シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

オリジナルstage 【EP-13 サイドM】

《極神聖帝(きょくしんせいてい)オーディン/Odin, Father of the Aesir》 †

シンクロ・効果モンスター
星10/光属性/天使族/攻4000/守3500
「極星天」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。
このカードはエンドフェイズ時まで魔法・罠カードの効果を受けない。
また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが
相手によって破壊され墓地へ送られた場合、
そのターンのエンドフェイズ時に自分の墓地に存在する
「極星天」と名のついたチューナー1体をゲームから除外する事で、
このカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、
自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。

 その姿、その存在は圧倒的だった。
 輝王はそのカードの存在感に戦慄を覚え、ティトは驚いてそのモンスターを見つめる。
 そして2人は直感的に、思う。
 このカードこそ、天使族という種族の頂点なのだと

 だが、液状トカゲは違った。
 出現したモンスターに後ずさったのは、最初だけ。

「攻撃力4000ですか……それではワーム・ヴィクトリーには遠く及ばない。それなのに守備表示にしないとは――プライドが邪魔しましたか?」
「……さて、どうかしら? どうしても確かめたいのなら、貴方自身で確かめなさい」

 愛城は不敵に笑いながらカードを2枚セットし、ターンをエンドした。
 液状トカゲは考える。
 このターンは<ワーム・ヴィクトリー>の攻撃ができない。
 例えプレイヤーが1人であっても『頭』のターンである以上、頭の操るモンスターしか操作する事は不可能だからだ。
 液状トカゲ……トカゲ頭は器用に口でドローし、戦術を固める。

「ここはフォローに徹しますか。伏せカードを1枚、伏せモンスターをセットし、ターンエンド」
「……わたしのターン」

 終了宣言から殆ど間隔を置かずに、ティトがカードをドローする。
 恐らくターンが回ってくるまでの間、自身のやる事を決めていたのだろう

「わたしはカードとモンスターをセットして、ターンエンド」
「おや、貴方がこのカードを破壊する算段かと思ったのですが……まさか見殺しとは」
「ううん、違うよ」

 液状トカゲの挑発的な言葉に、ティトは間髪入れずに首を振る。
 そして愛城の方を真っ直ぐ見つめ、柔らかい声で言った

「あいしろのこと、信じてるから」

 大きな声ではない。甲高い声でもない。
 だがそれは、不思議な程よく響く声だった。
 
「――貴方達は、この世界で初めて会ったのではないのですか?」
「うん、30分くらい前」
「……その程度で? 貴方はその人を信じると?」
「うん、ダメ?」
「……」

 
 何か思う事があるのだろうか、液状トカゲは絶句していた。
 その言葉に、それを言い放っている姿に。
 その――嘘を言っているとは思えない、無垢な表情に。

 愛城はそんなティトから目を逸らし、ため息をつく。

「私は貴方と同意見よ、トカゲさん。信頼なんて殆どが虚像よ、期待すれば期待した分だけ裏切られる。それが信頼。勝手にそれを向けられても困るし、反吐が出るわ」
「……」
「……でもそれが純度の高い物だと仮定して、それを裏切るのは沽券に関わる。それが組織のリーダーとしての役目」
「沽券の為に、命の危険を犯すと?」
「命の危険――? ハッ」

 愛城は表情を歪め、問いを投げかけた者を嘲笑う
 そんなことがわからないのか? とでも言い放つかのように

「そんなものに拘っている方が――余程危険よ」

 ゾクリ、と。
 液状トカゲは、確かな悪寒を感じた。
 その理由はわからない。だが、妙だと思った。

 凍てつく氷を操る少女からは暖かさを
 神と称する女性からは底冷えする冷酷さを感じたからだ。
 だというのに、この2人から伝わってくる何らかの同一性。全てが矛盾している。



「――いいでしょう、ならば望み通り。神に挑ませて頂きましょう」
「許可するのは私よ? どこからでも来なさい、爬虫類」

 

 雰囲気が、変わった。
 極神聖帝オーディンの姿は、井戸に収まるようなサイズに変更されてはいるが――畏怖の想いを芽生えさせるのに必要なのは、大きさでは無い。
 だが、ワームヴィクトリーの攻撃力は10000
 攻撃力4000のオーディンでは、勝ち目が無い。

「バトルフェイズです――極神聖帝オーディンに、ワームヴィクトリーで攻撃!」

 ヴィクリーの無数とも取れる手が、凄まじい速度でオーディンへと伸びていく。
 その速度はどの肉食獣の足よりも速い。オーディンは自身の持つ杖を掴まれてしまう。
 そこで、愛城が動いた。

「――罠カード<極星宝メギンギョルズ>」

《極星宝(きょくせいほう)メギンギョルズ/Nordic Relic Megingjord》 †

通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する
「極神」または「極星」と名のついたモンスター1体を選択して発動する。
エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力・守備力は元々の数値の倍になる。
このターン、選択したモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃をする事はできない。

 杖を握る手に神秘的な帯で構成された腕輪が装着され、オーディンの攻撃力は倍増した。
 それにより杖を奪おうとした無数の手を引き千切り、構え直す。
 液状トカゲはそれを見て、感嘆の声を上げた。

