シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル×stage=16

 周囲の全てを瞠目させる程の咆哮を発したのは、現代よりも神話の時代に適した風貌をした龍の姿。
 その古くも重々しい姿に相応しい強靭な翼をはためかせ、フィールドへと再臨する。
 
タイラント・ドラゴン/Tyrant Dragon>
効果モンスター
星8/炎属性/ドラゴン族/攻2900/守2500
相手フィールド上にモンスターが存在する場合、
このカードはバトルフェイズ中にもう1度だけ攻撃する事ができる。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
このカードを対象にする罠カードの効果を無効にし破壊する。
このカードを他のカードの効果によって墓地から特殊召喚する場合、
そのプレイヤーは自分フィールド上に存在する
ドラゴン族モンスター1体をリリースしなければならない。

 創志は聞き慣れた咆哮を聞き、その姿を見て驚愕した。
 既に消えたはずの暴竜が再び場に君臨し、その存在感を露にする。
「<タイラント・ドラゴン>!? アイツは随分前にリリースされたはずじゃ……!」
「1体だけではないようだな……見ろ」
 輝王が促した先に、次々と強力なドラゴン達が地の底より現れる。

 <AOJカタストル>で倒したはずの<青氷の白夜龍>
 幾度も上級竜の呼び水となり、その役目を果たした<ミンゲイドラゴン>
 アクセルの奮戦で効果の発動を何とか止める事のできた<ダークストーム・ドラゴン>

 白夜は煌き、暴竜は荒れ狂い、暗雲を纏う竜は咆哮を轟かせる。
 これらは全て創志達との戦闘で墓地に送られ、竜の鏡によって消滅したはずのカード達。
 創志はその竜の群れの迫力に一瞬たじろぐが、すぐに立ち直る。
 今自分達が使役しているものも、竜なのだ。
 人間の創造の力によって生まれた<A・ジェネクス・クレアシオン・ドラグーン>なら、この状況を切り抜けられる。
「攻撃力はこっちの方が上! どっからでもかかってきやがれ!」
「……」
 息巻く創志とは対照的に、輝王は<ダークストーム・ドラゴン>に注意深く視線を向ける。
 
<ダークストーム・ドラゴン>
デュアルモンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2700/守2500
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、
通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、
このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する
魔法・罠カード1枚を墓地へ送る事で、
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

 あのモンスターに効果を発動されれば、輝王の残された伏せカードは全て消える事となる。
 そうすれば"あの群れを超える何か"を召喚された場合での対抗策が消えてしまう。
 それだけではない。
 治輝が砂神との決闘で<A・ボム>の存在を知ったように、輝王も1枚のカードを警戒していた。
 それはあちらのフィールドに存在するモンスターの属性である。

 <タイラント・ドラゴン>は炎
 <ミンゲイドラゴン>は地
 <青氷の白夜龍>は水
  
(そして最後に召喚した<ドラグニティ・アキュリス>は風……!)
 そう、今治輝のフィールドには、光を除く全てを属性を有するドラゴン族が揃っている。
 同時に――それは砂神が示した"あのカード"の発動条件を満たしてしまった事を意味する。

エレメンタルバースト/Elemental Burst》 †
通常罠
自分フィールド上に存在する風・水・炎・地属性モンスターを
1体ずつ生け贄に捧げて発動する。
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。

(あのカードを発動されたら、如何に<クレアシオン>でも耐え切れない)
 <クレアシオン>は後続を生み出す能力があるとはいえ、この1対多数の状況で失うわけにはいかない。
 言わばこのモンスターは、輝王と創志の最後の砦なのだ。
 だが、現時点で<エレメンタル・バースト>が発動される事は有り得ない。
 何故ならば――

<エレメントチェンジ>
永続罠(オリジナルカード)
発動時に1種類の属性を宣言する。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上の全ての表側表示モンスターは自分が宣言した属性になる。

 輝王が最初に発動したこのカードが存在する限り、全ての竜は本来の色を失い。強制的に光へと変換される。
 この状態では<エレメンタルバースト>を発動する事は絶対に不可能だ。
 <ダークストーム・ドラゴン>の効果を発動すれば別だが、既に通常召喚は<ドラグニティ・アキュリス>に使用している為、それもできないはずだ。

「――なんにせよ。これが最後の攻防になるかもしれないな」

 輝王はそれを心中で「惜しい」と思っている事を自覚し、苦笑いする。
 自分達が戦った理由は、砂神の殺害を止める事ではなかったのか。
 だが、それは輝王にとっては解決した問題だ。
 時枝治輝の真意は、既にこの決闘中で見え隠れしている。
 それは相手を計るまでもなく、明白な事だった。




