け物達に視線を向ける。
 主からも知らされていない。未知のモンスター。

「――結局、私は主にすら信頼されていなかったという事ですか」
「……?」
「私は元は人間でした。訳あってこのような姿になってしまいましたが、それ以来――誰からも信頼される事は無かった」

 姿形が異端だというだけで、人は簡単に残酷になれる。
 普通の人間ですら、信頼を築く事は難しいのに、液状トカゲは、そのスタート地点にすら立てなかった。

「そんな時、主様に拾われたのですよ――おまえの力を信じてやる、と。でもそれも、偽りだったようです」

 トカゲ頭のその言葉には、諦めにも似た感情を含んでいた。
 最後に信じようとしていた主にも裏切られた今、もう――どうなってもいいと。
 いつの間にか、化け物達は愛城と戒斗が組んだ円陣を完全に囲んでいた。
 力は微弱だが、それを補って余りある程の数。
 トカゲ頭は目をつむり、意を決した。
 反応が遅れたせいで、円陣の外側――愛城たちを取り囲む化け物たちを外側から眺めることになってしまった輝王は、化け物たちの壁を切り崩して愛城たちに合流しようと駆け出す。
 その前に、トカゲ頭は輝王に対して声を上げる。

「――輝王さん、と言いましたか。そちら側の壁にある水溜まりに、使い切りの転送装置があります。それを使えば主様の所に移動できるでしょう」
「転送装置……?」
「貴方の位置が一番近い。主様を倒す事ができれば、貴方達は元の世界に帰れるはずです」

 輝王はそれを聞いて、振り返った。
 確かに不自然に一部分だけ窪んでいる水溜りはある。
 戒斗や愛城の居る場所は全くの逆方向で、今迅速にその場所に辿り着けるのは、輝王だけだろう。
 だが

「それを信用すると思うか? 罠の可能性もある上に、見捨てるような真似をするわけには――」
「見捨てる? それは勘違いね――!」

 輝王の言葉を遮るように、閃光が奔った。
 愛城を中心に、半径10m以内の敵が、凄まじい勢いで吹き飛ばされる。
 その閃光を放ったモンスターの正体は――

《アルカナフォースEX(エクストラ)-THE DARK RULER(ザ・ダーク・ルーラー)/Arcana Force EX - The Dark Ruler》 †

効果モンスター
星10/光属性/天使族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在するモンスター3体を
墓地へ送った場合のみ特殊召喚する事ができる。
このカードが特殊召喚に成功した時、コイントスを1回行い以下の効果を得る。
●表:このカードはバトルフェイズ中2回攻撃する事ができる。
この効果が適用された2回目の戦闘を行った場合、
このカードはバトルフェイズ終了時に守備表示になる。
次の自分のターン終了時までこのカードは表示形式を変更できない。
●裏:このカードが破壊される場合、フィールド上のカードを全て破壊する。

「――この程度の化け物にやられる私じゃないわ。むしろ憂さ晴らしに丁度いい」
「主とやらには俺も興味はあるが――ストレス解消ってのは俺も同感だなァ、てめェが乗っちまえよ」
「……ッ、だが……」

 ――本当に、信用していいのか?
 あの転送装置とやらが、更なる敵を呼び寄せる為の装置の可能性もある。
 そんな輝王の逡巡を遮るように、声が響いた。


「わたしは、しんじるよ」


 それは、銀髪の少女の声だった。
 ティトは誰に言うでもなく、口を開き、立ち上がる。
 その姿を、トカゲ頭は呆然と見上げる。

「信じる……? 私を?」

 それこそ、信じられないと。
 トカゲ頭は、その表情で訴えかけた。

「敵であり、人ですらない私を?」

 これはフェイクかもしれない。
 敢えて信じる素振りを見せ、こちらの出方を伺うの為のフェイク。
 だが



「クリーニング代、かえしてくれるんだよね」



 トカゲ頭は、知っていた。
 この少女が――そういう戦術を、取らない事を



「ええ……もちろん、です」



 彼の身体は液体だ。
 その事をこれ程、感謝した事はなかった。
 溢れ出る涙を、隠す事ができるから。




 その一部始終を見ていた輝王は振り返り、意を決して走った。
 水溜りに向かって、一直線に。
 先程まで感じていた――戸惑いが消えたわけではない。
 
 だが、今は進むべきだと
 彼の中の叫びが、彼を突き動かし
 違う空間へと、彼を移動させた。