シューティングラーヴェ(はてな)

シューティングラーヴェの移行先

遊戯王オリジナル prologue-22

 <幻魔皇ラビエル>の攻撃の衝撃が収まっても、治輝はその場に立ち続けていた。
 その様を確認した戒斗は、声を荒げる。

「……なんだァ?なんで倒れねェ?」
「……」
「なんで倒れねェって聞いてるんだよォォォォォ!!!」

 アイツには、俺が余裕が耐え切ってるように見えてるんだろうか。
 今も足は今にも折れそうで、細かい震えを隠すのに精一杯……そんな状態なのに。
 読み合いが得意、って言ったって……冷静じゃなきゃ余り怖くないな、戒斗。

 なんだか、声が上手く出ない。
 だが、それも隠し通すんだ。それでアイツの平静は奪える――。

【治輝LP1500】 手札4枚
場:ダイヤモンド・ドラゴン
  伏せカード1枚

【戒斗LP1600】 手札1枚
場:幻魔皇ラビエル
  伏せカード1枚

 戒斗がこちらを睨み付けたまま、ターン終了の意思を決闘盤に伝える。
 その瞬間、ラビエルの攻撃力は4000に戻った。
 俺はそのまま無言でドローをし、そのドローカードを確認……。

 ――時が止まったかのように思った。
 ドローしたカードは、昨夜デッキに入れたばかりのカード。
 あの決闘の後に、不覚にも入れたくなってしまったカードの一枚だった。

 「そっか」と全身からを力を抜く。
 ゆっくりと深呼吸をすると、喉の方も少し楽になってきたように思える。
 少しの間の、声が出なくなっていた感覚を噛み締めながら……カードを一枚セットした。

「<魔法石の採掘>発動。2枚のドラゴン族を捨て<超再生能力>を回収」

《魔法石(まほうせき)の採掘(さいくつ)/Magical Stone Excavation》 †

通常魔法(準制限カード)
手札を2枚捨てて発動する。
自分の墓地に存在する魔法カードを1枚手札に加える。

「更に<超再生能力>を発動。エンドフェイズに2枚のカードドローを予約」

《超再生能力(ちょうさいせいのうりょく)/Super Rejuvenation》 †

速攻魔法
エンドフェイズ時、自分がこのターン中に
手札から捨てた、または生け贄に捧げた
ドラゴン族モンスター1体につき、デッキからカードを1枚ドローする。
「……更に<ダイヤモンド・ドラゴン>を守備にして、エンドフェイズだ、戒斗。」
「はァ……?なんだそりゃ、そんなバニラモンスターで守り切れると思ってんのかァ?!」

 治輝はエンドフェイズにカードを2枚ドローし、ターンエンド。
 ターンを渡された戒斗は苛立ちながらカードをドローした。
 だがドローカードを確認するや、大きく口元を歪ませる。

「いいねェ、いいカードを引いた。俺は<メテオストライク>をラビエルに装備するぜェ!」

《メテオ・ストライク/Fairy Meteor Crush》 †

装備魔法
装備モンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が超えていれば、
その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

「やる気がなくなったんならてめェに用はねェ、そのまま何も出来ずに死ぬんだなァ!」

 戒斗がバトルフェイズに入り、ラビエルはその瞳を妖しく輝かせた。
 そのまま守備表示の<ダイヤモンド・ドラゴン>に、拳を大きく振り上げ――

 振り下ろす。

 たったそれだけの行為なのに、凄まじい破壊力。
 それはまさしく「隕石」と銘打っても、名前負けしない威力だった。
 <ダイヤモンド・ドラゴン>が破壊され、その破片が治輝に突き刺さる。

【治輝LP1500→治輝LP200】

 集中しろ、集中。
 痛みに神経を割いてる暇があるなら、目の前に居る『敵』を睨みつけろ。

 治輝はまだ倒れない。だが……ライフポイントは残り僅か。
 氷片や宝石の欠片が刺さっていて、外傷も痛々しい物に変わっていた。

 だけど……と治輝は思う。
 どんなに自分の外傷が多くなっても、あれよりはマシだ。

 後ろに居る、今のアイツの顔を見ているより、ずっと楽だ――。

 だから、ギリギリの所で治輝は尚も衝撃に耐えた。
 ピシッ、と何かが割れる音が鳴ったが、それすらも耳に入らない。

「はッ、どういうカラクリか知らねェが次のターンで終わりだなァ?俺はターンを終了――」
「……ならその瞬間<エンジェルリフト>を発動する。来てくれ……<デコイドラゴン>!」

 ひょいッ、と
 この決闘に場違いな程小柄な竜が、墓地から這い出てきた。
 戒斗が操る<幻魔皇ラビエル>は、その姿に視線すら向けない。
 当の<デコイドラゴン>は、余りにも巨大な敵が眼前にいるのを確認し、目がうるうるしている。

「魔法石の採掘のコストで墓地に送ってたかァ?……なんにせよ、この場には相応しくねェなァ」

 そう戒斗は判断する。確かに<デコイドラゴン>は、時として強力な壁になるモンスターだ。

《デコイドラゴン/Decoy Dragon》 †

効果モンスター
星2/炎属性/ドラゴン族/攻 300/守 200
このカードが相手モンスターの攻撃対象になった時、
自分の墓地からレベル7以上のドラゴン族モンスター1体を選択して
自分フィールド上に特殊召喚し、攻撃対象をそのモンスターに移し替える。

 レベル7以上のドラゴンが墓地にいれば、一部の例外を除いて戦闘破壊される事はない。
 守備表示でドラゴンを特殊召喚すれば、戦闘ダメージを受ける事もない。
 だが、今の戒斗のラビエルには<メテオストライク>が装備されている。

 そのカード1枚では、守りきれない。

 ならば、次のターン。
 治輝は<デコイドラゴン>以外のカードを使い、ラビエルを破壊しに来るはず……。
 それが、戒斗の予測だった。

「さぁ来いよナオキくぅん!これがおまえのラストターンだ!」
「俺のターン、ドロー」

 治輝はドローカードを確認し、そのまま手札をしばらく見つめる。
 戒斗はこれから来るであろう、治輝の最後の攻撃を期待し、同時に警戒する。
 だからこそ、戒斗は驚いた。

「カードを2枚伏せ、デコイドラゴンを守備表示にして、ターンエンド」
「……はァ?」

 治輝が、自分にとって最後のターンを
 ――そのまま終了した事に、驚いた。

【治輝LP200】 手札3枚
場:デコイドラゴン(守備)
  伏せカード3枚 エンジェルリフト

【戒斗LP1600】 手札1枚
場:幻魔皇ラビエル
  伏せカード1枚 メテオストライク