シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王Oカード episode-24

【白矢】LP4000 手札1枚
場:氷結界の龍グングニール カオス・ソルジャー
【黒鷹】LP2000 手札2枚
場:闇の支配者‐ゾーク 伏せカード

 今できる最強の布陣は整えた。
 問題は黒鷹の伏せカード――あれが何か特定できない以上、油断は全くできない。
 だが、白矢にはグングニールの 『効果』 が残されている。
 
1ターンに1度、手札を2枚まで墓地へ捨て、捨てた数だけ相手フィールド上のカードを選択して発動できる。選択したカードを破壊する。

 この効果で伏せカードの破壊に成功すれば後顧の憂いは絶つ事ができる。
 戦闘はほぼ間違いなく通り、白矢は勝利する事ができるだろう。そうなると問題はあれがタイミングを選ばない――フリーチェーンで発動可能なカードだった場合だ。黒鷹は<グングニール>の効果にチェーンする形でそれを使うだろう。現在の手札は<融合>一枚なので、そのフリーチェーン罠カードが攻撃をやり過ごす類のカードだった場合<闇の支配者-ゾーク>が場に残ったまま黒鷹のターンが回ってしまう。


《 闇の支配者 ダーク・マスター -ゾーク/Dark Master - Zorc》 

儀式・効果モンスター星8/闇属性/悪魔族/攻2700/守1500「闇の支配者との契約」により降臨。フィールドか手札から、レベルが8以上になるようカードを生け贄に捧げなければならない。1ターンに1度だけサイコロを振る事ができる。サイコロの目が1・2の場合、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する。3・4・5の場合、相手フィールド上のモンスター1体を破壊する。6の場合、自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。

(また成功するとは限らない――が)
 それは希望的観測であり、絶対ではない。先程の黒鷹の言葉を信じるわけではないが、勝負事には流れがあり、今それは黒鷹に向かって流れている。ならば、万が一にも<ゾーク>を残すべきではない――!
「手札の<融合>を捨て<氷結界の龍‐グングニール>の効果発動!」
「対象は……?」
「……<闇の支配者-ゾーク>だ!」
 白矢の宣言と同時に<グングニール>の効果が発動し<ゾーク>を瞬く間に消滅させる。
 その影響で辺りの温度が急激に下がったのか、過冷却霧が一時的に発生し、ゾークの四散エフェクトと共に互いの視界を薄く遮る。
「バトルフェイズ――カオス・ソルジャーで」
「罠発動。<威嚇する咆哮>!」
「……やはり、フリーチェーントラップ!」

《 威嚇 いかく する 咆哮 ほうこう /Threatening Roar》 

通常罠このターン相手は攻撃宣言をする事ができない。


「破壊するべきカードが<闇の支配者-ゾーク>だとよくわかりましたね白矢先輩。この<威嚇する咆哮>はドローで引いたカード……計算で予測できる類のカードではなかったのに。まるでこちらの手札が見えているみたいだ」
「……そういいものでもないさ」
 白矢はこのターン、確かに正しい選択をした。仮に<グングニール>の効果を伏せカードである<威嚇する咆哮>に放った所で、攻撃不能にさせられるのは変わらない。その場合は<ゾーク>を倒すことも叶わず、この優勢は作れなかった。
 だが、白矢はこのターンで勝負を決めに行き、それに失敗した。
 幾ら優勢とはいえ、この意味は大きい。

「ボクのターン――ドロー」

 歯噛みする暇もなく、黒鷹は新たなカードをドローした。
 白矢はそれを、息の詰まる思いで見届ける。
 あれがこの布陣を突破できるような強力なカードならば、それは――

「……残念。 ボクは<レスキュー・ラビット>を召喚します」

 

《レスキューラビット/Rescue Rabbit》 

効果モンスター(準制限カード)星4/地属性/獣族/攻 300/守 100このカードはデッキから特殊召喚する事はできない。自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをゲームから除外して発動する。自分のデッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 出て来たのは先程白矢は召喚した<デブリドラゴン>にも負けない程ちんまい兎だ。
 しかしその効果は強力だ。白矢もデッキに投入しているカードだが<融合>や<チューナー>
 もしくは儀式魔法等とのコンボで、多種多様に活用できる可能性を持っている。
 だが、黒鷹はそのドローカードを「残念」と言った。
「それを生かせる融合やチューナーが――今はいないのか」
「その通りですよ白矢先輩 儀式魔法は先程使ってしまいましたしね」
 そう言いつつも決闘を諦める気はないのか <レスキュー・ラビット>の効果で二体のモンスターが展開される。出てくるのは通常モンスターなので、カオス・ソルジャーやグングニールを倒せるモンスターでは無い。
 だが

