シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード prologue-06

 
「引き金はお前が引いた。だから先行は俺だ――ドロー!」

 白矢は達人が弓を引くような自然さで、デッキからカードをドローする。
 それを見た蒼菜は、思う。
 白矢君は一体、どんなデッキを使うんだろうか――と。
「手札から2枚のカードを罠、魔法ゾーンにセットし、モンスターを……」
「へ……へっ、そういえばお前が公に決闘するのは見た事がねぇな。クラスが違うからだろうが……それだけかねぇ?」
 先程の恐怖を振り払い気を取り直した転武が、だが距離をしっかりと取りながら白矢を挑発する。
「俺はてめぇの有り方と、てめぇのデッキに矛盾があるからじゃねぇかと踏んでる。同類だからな、そこら辺はよくわかるんだ」
「勝手に同類扱いするな発砲するぞ」
「なら証明してみろよ。モンスターを攻撃表示で誇示してみせろよ、白矢ぁ!」
「俺はモンスターを――」
 転武の挑発に対し、白矢は目を瞑る。
 そして手札の1枚を

「裏守備表示で、セットする」

 クッ、と。
 それを見た転武は、押し殺すように笑う。
「問題の先送りかぁ? 白矢ぁ! しかもそれじゃ先送りにもできてねぇ。反論せずにノーコメントってのはなぁ……認めてるのと同じ事なんだよぉ!」
「認める……? 反論?」
 蒼菜は転武の言葉に首を傾げる。
 先程から転武の言っている事が、いまいち理解できないのだ。
「今に見てりゃわかるさ……オレ様のタァン!」
 転武が意気揚々とドローカードを掲げ、そのカードを自らの場に叩き付ける。
 それを見た白矢の目が、若干細くなる。
「オレ様は手札から<レッド・ガジェット>を召喚!」

《レッド・ガジェット/Red Gadget》 †
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1300/守1500
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「イエロー・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

「ガジェット!? じゃあ転武君は機械族デッキ……」
「じゃないんだなこれがぁ! <レッド・ガジェット>の効果にチェーンし、速攻魔法<緊急テレポート>を発動!」

《緊急テレポート/Emergency Teleport》 †
速攻魔法(準制限カード)
自分の手札またはデッキからレベル3以下の
サイキック族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターは
このターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。

 蒼菜の呟きに反し、使われたカードはサイキック族のサポートカード。
 <レッド・ガジェット>の左隣に空間の歪みが発生し、更なるモンスターが姿を現れようとした寸前、転武の声が響く。
「更にチェーンだぁ! 速攻魔法<サモンチェーン>! そして現れろ<クレボンス>ぅ!」



《クレボンス/Krebons》 †
チューナー(効果モンスター)
星2/闇属性/サイキック族/攻1200/守 400
このカードが攻撃対象に選択された時、
800ライフポイントを払う事でそのモンスターの攻撃を無効にする。

《サモンチェーン/Chain Summoning》 †
速攻魔法
チェーン3以降に発動する事ができる。
このカードを発動したターン、自分は合計で3回の通常召喚を行う事ができる。
同一チェーン上に複数回同名カードの効果が発動されている場合、
このカードは発動できない。

「そんな、いきなり3枚のカードをチェーンするなんて……」
「へっ、まだ終わらねえぞ? <レッドガジェット>の効果により、オレは<イエロー・ガジェット>を手札に加え、更に召喚だぁ!」

《イエロー・ガジェット/Yellow Gadget》 †
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1200/守1200
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、
デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。

 新たな機械兵が出現し、列を作るように並び立つ。
 そして<イエロー・ガジェット>は更なる効果を発動し……そこで蒼菜は違和感を覚えた。
「あれ、通常召喚は1ターンに1度しかできないはずじゃ……」
「へっ、それがオレのルールだぁ! ……と本来なら言いたいんだが、筋は通さなくちゃならねぇ。コイツはれっきとした<サモン・チェーン>カード効果だぁ!」
「<サモン・チェーン>……効率よく条件を満たすのは簡単じゃないのに」

 カードのチェーン発動。
 単に続けて3枚のカードを発動するだけならば、速攻魔法や罠があれば容易かもしれない。
 だが、効率を求めるのならそれは変わってくる。
 3枚のカードを無駄に浪費する事は、プレイヤーにとっても痛手であり、敗北に結びつく事だってあるのだ。
 
「でも<ガジェット>達は召喚すればする程、次の<ガジェット>を呼んで来れる。サモンチェーンを使ってもアドバンテージの損失はゼロに近い……」
「へっ、どうやらお前には俺の凄さが理解できたらしいなぁ、女ぁ!」
 転武の言葉を聞き、白矢は目をよりいっそう細める。
 その目で転武を睨み付けながら、白矢は言った。
「お前の凄さ――? 冗談は存在だけにしろよ。凡俗」
「あ?」
「そのコンボ。そのデッキ。俺は 『お前』 と戦うのは初だが 『そのデッキ』 と戦うのは初めてじゃない」
「え……?」
 
 蒼菜には、白矢の言った事が理解できなかった。
 そんな蒼菜を察したのか、白矢は蒼菜に向き直る。
「アイツのデッキはかつての大会で優勝したデッキの物と全く同一の物だ。俺も何度か戦った事がある」
「え、ならあのデッキは――コピーデッキ?」
「へっ、それの何が悪い? 俺にとっての決闘ってのはなぁ、勝つ事が全てなんだよ。そこに何の拘りも情熱もねぇ」
 肩を竦め、自嘲気味に転武は笑う。
 それが今の自分の有り方だと示すように。
「このデッキを選んだのはカードの価値が大してしないカードばかりで組め、尚且つ強ぇからだ。俺の大事なコレクション達が決闘で傷つくのはまっぴらだが、コイツ等は強い上に幾ら傷ついても問題ねぇ。心も痛まねぇ!」
 蒼菜は召喚されたガジェット達に目を向け、気付く。
 そのフレームの節々は至る所に罅が入っており、装甲には凹みが、歯車はギシギシと音を立てている事を。
「お前がカードをどう扱おうと勝手だがな――」
 白矢は目を閉じ、転武に向き直る。
 そして大地の砂利を踏み締め音を鳴らしながら目をゆっくりと開き、言う。

「お前が考えたわけでもないデッキを、ソイツと同じ様に使い、ソイツと同じ切り札を使って勝利する。 ――それの何が楽しい?」

 不意に。
 ――その言葉が、胸に突き刺さったような気がした。
 それは転武ではなく、蒼菜に。
(ううん。私、デッキなんて持ってない)
 ならば、今の言葉を気に病む必要なんて、無い。
(なら、何で――?)


【白矢】LP4000

手札 3枚
場 裏守備モンスター
伏せカード2枚




【転武】LP4000

手札 3枚
場 <レッド・ガジェット><イエロー・ガジェット><クレボンス>