シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル prologue-17

 余りの衝撃に逃げる事も出来ず、かづなはただ身を伏せていた。
 音が鳴り止みその目を見開いた時、目の前には覆い被さるように大きな背中があった。
 体中の服は赤く滲み、全身はボロボロ。
 その姿が誰であるのかをようやく理解し、力の限り叫んだ。

「なお……君?――なお君!?」

 ――酷い出血だ、止血しないと。
 そう思っても、体が上手く動かない。しっかりしろ私、こんな時にこそ役に立たなくちゃ。
 救急セットは確か鞄の中にあったはずだ、それを……

「――なぁに無視してくれてんだァ?」
「……ッ!?」

 いつの間にか近くに来ていた戒斗が、足で砂埃をかづなに向かって巻き上げた。
 反応が少し遅れた。砂が目に入り視界が悪くなり、刺す様な痛みを感じる。
 同時に<青氷の白夜龍>にも砂がかかり、その美しいイラストを曇らせた。

「いたい……です」
「それくらい当然だろォ?そこのナオキ君に比べたらさァ」
「……なお、君?」
「そォだ。ナオキ君だ」

 言いながら戒斗は、治輝の決闘盤から落ちた一枚の伏せカードを無造作に拾い上げる。
 それを見た戒斗は少しをそのカードを眺めた後、口の端を吊り上げて舌打ちをした。

 ――チッ、そういう事かよ。本気じゃねェと意味ねェってのに

 戒斗は頭の中でそう毒付くと、かづなの方に向き直った。
 段取りを少し、変更する必要がある。

「お嬢ちゃんが居たから、コイツは逃げられなかったんだぜェ?」
「……え?」
「目に砂ァくらい当然じゃねェか、何しろ……」

「オマエの代わりに、『犠牲』になッたんだからなァ!!」

 ――犠……牲?
 その言葉をキッカケに、かづなの心が大きく軋み始めた。
 何故かお母さんとの思い出が、脳裏に蘇ってくる。

 運動会に初めて来てくれた時の事
 救急車で運ばれた時、初めて泣いてくれた事
 同級生にいじめられた時、頑張れって励ましてくれた事
 東京行きを渋っていたのに、最後には私の夢を応援してくれた事

 そして同時に、なお君との思い出が脳裏に流れていく。
 ピシッと、何処か知らない方角から嫌な音が聞こえてくる。

 殺されそうだったのに、ペインから助けてくれた事
 私の「恩知らずになりたくない」って我侭を聞いてくれた事
 決闘の後、ずっと誰かに言って欲しかった言葉を――言ってくれた事







 ――それも、オマエが役立たずのせいで失われる

 脳裏に響いてくる、言葉

 ――オマエに、何の力も無いから失われる

 やめて、やめて、聞きたくない


















 ――オマエが無力なせいで、失われる




 その声に後押しされるように
 かづなは虚空を眺めるような目になり、ペタンとその場に座り込んでしまった。