シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード prologue-09

「ちっ……たかだか<ゴヨウ・ガーディアン>を倒した程度で調子に乗ってんじゃねぇぞ?」
 だが転武は、下卑な表情で白矢を笑う。
 自分の勝ちを信じて疑わない顔だ。
「俺の手札には――てめぇの場を全滅させるカードが眠ってんだよ。その名も――」

 
《ブラック・ホール/Dark Hole》 †
通常魔法(制限カード)
フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 転武が掲げたカードを見て、蒼菜の顔が蒼白になった。
 あのカードを使われたが最期。白矢のフィールドは文字通り消し飛んでしまう。
 だが、白矢は動じない。

「――<E・HEROクレイマン>で<イエロー・ガジェット>に攻撃!」
「白矢君!?」
「へっ、ついにトチ狂いやがったか。白矢ぁ! <クレイマン>なんかで何しようってんだよぉ!」

 クレイマンがゆったりとした動作で立ち上がり、そのままズンズンと<イエロー・ガジェット>に、拳を突き出しながら進んでいく。
 <E・HEROクレイマン>は攻撃力800。
 <イエローガジェット>の攻撃力は1200。
 勝敗は、火を見るよりも明らかだ。
 拳がようやく<イエロー・ガジェット>に到達するが、その拳は黄色のフレームに阻まれ届かない。
 対する<クレイマン>の装甲には、少しずつ罅が入っていく。
「へっ、ぶっ壊れろぉ!」
 転武の声が響くと同時に、音が聞こえた。
 それは、装甲の砕けた鈍い音――
 ではなく
 何かを弾く、甲高い金属音。
「な……?」 
「確かにコイツの攻撃力は800しかない。だがな――」
 砕けたクレイマンの粘土の丸い拳から、水晶の様に透き通る端正な手が露出していた。
 その手は<イエロー・ガジェット>のフレームを掴むと、軽々と上に持ち上げる。
「ど、どうなってやがる……!?」
「カードは変わる事ができる。決闘者という色を流し込む事で、どんな姿にだって成る事ができる」
「答えになってねぇ! それに、そんなもんは理想論だ!」
「理想の何が悪い? 現実で成せないと思う事、それを実現する事が可能なのが決闘だ」

 変わる。
 変わっていく。
 クレイマンの粘土の体が剥がれる度、輝かしい光沢が見る者の眼を眩ましていく。
 
「求めれば実現できるかもしれないと、それを具現することが可能なのが、決闘だ!」

 その言葉は、白矢自身の信条だったのかもしれない。
 現に彼は背を向けたままで、彼の視線の先は決闘場から離れない。
(だけど――)
 蒼菜は自分が白矢に言った内容を、思い出す。
 何かを求めて、それでも手に入らなかったら――それは凄く辛い事だ。
 だから、何かを求めるのは間違いだと。
 最初から期待しない方が、自分の為になるのだと。
 そう、思っていた。

「だけど――!」
「――変われクレイマン! そして示せ、お前が抱く可能性を!」

 白矢と蒼菜の声が重なり、その姿が完全が露呈する。
 それは水晶のような装甲。
 人間のような端正な手。
 深い青のマントを羽織り、西洋の細身の槍を構えて具現した。
 そのモンスターの名は――

<M・HERO ダイアン/Masked HERO Dian>
融合・効果モンスター
星8/地属性/戦士族/攻2800/守3000
このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
デッキからレベル4以下の「HERO」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

「M・HERO――だとぉ!?」
「これこそがクレイマンの真の姿――1つの可能性だ!」
「何が可能性だ! ガキみてぇな事ばっか言うんじゃねぇ!」
 そう言い放つ転武が抱くのは、先程までとは種類の違う苛立ち。
「――ダイアン!」 
 かき消すような白矢の叫びに呼応して<ダイアン>は<イエロー・ガジェット>のフレームを掴み、そのまま上空へ放り投げた。
 <M・HERO ダイアン>は蒼いマントを風に靡かせ、中空に投げた<ガジェット>へ向かって跳躍する。
 その機敏な動作に、かつての鈍重さは感じない。
「ジャベリンッ!」
 夕陽を反射しつつ、尚且つ自身の色を誇示し続けるその槍が<イエロー・ガジェット>を貫いた。
 その衝撃はソリッドヴィジョンとは言えど凄まじく、校舎の窓が軋みを上げた。

【転武LP】2200→600

「ちっ……だが残ったぞ白矢ぁ! これでぇッ!」
「ああ、終わりだ!」
「何……!?」

 <ダイアン>の突き刺した槍が、空中で自身から離れる。
 その鏡のように全てを反射する光沢に映るのは、かつての自分の姿。

<E・HERO クレイマン>
通常モンスター
星4/地属性/戦士族/攻 800/守2000
粘土でできた頑丈な体を持つE・HERO。
体をはって、仲間のE・HEROを守り抜く。

 槍は瞬く間に変形し、姿を映し出した槍は新たな命を生み出し、かつての自分を創造する。
 そのモンスターの名は<E・HEROクレイマン
   
「な……!?」
「<ダイアン>がモンスターを破壊し墓地に送った時――新たなHEROを特殊召喚できる。もう一度言うぞ、凡俗」
「く――白矢ぁ!」

 転武は頭上から振って来る人形を凝視する。
 影は大きくなって行き、重力加速度を利用した上であらん力を絞り<クレイマン>は拳を振り絞る。
 
「これで終わりだ――ぶん殴れ!」

 ゴキャァ!
 樹木を薙ぎ倒したかのような鈍い音が、体育館倉庫裏に響き渡る。
 それがこの決闘で響いた――最後の轟音だった。

【転武LP】600→0