シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王Oカード prologue-07

 蒼菜が自らの心中に戸惑っていると、転武は下卑た笑みを浮かべる。

「偉そうな事言ってくれちゃってるけどなぁ、お前はどうなんだよ。白矢ぁ!」
「……」
「すぐに黙らせてやるよ。俺は<クレボンス>と<イエロー・ガジェット>をチューニング!」

 クレボンスが変化した光の輪に包まれ<イエロー・ガジェット>の亀裂に粒子が入り込む。
 磨耗した装甲はそれに耐えられず、<ガジェット>は粉々に四散する。
 蒼菜はその様子から目を背け。
 白矢は瞬きせずにその様子を見届ける。
 蒼菜が視線を戻すと、そこには新たなモンスターが君臨していた。

シンクロ召喚! 強奪せよ、ゴヨウガーディアンッ!」

《ゴヨウ・ガーディアン/Goyo Guardian》 †
シンクロ・効果モンスター(禁止カード)
星6/地属性/戦士族/攻2800/守2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
そのモンスターを自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。

 具現化したモンスターを見て、蒼菜は戦慄した。
「ちょ、それ禁止……」
「へっ、昨日制限改訂したんだよぉ! 俺は<サモンチェーン>で得た最後の召喚権を使い、更に<グリーン・ガジェット>を召喚!」

《グリーン・ガジェット/Green Gadget》 †
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1400/守 600
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「レッド・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 新たな<ガジェット>の隣に出現した<ゴヨウ・ガーディアン>
 あれは確かに禁止カードのはずだが、蒼菜はそういった知識に疎い。
 昨日制限改訂した……というのはほんの少し都合がいいかもしれないけれど、そういう事もあるのかもしれない。
「とことん救えない下衆だな。筋とやらは何処へ行った?」
「決闘中に銃を携帯してるてめぇに言われたかねぇな――バトルだ! 」
 <ゴヨウ・ガーディアン>が手に持った紐付きの十手を投げつけ、白矢の伏せモンスターに襲い掛かる。
「伏せモンスターに攻撃。ゴヨウ・ラリアットォ!」
「――罠カード発動<和睦の使者>!」

《和睦の使者/Waboku》 †
通常罠
このカードを発動したターン、相手モンスターから受ける
全ての戦闘ダメージは0になる。
このターン自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 白矢が発動したのは、戦闘破壊から自分のカードを守るカード。
 これで転武の一斉攻撃は失敗に終わり、このターンでの勝利は不可能になった。
 だが、転武は残念そうな素振りを見せず、笑う。
「へっ、見せて貰うぜ――てめぇの 『ムジュン』をよぉ!」
 紐付きの十手が場の中央に叩き付けられ、砂煙が巻き上がる。
 白矢の伏せモンスターはメンコのように、表側に裏返った。

 一体どんなモンスターを使うんだろう。
 それは、蒼菜が決闘開始時から気になっていた事。
 でも情報がなくとも、予測は立てられる。
 白矢君はレアカードが好きだ。
 公言しているし、行動でもそれを示している。
 本当に好きだからこそ、転武君とは違い、決闘でもそういったデッキを使っている。
 ――そう、思っていた。

《E・HEROクレイマン/Elemental HERO Clayman》 †
通常モンスター
星4/地属性/戦士族/攻 800/守2000
粘土でできた頑丈な体を持つE・HERO。
体をはって、仲間のE・HEROを守り抜く

「へっ……やっぱりご同類じゃないかよ。白矢ぁ!」
「……」
「――クレイマン! クレイマンだってよクレイマン! こりゃ俺より性質悪ぃんじゃねぇのクレイマン!」

 蒼菜はただ、唖然とした。
(転武君が言っていた事は、この事だったんだ)
 レア度を重んじる人が使うデッキは、レアで構成されている事が多い。
 仮にそうでなければ、そこには理由が必要になってくる。
 それが、先程転武が言った言葉。示した動機。
(傷つくのが嫌だから。決闘は好きなカードでなく、汚れてもいいカードで戦う……)
 勿論、そう考えるのは自由だ。
 デッキを持っていない自分に、それを嫌だと。不快だと思う権利は無いかもしれない。
 でも

(それでも、白矢君にそうあって欲しくなかった)
 
 そう思ってしまうのは、果たして何故なのか。
 自らの心の動きに戸惑いを覚えつつも、蒼菜は息を呑んで白矢を見つめる。
「てめぇが何でそんな効果も無いモンスター使ってるのか当ててやろうか白矢ぁ! 価値がなく、何の思い入れもないから気軽に使えるんだろ白矢ぁ!」
「……」
「しかも効果が優秀でそれなりに値段の張るこっちの<ガジェット>と違っててめぇのモンスターは効果無し! 20円で買えるんじゃねぇのそれ!? いやもう参った参りましたよ白矢ぁ! てめぇの方がよっぽど徹底してるよな白矢ぁ!」
 けたけた笑う転武に、白矢はただ沈黙するのみ。
 それを見た転武は気をよくする。
「マジで何も言い返せないみてぇだな。俺はカードを1枚伏せ、ターンエ……」
「――速攻魔法発動。サイクロン」
「……あ?」