 ■■■



「俺は<ドラグニティ・アキュリス>と<タイラント・ドラゴン>をチューニング!」

 声が響き、最初に反応したのは輝王だ。
 治輝はそんな輝王を光の輪越しに見据え、天高く手を上げる。

「豪炎の粉塵を纏いし暴君と成せ! シンクロ召喚――<トライデント・ドラギオン>!」

トライデント・ドラギオン/Trident Dragion》 †
シンクロ・効果モンスター
星10/炎属性/ドラゴン族/攻3000/守2800
ドラゴン族チューナー+チューナー以外のドラゴン族モンスター1体以上
このカードはシンクロ召喚でしか特殊召喚できない。
このカードがシンクロ召喚に成功した時、
自分フィールド上に存在するカードを2枚まで破壊する事ができる。
このターンこのカードは通常の攻撃に加えて、
このカードの効果で破壊した数だけ1度のバトルフェイズ中に攻撃する事ができる。

 進化した暴君が場の<青氷の白夜龍>と<ダークストーム・ドラゴン>を砕き、その身を奮い立たせる。
 治輝はその様を瞬きせずに見つめながら、口を開いた。
「砂神。俺はさ――確かにマイナスだ。それはずっと変わらない」
 その声に砂神は立ち上がり、睨み付ける。
 だが治輝は、前を向いたまま喋り続ける。
「どんなに太陽のようなプラスに溢れた人と出会っても、いつかはマイナスに変えてしまうような爆弾を持った、どうしようもない奴だ。それはずっと、変わらない」
「そうだ。貴方や、僕のような存在は普通の人種とは相容れない存在だ!」
 1度ペインになってしまった人間は、永遠に元に戻る事はできない。
 差は長く人間の面影を残して居られるか、早く化け物になるかの違いだけ。
「マイナスの値が少なければまだ取り返しとやらも付いたかもしれないが――僕や貴方はそうではない! 多過ぎる値を持った不変のマイナス! それはどんなプラスを用いた所で、一生消える事はない!」
 砂神をそうさせたのは、砂神の力を求め、利用してきた人間達の心。
 治輝をそうさせたのは、求めてもいなかった――ペインという破滅の力。
 それらマイナスと関わる事は、プラス側に害しかもたらさない。
 それを理解した上で

「だから俺は――掛け算に成りたい」

 明確な意思を込めて、治輝は言った。
 砂神はその返答の意味がわからず、目を細める。
「……なんですかそれは。掛け算?」
「そう、掛け算。俺という値がマイナスにしか成れないのなら、関わり方を変えればいい」
 大き過ぎる-に加わる事は、+にとって害にしかならない。
 ならば、-の次を変えてしまえば。

「加える事で害にしか成れないのなら、誰かと掛け合わさればいい」

 大きな-を持つ者が、生きる価値が無い。害しか生まないと言うのは事実かもしれない。
 だが×に変えてしまえば
 大き過ぎるマイナスであっても、同じマイナスを抱える者と共に、雄大なプラスを生み出す事もできるのだと。

「それで同じような奴を、1人でもプラスにできるなら――きっと、生きている意味はある」
「……だから戻ると? そんな実現できるか怪しい絵空事を理由に、確証も無い癖に。害を抱えた状態で!」
「――許されるとは思ってない」

 言いながら治輝は、魔法を発動する。

《アドバンスドロー/Advance Draw》 †
通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する
レベル8以上のモンスター1体をリリースして発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。

「簡単だとも、思ってない」 
 墓地に送られるのは3回攻撃が可能になったはずのドラギオン。治輝はそれを犠牲にし、更に2枚のカードをドローする。

「だけど俺は帰るんだ! 可能性を信じて――アイツにとっての"掛け算"に成れるのなら!」

 <トライデント・ドラギオン>が破壊した竜が存在していた場所から、粒子が舞い上がる。
 蛍のような光を、天空へと吹き上げていく。
 同時に、治輝の手が発していた赤い光が、透明な蒼へと変動する。
 その蒼の光は奔流と成り、オーロラの様に天空を彩る。
 砂神は余りの眩しさに、その光景から目を逸らす。
 だが

「そんな子供染みた理屈で……」
「それでも、俺は質問に答えたぞ。砂神」
「……」

「――だから俺は今、生きている。お前はこれから、どう生きたい?」

 治輝が発したその言葉から、意識を逸らせる事は、できなかった。