シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル prologue-16

 かづなと治輝は、目の前の化け物に圧倒されつつも、何とか立ち上がった。
 大きい、余りにも大き過ぎる存在感。これが――ラビエル。

「ラビ……エル。コイツは確か……」
「私聞いた事があります。『幻魔』と呼ばれるカードで、かつで世界全体を危機に追い込んだモンスターだとか……」

 博識だなァ――と、いつもの調子に戻った戒斗は、かづなに向かって賞賛の言葉を送った。
 先程までなら治輝は「嫌味な奴め」と彼を評し、不機嫌になったかもしれない。
 だが目の前に君臨するモンスターの威圧感は、そのような心の余裕を一切許さない。
 今や口を開けるだけでも、何か大きな重圧を感じてしまうような感覚が体全体を通り抜ける。
 かづなも同じように感じているのだろうが、彼女は負けじと言葉を続けた。

「でもおかしいです!『幻魔』のカードは何処か違う世界……『異世界』に、かつての英雄さん達が封印したって聞きました。こんな所にあるわけありません!」
「……なら、コイツはレプリカ?」

 ――いや、違う。
 そう治輝は強く思った。コイツは単なる偽者じゃない。
 偽者だとしたら、さっきまでの現象はなんだ?違和感はなんだ?
 そして今感じている、押し潰されそうな重圧はなんだ?

 そんな治輝の何とも言えないような焦りの表情を見て、戒斗は大きく笑う。

「そう、お二人さんは半分ずつ正解だァ……!確かにコイツはレプリカだし、かと言っても偽者じゃァ無い。俺のペインとしての能力で『引っ張り出してきた』んだよォ!!」
「引っ張り出す……?何を言ってる!」
異世界からさァ!!イメージをし、自分の求める者を明確にし、そのカードと相性が良ければ『存在感を持ったレプリカ』ができるみてェだが……」
「……」
「俺に相応しいのはァ……こんな『怪物』だったってワケだァ」

 ――まァ、代償はでかいがなァ。と、戒斗は心の中で呟く。
 今も戒斗は、闇に自分が半分かじられているような感覚に苛まれている。
 このまま<ラビエル>が長く存命すれば、俺の命もそのまま持っていかれるだろゥ
 だが、そんな事は関係無い。
 俺の『目的』の為なら、俺自身がどうなろうが知った事じゃない。

「さて、理由なんざどうでもいいよなァ。ラビエルの効果を発動ォ!」

《幻魔皇(げんまおう)ラビエル/Raviel, Lord of Phantasms》 †

効果モンスター
星10/闇属性/悪魔族/攻4000/守4000
このカードは通常召喚できない。
自分フィールド上に存在する悪魔族モンスター3体を
生け贄に捧げた場合のみ特殊召喚する事ができる。
相手がモンスターを召喚する度に自分フィールド上に「幻魔トークン」
(悪魔族・闇・星1・攻/守1000)を1体特殊召喚する。
このトークンは攻撃宣言を行う事ができない。
1ターンに1度だけ、自分フィールド上のモンスター1体を生け贄に捧げる事で、
このターンのエンドフェイズ時までこのカードの攻撃力は
生け贄に捧げたモンスターの元々の攻撃力分アップする。

「攻撃力1100の<幻銃士>を生贄にし、その攻撃力をラビエルに加算するぜェ!」
「攻撃力……5100!?」
「さァ、バトルフェイズ!ラビエルで<青氷の白夜龍>に攻撃だァ!」

 もはやモンスターではなく『城』と呼称した方が相応しい大きさのモンスターが
 治輝の<青氷の白夜龍>に狙いを付け、その瞳を赤く輝かせる。

 ……通った場合の超過ダメージは、2100か。
 治輝は、先程のガープ対仮面竜での超過ダメージによる衝撃を思い出す。
 800であれ程の威力、そして今回はそれの2倍以上のダメージ……そして。
 目の前に聳え立つ幻魔の皇帝、ラビエル。
 戒斗の切り札であり、以前世界を危機に追い詰めた化け物。
 そんなモンスターの攻撃を、余波とはいえまともに受ければ、ただでは済まないだろう。

 ここは、伏せカードで守るしかない。
 温存を考えてる暇なんて無い、守りきって、戒斗を……。

 ――殺すのか?昨日のペインのように
 治輝の心の中で、声が響いてきた。妄想なのか、自分自身の心の声なのか判断が付かない。

 ……違う、アイツはまだ『完全』じゃない。昨日のアイツとは、違う。

 ――人を傷つけ、殺し回るという意味では同じだ。ここで楽にしてやるべきだ。

 ……それは俺が決める事じゃない。

 ――『ペイン』をやらなきゃ、不幸になる奴がいるかもしれない。それでもか?

 
 ……声が鳴り止む。
 我に帰った時にはラビエルの拳が<青氷の白夜龍>の眼前まで迫っていた。

「……ッ、伏せカードを……!」

 ――殺すのか、あのペインのように。
 先程鳴り響いた言葉が、再び脳裏に木霊していく。
 戒斗と俺は同じだ。目的の為に、何かを傷付けようとしている。

 それを『間違っている』『悪いことだ』と言う資格が、俺にはあるのか……?





 ――爆音。
 それは幻魔の粛清の鉄槌が振り下ろされ。<青氷の白夜龍>を粉砕した音だった。
 目の前に激しい砂埃が巻き上がり、その視界の向こうから、黒い衝撃波のようなものが向かってくる。
 後ろにはかづながいる。逃げたらあいつに危険が及ぶ。
 氷の破片が足に刺さった。だが痛みに神経を割いてやる時間は無い。
 リストバンドを付けている右腕を前に翳し、足を踏ん張り目を見開こうとして……

 その時点で、俺の意識は刈り取られた。