シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル×stage=17

 力だけを求められ、自身を必要とはされなかった。
 彼等が求めていたのは力であり<砂神緑雨>ではない。
 それを何度と繰り返した結果が、今の自分。
 力を利用するのが望みなら、力で奪ってやる。
 間違っているのは奴等で、間違えさせたのも奴等なのだと。

 だが、違う。
 目の前の男は運命に翻弄されても、運命を呪う事はしなかった。
 奥の2人はこちらに堕ちるべき分岐に立たされても、決して道を違えなかった。

「――比良牙。帰るぞ」
 砂神は立ち上がり、比良牙の元に歩いて行く。
 治輝はそれに気付いているようだが、特に邪魔をする気配は感じられない。
「――主様。そうは言っても邪魔者が」
「<レヴァテイン>ならとっくに消えている。大方奴の手札にでも迷い込んだのだろう」
 そう言われ比良牙は周囲を見渡し、現状を理解した。
「どうやら彼は見込み違いだったようだね。僕としては少し残念だ」
「……ふん」
 飄々とした比良牙の言葉を興味なさ気に無視すると、砂神は振り返り、治輝に問う。
「いいのか? 貴様が殺そうとしたはずの俺様は、今正に逃げようとしているが」

「いや、お前はもう殺したよ」
「……何?」

 聞き捨てならぬ台詞を吐いた治輝を、砂神は睨む。
 2,3度殴られた程度でどうにかなるほど、砂神緑雨はヤワではない。
 そんな砂神には敢えて視線を向けず、治輝は笑う。
「だけど、俺は面倒なのは嫌いなんだ。生死確認はしない」
「……とんだ道化だな、貴様は」
 親しみ等欠片も無い言葉だったが、その声は憎しみに彩られている風ではない。  
 砂神は自身の力で目の前に円状のゲートを作り出し、背中を向ける。
「お前こそ見ていかないのか? 最後まで」
「貴様が勝つ所も、奴等が勝つ所も見たくないんでな」
「なら、次はお前が勝ちに来いよ。俺だけを巻き込むのなら――いつだって受けて立つ」
「ぬかせ。――行くぞ、比良牙」
「やれやれ……本当に面倒なだけだったね」
 比良牙が息を吐き、砂神が口を吊り上げた瞬間、円状のゲートはノイズが走る様に歪み、その姿を消した。
 それを見た治輝は目を瞑り、小さく笑う。
 いつか再び相対する事があろうとも、それが砂神緑雨本人である事を、願いながら。







 □□□



「――最初から殺す気はなかったのか? 時枝」

 しばしの静寂の後、輝王が口を開く。
 事の顛末を静観していた輝王には、大体の事情が呑み込めていた。
 それに対し、治輝はかぶりを振る。
「嘘を言っていたわけじゃない。場合によっては、殺していたと思う」
「だが、お前はそうしなくて済むように――この決闘を仕組んだ。砂神を救う為に」
「買かぶり過ぎだよ輝王。俺は、俺の為にこの決闘を仕掛けただけだ」
 治輝が前方を指し、輝王と創志は振り返る。
 そこには先程砂神が作り出した物と似た形をしたゲートが、僅かに渦巻いている。
異世界に戻る為のゲートは、決闘でしか作り出せない。俺は自分の目的の為に、輝王や創志を利用しただけだ」
「……まぁ、そういう事にしておこうか」
「――おい」
 輝王はその言葉を、含みのある微笑で軽く流す。
 どんな言葉を連ねようと、敵である砂神の事を気にかけていたのは明白だ。
 邪神の時の妙に無表情になる事が多い演技といい、時枝治輝は嘘を吐くのが苦手らしい。
「……ったく、そういう事なら一言先に言ってくれればいいのによ」
「いや皆本。お前に演技は無理だ」
「おい輝王!?」
 ぼやく創志に、輝王は冷静に突っ込む。
 時枝は演技が苦手かもしれないが、それでも隣にいる青年よりは随分とマシだろう。

「さて、じゃあ一段落着いた事だし――」
 
 声が響く。
 時枝治輝にとっての決闘の目標はゲートの解放、そして砂神。

 輝王と創志にとっての決闘の目標は、砂神の殺害を防ぐ事。

 それは、お互いに達成する事ができた。
 これ以上戦う必要は、お互いに存在しない。

「ああ、そうだな」
 
 輝王は静かに同意する。
 決着を着ける必要が無いのなら、ここで終わるべきなのだと。輝王は確かに理解している。
 だが、その構えが解ける事は無い。
 それに呼応する様に、隣にいる青年が、大きく声を上げた。



「――再開しようぜ、決闘!」