シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王Oカード prologue-Last

 ○○○


「――なんで、助けてくれたの?」

 意識を失った転武君を保健室に2人で運び終えた後、蒼菜は白矢に疑問をぶつけた。
 手には奪われたはずのカードファイルが、しっかりと握っている。

「なんで……?」
「だっておかしい。人間には興味が無いって言ってたし、このカードの事だって――」

 限定カード収集家の白矢君にとって、このカードは『価値の無いカード』のはずだ。
 何処にでもある、手に入れようと思えば簡単に入手できる類のカード。
 それを取り戻す為に、結果的に白矢君は奮戦してくれた。
「……ああ、謝罪するにはまず行動で示せと言うだろう」
「謝罪……?」
 白矢君は若干気まずそうに顔を背ける。
 何の事だろう、と本気で悩んでいると――ファイルを手で掴まれる。
「あっ」
 再び腕の中から大切なものがするりと抜けていく感触を味わい、慌てる。
 だが白矢君はそれを奪おうとしたわけではなく、ただ黙々とページを捲り

「――俺は、お前の大切に思っている『カード』を馬鹿にした。その謝罪だ」

 私の過保護にしているカードのページに辿り着いた白矢君は、若干沈んだ面持ちでそう言った。
 それを聞いた私は、慌ててそれを否定する。
「え、でも。あれは私に……私が」
 私が行動に移さずに諦めていたから、それを叱咤する為に言っただけじゃないか――と。
 そう続けようとした事を察したのか、白矢君は首を振る。
「それでも……だ。それは決闘者としての禁忌に近い。謝罪して済むとも、済まそうとも思っていない」
「いや、そこは済まそうよ……」
 そもそもこちらは礼を言うべき立場であって、謝罪なんてトンでもない話である。
 そう思い必死に手をパタパタ振っていると、その手に不意に拳を当てられた。
「えっ」
「だから、俺はお前に誓う」
 思い切り叩かれたわけではない。ただゆっくりと、拳を手に平に重ねるだけの行為。
 
「――お前の大切な 『限定品』 を、俺は二度と馬鹿にしない」

 何故だか、その言葉を言われた瞬間。心が軽くなったような気がした。
 誰にも理解されない。誰からも認められない、外には放ってはいけない想いを、認められたような気がした。
 勿論それは錯覚だ。
 昨日今日出会った人と、同じ想いを共有する――それは不可能な事だのだと、私は教えられてきた。
 そしてそれを期待しても、結果はいつも同じ。
 だから、求めるのは辛いことのだと、思っていた。
 思っていた。

「……白矢君」
「なんだ、不服か?」
「ううん、そうじゃなくて――」

 でも、白矢君は違う可能性を示してくれた。
 決闘で
 行動で
 結果で
 なら、私も1歩を踏み出してみよう。
 これから伝える言葉で、私は報われないかもしれないけれど、求める事を怖がらずに。

 目の前の人と、同じように。