シューティングラーヴェ(はてな)

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遊戯王オリジナル番外編 『異世界』 episode-01


 異世界
 現実の世界とは違った空気で構成されたその世界では、人間の数は多くない。
 代表的な理由は二つ。
 一つは移動手段が未だ噂程度のレベルでしか知られていないこと。
 二つ目は、異世界に行ったとされる人間に、帰ってきた者がいないこと。その原因は――至極単純なものだ。

 『カードの精霊』

 それがこの世界で一番総数の多い生物で、一番力の強い生き物だからだ。
 なので異世界に挑む。もしくは偶然来てしまった人間は、精霊に捕食されてしまうのが一般的なのだ。

「左任せたぞ――戎斗!」
「あァ!? 何勝手に決めてんだテメェ!」

 だが何事にも、例外は存在する。
 時枝治輝(ときえだなおき)と永洞戎斗(えいどうかいと)
 この二人はその例外の中でも、とびきりの例外だった。好戦的な精霊と戦える人間などいないはずなのに、特に取り乱す様子もなく、目の前の精霊の集団に挑んでいく。
 
「ちっ……<軍神ガープ>はもう限界か――なら、コイツでケリをつけてやる」
 決闘盤を巧みに操り、戎斗は一枚のカード力強く発動する。
 

《 終焉 しゅうえん の 焔 ほのお /Fires of Doomsday》 

速攻魔法
このカードを発動するターン、自分は召喚・反転召喚・特殊召喚できない。自分フィールド上に「黒焔トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。このトークンは闇属性モンスター以外のアドバンス召喚のためにはリリースできない。

「なんだ? 攻撃力0のトークンでケリとやらをつける気か戎斗」
 治輝は右方に飛び込むタイミングを計りつつ、いたずらっぽく笑う。
「てめェこそ何が 『左任せたぞ』 だクソが。無駄口言ってねーでさっさと右片付けろ」
「右の方が数が多いから選んでやったんだよ。タイミングくらい計らせろ」
「馬鹿言え左のが質がたけェだろうがぶっ殺すぞ」
「わかった。その意気で右のもぶっ殺してくれ!」
「そういう意味じゃねェよ……!」
 戎斗の反論も効かずに、治輝は右方の好戦的な精霊の集団に飛び込んでいく。それを見て舌打ちをする戎斗。

「――どうせわかってての行動だろぅが。ったく」
 傷だらけの<軍神ガープ>と終焉の焔トークンを生贄に捧げる。三体の悪魔族モンスターの生贄が必要なモンスター――そんなカードは、一枚しか存在しない。3本の柱が光となり、異世界の地面を震わせ、紫色の空を裂く。
 そこから降臨するのは、永洞戎斗の 『エース』

《 幻魔皇 げんまおう ラビエル/Raviel, Lord of Phantasms》 

星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する悪魔族モンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。相手がモンスターを召喚する度に自分フィールド上に「幻魔トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守1000)を1体特殊召喚する。このトークンは攻撃宣言を行う事ができない。1ターンに1度だけ、自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分アップする。

 幻魔皇ラビエル。
 圧倒的な威光を有した絶対的な力の持ち主は、左方の敵に拳を振り下ろす。
 その名も 「天界蹂躙拳」
 だが、拳が地表を撃ち抜かんとするその寸前。明らかに自然のものではない突風が巻き起こる。
「……ったく、面倒臭がりが」
「そう言うなよ。効率がいい」
 次の瞬間 『全ての敵』 がラビエルの拳に直撃し、蹂躙される。
 名もなき獰猛なモンスター達との戦闘は、その一撃で幕を下ろした。



遊戯王オリジナル番外編 『異世界』 episode-01
「…… 嵐征竜テンペストで突風を起こし、モンスター共を一箇所に集める。そして俺の<幻摩皇ラビエル>で全ての敵を撃滅、か」
 戎斗は憎々しい表情でテンペストに視線をやり、足元に唾を吐く。



《 嵐征竜 らんせいりゅう -テンペスト/Tempest, Dragon Ruler of Storms》 

効果モンスター星7/風属性/ドラゴン族/攻2400/守2200自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または風属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと風属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、デッキからドラゴン族モンスター1体を手札に加える。このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族・風属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「嵐征竜-テンペスト」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

「だから効率的だろ。お前の方がサイコパワーの威力高いんだし」
 サイコパワーとはサイコ決闘者が力を行使した時の威力――のようなものだが、二人にとっては少し違った意味合いを持つ。それは二人がサイコ決闘者として分類されるべきなのか、少し怪しい存在だからだ。
「 『効率』 ? 『効率』 だ? てめェは前々からカードアドバンテージってもんを馬鹿にしてたけどなぁ……墓地から無償で蘇ってくるソイツは幾らなんでもインチキ過ぎんだろクソが!」
「墓地除外必要だから無償じゃねぇし、さっきの戦闘の件とは無関係だろそれ!?」
「墓地除外2体なんて無償と変わらねェんだよクソクソが! そういうカードにばっか頼ってやがるといずれ痛い目にあって死にやがれ!」
 途中まで忠告してやろうと思っていた戎斗だったが、途中で面倒になったので率直な想いを伝えた。
 「うおい」 と突っ込みを入れる治輝をスルーし、戎斗は歩みを進める。