「……随分不気味だな。そのモンスター達は」

 それ以外に形容しようがない程、2体の同名モンスターは不気味だった。
 武骨な鎧に、妖しく黒ずんだ短剣。鎧の隙間からは血管が外に溢れ、静かに脈打っている。
「へぇ、白矢先輩には――このモンスター達の不気味さが理解できるんだ。普通は<アンデット族>モンスターに比べたら全然マシだって感じそうなものなのに」
 そう言われてみればそうだ。
 それこそ<ネクロフェイス>のような、脳髄から何かが飛び出していたり、片目が異形の細胞に飲まれているイラストが描かれているわけでもない。そして白矢は別段<ネクロフェイス>が苦手というわけではない。むしろ入手難易度の高さから言って好意的な目を向けかねない。
 だが、目の前のモンスターにははっきりと不気味さを、異様さを感じる。
 それは見た事のないモンスターのはずなのに
 まるで、今まで
「もしかしたら白矢先輩は……わかっているのかもしれないですね。そうなのか、そうでないかを」
「……何を言っている?」
「――本当は使うつもりはなかったんですが、気が変わりました」
 少し笑った後、黒鷹は小さく呟いた。
 白矢には届かない、4文字の言葉を
「予定――変更です」
 次の瞬間。
 フィールドの中央から 『黒』 が溢れ出した。
 それらは屋上全体を包み込み、黒鷹を覆い、白矢を飲み込もうと浸食する。

「解氷コード壱。異召力場強制臨界――Exceed!!

 黒鷹は声を注ぐ。
 呟くように 酔うように 畏れるように
 ただその異形の空間に、声だけを注いでいく。
 同時に二体のモンスターが、ミキサーに巻き込まれるように、四肢を解剖されながらその中へと沈んでいく。

 妙だ。
 黒鷹はモンスターを並べただけで、融合カードも、魔法カードすらも発動していない。
 これではまるで――そう白矢が思った瞬間。
 完全に、辺りが暗闇に包まれた。

 光が漂っていた。
 何も見えない程の闇の中を照らす、二つの光。
 それらは何かを取り巻くように……まるで衛星のように、何かを中心として漂い続ける。
 光が黒鷹の足元を一瞬照らし、すぐに見えなくなる。
 光が流麗な水色の 『何か』を写し、またすぐに見えなくなる。
「……鱗?」
 白矢には、それが何なのか見覚えがあった。
 氷の鱗、それは先程白矢自身が呼び出した<氷結界の龍 グングニール>と同じ物だ。
 ……同じモンスターを呼ばれた? しかしあの場には水属性モンスターも、チューナーモンスターも存在しなかったはずだ。
 光が再び水色の 『何か』 を映し出し、すぐに見えなくなる。
「水属性モンスターなのか……? 」
 暗闇の中から響いた黒鷹の声と同時に、光球はついに 『それ』 の中心部を映し出す。
 水色の鱗――それに刻まれた、黒色の妖しげな刻印。
 そしてその輪郭には黒々とした何かがあり、中央部には鮮血ように赤い宝石
「……違う、コイツは!」
「正解ですよ白矢先輩。コイツは貴方の知るモンスターではない!」
 鋭い咆哮が闇を切り裂き、宝石から溢れる光の奔流が、視界を覆っていた黒を全て吸い込んでいく。
 凄まじい突風が巻き起こり、思わず白矢は後ずさる。
 ……いや、違う。


「顕現せよ。降臨せよ。掌握せよ! ヴェルズ――バハムート――!!」
 
 
 そうさせたのは
 白矢が生まれて始めて感じた――魂の根幹を揺るがす、恐怖だった。



《ヴェルズ・バハムート/Evilswarm Bahamut》 

エクシーズ・効果モンスターランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2350/守1350「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×21ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。手札から「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を捨て、選択した相手モンスターのコントロールを得る。