シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル×stage=20

「やった……のか……?」
 治輝は2人のライフを確認し、脱力する。
 実感は無いが、消失したソリッドヴィジョン、自動収納される決闘盤等の状況が、決闘を終了したことを示している。

「……ああ、おまえの勝ちだ。時枝」
 目を瞑り、輝王は呟く。
 敗北の悔しさよりも、その心中に浮かぶのは、感嘆。
 自分の受け継いだ重さと強さを目の当たりにして、輝王は佇む。

「あー……負けたああああああッ!」
 仰向けに倒れこみ、心底悔しそうに皆本創志は声を上げる。
 しかしその声に淀みは無く、その表情に浮かぶのは悔しさとは、別の意思。
 それは輝王や治輝にも渦巻いている。
 
 ――ただ、終わってしまった……と。

 この決闘に賭けた想いや目的を差し置いて、3人はその事だけを思う。
 本来なら出会うはずの無かった会合。
 本来なら叶う筈の無かった決闘。
 その上での先程の全力のぶつかり合い。それは勝ち負け以上の煌きが、確かにあった。
 
「……終わっちまったなァ? 治輝クンよォ」

 その不思議な充足感を冷や水で浸すような声が聞こえ。治輝は顔をしかめる。
 その声の主は今更確かめるまでも無い。
「なんだ見てたのかよ、戒斗」
「ああ、てめェの演技は人を笑わせる才能がある。余りにもバレバレでなァ」
「……」
 どうやら一部始終を見られていたらしい戒斗の言葉に治輝はムッ、と眉を顰めるも、不快を悟られないように平静を保つ。
 前方に見える異世界へのゲートは、先程の対決によりその大きさを増し、人間が余裕をもって通れるほどのサイズに膨張している。
 これなら帰れそうだな、と治輝が安堵していると。輝王が戒斗の傍に近付く。
「どうやら無事だったようだな」
「誰に言ってんだそりゃ、あの場にてめェに心配されるような実力の奴ァいねぇ」
「……そうか」
「しっかし成長しねぇなぁ治輝クンよ。わざわざ悪ぶってまで"ペイン"についての講義をしてやった上にそのまま見逃すたァ正気じゃねェよ。宣言通り殺せばいいじゃねェか」
「いや――時枝は宣言に嘘を吐いていない」
「……何?」
 輝王の返事が戒斗にとって予想外だったのか、視線を向ける。
 その視線を受け流し、輝王は治輝に向き合う。

「……時枝。負けるなよ」

 確たる声でそう言われ、治輝は無言で頷く。
 自分を倒したのだから、負けることは許さない……そういった類の台詞を言う男ではないことを、治輝は知っている。
 負けるな、とは決闘のことだけではない。
 これから訪れる苦難や、自分の発した理想。
 そういったあらゆるもの全てに対しての、言葉。
「そうだな。俺は――」
「……?」
 言葉を区切り、治輝は笑う。
 
「示す必要があるから――だろ?」

 輝王はそれを聞き、しばらく硬直した。
 その言葉の意味を理解すると、輝王は含みを持たせて小さく笑う。
「全く……お前という奴は」
「そうだぜ! <クロッシング・ドラグーン>の名前だって勝手に真似しやがって!」
 いつの間に起き上がっていたのか。輝王と治輝の間に割り込み、創志が声を荒げる。
「いや、格好良かったからつい」
「ついじゃねーよ! それに最後の<A・ジェネクス・クレアシオン・ドラグーン>の蘇生効果も何故か発動しなかったし……」
「ああ、あれは――」
 治輝が答えようとすると、輝王がそれを 「待て」 と制する。
「たまには自分で考えてみろ、皆本」
「たまにはってなんだよたまにはって! カウンター罠使ったわけでもねーし、さっぱりわからねーって!」
「時枝は<クレシオン>の蘇生効果に対し<竜の転生>を被せた。それがヒントだ」
「被……せた?」
 わけがわからない、と唸る創志を見て、治輝は小さく笑う。 
 だがそんな治輝を見て、創志は悩ませる問題を棚に置き、拳を前に突き出した。
「とにかく、次は絶対負けねーからな!」
「つ、次?」
「ああ、またやろうぜ!」
 元気よく宣言する創志に対し、治輝は戸惑う。
 それは再戦に不満があるわけではない。
 充実した決闘で、時間さえ許せばいつまでも続けていたいと思える、素晴らしい決闘だった。
 創志が望まずとも、治輝自身が望んでいただろう。
 そもそもフェアなルールではなかったし、純粋な一対一で戦ってみたい気持ちもある。

 だが――自分に次は無いかもしれない。

 いつまで人の形を保っていられるのか、それすらもわからない今の自分に……果たしてそんな約束をする権利があるのか。
 治輝が逡巡し、その手を取ることを躊躇していると、創志はジトっとした目で治輝を睨む。
「お前……次は無いかもとか考えてんじゃねーだろうな」
「なっ……」
 思い切り図星を指され、治輝は動揺した。
 そんな治輝の心中を知ってかしらずか、創志は声を上げる。

「あるに決まってんだろ! 勝ち逃げなんて許さねえからな!」

 その裏表も何も無い言葉に、治輝は圧倒される。
 眩しいはずの光を間近で見ても目が眩まない、そんな違和感。
「……許してやってくれ。こういう奴なんだ」
「おい輝王!?」
 輝王が内情を察せない創志に対し茶々を入れ、創志はそれに対し腹を立てる。
 そんな2人を見て、治輝は思う。
「創志、輝王」
 諦めない。
 絶対に人間である事を、諦めたくないのだと

「絶対にまた、闘ろう!」 

 それは自分にとって枷であり、誓いの台詞だった。
 この先運命に屈した先には無い、未来への誓い。
 その言葉に負けないよう、約束を違わぬ為に、戦い続けよう、と。



 目の前の2人と、自身の心に――強く誓った。