「まさかその様な切り札を残しているとは――ですが、それではライフを守ることはできてもヴィクトリーを倒すまでには至らない」
「そうね――そんな事は百も承知だわ」

 返事をしながら、愛城は思い返す。
 かつてこの極星宝を使っても尚、敗北した決闘の事を。
 攻撃力を2倍にしたこのモンスターを、全てを賭して超えて行った男の事を。
 だが
 だからこそ

「――貴方が相手でよかったわ。トカゲさん」
「……?」
「その効果――犠牲の上で成り立つ攻撃力。その数値――どれを取っても最高よ」
「ヴィクトリーの事を言っているのですか? こんな時に何を――」

 液状トカゲが思わず聞き返し、視線を向けると。
 愛城は、三日月のように口を吊り上げ笑った。



「これは最高の――プローベになる」



 次の瞬間。
 オーディンの攻撃力が、下がった。
 2倍になったはずの攻撃力が、何故か7000に下降したのだ。

「な……!?」
「下げてどうするつもりか? 決まってるじゃない、貴方を倒す為よ」

 少し遠くからそれを見ていた輝王も、液状トカゲと同じように現状を掴めずにいた。
 それは戒斗も同じだろう。
 
「ワームヴィクトリーを倒すには最低でも2000の攻撃力上昇が不可欠――なのに何故あんな事を」
「まともに考えりゃ、ありゃただの自殺行為だなァ……だが」
「だが?」
 
 戒斗は動じず、見つめる。
 フィールドに立つ、数年の付き合いである人影を。

「――私は立ち止まらない、今は傍観者でも、歩き続ける。あの時敗北した私の、更に先へと進ませてもらうわ」
「残念ですが、その状態でヴィクトリーの攻撃を受けたらタダでは済みません。貴方のオーディンの攻撃力は7000に下降した! 3000の超過ダメージを実体化すれば――」
「……3000の超過ダメージって、痛いのかしら?」
「当然でしょう。貴方はそれを――」

 液状トカゲが、言葉を続けようとした瞬間。
 体全体が突如、陰で覆われ――目の前に、ヴィクトリーと競り合っていたはずのオーディンが、現れた。
 杖を刃物のように構えた、黒い神。

「ヒッ……!?」
「――なら、それ以上の痛みを教えてあげるわ」

 ザシュリ、と。
 鈍い音が聞こえた。
 それは、首が跳ね飛ばされる音。
 あの杖に、どのような殺傷能力があったのか、液状トカゲの胴体は一瞬の内に切り離される。
 その一瞬の間に、液状トカゲは頭の方に『意識』を移し変えた。 

「があああああああああああああああああ!?」
「痛覚があったのね、ご愁傷様。――でも安心して、首はまだ残してあるから」

 鉄片を体に埋め込まれたかのような、遅い来る痛みに耐え偲んでいると、液状トカゲの視界に『本体』だったモノが映り、消滅した。
 一瞬でも移し変えが遅れていたら、命はなかった。
 同時に、本体が操っていたはずの決闘盤も粉々に四散する。

「な、何が……」
「説明することすら面倒だわ。消える前に、貴方の誇る<ワームヴィクトリー>の状態でも確認してみなさい」

 トカゲ頭は言われるがままに、頭の方を決闘盤を恐る恐るチェックする。
 そのログを見て、トカゲ頭は唖然とした。

「攻撃力2500……!?」
「そう、貴方は2500のヴィクトリーで攻撃力7000のオーディンに挑んだのよ。勝てる道理はないわ」
「馬鹿な……」

 トカゲ頭は、再び決闘盤を操作し、その原因となったカードを探した。
 そこには


《反転世界(リバーサル・ワールド)/Inverse Universe》 †

通常罠
フィールド上に表側表示で存在する全ての効果モンスターの攻撃力・守備力を入れ替える。


 トカゲ頭とほぼ同時に――
 戒斗と輝王は状況を把握して、唖然とした。
 だがそれも一瞬、戒斗は輝王に意地悪く笑いかける。

「――まともじゃねェんだよ、アイツは」
「ああ、よくわかった……」

 輝王は思う。ああいう『強さ』もあるのだな、と。
 駆け引きや経験――そういった戦いより、次元が上の強さ
 相手が何をしてこようと変わらない、不動の強さ。
 そんな輝王の心中を気にもせず、愛城は不敵に笑う。

「メギンギョルズは攻撃力だけじゃなく、守備力も二倍になる――それを生かさない手は無い。あの鳥もどきに使う予定の戦術だったけれど、いい実験になったわ」
「……」
「ワームヴィクトリー……確かに勝利の名に相応しいモンスターね。頼りにするのもわかるけれど――」

 愛城は微笑んで、ワームヴィクトリーを眺める。
 長い髪をサラリと流すと、気取った仕草で後ろを向いた。


「勝つ事しか見えていない爬虫類に――今の私は倒せないのよ」


 次の瞬間
 硝子の割れるような音が響き渡り、ヴィクトリーが粉々に四散する。
 その硝子の雨は、愛城の勝利を着飾る背景として、降り続けた。

【液状トカゲ】LP4000→0