シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル×stage=01

 徹底した静寂が、青年の歩く音を際立たせる。
 青年の名は、時枝治輝。
 輝王正義、皆本創志と共に、今回の事件の元凶である砂神を打倒した張本人。
 出会って間も無いとはいえ、共に力を合わせ、困難を打ち破った同胞だ。
 だからこそ、誰もが耳を疑った。

「おまえたちを、このまま帰すわけにはいかない」

 その声色は、今までの時枝治輝のものとは、全く別種のものだ。
 勝利の余韻を共有し、互いを称え合った声とは異なる声。
 青年が歩を進めていく先には、気絶した砂神の姿。
 その進行を阻む様に、作務衣姿の人間――比良牙(ひらが)が治輝の目の前に、音もなく現れる。
「聞こえなかったのかい? 主様に近付く事は許さないよ。余り同じ事を言わせないでもらえるかな」
 飄々とした様子とは裏腹に、彼の言葉には凄みがあった。
 その言葉を無視するなら、こちらも容赦しない――と。
 並の人間なら、それだけで畏怖を感じる程の圧迫感を、比良牙は発する。
 時枝治輝はそれを聞き、足を止める。
「そのまま戻る事だ。君もその方が」
 比良牙は聞き分けの無い子供に呆れるかのように声を続けようとして
 首元に、冷たい感覚を覚えた。
 時枝治輝は止めたはずの足を再び動かし、比良牙の横で、囁くように言う。

「――そんな奴に近付く気なんて、あるわけないだろ」

 次の瞬間、比良牙の首元に鋭利な剣が現れた。
 あるいは既に、存在していたのかもしれない。
 刃がギラリと光り、影に覆われている龍の姿を映し出す。
 大剣の持ち主は、その場にいる者には見間違えようも無い姿をしていた。
 邪神イレイザー打倒に一役買い、機龍と共に恐怖の象徴に打ち勝ったモンスター。
 <ドラグニティアームズ・レヴァテイン>
 治輝を支えてきたモンスターであり、治輝を象徴する存在。
 比良牙は観念したかのようにため息を吐き、その動きを止めた。
 


 □□□



 創志は困惑していた。
 共に邪神に挑み、その困難を乗り越えた仲間の豹変に。
「治輝、一体おまえ……!」
 意を決して、皆本創志は声を出す。
 だが、青年の歩みは止まらない。
 聞こえていないかのように、歩調は一切変わらない。
 どうするべきかと逡巡している間に、治輝が砂神の下に辿り着く。
 そして、次の瞬間。
 その襟首を、容赦なく捻り上げた。




 ■■■




「がッ……!」
「意識は無くても、呻き声は出るんだな。知らなかった」
「ガッ……ハッ……」
「ほら、さっさと起きろよ。遅刻は校則違反だぞ」

 治輝は砂神をしばらく吊り上げると、無造作に放り投げた。
 砂神は地面に叩き付けられ、治輝はそれを無表情に見下ろす。
 何かを小さく呟いたが、それは周囲には響かない。
「治輝――おまえッ!」
 弾けるように飛び出してきたのは創志だ。
 信じられないものを見るような目をして、治輝に詰め寄る。
「なんでこんな事するんだよ! 決闘の決着は付いたんだ、それ以上相手を痛めつけてどーすんだよ!? このまま元の世界に戻って終わって――それでいいじゃねーか!」
 治輝はそれを聞いて、再び砂神の方へと視線を戻す。
 睨むように目を細め、注視する。
「駄目なんだよ。それじゃ終われない」
 そして創志に背中を向けたまま――治輝は決闘盤を手首に装着した。
 それはまるで、刃物を手にした処刑人のようで。


「砂神緑雨――コイツはここで殺すべきだよ」


 手首から禍々しく紅い光を発しながら、そう宣言した。