シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル epilogue-03

「……来た、か」
 
 旧商店街。
 一人佇んでいた戒斗は僅かな気配を感じ、その方向に体を向ける。
「待ちくたびれちまったぜェ。キッチリ未練は潰しておいたんだろうな、腑抜けクン?」
「相変わらずイライラする奴だな……」
 ため息を付きながら、治輝はブスっとした表情で頭を掻く。
 戒斗は治輝の後ろから出てきたかづなに視線を寄せると、口元を釣り上げた。
 
「――へぇ、よく怖がらずに来たなァ?」
「――貴方なんか、怖くありませんから」
 それは嘘でも虚勢でもなく、かづなにとって真実だった。
 確かに幻魔や、それを扱う戒斗さんに苦手意識が無いといえば嘘になる。
 だが、今のかづなにはそれ以上に怖いものが出来ていた。
 幻魔や戒斗さんなんかよりも……問題にならない程の恐怖を抱えていた。

 その掛け合いを見ていた治輝が腕を組み、戒斗を睨み付ける。
「……未練って言ったら、お前だってそうじゃないのか?愛城に用があるって言ってたろ」
「あの時はてめぇが横取りしたんだろうがよ。……それに、アイツにとっては俺に負けるより、てめぇに負ける方が何倍も屈辱だろうからなァ」
 ケタケタ笑う戒斗を見て、治輝は更にため息を吐く。
 かづなはそんな二人を見て、妙に不安になってきた。
 ――この二人、本当にやっていけるんだろうか。

「まぁテメー等と下らない雑談しに来たわけじゃねぇからな、本題を言うぜぇ」
 戒斗の顔が真顔になり、治輝とかづなは気を取り直して前を向く。
「……そりゃこっちの台詞だ。異世界とやらに行くには、どこに行けばいいんだ?」
「どこにも行く必要はねェよ。あるのは俺達の決闘に必要な、それなりに広い場所だけだ。……今更細かく説明しねェと不安で仕方ねぇとは言わねェよなぁ?」
 口元を釣り上げながら、戒斗は何処か楽しそうにそう言った。
 その様子を見た治輝は、何かを察したような表情になり

「……あぁ、なるほどな。わかりやすくていい」

 そう呟きながら、決闘盤を展開した。
 かづなはそれを見ても、何が何だかわからない。
「え、何が成る程なんですか。……え?」
「幻魔を召喚した時の感覚、忘れたわけじゃぁねェだろ。……空間に穴が空き、何かに引っ張られるような感覚。要は、あれを応用してやりゃァいいんだ。あの時よりも大きな空間の穴を開ければ、その中心である決闘者二人はそこに吸い込まれる」
「……何言ってるか、私にはさっぱりなんですけど」
 かづなは思ったままの心中を正直に吐露した。
 異世界という話だけでもオカルト全開なのに、空間の穴だとか言われても色々と困るし、わけがわからない。
 そんな考えが顔に出ていたのか、それを見た治輝は苦笑いを浮かべ、言った。

「つまり、こういう事だろ?」
「?」
 治輝は口元を歪め、いたずらッ子のような表情になり、言った。
 戒斗を挑発するように、視線をそちらに向け、宣言する。

「――幻魔を召喚させ、その上で戒斗を完膚なきまでに叩き潰せって事だ!」
「……言うねェ、なら俺は幻魔を君臨させ、その上でテメェをぶちのめしてやるよォ!」

 二人は距離を取り、改めて決闘盤を展開させた。
 これで、全ての準備は整った。
 かづなは、ごくりと唾を飲み込む
 この決闘だけは、目に焼き付けておかなければいけない。

 新たな世界へ向かう、なお君の為に。
 そして他でもない、私自身の為に。

 ――決闘!
 荒廃した商店街に、再び二人の声が重なり合う。

 一人は誰かを救う為に。
 一人は更なる力を求める為に。
 そして声を発さなかったもう一人は、それを見届ける為に。

 それぞれの想いが、雲一つ無い青空に溶けるように、大きく木霊した。