《サイクロン/Mystical Space Typhoon》 †
速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

 白矢の場から旋風から巻き起こり、転武の伏せカードを破壊する。
 そのカードの正体は<神の宣告>

<神の宣告>
カウンター罠制限カード)
ライフポイントを半分払って発動する。
魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚のどれか1つを無効にし破壊する。

「ちっ、エンドサイクたぁ小癪な真似を――」
「これでお前を守るカードはなくなったな」
「おい気でも狂ったか白矢ぁ! 俺の場には2体の<ガジェット>に最強級シンクロモンスターである<ゴヨウ・ガーディアン>がいるんだぜ? 守りとしちゃあお釣りが来……」
「俺のターン」
 言葉を遮り、引くような動作で白矢はカードをドローする。
 その眼光は鋭く、転武は思わず二の句を次げなくなる。

「――<レスキューラビット>を召喚し、効果を発動」

《レスキューラビット/Rescue Rabbit》 †
効果モンスター
星4/地属性/獣族/攻 300/守 100
このカードはデッキから特殊召喚する事はできない。
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分のデッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。
「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 つぶらな瞳をしたちんまり兎が場に登場し、その短い手を一生懸命に振る。
 するとデッキが僅かに光り出し、その光にちんまり兎が溶け込んでいく。
「デッキから<ジェムナイト・サフィア>を2体特殊召喚

《ジェムナイト・サフィア/Gem-Knight Sapphire》 †
通常モンスター
星4/地属性/水族/攻   0/守2100
サファイアのパワーで水を自在に操り、
敵からの攻撃をやさしく包み込んでしまう。
その静かなる守りは仲間から信頼されているらしい。

 場に降り立った2体の効果無しモンスターを視認した転武は、滑稽とばかりに嘲笑を浮かべる。
「また価値が大してない効果無しモンスターかよ。徹底してんなぁ白矢ぁ! さっきの兎で戦った方がまだマシなんじゃねぇのぉ?」
「……」
「やっぱてめぇと俺は同じだ。価値のあるもんを知ってるからこそ、決闘とコレクトには区別を付ける! 決闘に使うのは安い駒で十……」


「――安いのはお前の頭だ。凡俗」

 底冷えするような声がした。
 その声には苛立ちが混じっておらず、それが逆に聞くものを恐怖させる。
「このカードは正真正銘の 『限定品』だ」
「はぁ? それの何処が『限定品』だよ。ショップに行けば20円で買えるだろうが!」
 転武の言う通り、場に出現した<クレイマン>や<ジェムナイト・サフィア>は特別なカードではない。
 ごく有り触れた、産出の多いノーマルカード。

「――俺はお化けは嫌いだが、色という物が好きでな」

 手札を畳むように持ち、白矢は淡々と続ける。
「同じ量の赤い絵の具だけで書いた絵は、誰が書いても赤い絵になる。だが――色の組み合わせは無限だ。インフィニティーだ」
「……」
「その色の組み合わせや彩度、その他全ての要因が名前すら決まっていない新たな色を作り出す。――決闘も同じだ。使うカードは限られているが、自身で考える絵の具の組み合わせは無限に近い」
「何寝言ってんだてめぇ、効率を求めてったら無限どころか有限に決まってんだろ!」
「ある意味正論だな。だが、その有限に縛られる奴を俺は 『凡俗』 と呼ぶ」
「へっ、てめぇは縛られてねぇとでも?」
 『そうだ』と答えるだろう、と。
 蒼菜はそれを聞いてそう思った。
 自分は特別な存在なのだと、そう言うのだと思った。
 だが

「まさか。俺も凡俗――常識的な、ただの人間だ」

 予想は、呆気なく覆された。
 転武もそれは同じだったようで、面食らった顔を浮かべる。
「だがな。だからといって凡俗に甘える気は全くない。俺は――凡俗である事を誇らない」
 白矢が言葉を発したのと同時に、異変が生じた。
 <ジェムナイト・サフィア>2体が、眩しく輝き始める。
「てめぇ何を……?!」
「効果があるというのは、ある程度完成しているという事。だから――俺は彩る」
 それは、何も描かれていないキャンバスと同じだ。
 決められた効果が無いからこそ、手が加えられていないからこそ、どんな色にも成り得るのだと。

「カード達を俺色に染め上げる事。新しい色を描き、共に戦う事――これが決闘に置いての、俺の『限定』だ!」

【白矢】LP4000

手札4枚
場:<ジェムナイト・サフィア> <ジェムナイト・サフィア> <E・HEROクレイマン>

【転武】LP4000

手札3枚
場:<グリーン・ガジェット> <レッド・ガジェット> <ゴヨウ・ガーディアン>