シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王Oカード episode-25

【白矢】LP4000 手札0枚
場:氷結界の龍グングニール カオス・ソルジャー
【黒鷹】LP2000 手札2枚
場: ヴェルズ・バハムート

 それは、何に対しての恐怖なのか。
 目の前の<ヴェルズ・バハムート>が放つ圧倒的威圧感?
 当然、それもある。
 だが、それ以外にも。
「見た事が……ある? 俺は、このモンスターを――?」
 そんなはずはない。
 そもそも黒い枠に覆われたモンスターが存在する事すら知らなかったのに――。
 白矢の思考を遮るように、黒鷹は一枚のカードを更に場に叩き付ける。
「これでようやく使える――闇の量産工場、発動!」
 

《 闇 やみ の 量産工場 りょうさんこうじょう /Dark Factory of Mass Production》 

通常魔法自分の墓地に存在する通常モンスター2体を選択して発動する。選択したモンスターを自分の手札に加える。

「対象は<ダークフュージョン>に使用した<E・HEROスパークマン>と、そして――」
「高等儀式で墓地に送ったモンスター……先程その<バハムート>を構成したモンスターと同じ!」
「<ヴェルズ・ヘリオロープ>だよ――先輩。ボクはこのモンスター2体でエクシーズ――エクシーズしただけさ」
「エクシーズ……」
 それは、先程の黒い召喚法の事だろうか。
 チューナーも、融合カードも、儀式魔法も必要ない。
 全く新しい――聞いた事もない召喚法。
 本来ならインキチを疑う所だが、この圧倒的な雰囲気。そして決闘盤が認識している事が、この召喚法の正当性を示している。
「―― 一部の奴等に隠蔽されていた? 何のために?」
「それじゃ半点だよ白矢先輩。隠蔽する必要なんてない――エクシーズを使うのには 『条件』 があって、今それに適合する人材は殆ど存在しない。だからボクはここに来たんだ」
「条件……?」
「普通の人には扱えない。当然、白矢先輩にも」
 フッと目を細め、黒鷹は一瞬哀しそうに微笑む。
「だから本当は使うつもりはなかった。ある意味ボクの負けかな、これは」
「――ふざけるな。自分の持てる力の全てを出し切るのが決闘――そしてそれを挑んできたのは黒鷹、お前だろう」
「……違うよ。白矢先輩」
 気付けば黒鷹の口調から敬語が消失している。それがいつからの事なのか、今の白矢には判断する余裕がない。
「ヴェルズバハムート――エフェクト起動」

 

《ヴェルズ・バハムート/Evilswarm Bahamut》 

エクシーズ・効果モンスターランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2350/守1350「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×21ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。手札から「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を捨て、選択した相手モンスターのコントロールを得る。

「ユニット一つを消費し、手札の<ヴェルズ・ヘリオロープ>を捨てる事で、相手モンスターを掌握する――!」
「……掌握?」
 ユニットとは光の球のことだったのだろう。黒鷹の宣言に呼応して、一人の光球が破裂する。
 だが、続く言葉の意味は――?
「すぐにわかるよ――ボクは<氷結界の龍 グングニール>のエフェクト起動! タービュランス!」
「な――!?」
 突如従えていたはずの<グングニール>が反転し、氷槍を具現化させた。その槍は隣にいた<カオス・ソルジャー>に刺さり、その亀裂を中心に氷漬けになっていく。そして完全に氷像になった<カオス・ソルジャー>に向かって勢いよく尾を叩き付け、粉々に粉砕してしまった。
「これが<ヴェルズ・バハムート>の――エクシーズの力だよ白矢先輩。 青も! 紫も ! 白でさえも! 黒による侵には全くの無力! こうなったボクを――黒を使えない貴方は、勝てやしないのさ!」
「コントロール……奪取……」
「だから使うつもりはなかったんだ。これを使ったら最後、ボクの勝利は確定してしまうから――」
 黒鷹の表情はここからでは見えない。
 だが、わかる事もある。
 相手のモンスターは<ヴェルズ・バハムート>と、今しがた奪われた<氷結界の龍グングニール>
 <カオス・ソルジャー>は破壊され、伏せカードは一枚も残っていない。
 残りライフポイントは――4000。
「……負け、か」
 それは当然自分にも起こり得るものだ。
 白矢は無敵ではない。最近の決闘で連勝が続いてはいた。 『本物』 であるバルゥに対して辛うじて勝利もした。
 だが、それだけだ。白矢は何度も負けを経験してここにいる。友人Aに対しても何度も負け越している。
「それでも諦めはしないんですね。先輩」
 ふと、黒鷹の口調が元に戻る。それが何を意味するかは、今の白矢にはわからない。
 白矢は笑う。
「ここで諦めるのは当然だ。自然だ。普通の事だ。なら俺は……」

 そんな凡俗に――反逆してやるのだと。
 ひた隠した悔しさを表情でなく拳に滲ませて、言い放つ。

「……それでこそ白矢先輩です」
 
 黒鷹は心からの尊敬を言葉にし、2体の龍に攻撃指令を下す。
 響き渡る豪音、巻き上がる濃霧、撒き散らされる氷片は、白矢の姿と表情を隠し――
 白矢自身のライフを、一瞬にして全て削り取った。



【白矢LP】4000→0






「……ゲホッ」
 ソリッドビジョンとは思えない程の衝撃に壁に叩き付けれた白矢は、浅く渇いた咳をする。
 それに手を差し伸べるわけでもなく、立ち尽くしながら黒鷹は口を開く。
「しつこいようですが、これはボクの勝ちとは思いません。だから一つ忠告して置きます」
「……それについては後に反論するとして、なんだ?」
 他にも聞きたい事は山ほどあるが、同じクラスなのだから話す機会は幾らでもある。
 そう促すと、黒鷹はスッと目を細め。

「あの女――いえ、あの 『偽物』 には、もう関わらない方がいい」 
「あの女? 蒼菜の事か……?」

 偽物というワードの意図はわからないが、自分に近しい女性となると蒼菜ぐらいしかいない。
 黒鷹は静かに頷き、更に口を開こうと――

「誰かー! 誰かいませんかー!?」

 その瞬間に。聞き慣れた先生の声が、校庭の方から聞こえてきた。十中八九平山先生の叫び声だ。
 白矢は耳がいいわけではない。屋上のここからでも聞こえる程の声を上げているという事は、何か起こったのだろうか?
 白矢は先生の見える金網の前まで走り、黒鷹は遮られた事を僅かに不快を覚えつつも、同じ場所へ歩いて、同時に下を見下ろした。
 すると
 そこにいたのは、狼狽した平山先生と――

 校門の目の前で
 生気を失って倒れている、蒼菜の姿だった。