シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル prologue-21

 戒斗は「ククッ」っと、笑いを堪えながらカードをドローし、治輝を値踏みするような目で見つめる。

「さっきの速攻、確かに俺の予想外の攻撃だった。――あァ、ホント見事な攻撃だったァ」
「……そりゃどうも」
「だが、あれは焦った奴のプレイングだ。後ろの奴のお陰で気が立ってるんじゃねェの?」

 この決闘が始まってから初めて、かづなに関しての言葉が振られる。
 治輝はゆっくりと後ろのかづなに視線をやり、拳をグっと握った。

「俺を倒せば確かに『心の闇』の増幅は止まる。だがさっきも言った通り……増えちまった心の闇が自然消滅する事はねェ」
「……」
「どうやって元に戻す気だァ?愛の言葉でも囁くかァ?おまえなら大丈夫だって気休めでも言うかァ?」

 そう、俺は考えないようにしていた。
 戒斗を倒せば心の闇の増幅は消える。その言葉だけを頼りに、その事しか考えないようにしていた。
 考え事をしながら相手をして勝てる相手じゃないと、そう自分に言い聞かせて。
 だが、目の前でかづなの姿を改めて見てしまった。雰囲気でわかってしまった。
 もしこのまま戒斗を倒しても……かづなは一生、このままだ。

「――結局、力を持ってなきゃ弱者は生き残れねェ」
 戒斗の声に重みが増し、治輝はかづなから視線を外し、戒斗を睨み付ける。

「平等だなんだとほざいたところで、いざという時には自分がカワイイに決まってる。周りは何もしてくれねェんだ」
「……」
「『自己責任』『アイツ自身の問題』――そんな気持ちいい言葉を並べて、結局は何もしねェ!しようともしねェ!この世界は『力』が無きゃ、生き残っていけねェんだ!」

 これが恐らくは、戒斗の『心の闇』だった。
 理不尽な理由で虐げられ、周りから見放されたと思った戒斗の辿り着いた答え。

「俺は悪くねェ、悪くねェのに俺は虐げられる。だから思った、実は俺が悪ィんだってなァ」
 支離滅裂な言動。だがその言葉を紡いでる戒斗の目は、一点の曇りも無い。
 初めて見る光景のはずだが、何処か既視感がある。

「そう、あんなクソッタレ共に虐げられる程俺が弱いのが悪かったんだよォ!―――丁度そこの、嬢ちゃんみたいになァ!」
 自分に言い聞かせるような声。
 そして不思議と、その既視感にも覚えがあった。

 ――私が弱かったのが、悪かったんです。
 それは、何処で聞いた言葉だっただろうか。

「……さァて遊びはシマイだ、俺は<幻銃士>を召喚!」

《幻銃士(げんじゅうし)/Phantom Skyblaster》 †

効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1100/守800
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、
自分フィールド上に存在するモンスターの数まで
「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。
自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する
「銃士」と名のついたモンスター1体につき300ポイントダメージを
相手ライフに与える事ができる。
この効果を発動する場合、このターン自分フィールド上に存在する
「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言する事ができない。

「効果で幻銃士トークンを2体特殊召喚。そして手札を一枚捨て<死者転生>発動ォ!」
《死者転生(ししゃてんせい)/Monster Reincarnation》 †

通常魔法
手札を1枚捨てて発動する。
自分の墓地に存在するモンスター1体を手札に加える。

「俺が回収するのは闇属性モンスター……幻魔皇、ラビエル!」
「……ッ、来るか!」

 再び辺り一帯の次元のようなものが、一気に歪んだ。
 戒斗は<幻魔王ラビエル>を天に翳し、3体の悪魔族モンスターはそれぞれ黒い光の柱に変化した。

 ――そして3つ光の柱が、一つに重なる。

「痛みを知らない幸福者<おろか者>共に、粛清の鉄槌を――」

 黒い光の柱の中から、青黒い『城』のような巨人が現れた。
 両腕を広げ、両拳に力を入れ……<幻魔皇ラビエル>は、この世の物とは思えない咆哮を上げる。
 その咆哮と共に空気が震え、戒斗の場に残った<幻獣士>もまた、黒い光の柱へと変化する。
 その柱にラビエルが手を翳し、一気に握り潰す。光は拡散し、ラビエルの体全体に黒い光のオーラが宿った。

「来い――<幻魔皇ラビエル>!!」
 再び姿を現した幻魔皇に、治輝は震えを隠せない。
 コイツの攻撃を、傷だらけの状態でまともに受けたら……
 ――いや、違う。そうじゃない。

「ラビエルの効果は優先権で既に発動済み。……さっきの決闘と同じ攻撃力5100だァ」
「……」
「覚悟はいいなァ?<幻魔皇ラビエル>で<レヴァテイン>に攻撃!!」

 まるで天界そのものを蹂躙できそうな強力な拳が、<レヴァテイン>に直撃した。

【治輝LP4000→1500】

「ぐッ……ああああああぁぁぁ―――!!」
 ダメージは以前の決闘より多い、本来なら耐えられない一撃。
 だけど、あの時のようには行かない。
 治輝は右腕を、決闘盤の根元に着けているリストバンドを見つめる。

 集中しろ……集中。
 かづなとの決闘の時とは違った形の、前方に押し出すようなイメージを頭で思い描いた。

 ――閃光。
 <レヴァテイン>が圧倒的な力によって破壊された事により、辺りは真っ白い光に包まれる。
 超過ダメージによる衝撃はまだ続いてる。足の感覚が削ぎ落とされていく。
 だが、治輝は尚も立ち続けた。この重圧に負けないように。
 目の前の戒斗の影だけを睨み付けたまま、一度も目を閉じなかった。
 だから、治輝は気付かなかった。

 そのリストバンドの一部に、ヒビが入っている事を――。