「……その<テンペスト>に散々乗って戦闘を回避してた奴の台詞とは思えないな、うん」
 治輝がすかさず痛いところを突いてくる。こういう部分は決闘に置いても発揮されている部分で、戎斗にとってはこれ以上なく鬱陶しい。
「……6分で毎回消滅する不良品に気を遣う度量はねェんだよなァ。せめて30分は役に立ってもらわねーと」 
「30分以上存在できたらできたで文句言うだろお前……」
「……」

 治輝のジト目に、戎斗は目を逸らし思考する。
 そうなると、30分イコール自ターンだけで数えて5ターンはデメリット無しで場に存在できるように……
「……贅沢過ぎんだろクソがあああああああ!!」
「お前が言い出したんだよなぁ!? 今お前が言い出したんだよなぁ!?」
異世界に来てからてめェばっか有用なカード入手してんじゃねェか! 俺は強くなる為にここに来てンだよ!」
 ちなみに<テンペスト>を入手した<<風の谷>>を超えて行こうと提案したのは他ならぬ戎斗である。
 そしてそこの難敵を打倒したのは、ほぼ治輝一人の活躍によるものである。
「あそこのボスの<雲魔物>の大ボス倒すのに相当疲労してんだからさ……」
「攻守4000あるモンスター呼べば雑魚だろあんなもん。 だらしねェ」
「どのデッキもぽんぽん4000級出せると思ってないかお前!?」
 とにもかくにも、価値観が余りに違い過ぎる2人であった。
 いつも通りの光景ではあったが、いつもとは違う要因も幾つかある。

 1つは、治輝が純粋に疲労していたこと。
 2つ目は、戎斗が口論と同時に考え事をしていたこと
 そして、もう一つ

「……ッ!? 戎斗、後ろ!」
 ――不定形モンスター。
 実態のない視認し難いモンスターが、ラビエルの拳に当たらずまた残っていたのだ。
 不定形モンスターは獲物を仕留めるその寸前のみ、その姿を具現化する。
「……!?」
 戎斗が気付いたが、迎撃は間に合わない。鋭い牙を露わにしたモンスターが、戎斗の腕に噛み付こうと――

「――あぶなーい!」

 その瞬間。戎斗は思いっきり唐突に、手加減なしに突き飛ばされた。
 わけがわからないまま地面に押し倒され、視線を上げると――そこには見慣れない女性の姿。
「……あ?」
 戎斗は訝しげな声を出すが、ふと我に返って辺りを眼球の動きで確認する。
 ――先程のモンスターの姿が見えない。どうやら余りに強烈な突き飛ばしに驚き、逃げてしまったようだ。 つまり戎斗は絶賛自分の上に覆い被さり中のこの女性に助けられた事になる。が
「……てめェ死ぬ気か!? 生身でさっきの奴の攻撃を食らったら即お陀仏だぞ!?」
 わかりやすく言うのであれば、生身の人間の通常ライフポイントが500だとして、先程のモンスターの攻撃力が2000超え――つまり一回食らえば4人死んでしまうぐらいの威力があることになる。サイコ決闘者としては規格外な戎斗や治輝ですら、直撃したら出血は免れない程の傷を負う事は免れない。
 だが、その女性――戎斗や治輝と同年代であろう女の子はキョトンとして、不思議そうに首を傾げる。

「うん、そうする為にやったんだよ」

 でも失敗しちゃった、と腕を組み、頭に指を当てて何やら反省している。
 そしてすぐに 「よしっ」 と気を取り直すと、立ち上がり、何処かに走り去ってしまった。
「……おい、なんだったんだありゃ。 人型の精霊か何かか?」
 さすがの戎斗も状況についていけず、ただその姿を見送ってしまう。
 治輝はその問いには答えず、何やら思案している。
「……おい、聞いてんのか?」
「あ、悪い――ちょっと気になって」
「なんだよ。知り合いじゃねぇだろうな」
 治輝は無言で首を振り、否定する。 なら気にする事ねぇだろと先を促す戎斗に辛うじて頷く。
 だが、どうしても気持ちを切り替えられない。 先程の台詞が、頭の中で反芻する。
「そうする為にやったんだよ……か」
 その意味を邪推し、治輝は異世界の雲を見上げる。
 現実世界であれば一雨来そうな程、濁った空だった。